ポエム・詩
194文字 約1分で読了

今日は無理

「今日は無理」 今日は仕事が長引いて無理。 今日は先約があって無理。 今日は疲れてて無理。 どう無理なの? 私の頭の中で いろんな理由が補完されていく。 私のことを 好きじゃないから無理。 それがなんだか いちばんしっくりきて ベッドに倒れ込む。 こうなると ネガティブが止まらない。 頭をワシワシかいて ネガティブを振り切ろうと ベランダに出る。 空は晴れているのに 月が見えない。 そっか。 今日は新月か。 見えないだけ、か。
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作者:柊ことは
2026/09/19 • 👁 83回 • 💬 0件
エッセイ
289文字 約1分で読了

多分機械に人間じゃないと思われている

機械との相性が悪い 自動ドアが開かないことがザラにある なんでだよ 手をかざしてくださいって書かれてるところにかざしても触ってもうんともすんとも言わないことがある なんでだよ 前の人それで開いてたじゃないですか もしや異物だと思われている???? 同行者が触ったら普通に開くのも意味がわからない 閉じかけたドアにそのまま挟まれたことも何度もある なんでだよ 普通人を感知したら閉めるのやめてくれるもんだろうが、私だけしっかり挟み込むのやめてもらっていいですか? そんなにしたいか?ハグを なんでだよ 前の人はちゃんと踏みとどまって1回開いてたじゃないですか やっぱり異物だと思われてる?? 早く人間になりたい
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作者:Йya6
2026/09/19 • 👁 141回 • 💬 0件
エッセイ
1941文字 約4分で読了

夢の果て (詩付きの自己紹介です。私が詩を書き始めた理由)

長い間、忘れていた 夢見ることを思い出したなら 夢の果てまで歩いて行きましょう たくさんの子供たちを 置き去りにした あの子たちを迎えに行って 夢の果てまで歩いて行きましょう 8歳の 夢見る私 13歳の 迷宮の入り口に立つ私 手をつないで迷わぬように 17歳の 血を流し 死にたいとばかり考えていた 夜の底よりも暗い、十代の あの頃の私を迎えに行かなくては 平坦な様で紆余曲折、 気がつけば随分と 歩いてきたものです。 夢見る力が尽きてなお ただひたすら歩いてきたのです。 振り返れば夢見る私がおりました。 夢はあわく、優しく柔らかく いつのまにか 私の人生に とけておりました。 柔らかな夢は私自身となりました。 夢見る力を取り戻し、もう一度 8歳の私も、13歳の私も、17歳の私も、 夢の果てまで一緒に、 どこまでもどこまでも 歩いて行こうと想うのです。  童話作家になりたいと思ったのは小学2年生の時でした。 その頃からずっと夢は童話作家。 それは夢というよりは決意のようなものだったと思います。 13歳の時、私は詩を書き始めるようになりました。 心に浮かんだ心象を言葉にして紙に書き留める。 夢想好きだった私にとって詩を書くということは、自分の心を記録することだったように思います。特にその後10代の後半になるにつれてそれは顕著になっていったと思います。  10代の頃、本当に体調が悪くって、年間200日ほど出血がまらない毎日でした。今ならば月経困難症とか出血過多症とか病名がつくのかもしれませんが、10代の初めの頃に出血があまりにもひどいので病院に行って見てもらったところ「始まったばかりなので生理不順でしょう」と言われてそれっきり病院に行くことはありませんでした。まだ10代だった私は、みんなそんなものなのだと思って過ごしておりました。今から考えると、どう考えても異常なんですけどね。出血が20日も続くと目は太陽を10秒ぐらい見た後みたいに点滅してよく見えず、それでも立っていることも歩くこともできるので自分の異常にもよくわかっていませんでした。高校生の頃、記憶がよく飛んでいるのですがおそらく出血多量で意識が朦朧としていたのだと思います。 高校生の時は毎日ノートに「詩と絵」書いて過ごしたものです。 そんなわけで黒板の板書というものが本当に苦手でなにせ頭に浮かんでくる言葉を先に詩として、書き出してしまはなくてはならず、詩を書いたらそれに合わせたイラストもセットで描きたかったのです。 私にとって詩を書くというのは生きている存在証明のようなものです。プロフィールに「詩人」と名乗っておりますが、正直に言って詩人として有名になりたいとか、受賞したいなどという気持ちは全くないのです。ごめんなさい。こんなことを書いたら不快に思われる方もいらっしゃると思います。 でもきっと私は10代の時に詩を書いてなかったら心が潰れていたと思います。体がしんどくて言うことが聞かなくて、けれどその異常な状態を普通だと思っていたのですから。おまけに人並みに動けないことを自分がどんくさいからだと思っておりました。 だから詩を書いて心を吐き出すということが、私にとってどんなに重要だったか。  17歳の時に初めて自分にとって納得のいく作品が書けました。 「夜の海」という作品です。 主人公は13歳の女の子、17歳の当時の私から見てあの頃の私なのでしょう。 今もとても大切にしている作品です。  だんだんと書くのがしんどくなって夢を諦めたのが27歳の時。 それから10年以上何も書いておりませんでした。 詩を書くことすら、やめてしまっていたのです。  けれど、ある時とても気に入った作品ができて二次創作をしたくなってもう一度筆を取りました。4年ほど二次創作をちまちま書いては アップしておりましたがほんの少しだけオリジナルをもう一度書いてみようとある時思いました。 X にアカウントを作って、気軽に140字小説でも千話分ぐらい作ってみようかなと思ったのが始まりです。 1ヶ月もしないうちに詩を書くのが復活しました。  やはり私は詩を書くのが好きなのです。 詩を書くのは自分の心を吐き出すこと。 自分の心に素直であること。 辛さも喜びも悲しみも、ぐちゃぐちゃになっている心の中を全部まとめて言葉にしてしまうこと。 私にとって詩を書くというのは、生きているということです。  アカウントを作って初めの目標の千作品を書ききってしまいました。だから次の目標、いいえ、夢を復活させることにしました。もう一度夢を。  今もきっと夢の中に私はいます。 たくさんの夢見た私と一緒に。 これからも夢の果てに向かってたくさんの私を連れて歩いて行きたいと思います。 ささやかながらこれを自己紹介とさせていただきます。 そこまで読んでくださってありがとうございました。
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作者:しとえ
2026/09/19 • 👁 128回 • 💬 2件
SF・ファンタジー
1543文字 約4分で読了

