ポエム・詩
114文字 約1分で読了

憂いある月の下で

悲しみがアルペジオになって たくさん泣いた晩に 憂いある月は私を見下ろした 心が音楽になってしまえばいいのに そうすれば私は旋律を奏で 苦しみすら美しい夜想曲になるだろう 涙が小さな音符になって 一人震える子供のもとに 舞い降りてくれるだろうに
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作者:しとえ
2026/09/24 • 👁 71回 • 💬 0件
ポエム・詩
1004文字 約3分で読了

まちぼうけ

 まだか、まだ来ないのか。  イライラしつつ顔を上げる。   だから言ったんだ。 「じゃあ○○○モールでね」 「△▽駅で」   全く君は、いつだってそうだ。  そんな曖昧な約束で、 ちゃんと会えるわけがないのに。  いいか、施設は広いんだ。  私は東入り口で、君はインフォメーションで。  ふたりの時間を一体どれだけ無駄にしてきたことか。  時計をちらと見、それから、もう十何度目かのベルを鳴らすも、やはり君は電話に出ない。  焦燥にも似た怒り。  ああ、まただ。  まだ気がつかないのか。  次こそはもっと綿密な計画を。詳細かつ狂いのない、隙のない約束を。幾度となく思いを巡らせては、同じ事を繰り返す。  見ると、若い男が安堵の表情を浮かべながら、私のすぐ隣を駆け抜けていった。  男はばつが悪そうに笑いながら、同い年くらいの女のもとへ近づいてゆく。  その女は、ひどく嬉しそうな顔で男に寄り添った。  ふたりが仲良く肩を並べ、私の目の前を通り過ぎていった。  仕合わせな横顔に、仕合わせな横顔が重なる。  なんとまあ、呆れたことだ。  女はさっきまで、身体を揺らしながら足踏みをし、私と同じようにイライラしていた。  その感情も、今はもうすっかり忘れてしまっている。  そして次回、性懲りもなく 同じ過ちを 繰り返すのだろう。  ふたりの小さくなってゆく背中を見届け、もう一度だけ時計を見ると、私は小さくため息をついてその場を離れた。  土曜日の午後、いつも決まった時間に、私は必ずそこを訪れる。  そうして電話と時計とを交互に見つめ、時に辺りを探しながら、またイライラと空を見上げる。  そこには私と同じように誰かを待つ人、人、人。  最後の一組が目の前から消えるのを見届けて、私はようやくその場を離れる。  ふと見ると、映画館の入り口から少し離れたところで、ふた組前に立ち去ったペアが喧嘩をしていた。 「見ろよ、映画がもう始まっちゃったじゃないか。君のせいだぞ」 「何よ、あなただって前回、同じことをしたじゃないの」  まあまあ、赦してやんなさいよ。  これからのふたりの時間のためにも、チケットを無駄にしないためにも、ここは怒りを鎮めてさ、途中から楽しめばいいじゃないか。  心の中でそのふたりを宥めつつも、先ほどまで苛々していた自分を思い出して恥じた。  来週も、さ来週も私はここに来るのだろう。  君を待つために。  はじけるような笑顔と、何とも言えない安堵感、ふとした気の緩みを味わうために。  もう二度と、君は来ないと分かっているのに。 (おわり)
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作者:佳乃こはる
2026/09/24 • 👁 112回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1469文字 約3分で読了

