コメディ・日常
461文字 約1分で読了

ゴーストライター

 秋晴れの十月、小説家の兄が死にました。  僕が兄のアパートへ一ヶ月ぶりに顔を出しますと、兄は敷布団の上で腐り散っておりました。  黒ずんだ手にはボールペンが握られ、近くにあった低い机には「明日目が覚めたら続きを書く」というメモ書きが残っていました。  きっと、死ぬ寸前まで小説を書く気だったのでしょう。アマチュアよりも未熟で、本も自分が遊ぶ程度にしか作ったことがないくせに。  それから慌ただしく葬儀やアパートの整理が行われ、気づけば僕の手には兄の残したメモ書きと手帳だけが残りました。  僕は、貧乏を極めながら自由にこの世を遊んで暮らす兄が憎かったです。けれど、兄が文章を書き続けられなかったことの方が、もっと憎いです。  僕は、悔しかった。兄がもう文章を書けないことが。悔しい、悔しい、悔しい。僕は初めて、兄のために泣きました。  それから、僕は兄の代わりに文章を書き始めました。兄が、明日目が覚めたら書きたかった続きを、勝手に書き始めました。  それは償いでも、何でもありません。僕が文章を書くのは、何も言わずに遠くへ行った貴い兄への復讐なのです。
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作者:ころもやぎ
2026/10/10 • 👁 63回 • 💬 0件
恋愛
693文字 約2分で読了

さよなら、ハッピーエンド

愛していた。本気だった。 なのに……どうしてこんなことになってしまったんだろう。 暗い夜のベンチに、私は一人で座っていた。 雪がひらひらと舞う。 嫌になるくらい、ベンチ横の街灯が明るい。 かじかむ手を、もう、誰も握ってくれない。 あの人がいたときは、ずっと冷たくなかった。 指がひび割れて血が滲む痛さも、外の凍えそうな寒さも。ずっと知らなかった。 手を繋いで帰ってくれた昼のこと。 「寒い?」と上着をかけてくれた夜のこと。 寒かった日もたくさんあったはずなのに、寒かったと覚えている日はなかった。 たくさん笑って過ごしてきたはずなのに、どうして彼の隣は私じゃないの? 浮気をされたのなら、まだ諦められた。 相手が悪かったなって責めることもできたのに。 それすら貴方はさせてくれない。 私が悪かったなら、責めてくれたって良かった。 でも、貴方は最後までそうじゃなかった。 「ごめん」ってそれだけ言って。 最後まで、優しかった。 貴方がいなくなった。 もう二度と、私の隣には戻ってこない。 それだけで、私はこんなにも胸に穴が空いたように痛むのに。 ……酷い人。 スマホと財布以外、何も持たずに飛び出してきてしまった。 どうしたらいい? これから、どうすればいいの。 俯くと、ポケットから指輪が溢れ落ちた。 これは、あの人から貰った大切な…… ううん、もう要らない。 だって、もう終わったんだから。 私は地面に落ちた指輪を拾う。 川に投げ捨てようとして振りかぶったまま、腕を振り下ろすことができない。 「…………っ」 背中が冷えて痛む。 雪が冷たい。 お願い……早く、迎えに来てよ。 前が見えなくなるほどに、視界が濡れた。 私はギュッと、両手で指輪を強く握りしめた。
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作者:綴
2026/10/10 • 👁 22回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
140文字 約1分で読了

間に入るべからず

竜騎士は、人と飛竜が心を通わせて成り立つものだ。雛の頃から面倒を見て、共に訓練して、一人前になる。だから他の者が割って入る余地なんかない。なのに近衛の男がやたらと言い寄ってくる。あっち行って、お前みたいな軟派野郎はお断り。お姉様はあたしが憧れるほど頼もしい、ヒト族の雌なんだから。
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作者:有賀慧
2026/10/10 • 👁 23回 • 💬 0件
コメディ・日常
3246文字 約7分で読了