かさと天使と女の子

不快なことがあった。 王宮の廊下を全力で走り、大扉を力任せに開け放ち、空中に身を投げ、勢いよく翼をバタつかせて天界から逃げ出した。 強風が身体に当たる。あいにくの雨も全身を濡らした。 先ほどまで頬をこぼれおちていた涙は、風雨によってわからなくなった。 (……じぶんのことは、じぶんで決めたいのに…っ……!!! 父上は……いつも何でも決めてしまう!!!) 風雨が痛い。それに加えて、感情が高ぶっているせいか、翼が思うように動かせない。 「っ…くそっ!!」 その瞬間、翼の根元に痛みが走り、体勢を崩すとそのまま下界に落ちてしまった。 ________ 「……さいあく…」 下界の石畳の歩道にうなだれた。 下界…、いわゆる人間が住む世界。 もちろんここでも雨が降り注いでいる。すべての景色が薄暗く濡れている。今のじぶんの心のように思えた。 (……だれも…、ぼくの気持ちなんてわかってくれない) すっかりずぶ濡れになってしまった身体は、体温が徐々に奪われ、先ほど空中で痛めた翼の根元からも、じんじんと小さな痛みも伝わってくる。 しきりに降り続く雨と、両手をついている石の歩道からは、冷たいゴツゴツした感触が鈍い痛みのようなものに感じられた。 「もう、このままずっと……」 (ぼくの雨は……やまないだろう) そう静かにつぶやくと瞼を閉じた。    「ねぇ、だいじょうぶ?」 「……え?」 閉じたばかりの瞼をばっと開き、勢いよく上を向くと、そこには一人の女の子がこちらを見ていた。 ________ 「きこえてる?だいじょうぶ? 雨ふってぬれてるのに…こんなところにすわっちゃって……」 (………見えるの?ぼくの姿……) おかしい。 人間には、じぶんたち天使の姿は見えないはずだった。 しかし、この女の子にはじぶんが見えているらしい。 「あ……、うん、だ、だいじょう…ぶ…」 人間と話すことが生まれて初めてだったこともあり、ぎこちない歯切れで言葉を出した。 しかも、まったく大丈夫ではない状況だったが、誰かにとっさに聞かれると、この返答がどうしても出る。 (やば…っ、姿が見えてるってことは、翼も見えて…… 天使ってバレる…!!) 慌てて翼を隠そうとした時、ふっと暗くなる。 「かさ、かしてあげるね」 気づくと、じぶんの真上に雨を遮るものがさされている。 「あ……え…っ、……でも、それではきみが濡れて…」 「だいじょうぶ!!」 「え…?」 女の子は満面の笑みで、ぼくが放った言葉を遮った。 「わたしが着てるこれ、レインコートだから!」 女の子は半ば強引に、ぼくにかさを手渡した。 そして、長い髪を束ねて、レインコートのフードを頭に被った。 「ね?これでわたしも濡れない!」 「…………」 手渡されたかさの取っ手からは、女の子の握っていたぬくもりがあった。 冷えた手のひらにそれは、じんわりと広がった。 パシャパシャ 「あ……」 女の子はぼくの横を小走りで通り過ぎる。 「かさ、本当にいいよ…!! ぼく、もうこんなに濡れちゃってるから…」 取っ手をぎゅっと握るも、女の子にかさを差し出す。 女の子はこちらを振り返り、また笑った。 「かさをさしたら、もうそれ以上濡れないよ、……またね!」 女の子はそれを言うと踵を返して、小走りで薄暗い景色の中に消えていってしまった。 (………翼、見えなかったのかな……ぼくが人間じゃないって、分からなかったのか…     ……それよりも………) 「……初めてだ…かさ…」 改めて見上げる。 その模様が何であるのかも、やっと目に入ってきた。 「お日さま……か」 淡いタッチの太陽の絵。 その絵からは、先ほどの女の子の満面の笑みが重なった。 (………あたたかい) ぎゅっとまた、取っ手を握る。 女の子のぬくもりに、今度はじぶんの温度が重なる。 「…それ以上、濡れないから……か」 ふっとじぶんからも、笑みがこぼれた。 (終)
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作者:蓬田灯子
2026/09/19 • 👁 89回 • 💬 0件
ポエム・詩
262文字 約1分で読了