マイ フルーツモンスター

「フルーツモンスターや……」 「え、知ってるの? ていうか見えるんだ……」  僕は今幽霊と暮らしている。いや、幽霊なのかも怪しいが、浮遊しているし、触れることが出来ないし、何せ携帯のカメラに写らない。そもそも暮らしている、というか気付けばいた。僕は自分の脳がおかしくなったのかと怖くなって、彼女に見せることにした。 「お菓子の。知らん? おんなじ顔しとる……」  子どもの落書きのようにクリクリとした目に、輪郭の曖昧な球体。どちらかと言えばまっくろくろすけだなぁっと改めてソイツを見ていた。 「舞、何色に見える?」 「ピンクやろ!」 「僕には水色なんだよなぁ……」 「病んどるんやない?」  否定は出来ないが、舞にも見えてる以上それはブーメランなんよ。  舞は天井の隅にいるソイツに触れようとベッドの上に立ち上がった。 「無駄だよ。逃げるもん」  ソイツに触れようとするとふわりと躱される。まるで気流の影響を受けているようにどこまでもすり抜けていく。もう何度だって捕まえようとしたんだ。 「この子、ご飯は?」  諦めてベッドに腰掛けた彼女は、テレビの上を浮遊するソイツを見つめていた。何度か跳ねたり手を激しく動かしたりしたせいで暑くなったのだろう。Tシャツをパタパタと仰いでいた。 「え、いや……どうだろう。食べてる時もじっと見られてるけど」 「虐待やん!!」  えぇぇ、と言葉を失った僕を他所に彼女は冷蔵庫を物色し始め、魚肉ソーセージを剥き、小皿に乗せてテーブルの上に置いた。  二人してしばらく様子を見守ったがソイツは魚肉ソーセージに興味を示すことは無く、相変わらず僕らの方をじっと見つめていた。部屋の湿度が上がったのか暑さがだんだんと不快になっていく。 「これ、どうするん?」 「分かんないよ」 「来週から一緒に住むんよ? この子、マンションまで付いてくるん?」 「外出してる時も部屋にいるから、外までは来ないと思うけど……」  まるで話の内容が分かっているかのようにソイツはパチパチと瞬きをして相変わらず天井付近を漂っている。 「なんかさ、付き合い始め思い出さない? エアコン壊れてて扇風機だけでどうやって夏凌ごうかって話ししてたじゃん」 「うん! 酸っぱい物食べた!」 「ああ……、言ってたね。酸っぱい物食べたら涼しくなるって」 「なったやろ?」 「どうだっけ?」  そういえば舞が好んで食べていたお菓子のパッケージのキャラクターにこの幽霊は似ているかもしれない。あぁ、あれがフルーツモンスターか。  窓を開けることもなく、エアコンを付けるでもなく、そうやって昔話を咲かせていたのは、ソイツが風の影響で飛ばされないかと気を使ってた訳じゃない。とも言い切れないなと、久しぶりに見る舞の満面の笑みの影で思っていた。  翌週。予定通り僕らは一緒に暮らし始めた。  引越しのさ中、アイツの瞬きはいつもより多いと感じた。  新居にフルーツモンスターは来なかった。まだあの部屋にいるのだろうか。何かコミュニケーションがあった訳では無いんだけど、何故だか少し寂しさを覚えた。最後に部屋を出る時のあの目……。  「またな」と口にしたのは、おかしな未練からなのか、未だに分からない。 「今日からよろしくね」 「うん……。あのね、」 「何?」 「実は二人きりじゃないんよ……」  僕は急いで部屋中を見渡した。トイレやバスルーム、他の部屋も見て回った。  フルーツモンスターは、やっぱりいない。思わず動揺した。みっともない。  なんだか恥ずかしくなってリビングに戻ると、彼女は俯いてどこかそわそわというかもじもじとしていた。 「舞、見えてるの?」 「ううん、あのね、赤ちゃんできた」
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作者:珈琲時間
2026/09/24 • 👁 100回 • 💬 0件
恋愛
600文字 約2分で読了

軽口を叩くだけの幼なじみに、月が綺麗と言ってみる?

「また喧嘩したの?」 「うっせーな。絡まれたんだよ、俺は悪くねー」 「柄が悪いからいけないのよ」 「はいはい。もー、めんどくせーなぁ。さっさと帰れよ」 「あら、いいの? せっかくついて行って言い訳してあげようと思ったのに」 「神さま仏さま怜花さま、ありがとうございます」 「調子いいわねぇ」 「母ちゃん怖ぇからしゃーねーべ」 「私は仲良しだけどね。リモコンの場所聞かれたりするくらいには」 「なんで俺より母ちゃんとわかりあってんだよ、お前」 「斗真が好きだからじゃない?」 「……はい?」 「あら、どうかした?」 「どうかってお前……」 「相変わらず変な顔してるわねぇ」 「はぁ?」 冗談かよ。 「てかなんで、いつも喧嘩現場に来るんだよ」 「あ、やっぱり喧嘩なのね」 「あーあーあー、絡まれた絡まれた!」 「なんで来るかってそりゃ、あなたがそんなだからじゃないの」 「どういう意味だ。ガキの頃から何年だ?」 「幼稚園からだから、12年かしら」 「長ぇ……。こんなに一緒にいるとは思わなかったわ……」 「仕方ないわよ。私があなたに一目惚れしたんだから」 「……はい?」 また冗談か? 「……」 「……俺、お前を恋愛対象として見たことねーよ」 「……知ってるわ」 「……でも、俺はお前以外選ばねーと思う」 「はぁ?」 「いや、だから……」 「いつまでも想われてるなんて思わない方がいいわよ? まぁ、その日を待ってあげなくもないけど」 「……おう」 空を見た。月は……出てないな。
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作者:御月ケイ
2026/09/24 • 👁 90回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
2900文字 約6分で読了