アバター

 操作キャラがアバター形式のゲームをプレイするとき、付ける名前はまちまちだ。自分の名前は当然付けない。SNSのアカウント名で統一したりもしない。はまっている漫画のキャラの名前だったり、単に思いついただけの名前だったり、要は自分の分身に対してこだわりがないのだ。  その一方で、どのゲームにまたがっても、私が絶対に変えないものが一つある。  今やオンラインRPGでは、オープンワールドが当たり前。エリアで区切った方がサーバの管理がしやすいだろうに、みんなが地続きの世界を求めるものだから、メーカ側は需要に応えざるを得なくなっている。  どれだけの規模を考えているのだろうな、と荒野の真ん中をぬるぬる動く我が分身の後姿を眺めて思う。それなりのゲーミングPCを使っていることを横に置いても評価できる処理速度。現実と錯覚しそうなほど滑らかな動きがデータ容量の余裕を伝える。一応世界的シリーズの最新作なんだけど。  知らない開発費用に目がくらみ、企業努力に脱帽する。高い金を払った甲斐があった。昔はまだポリゴンが粗くて、動きも硬かった。2Pコントローラーが動かす男の子の魔法発動のタイムラグに、よくイライラさせられてたような。  相棒のジャッカルも、変にデフォルメされておらず可愛いし。  プレイヤー数も多いので、フレンドもすぐにできた。中には、なじみの顔もいるわけだけど。  待ち合わせの場所は、決まって酒場だ。西部劇に出てきそうな雰囲気なのは、今回の世界観のコンセプトによるものなのか、それとも開発者の誰かの趣味か。ともあれ、そんなところで円卓について、ジョッキを頼む。画だけでは寂しいので、リアルでは缶酎ハイ。ジャッカルを侍らせたいぶし銀のおじさんと赤が眩しいセクシー女戦士が一緒に呑んでいる様子は、なんだかトンチキな映画を観ているようだった。 「リリさんは、今回は赤毛のナイスバディさんですね。クールなレディが好みだと思ってたんだけど、違ったなぁ」  画面右下のチャット欄に打ち込む。最近のゲームのUIは文字が小さめなので、ちょっとキツい。でも、ボイスチャットにする勇気はまだなかった。別のアプリを立ち上げないといけないのも面倒だし。  それに、良い面もある。声による影響がないので、ネカマができる。男にでも女にでもなり放題だ。 「可愛けりゃ陰キャでも陽キャにも、セクシーにもスレンダーにもなりますよぉ。てか、コタローさんって実はけっこうなオジ? ナイスバディって死語でしょ」 「ネトゲで実年齢聞くなんて野暮ですよ。だいたいリリさんだって、その死語知ってんじゃないですか。あと、僕ここでは『ワルサー』なんでよろです」  名乗るたびに脳内に流れる渋い歌声。最近初代アニメにはまっていた。 「前の名前とかすりもせんね。顎髭なんかつけちゃってさ、普通もみあげでしょ、そこは。ネトゲ仲間に知られたくないわけでもなかろーに」  微妙に脱線している会話は、ご愛敬。くだらない会話をできるくらいの関係が、一番居心地が良いのだ。 「リリさんはずっとリリさんですね」 「ゲームアカはみんな統一。だって、他のところで会ってもみんなに分かってもらえるし。何処で誰だったか、自分でもわからなくなりそうだしね」 「意外に覚えているもんスよ」 「そーなのー? 記憶力ヤバー」  タイプの直後、拡げた掌で口元を隠すエモート。今回のリリさんは、ギャル仕様か。しかし、そんなエモートを備えた運営も、それを使いこなしているリリさんもなかなかヤバい。 「でもワルちゃん、ジョブとかクラスとかは、いっつも同じ。相棒がいるやつ」  相棒というのは、このゲームでは私の足元にいるジャッカルのことで。〈獣使い〉、〈魔物使い〉、〈召喚士〉――そういう何か生き物(?)を使う職業やスキルで遊ぶのが、私のプレイスタイルだった。 「そういうの選んで来てますからね」 「相棒の名前も、いっつも同じ。リクくん」  黙り込む。チャットでも、リアルでも。結露したアルミ缶がなんだか妙に滑る気がして、キーボードから離れたところにそっと置いた。 「なんかこだわりがあるの? ペットの名前とか?」 「そんなところです」 「へえ、犬? 