初夏の花の短歌 十連歌

初夏の花をイメージして書いてみました。 長雨の濡れゆく花に喜ぶは カエルの子供と我が子かな ため息と卯の花くたし曇り空 読書と紅茶とメランコリー 紫陽花の色より変わる我が心 君の色に染まりゆくなり 雨上がる空に傘さし七色の 心も晴れて色 美しく 夜もすがら泣いた夜咲く月の花 夜明けとともに花はしおれて 歌いけるカエルの声にウキウキと 菖蒲の花の午後のひととき 雨上がり暑さにうだり庭を見れば ひまわりの花笑ひけるかな 朝顔が初めて咲いた姿見て 喜ぶ息子花より眩し 月明かり月下美人の花開く 涙ぽつりと今日も眠れず 青空のハイビスカスの眩しさや 君の水着と笑い声して
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作者:しとえ
2026/09/19 • 👁 84回 • 💬 0件
ポエム・詩
252文字 約1分で読了

漣と素足

久しぶりに裸足になりました。  砂浜は見ているよりもずっと柔らかくて。  小さい頃によく感じた貝殻や砂利の痛みが、波の音が近づくにつれて思い起こされます。  そういえば、小さい頃は海に全身浸かっていました。  浮き輪のツルツルとした触り心地と、ほんのり漂うビニールの匂いが恋しい。  素足がどんどん茶黒の砂に埋まっていくので、その湿った重さを振り払って、波に当たらないように進んでいきます。  ずっと水平線が見えます。  少し横を向けば、いつもの柔らかい、クリーム色の砂浜ですが、私が先ほど残した足跡からは、随分離れてしまいました。
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作者:花野花菜
2026/09/18 • 👁 105回 • 💬 0件
恋愛
905文字 約2分で読了

深夜2:17のメッセージ

ふと目が覚めた。  スマートフォンを確認すると深夜1:57。 「…最悪」  幼い頃から私は夜が苦手だった。  静かな夜に響く、冷蔵庫の機械音、バイクの走行音、ギシギシと鳴る家鳴り、それら全部が、やけに現実的に響く。  夜は寝ているのに、世界だけが進んでいるみたいで。  その感覚になんだか、胸がモヤモヤする。  思わずSNSを開く。  ボーっと眺めていると、様々なタイムラインが流れてくる。 「好きな人が夢にでてきますように!」「このドラマ面白い。」  良かった…。  私は、取り残されていない。  気になるタイムラインが流れてきた。  あの子の非公開アカウントだ。 「寝れない。暇だから誰かメッセージちょうだい。」  私は思わずメッセージを送る。  やっほ、私も寝れないんだよね。  良かったら話そうよ。  -2:06-  すぐに既読がつく。  やっほー!  全然いいよ!メッセージうれしい!  -2:07-  私たちは何気ない会話をラリーする。  コスメの話、ドラマの話、部活の話。  私はあの子に部活の話をする。  あ、明日の朝練何時からいく?  良かったら一緒に行こうよ。  -2:14-  いいよ。  じゃあ、駅のホームで待ってるね?  こんな時間だし寝坊したらダメだよ。  -2:15-  あの子と登校の約束をした。  逆に興奮して眠れないかもしれない。  ほんの少しだけ、世界が鳴った気がした。  嬉しくてしばらく、画面をボーっと見ていたら、あの子からメッセージがきた。  既読無視しないでー(笑)  -2:17-  私は思わずスマートフォンを触った。  それが間違いだった。  指先の操作を誤って、「大好き」というスタンプを送ってしまった。  そんなキャラじゃないのに…!  急いでメッセージを消した。  けれど、すでに既読は付いてしまった。  あの子からメッセージがくる。  スクショ撮っちゃったよ(笑)  -2:18-  メッセージと共にスクショが送られる。  …まじか。  続けてあの子からメッセージが届く。  このスクショお守りにするね!  明日の朝練楽しみにしてるね。  -2:19-  もっと素直になって良いんだからね…?  -2:20-  私は何も反応できずにいる。    じゃあ、おやすみなさい!  -2:21-  私はしばらく呆けたまま、震えた指で「おやすみ」と返信した。  世界は、私を中心に動きだした気がした。
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作者:ReiN.
2026/09/18 • 👁 94回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
3532文字 約8分で読了