「ホール・ニュウ・ワールド」

 港近くの19時半。  潮臭い風とタバコの煙で鼻腔を満たす。ひしめく倉庫やら事務所から帰宅する反対車線は、だいたいこの時間ピークを迎える。なんだか今日は気が重い。いや、いつものことか……。  信号が青に変わると男は無意識でタバコを投げ捨てた。同時にフロントガラスに鳥類のフンが落ちる。 「あぁっ! くそっ!! ほら、やっぱりな!」  男はひとり不運に文句を吐き、フロントガラス越しに空を見上げた。  いつも見える月が出てない。新月か。 「お疲れ様でーす」 「おお、今週はリュウジか。今日からの相方、女だぜ」 「あれ? タカさんはどうしたんすか?」 「ああ。あのジジイやらかしてんだよ。どっかで漏らしたってよ。お前も気をつけろ」 「うわー。マジすか。御愁傷様っすね」  スーツの男と軽口を交わし、職場へ気怠そうに足を進める。 「お疲れ様でーす」  鉄錆を鉄錆で擦る音が響き、長テーブルの女は突っ伏していた顔を上げた。  ほんとに女性。というか若い。同じくらいか?  男の胸中には、二十代特有の根拠の無い浮ついた期待が滲んでいた。 「あ……ああ、どうも。初めまして。清水です」  寝起きなのか疲労からか。くたびれた様子で女は言った。 「疲れてますね。まぁこんな仕事ですもんね」 「はい。あの、『バラシ』って言うんですか? それでちょっと気分悪くなっちゃって」 「え、まじですか? モノ? ヒト?」 「……ヒト、だと思います。今日は見てろって言われて…」 「あぁ。ドンマイです。ドンマイとしか言いようがありません」 「あの、もう少し、ここで休んでてもいいですか?」 「いいですけど、明日もですよね? 12時間後出勤ですよ」 「分かってます。ただ、どうしてもひとりになりたくなくて……すみません」  これは向いてない。男はそう確信し、電気ポッドのスイッチを入れた。簡易なキッチンスペースの端に見慣れない巻かれたカーペットが立てかけられていた。不思議に思ったが、捨てられていないのなら誰かの私物だろうと、そこで思考を止めた。 「聞いてるかもしれないですけど、ここの飲み物とか自由に飲んでいいんで。経費ってやつです」 「はい。ありがとうございます。あの、お名前……」 「ああ、すみません。リュウジって呼ばれてます。25です」 「あ、同い年ですね。ちょっとほっとしました」  コーヒーを清水の前に置きながら、僅かに緩んだその表情にリュウジの煩悩が芽を出した。 「ああ、あの。えっと、清水さんは、なんでわざわざこんな闇バイトに?」  清水はコーヒーは啜り、視線を斜め左に向けた。 「あの『穴』、見てみたかったんです」 「ん? 『穴』のこと知ってきたんですか? 不味く無いっすか?」 「親分さん経由なので、ご心配なく」 「あ! え! あっなんかすみません」 「どうして謝るんですか?」 「いえ……大丈夫っす」  やくざの親分経由の新人なんか碌でも無い、とリュウジの煩悩は萎れる。 「不思議ですよね…。あの『穴』に捨てればこの世界から無くなる。ニオイも、音も。どこに繋がってるんでしょうね。国に見つかったら見学とか絶対させてもらえないじゃないですか」 「俺もずいぶん色んなことを試しました。それこそ顔突っ込んで大声出してみたり、爆竹落としてみたり、手紙入れてみたり」 「えっ? 手紙?」 「そうそう。もし別の世界に通じてたら誰か返事くれないかなぁって。携帯の番号書いたんですよ」 「あはははっ! リュウジさんウケるっ」 「未だに鳴ってないですけどね。俺の携帯は仕事かおかん専用です」 「じゃあ、番号教えてくださいよ。私が鳴らしますから」  清水の思わぬ提案にリュウジがたじろいでいると、ビーという不協和音が倉庫に響いた。 「ああ。来ましたね。