猫?」 「いや、鶏で」  ふわー、と気が遠くなっているような表情のリリさんのエモート。演技が細かい。 「はじめて飼った子だったのに……喰われちゃったんですよ、狼に」 「ん? 狼?」 「夜に放牧してたばっかりに」 「牧場ゲームの話かーい! 洒落た名前つけてるな、鶏に」  初期費用ゼロからスタートの〝ほのぼの|生活《ライフ》〟ではじめて購入した家畜に、思い入れがないはずがない。 「ちな、御三家もいつもその名前です」 「こだわってんなー」 「何処に行っても、リクとは一緒です」 「愛だね」  別にそうではないんだけどな、と思いながら、打つ。 「愛です」  チャット欄はしばらく動かなかった。冗談にしてもちょっと重すぎたかな、と後悔する。  彼女は、ただのデータに対する私のこのこだわりを、いったいどう受け止めただろうか。  馬鹿馬鹿しい、ときっと一番思っているのは私自身で。それなのにやめられないこれを。 「お、ギルドに呼ばれた。じゃあ、私は行くけど」  席を立つ女剣士に向けて、いぶし銀なおっさんに手を振らせる。 「僕は今日ソロなんで」 「んじゃあ、リクくんとのデート、楽しんで」 「別に、愛なんかじゃないんだけどねー……妹だし」  もう一人だし、酒場を出て探索フィールドに出てしまってもいるが、二本目の缶チューハイを開ける。ゲームもしたいが、酔いたい気分だった。正確には、現実逃避に浸りたい気分、か。 『リク』の話をしてしまったから。  リリさんにはペットの話とか言ってごまかしたけれど、本当は違う。『リク』は妹がゲームで使っていた名前だった。  私たちが子どもの頃は、まだゲームのキャラクターは男ばかりで、だから名前も男の子寄りのを使っていた。妹は名前にこだわりがあって、いつも『リク』。だから、私はいつも『リク』と冒険をしていた。  二十年も前の話。本当は、両親が不仲で離婚して生き別れになったときに、とっくに終わってしまった話なのだ。  インターネットは発達していなくても、携帯電話はあった時代だ。ゲームなんてなくても交流くらいはできたかもしれないが、新生活やちょうど行き当たった高校受験やらで慌ただしくなって、そのまま疎遠。今ではもう、他人と変わらない。  それを後悔とかしているというわけではない。  家族愛なんてものでもない。  現れた敵キャラクター。ゲームでお馴染みゴブリンのテンガロンハットが可愛い。けれど隣のリクは、そんなものに構わず飛び掛っていく。ボタン入力と実行までのタイムラグなんて、今はほとんど気にしない。  妹が他人となった今も、この地続きな仮想世界を〝妹の代わり〟と一緒に走っている。  それは、陽炎のように私の頭の隅に残っている、妹と一緒にゲームしていたあの瞬間を、今もまだ惜しんでいるだけなのだ。 「なんかなーちょっとこそばゆいよね」  ギルドメンバーの招集を受けて合流。とはいえ、全員集まるまでまだ時間があるようで、操作を止めてぼーっとしていると、ふと先ほどの〝ワルくん〟との会話が思い出された。  リリは、今でこそ『リリ』と名乗っているが、昔は『リク』だったのだ。  ゲームアバターに女の子が採用されるのが一般的になったので、男の子らしい名前から乗り換えた。女の子で『リク』でも良かったが、やっぱり女の子らしい名前にしたかったので、『リリ』にしたのだ。  それを後悔とかしているというわけではない。  ただ、その名前を見かけると、つい自分に当て嵌めてしまって、こそばゆい気分になってしまうのだ。 「リクなんて、よくある名前だけどさ」  今となっては現実でも、男女問わずよく見かける名前だ。それをゲームキャラに使う人だって多い。リリも何人か見かけたことがある。  だけど、〝ワルくん〟は。こだわりどころか執着さえ感じさせるほどに、相棒に同じ名前を付ける友人については。 「自分が大事にされてるみたいで……ちょっと照れる」
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作者:森陰五十鈴
2026/10/10 • 👁 59回 • 💬 0件
コメディ・日常
930文字 約2分で読了