七回目のセーブ

魔王城の中層。その最奥には、中ボスが待ち構える巨大な扉があった。  禍々しい彫刻が刻まれた扉のすぐ脇に、場違いなほど小さな机が置かれている。机の上では、水晶が淡い光を放っていた。その向こうで、セーブ係の少女が記録帳をめくっている。  重たい足音が廊下を引き返してきた。  少女は顔を上げるより先に、その足音の主が誰なのか察したらしい。記録帳へ視線を落としたまま、小さく息を吐く。  勇者は何食わぬ顔で机の前に立った。 「よっ……! また会ったね」 「…………」  少女はようやく顔を上げると、勇者の背後へ目を向けた。中ボスの扉は、先ほどから一度も開いていない。 「セーブさせてくれないか」 「またですか? 一体、何回すれば気が済むんですか?」  少女は記録帳を数ページ戻した。同じ名前が、ほとんど間を置かずに並んでいる。  一、二、三。指先で数え、もう一度最初から確かめる。それでも結果は変わらなかった。 「これで七回目ですよ。あなたの日記帳じゃないんですよ?」 「分かっている。しかし、俺は不安なのだ」  水晶へ手を伸ばしかけた少女が、ぴたりと動きを止める。疑うように目を細め、平然と立っている勇者を見上げた。 「なにが……?」  勇者は腕を組み、いかにも重大な理由を説明するかのように、ゆっくりとうなずいた。 「と、扉を開けようとしたときに、禍々しい気配を感じたのだ。……そう、あれは魔族の――」  少女の視線が、勇者の頭から足元までを往復する。剣に刃こぼれはなく、鎧にも目立った傷はない。先ほどセーブしたときと何一つ変わっていなかった。 「魔族の……何ですか?」 「会議に違いない! 勇者側の戦力をそごうと、話し合っていたんだ!」  勇者は腰に下げた道具袋を持ち上げ、中身を確かめるふりをした。 「えーっと……ポーションは――」 「無傷ですよね?」 「……ふっ、分かってないな。これから怪我するかもしれないだろ?」  少女は黙って水晶へ目を向けた。光は一定の間隔で穏やかに明滅している。記録の失敗を知らせる濁りも、ひび割れも見当たらない。 「怪我すればいいじゃないですか」 「お、お、鬼か! きさま。俺は勇者だぞ!?」  少女は記録帳を閉じ、机へ両肘をついた。重ねた指の上へ顎を載せ、逃げ道を塞ぐように勇者の目を見つめる。 「めんどくさ……。本当は弱いんじゃないですか?」  勇者の肩が、ほんのわずかに揺れた。 「そ、そんなことはない! リザードマンだって、やっと倒せたんだから」  少女はその反応を見逃さなかった。口元へ浮かんだ笑みには、ようやく答えを見つけた者の確信があった。 「中ボスが怖いだけでは? リザードマンなんて、あたしでも倒せますよ?」  勇者はわざとらしく鼻で笑い、腰の剣へ手を添えた。 「大丈夫だ! 今日は朝の占いでも五位だったし、宿屋の昼食も好きな献立だったのだから」 「は……?」  そのとき、巨大な扉の向こうから、地面を揺らすような轟音が響いた。  机の上の水晶が震え、勇者の鎧がかすかに音を立てる。  二人はそろって扉を見た。  しばらく待っても、勇者は動かない。  やがて、扉の向こうから何者かが遠慮がちに咳払いをした。 「グゥウゥウ、勇者ァァァァァ……!!」  勇者は聞こえなかったふりをして、少女へ向き直る。 「あれ、おかしいな。こんなときにお腹が鳴るなんて」 「一生食えなくしてあげましょうか? え?」  今度は扉が内側から三度、規則正しく叩かれた。 「まだなの? どんだけ待たせるのよ」 「い、いや……だって、この子が」 「…………!!」  少女は堪えきれずに吹き出した。すぐに口元を手で隠したものの、肩は小さく震えている。 「わ、笑うな! 俺は今、勇者の尊厳を懸けてだな……!」 「その尊厳、中ボスの部屋に置き忘れてません? さっさと取りに行ってください」  少女が扉を指し示すと、勇者は胸を張って一歩を踏み出した。  しかし、その足が向かったのは扉ではない。  勇者は少女の机へ、先ほどよりも一歩近づいていた。 「……そんなに、ここから離れたくないんですか?」  少女の問いに、勇者は答えなかった。  先ほどまで淀みなく並べていた言い訳が、急に尽きてしまったらしい。剣の柄へ置いた手を離し、気まずそうに視線を泳がせる。 「どういう意味だ?」 「だって、さっきから言い訳ばかりで、全然戦おうとしないじゃないですか?」 「ち、違うんだ。俺はただ、タイミングをだな……」  少女は勇者の言葉を遮るように、閉じた記録帳の表紙を指先で軽く叩いた。 「早く倒してきてください。それが終われば、あたしは帰れるんですから」  勇者の表情から、わずかに強がりが消えた。 