ちょっと仕事してきます」 「あ、私も手伝います」 「いやいや、清水さんもう上がってるんだから。座っててください」  錆びた鉄扉から出て行ったリュウジは1分と経たずアルミのリアカーを引いて戻ってくる。荷台には黒いビニール袋が5、6個積まれていた。「穴」に向けてリアカーを反転させ、袋を「穴」へスライドさせる。荷台に汚れが無いことを確認すると、リュウジはリアカーを戻しに行って、またすぐに帰ってくる。 「夜勤はだいたい多くて20件くらいです。まぁ眠気との戦いですね。清水さんももう20時半ですよ。帰らなくていいんですか?」 「そうですね」  そう言って立ち上がった清水の手にはメジャーが握られていた。「穴」の方へ行く清水。 「78センチ。やっぱり……」 「えっと……、清水さん?親分に何か頼まれてるんですか?」 「いいえ。リュウジさん。頼んだのは私の方」 「た、頼んだ……? 『穴』の大きさって変わるんですか?」 「リュウジさん。この『穴』当たりですっ」  清水の弾けるような笑顔は、荒廃した倉庫においてあまりに異物だった。 「あ……当たり?」 「はい。私、ずっと探してたんです。元の世界に戻りたくて」 「も、もと?せかい……?」 「リュウジさん、さっき『穴』の先に別の世界がって言ってましたよね。アレ、当たりです。私、穴に落ちてこの世界に来たんです。だから、戻れる方法、ずっと探してました」 「え……っと。まじすか。え……戻るんですか?」 「まぁ私も研究した訳じゃなくて、他の人から聞いた話なんで、リュウジさんに教えてあげますね。新月の夜に大きさが3センチ以上変わる『穴』は『上行き』。丈夫な布に包まって落ちれば怪我しない、だそうです!」 「ほ……他の人?」 「世界が何層あるのか、それは分かりませんが、行き来している人は意外といるんですよ。私は、この世界は臭くて耐えられない。元の世界の廃棄物入れてるから当たり前なんですけど。リュウジさんちょっと手伝ってもらっていいですか?」  清水はキッチンの方へ駆けて行くと、立てかけてあったカーペットに手をかけリュウジの方を見た。リュウジは言われるがまま寄って行き、二人でカーペットを運んだ。 「清水さんの世界はどんなところなんですか?」  ちらりと見える清水の胸元から視線を外し「穴」の方を見ながらリュウジは問う。 「一緒に行きます?」 「え! いや……、俺、車のローンも、まだあるし……。って言うか、なんで『穴』に入ったんですか?」 「急に出てきたんです。『穴』が。それで落っこちちゃって……」 「ええぇ……」 「はい。ここで。敷きますよ」  カーペットは「穴」を覆うように敷かれ、清水は「穴」のある場所をぽんぽんと手で叩いていた。 「魔法の絨毯です」  清水の笑顔は十代の少女より輝いていた。 「じゃあリュウジさん。ありがとうございました!親分さんには上手いこと言っといてください!」 「ホントに入るんですか?」 「気になります? だったら『ホールニューワールド』で検索してみてください。色んな情報書いてますから。あ、ちなみに『Whole』じゃなくて『Hole』です。大手の検索エンジンだとAIが誘導阻害してきますのでマイナーな検索エンジンで調べてくださいね! では!」 清水は「穴」の位置のカーペットに飛び乗ると、そのままカーペットごと「穴」に消えた。  ビーっと聞き慣れた不協和音が倉庫に響く。テーブルの上にはマグカップが二つ。 「電話番号……」  リュウジはひとり、ぽつりと呟いた。
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作者:珈琲時間
2026/09/24 • 👁 58回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1899文字 約4分で読了