コズミック・トゥデイ

 最寄り駅近くの商店街の中には、私が足しげく通うドーナツ店がある。その店はこぢんまりとした佇まいの小さな個人店なのだが、売っているドーナツは味はもちろんのこと個性豊かなものが多く、都会の一等地にでも進出すればたちまち人気店になれるのではないだろうかと思えるほどであった。私は今日もそんなお気に入りの店に足を運んでいた。 「いらっしゃいませー。あ、こんにちは!」  お店に足を踏み入れると、いつも応対してくれる女性店員さんが挨拶をしてくれる。私がよく行く時間帯のシフトに入っているのだろう。お互いもう顔なじみである。そんな彼女が今日は話しかけてきた。 「お客さま、今日は新商品があるんですよ!」  それを聞いてショーケースに目をやると、ど真ん中に今まで見たことのない、きらきらかがやくカラフルなドーナツが並んでいた。私は思わず見惚れてしまう。 「どうですか? ギャラクシードーナツって言うんですけど。あれ? お客さま?」 「めちゃくちゃ……いいですね! これといつものコーヒーをセットでください!」 「あ、はい! ありがとうございます!」  彼女は私の様子に少しおどろきながらも、注文を受けて笑顔で商品を渡してくれた。新商品、ギャラクシードーナツを目の前に私もにこにこである。そのままイートインスペースのいつも利用している席に座ったとき、小さい子供を連れた女性が来店をした。 「あ、このドーナツ、きらきら!」 「ほんとだね、きらきらできれいだね」  その親子連れもギャラクシードーナツに目がいったようで、特に子供は夢中になっているようだった。 「ギャラクシードーナツっていうんですよ!」  すかさず店員の彼女がふたりに商品名を伝える。ただそれを聞いて、子供はキョトンとしてしまった。 「……ギャラクシーってなあに?」  私を含めその場にいた大人全員が「あー」となる。その中で真っ先に母親が子供に説明をはじめた。 「ギャラクシーは銀河って意味なんだよ。それで、銀河は宇宙の中にたくさんあるものなの。わかるかな?」 「うん! わかった! だからきらきら!」  場が和やかになる。そしてさらに子供の言葉は続く。 「このお店、宇宙なんだ!」  一瞬静まり返ってから聞こえる笑い声。私はそれを片耳に、にやにやしながら穴の開いた銀河を頬張った。
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作者:ゆすら
2026/10/10 • 👁 25回 • 💬 0件
恋愛
697文字 約2分で読了

指輪は知っている

 テレビを二人で見ている。  彼女の肩に頭を乗せている。それが私の定位置。    「そういえば、フォトウェディングいつにする?」  「フォトウェディング?何のこと?」    彼女が少しだけ拗ねたように。  「この前、撮ろうねって言ったじゃん。記念に」  「記念?」  「いやいや、誕生日に指輪渡したじゃん」  「……え?」  誕生日の記憶はある。  その日は、仕事があって夜に夜景がきれいなレストランに行った。  ただそれだけ。  彼女は、不機嫌そうな顔をしつつ、困った顔。  「忘れたふり?面白くないよ」  そう言いながらスマホの画面を私に見せる。  画面には、笑いながら泣いている私と照れ臭そうに笑っている彼女の顔。  指には、指輪がはめてある。  スマホから視線を外し、彼女の指を見ると指輪が。  そして、思わず私の指を見たら指輪がはめられていた。  さっきまでは、無かったはずの指輪。  デザインは同じ。緩い曲線をえがいているシンプルな指輪だ。 「…………」  指輪を外して内側を見る。  私と彼女のイニシャルと石がついている。  石は二つ付いている。多分、誕生石。  彼女は、自分の指輪を嬉しそうに撫でている。満足気だ。 「うん。そうだね」  私は相槌を打つことしかできなかった。  自分のスマホを開く。  写真やメッセージ履歴。  確認をしたら、全く記憶にないのに、彼女に指輪を貰ったことは確からしい。 「ねぇ、あの日、なんて言ってくれたっけ?」  記憶がないプロポーズの言葉、聞いていないのが悔しかった。   「また言うの?恥ずかしいから言えないよ」  彼女が指輪を指先で引っ搔きながら言う。 「じゃあ、フォトウェディングの時に、また言ってあげる」 「……うん」  でも、私は最初の言葉を聞いていない。  それが、とても後悔している。
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作者:ReiN.
2026/10/10 • 👁 18回 • 💬 0件
コメディ・日常
914文字 約2分で読了