「仕事を終えたら、きみはどこに行くんだ?」 「さあ……? ただ、あたしはあるべき場所に帰るだけですので」 「次の階層でも、またきみが担当するのか?」 「それはないかと。ここでの仕事が終われば、もうあたしは――」  少女はそこで言葉を切り、小さく首を横へ振った。次の階層には、別のセーブ係が配置されているのだという。 「な、なんだ。次にも同じ役目の者がいるのか。大変だな。じゃあ、倒すしかないなあ! ヤツを!」 「……なんか無理してません?」  扉の向こうは、いつの間にか静かになっていた。中ボスまで、二人の会話へ耳を澄ませているようだった。  少女は机から身を乗り出し、逃げ続ける勇者の顔を下から覗き込む。 「まさか、会えなくなるのが嫌で戻ってきたのですか?」  勇者は口を開いた。しかし、いつものような言い訳は出てこなかった。  長い沈黙の末、勇者は観念したように肩を落とす。 「じゃあ、行くか……いや、その前に――」  少女は急かさず、勇者の言葉を待っている。  勇者は一度だけ中ボスの扉を振り返ると、意を決したように少女へ向き直った。 「怖いのは怖いけど、それ以上にきみに会えなくなるのが嫌なんだ……」  少女の瞳がわずかに見開かれた。勇者は恥ずかしさをごまかすように、早口で言葉を続ける。 「初めは普通にセーブをしに来たんだ。だけど、今はきみと話すのが楽しいんだ」 「はあ……。物好きな人ですね。だから何度も戻ってきたんですか?」 「まあ……なんだ、その……そうだ」  巨大な扉の向こうから、何かを押し殺すような声が漏れた。どうやら中ボスまで笑いを堪えているらしい。 「笑うんじゃねぇえ! せっかく勇気を振り絞って言ったのに!」 「そんな腰抜けには負けねぇよ。逃げられる前に来いよ」  少女は扉をひと睨みしてから、再び勇者を見上げた。頬には、先ほどまでなかった淡い赤みが差している。 「……あたしも、あなたの足音が聞こえるたび、少しだけ嬉しくなっていました」 「それって――」 「明らかに、最初とは魔力の量も気迫も違いますね」 「ごまかしたな?」 「せっかくやる気になったんですから、戦ってきてください」  勇者は勢いよくうなずいた。先ほどまで怯えていた扉を背に、今度はまっすぐ少女を見つめる。 「もしさ……俺が魔王を倒したら……付き合ってくれないか?」  少女は一瞬だけ驚いたあと、何かを企むように目を細めた。 「仕方ありませんね。魔王を倒せたら……ですよ」  勇者の顔に、今日一番の笑みが広がった。  上機嫌で剣を抜き、中ボスの扉へ身体を向ける。 「おっしゃ! やってやるぜ!」  すると、待ちきれなくなったのか、巨大な扉がわずかに開いた。その隙間から、中ボスがこちらを覗き込む。 「オラ、早く来いよ! 時間の無駄だ」 「よし! 今から倒すからな!」  中ボスは勇者ではなく、その背後にいる少女へ目を向けた。  次の瞬間、扉の隙間から伸びていた顔が引っ込み、内側で何かが慌てて姿勢を正す音がした。 「……魔王様、もうそろそろお時間かと」  勇者の動きが止まった。 「ん……今、なんて?」  少女は答えず、机の上の記録帳を静かに閉じた。指先が水晶へ触れると、淡かった光が深い赤紫へ変わる。  それまで少女の気配を覆っていた何かが消え、魔王城そのものが呼吸を始めたかのように、廊下の空気が重く沈んだ。 「きみは一体――」  少女は椅子から立ち上がり、服の裾を整える。勇者へ向けた微笑みだけは、先ほどまでと何も変わっていなかった。 「勇者がどれほどの力の持ち主か見極めるため、ここにいたのです」 「ん……えーっと……つまり、きみはセーブを司る聖者なんだよな?」 「セーブ係でもありますが、魔王と名乗ったほうが早いですね」  勇者の顔から、今日一番の笑みがゆっくりと消えていく。 「え……じゃあ、さっきの約束は……?」 「約束は守りますよ。あたしを倒せたら」  少女の足元へ赤紫の魔法陣が広がった。光に包まれた身体が少しずつ透けていく。 「魔王の間で待っています」  少女の姿が完全に消え、廊下には勇者と中ボスだけが取り残された。  長い沈黙のあと、中ボスが扉の隙間からもう一度顔を出す。 「ちなみに魔王様、不老不死だからな」 「えぇええええ――っ!?」
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2026/09/18 • 👁 81回 • 💬 0件
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4276文字 約9分で読了

婚約破棄された結果、得がたい自由の味を知ってしまいました

王立学園の卒業祝賀会。本来なら、アレクシス王太子の隣に立っているのはエディット・ノーヴェル侯爵令嬢のはずだった。だが今夜、彼の腕に手を添えているのは、彼の色のドレスを纏ったリリィ・フラメル男爵令嬢だった。  それを見た時点で、エディットにはおおよその事情が察せられた。だからといって表情を崩すことはない。未来の王太子妃たる者、衆目の前で感情を露わにしてはならない――そう教えられて、もう十年近くになる。 「エディット・ノーヴェル侯爵令嬢。私は君との婚約を解消したい」  広間のざわめきが、一瞬にして消えた。壇上には国王夫妻もおり、その面前での宣言だった。  エディットは少しだけ目を伏せる。驚きはした。幼い頃から当然のように存在していた未来が、たった一言で消えたのだ。けれど、胸に痛みは感じなかった。そのことの方が、少しだけ寂しかった。 「理由を伺っても?」 「私たちの婚約は政略によるものだ。そこに愛はない。だが私はリリィを愛してしまった。そして、彼女も私を愛してくれている」  隣のリリィが頬を染める。 「私は、彼女と生きていきたい」 「承知いたしました」 「……それだけか?」  むしろアレクシスの方が戸惑った。 「殿下のおっしゃるとおり、わたくしたちの婚約は政略によるものでございましたから」  長年を共にした情はある。けれど、それを恋と呼べるかと問われれば、エディットには分からなかった。 「陛下がお認めになるのでしたら、わたくしから申し上げることはございません」  そう告げて壇上を見る。国王は眉間を押さえ、その隣でエリーサ王妃が微笑んでいた。ただし、あれは機嫌のよいときの笑顔ではない。 「アレクシス」 「はい、母上」 「その娘を次の婚約者にするつもりなのですね?」 「もちろんです。リリィを王太子妃にしたいと考えております」  そこで国王が重々しく口を開いた。 「王家とノーヴェル侯爵家との婚約を、余の許可も得ず破棄すると宣言した。その意味は理解しているな」 「……はい」 「これはお前ひとりの恋愛の話ではないぞ」  アレクシスの口が閉じた。先ほどまで真っ直ぐ国王を見ていた視線も、わずかに下がる。    続いて王妃がリリィへ視線を向けた。 「リリィ・フラメル嬢。あなたは王太子妃になるということでよろしいのですね?」 「はい。殿下をお支えしたいと思っています」 「では、王太子妃教育を受けていただきます」 「……教育?」  リリィの笑顔が固まった。 「一年です。一年後には最低限の公務を務められるようになっていただきます。それ以上は延ばせません」 「母上、さすがに一年では――」 「いいえ、一年です」  王妃はアレクシスの言葉を遮り、その笑みを消した。 「ですが、私はこの令嬢を教育いたしません」 「母上?」 「あなたが選んだのです。その選択に伴う責任を当然のように、誰かが引き受けてくれると思わないことです」  重い沈黙が落ちた。その中で、エディットは別のことを考えていた。  婚約は終わった。だが、自分が十年近くかけて身につけたものはどうなるのだろう。教師たちが費やした時間も、王家が投じた費用も、その多くは国庫から賄われたものだ。 「王妃殿下」  エディットは静かに一礼した。 「リリィ様の教育、わたくしにお任せいただけませんでしょうか」 「エディット?」  アレクシスが目を剥く。王妃も驚いたように彼女を見た。 「……理由を、聞いてもいいかしら」 「はい。殿下との婚約は政略によるもの。ですが、わたくしが受け取った教育まで無価値になったわけではございません」  エディットは胸元で手を重ねる。 「民から納められた税によって得たものです。使わず捨てるのは心苦しゅうございます。――だから、次の王太子妃となる方へ、お渡しできればと思います」  王妃はしばし黙ったあと、小さく息を吐いた。 「……本当に、あなたという子は。分かりました。お願いします」  こうしてエディットの婚約は終わり、代わりに奇妙な役目がひとつ増えた。 ***  翌朝。 「……寝過ごしましたわ!」  エディットは跳ね起きた。窓の外はすでに明るく、時計は八時を回っている。五時に起き、六時から登校まで勉強して、それから学園へ――そこまで考えて、止まった。  学園は昨日卒業した。王太子妃教育も、もうない。 「本日のご予定は午後からでございます」  侍女が告げる。 「……午前は?」 「何もございません」 「何も?」  そんな日が、これまで何度あっただろう。休日にも王太子との茶会や王妃への挨拶があり、教師が来ることも珍しくなかった。十年のうち、本当に自由だった日は数えるほどしかない。 「……もう一度、眠ってもよろしいかしら」 「もちろんでございます」  エディットはおそるおそる枕へ頭を戻した。目を閉じると、驚くほど簡単に眠りに落ちた。 ***  数日後。  王宮の一室には、エディットが使ってきた教材が山のように積まれていた。 「……これを全部?」 「いいえ」  青ざめるリリィの前で、エディットは次々と教材を除いていった。 「古典は後回し。舞踏も最低限に。こちらも削れます」  リリィの顔が次第に明るくなる。やがて残った山を見て、王妃が尋ねた。 「ずいぶん減らしたのね」 「一年しかございませんので。これ以上減らしますと、公務を任せること自体が危険です」  リリィの笑顔が消えた。  授業は九時から十八時。昼休憩一時間。 「八時間なら……頑張れそうです」 「ええ、できるだけ無理のないよう組みました」  だが、初日の十八時。