カラスの素顔

 放課後、生活指導でこっぴどく叱られ、凹んだまま教室に戻ったときのことです。いつもと変わらないなんてことないはずの教室から美しい歌声が聞こえてきました。私は思わずドアを開けるのを躊躇してしまいます。でも荷物一式を教室に置き去りにしたままだったので、意を決してドアを開けました。すると教室にはクラスメイトの一部からカラスと揶揄されている君がいました。艶やかできれいな黒髪の君は目が切れ長で視線も鋭く、どことなく話しかけづらい雰囲気をまとっています。君はドアの開く音に気づき、視線を私へと向けました。私は思わず固まってしまい、その数秒間はメトロノームの音だけが響いていました。 「どうしたの?」  君は不思議そうな顔をして私に質問を投げかけます。その雰囲気はどことなく普段とは違いました。 「生活指導で呼び出されちゃって……」 「あらら。でもなんで入り口で突っ立ってるの?」 「あ、いや、その」  今思うとそのときの私は明らかに不審者でした。 「き、きれいな歌声が聞こえてきて……その、えっと」  そこまで言って口ごもると君は笑みをみせます。 「ありがとう。私ね、音楽部に入ってるんだけど知らないよね、クラスで話したことないもん」  どうしてクラスで話さないんだろう? と頭に疑問を浮かべると、君はその答えを話し続けました。 「クラスには私のことをカラスって裏で言ってる人たちがいるでしょ? なんかそういう人たちに知られたくないんだよね。バカにされそうだし」  君の表情が少し翳ってしまった気がします。それがなんだか悔しくて私は思ったことを言い放ちます。 「この歌声をバカにするなんてアホだから気にしない気にしない。そんなのアホウドリだよアホウドリ」  すると君は笑いをこらえながら、身体を震わせます。 「それ、いい! 私のことカラス呼ばわりするようなやつはアホだからアホウドリ。おもしろっ」  前から仲良くなりたかった君のはしゃぐ姿を見て、打ち解けられたのだろうと私はうれしく思えました。  その日は一緒の帰り道、私は君に問いかけます。 「私が鳥だったらなにになる?」 「フクロウかな、指導されるほど授業中寝てるから」 「もう、その話はやめてってー」  そう言い合う君と私には笑顔が溢れていました。
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作者:ゆすら
2026/10/10 • 👁 31回 • 💬 0件
児童文学
371文字 約1分で読了

風の唄

 秋の風の精はふわりふわりと飛んで行きます。 みのりの季節がやってきて、あちらこちらでよろこびの声が聞こえるのです。 祭りのおはやしや、みんなの笑う声。 秋の風は運んで行きます。 それはやさしい風のうたになって。 けれども秋の風の精が聞いたのは、みんなのうれしい声ばかりではありません。  一人の悲しみや、泣いている声。 悲しいうたたち。 秋の風の精は悲しんでいる人々のところに、幸せのうたをとどけます。 悲しい思いをしている人たちがこれ以上悲しまないように。 泣いている人たちが泣きやんでくれるように。 秋の風の精自身のやさしいうたを。  金色や赤く色づいた葉っぱを風といっしょにはこびながら。 キンモクセイや秋の花の香りをいっしょに連れて。 澄み切った青い空には、いわし雲が浮かびます。 コスモスの花をゆらして、トンボたちとたわむれます。 おだやかな一日がすぎてゆくのでした。
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作者:しとえ
2026/10/10 • 👁 46回 • 💬 0件
恋愛
1066文字 約3分で読了