机に突っ伏しかけたリリィへ、エディットは紙束を差し出した。 「では、こちらが本日の宿題です」 「……宿題?」 「復習と、明日の予習です」 「この量を?」 「かなり減らしております」  嘘ではなかった。  一か月もすると、リリィはすっかり疲れ切っていた。  それでもエディットは無理をさせなかった。体調が悪ければ休ませ、できたことはきちんと褒めた。だからこそ、リリィにもこれが嫌がらせではないと分かっていた。 「エディット様。宿題を減らしていただけませんか」 「構いませんよ」 「本当ですか?」 「はい。その代わり、王太子妃としての公務を減らすよう、王妃様に許可を得てください」  リリィは黙り込む。 「……これ、全部必要なんですか?」 「いいえ」  リリィの顔に希望が浮かぶ。 「これが、必要最低限なのです」  その希望が消えた。 「エディット様は、頭がいいからできたんでしょう」 「いいえ。できるようになるまで、教わったのです」  エディットは首を振った。何度も間違えた。泣いたこともある。夜中まで机に向かったことも、一度や二度ではない。 「ただ、わたくしには十年近い時間がございました。今から一年で覚えなければならないあなたの方が大変です」  二か月目、とうとうアレクシスが口を出した。 「さすがに厳しすぎるのではないか」 「そうでしょうか」 「毎日八時間、そのうえ宿題まであるのだぞ」 「これでも、わたくしの頃よりはかなり余裕がございますが」 「君はどの程度だったんだ」 「朝五時起床、六時から登校まで勉強を。学園を終えてからは、再び王太子妃教育を受けておりました」 「夜まで?」 「時には日付を越えることもありました」  アレクシスが絶句する。 「休日は?」 「殿下とのお茶会などがございましたので」 「……私との?」 「はい」  アレクシスの表情が固まった。彼にとっては婚約者との穏やかな午後だったのだろう。エディットにとっても嫌な時間ではなかった。ただ、それもまた予定のひとつだった。  三か月目に入っても、リリィはどうにか机に向かっていた。  けれど、ある朝。リリィは王都から姿を消した。二日後、実家の男爵領へ戻ったことが確認された。残された手紙には、『王太子妃なんて私には無理でした。本当にごめんなさい』とだけ書かれていた。  アレクシスが迎えに行こうとしたが、国王が許さなかった。そして数日後、アレクシスは王太子の身分を解かれた。王族として一から学び直し、再び後継者とするにふさわしいかは、改めて判断されることになった。 「王太子という立場は、生まれだけで与えられるものではない」  国王の言葉に、アレクシスは黙って頭を下げた。 *** 「申し訳ございません」  後日、エディットは王妃へ深く頭を下げた。 「お預かりしたものを、最後までお返しできませんでした」  一年どころか三か月で、リリィは去った。けれど王妃は首を横に振る。 「いいえ、エディット」 「ですが――」 「リリィ嬢は、自分が何を望み、何ができないのかを知ったわ。アレクシスも、自分がどれほど周囲に支えられていたのかを知りました」  そして、柔らかく笑う。 「あなたは、私たちがあなたに与えた以上のものを返してくれました」  エディットは、すぐには返事ができなかった。  十年間、王太子妃になるために学び、振る舞い、誰かの見本であろうとしてきた。それが、終わったのだ。 「……ありがとうございます」  いつものように微笑んだつもりだった。けれど、王妃は目を丸くした。 「あなた、そんなふうに笑う子だったのね」 「昔は、もう少しお転婆だったそうですわ」 「まあ。見てみたかったわ」 「今からでも遅くございませんでしょう?」  自分でも驚くほど軽い言葉だった。  その日の帰り、エディットは王宮の廊下でアレクシスに呼び止められた。 「私は君のことを何も知らなかった」  彼はもう王太子の装いではなかった。 「君が何をしていたのかも、それにどれほどの時間を費やしていたのかも」  アレクシスが少しだけ言い淀む。 「当然のように、君が隣にいると思っていた。……今さらだと分かっている。それでも、もう一度、私と婚約してくれないか」  エディットは少しだけ考えた。  以前なら、考える必要すらなかった。朝五時に起きて、学び、予定をこなし、期待に応える。それが自分の人生だと思っていた。  けれど今は知っている。朝、まだ眠ければ、もう一度布団へ潜ってもいい。読みたい本を読み、何もせず庭を眺める午後があってもいい。 「申し訳ございません、殿下」 「……なぜ?」  エディットは微笑んだ。 「わたくし、得がたい自由の味を知ってしまいましたの」 ***  それからしばらく、エディットは社交界から距離を置いた。  新たな婚約者を探すこともなく、本を読み、庭を歩き、気が向けば昼寝をする。ときどき王妃に呼ばれてお茶を飲めば、以前よりずっとよく笑った。  そして、ある朝。  カーテンの隙間から差し込む光に目を覚ます。時計は八時を少し回ったところだった。以前なら、青ざめて飛び起きていただろう。  けれど今は。 「……まだ、少し眠いですわね」  エディットは布団を鼻先まで引き上げる。  そして迷うことなく、もう一度目を閉じたのだった。
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作者:錆猫てん
2026/09/18 • 👁 102回 • 💬 0件
児童文学
1451文字 約3分で読了