アンニュイ&ライダー

 ため息しか出なかった。 このままでは志望校に落ちてしまう。 毎日頑張って勉強しているはずなのに。 日曜日のアルバイトをやめようか…… そうすればもうちょっと勉強できるはず。 とはいえ免許を取るのにアルバイトを辞めたくない。 来年の今頃は一人暮らし。 今すぐ必要なわけじゃないけれど、将来的に運転免許は絶対に必要になるだろう。それに一人暮らしを始めるのなら何かとお金が必要になる。 ……その前にまず志望校に受からなくてはいけないけれど。  土曜日は家からそう遠くない図書館に行って自習をする。 いつのまにか正午を過ぎていた。 図書館を出て近くのコンビニでパンを買って、歩きながらかじる。 「よぉ、遥香!」 後ろから声をかけられて振り返る。 「なんだ豊川か」 クラスメイトの豊川がバイクに乗って後ろにいた。 「浮かない顔してるな。ちょっと後ろに乗らないか!ぐるっと回ってたら気分も晴れるぜ」 「それってダメなんじゃないの?だいたい私ヘルメット持ってないし」 「いいから!ちょっとだけなら」 そう言って豊川は笑う。 「……しょうがないな」  私は彼のバイクの後ろに腰掛けた。 やはりどう考えても二人乗りで、ましてやヘルメットもかぶってないのは違法なんじゃないかと思うけど。 そういえば高校生だけど、豊川はいつ免許を取ったんだろうか。 バイクの二輪は高校1年生から取れるんだっけ? よくわからない。 やっぱり早めに私も免許を取りに行きたい。  風が頬を抜ける。 私は彼の背中に頭をもたげかけた。 心地よい風が憂鬱な気分を吹き飛ばしていく。 やがて私たちは海へと着いた。 「お前さー勉強頑張ってるのはわかるけど、最近顔が暗いんだよ。何て言うの?アンニュイ?」 私はそんなに、気だるそうな顔をしているだろうか。 「あんたはアンニュイな気分になりそうにないもんね」 と私が言うと 少し不満そうな表情を浮かべた。 「俺だって、たまにはアンニュイ?な気分になることだってあるんだぜ」 なぜか腕を組んで、偉そうにそう言う。 「そうだね。最近ちょっと勉強ばかりで疲れが溜まってたかも」 波の音が心地よく、はるか先で汽笛の音がするのが聞こえた。 「あーあ、私も早く免許取りに行きた」いな。そしたら、あんたみたいにバイクでどこにでも行けるし 私のため息を波の音がかき消す。 「その時は一緒にツーリングしようぜ!」 「いいかもね」  二人で一緒に、ロードムービーみたいな旅をする。 全ての憂鬱を吹き飛ばして…… アンニュイな心は波の音へと溶けていった。 ※ストーリー上の設定になっておりますが、バイクのヘルメットなしの二人乗りは絶対にしないでください。危険です。
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作者:しとえ
2026/10/10 • 👁 47回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
275文字 約1分で読了

迷宮

「すごいでしょうこの惑星!惑星そのものが巨大な迷路みたいになってるんです」 そう言って惑星の住人は観光客である私を案内してくれる。 「全く素晴らしいですね!」 「そうでしょう、そうでしょう。大昔 私たちの祖先が作ったらしいのですが 詳しいことは分かっていなくて。でも 惑星中こんな巨大な迷路みたいになっているんですよ」 案内人は得意顔でそう言った。 実は私は観光で来たわけではない。 この星の住人と星自身の調査、及びメンテナンスだ。  その星の住人はコンピューターの集積回路に住んでいた。 だがそのことを知らない。 コンピューター回路はそのまま巨大迷路のような町になっていた。
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作者:しとえ
2026/10/10 • 👁 46回 • 💬 0件