遠い嵐の予感

春の田んぼではカエルの子どもたちの合唱が聞こえます。  今年生まれたオタマジャクシたちは、みるみるうちに成長して、小さなカエルになったのです。 「お母さん待ってよー」 カエルの坊やは一生懸命ジャンプしてお母さんも追いかけます。 まだお尻には短い尻尾が残っています。 初めて上がった陸の世界はたくさんの若葉が生い茂り、名残惜しそうに、少しばかり残った桜の花びらが舞い落ちます。 他の兄弟カエルたちもみんなぴょんぴょんと飛び跳ねてあっちこっち初めての陸の世界を見て回るのです。 「カタツムリのおじさんこんにちは!」 「こんにちは」 「とってもいい匂いがするよ」 「バラの花が咲いているのさ」 「どこに咲いているの?」 「上をごらん」 そう言われてカエルの坊やは上を眺めました。 ずっとずっと高いところに花のつぼみがついています。 下から見上げればほんの少しだけ花びらのピンク色が見えるのです。 「すごいなあでもあんなに遠くまで上がれないよ」 「なあに、大きくなったらジャンプして葉っぱから葉っぱへ飛び移って上まで上がることができるよ」 「本当?」 「もちろん!君のお母さんはとっても上手だよ」 そう言われて、カエルの坊やは早く大きくなりたいなと思いました。 大きくなってあのお花の上まで行けたらとっても素敵だろうと考えたのです。  ぽつり、ぽつりと、雨が降ってきます。 「わー、冷たい。空から水?」 「雨だよ」 「あめって、なぁに?」 カエルの坊やは不思議そうに上を眺めます。 「そうか、坊やはまだしっぽが残っているもんね。昨日まで田んぼの水の中にいたんだね。それじゃあ雨に濡れるのは初めてなんだ」 カタツムリのおじさんはそう言いました。 「空から水が降ってくるんだね」 カエルの坊やは不思議そう。 「そうだよそれが田んぼや池にたまっているんだよ」 カタツムリのおじさんはそう教えてくれます。  突然 空がピカッと光りました。 紫色の眩しい光。 そしてその後、ドーンゴロゴロ! とても大きな音がしました。  カエルの坊やはびっくり! 慌てて飛び跳ねて行きます。 「お母さーん !大きな音がするよ!怖いよ!」 大きなチューリップの葉っぱの下にお母さんはいました。 それから兄弟カエルたちも。 「怖いよ!怖いよ!お母さん!」 「大丈夫、あれはカミナリよ」 お母さんは子供達を抱きしめて優しく教えてくれます。 「雨がたくさん降る時はカミナリが鳴るの。とっても大きな音だけど怖くはないわ。たくさんの雨を降らせてくれる合図なの。 これからもっと時間が経って雨がたくさん降るシーズンがやってくるのよ。そうしたらあじさいっていう大きな紫色の花が咲いて、たくさん雷が鳴って雨が降るの。 みんな雨が降ったらお肌が濡れて気持ちいいでしょ。 雨はたくさんのお花や植物たちを育ててくれるのよ。 だからカミナリはとっても大きな音だけどちっとも怖くないわ」 お母さんもそう言って子供達をなだめました。  やがて雨は止み、葉っぱの上には水滴が溜まっています。 地面には水たまりもできています。 「すごいね、ちっちゃな田んぼみたい」 子供達は水たまりの上で遊びます。 カエルの坊やも水たまりに入って遊びました。 雨上がりの空気は少しだけ澄んでいて、綺麗に洗われた世界はいつもよりほんの少し鮮やかに見えます。 カエルの坊やは嬉しくてジャンプをしました。 水たまりの水が飛び跳ねます。  そうだ思いっきりジャンプできるようになったら、カタツムリのおじさんが言ってたみたいにバラの木の上に登って花の上でお昼寝できるかな、とカエルの坊やは考えました。  うららかな昼下がりの物語です。
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作者:しとえ
2026/09/18 • 👁 105回 • 💬 0件