幽体離脱

 世界へ  私は幽体離脱を会得して20年になる中年だ。何を言っているのだろうかと訝しむことだろうから、まず幽体離脱というものについて説明する。  幽体離脱とは文字通り肉体から幽体が離れた状態だ。あれは高校受験に失敗したある夜。私は滑り止めの男子校に通うことを余儀なくされ絶望の淵にいた。布団に包まり、時間よ戻れと強く願ったのだ。ある種の信仰すら超越したおそらく憎悪すら近い執念じみた渇望で。その時だ。肉体に異変を感じた。身体が身体でない感触。金縛りと離人症を同時に発症したような恐怖的違和感。そのさ中、私はえいっと寝返りを打った。すると、どうだ。どこまでも落下しているという錯覚に陥り、恐怖のあまり反射で強く目を瞑っていた。しばらく歯を食いしばっていたが、落下している感覚はやがて浮遊感であると自覚に至った。目を開けると目の前は壁で、振り返ると私が仰向けに寝ていたのだ。身体が、軽い。なんだこれは、と。リビングに行こうとするとドアノブを手が通過する。足元に目をやると僅かだが私は浮いていた。  それから夜道に出たりもした。誰も私を認識できないようであった。初めての日はそれで終わったが、その日以降、私は意図的に幽体離脱が出来るようになった。いや、正直に言うと初めの頃は3回に1回程度の成功率ではあったが。  ともあれ私は男子校に通いながら、夜には幽体離脱を楽しんでいた。空を飛べたのは半年経ってからだろうか。同時にその世界では認識が全てだと悟ったのだ。  冬になると夜は伸び、人通りも少なくなる。夜中の不審者ウォッチングに飽きてきた頃、私は幽体離脱中に独り言が多くなっていた。そんなある夜、私の独り言に応答があった。すぐそばで、だ。恐れるでもなく、驚いて振り返るとそこには何かがいた。何か、なのだ。カタチは無いが存在はある。それは何かとしか言いようがない。ただ、何か、では気味が悪いので、私はその何かにカタチを与えようと念じた。それは当時私が「推し」ていた女性タレントの姿。高校一年生らしい願望の浅はかさである。黒歴史とでも言おうか。  かくして、私はそのイマジナリーフレンドの女性タレントと毎夜毎夜デートを楽しんでいた。ここはあえてデートという言葉に留めておこう。さらに調子に乗った私はイマジナリーフレンドを量産し、楽園を築いたのだった。あの頃は天国と言って差し支えない世界だっと思う。なにせ、私のイマジナリーフレンドは出産にまで至ったのだから。  私が現実世界で20歳を迎える頃には、霊体の世界はもう手に負えなくなっていた。というのも、私が現実世界で活動している間にも霊体の世界の住人も活動しているらしく、気がつけば子どもは成長しているし、当時ハマっていたお笑い芸人なんかもいつの間にか出現していた。  勝手に増え続けるイマジナリーフレンド。いや、初めましての人もいるのだからフレンドとは言えない。言わなくていいだろう。もういい、と願っても一度現れたイマジナリーフレンドはどうやっても消滅しないのだ。それどころか、態度の悪い私に罵声を浴びせてきたりもする。  さて、世界へ。  これは相談だ。実は今幽体世界では争いが加速し、戦争と言って差し支えない程度に激化している。正直言ってここに私の居場所は無い。幽体離脱しなければいいじゃないかって? 仰る通り、私もそう考えた。しかし、幽体の住人は、私が寝ようとすると、幽体を引き剥がしにくるのだ。極めて美しい例のタレントの顔で。  霊体が霊体を攻撃し、四肢が離れ、悶え苦しんでいる。小さな塊になったかと思えばやがて再生し、再び攻撃に加わる。地獄絵図より地獄である。  現実世界の私といえば、青春を幽体の世界に捧げてしまったせいで、ろくに友人もいないし、両親とも疎遠になってしまった。大学時代に一度恋もしたが、恋人は謎の精神病にかかってしまった。私は幽体世界のイマジナリーフレンドが何かしたのかと思い、問い詰めたところ、あっさりと白状した。  就職して、運悪くパワハラ上司の下についたが、上司を始め社長まで精神に異常を来した。仕事は無くなったが生活するには事欠かなかった。何せ、夜の世界を自由に歩き回れるのだ。あらゆる一時情報を盗み見ることが出来る。そうなると、詳しくは言えないがまぁ金には困らない。  だが、孤独なのだ。  私はどうすればいいだろうか。幽体世界は混沌としながらも安易に私の肉欲を埋めてくれる。しかし、これは正常とは言い難い。そんなことは分かっている。もしかしたら私は長いこと幻覚の中にいるのだろうか。もう、分からないのだ。  そろそろあちらの世界に行くとしよう。では、世界よ。明日もまた話そうじゃないか。
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作者:珈琲時間
2026/09/24 • 👁 74回 • 💬 0件
エッセイ
525文字 約2分で読了

正しかった教科書

 家の本棚を整理していると、中学生ぐらいの時に使っていた教科書が出てきた。 懐かしさにページをめくる。 資料集の国語図録を見てますます嬉しくなった。 もうボロボロの国語図録。 中学生の時、国語図録を見るのが好きで暇さえあれば眺めていたのを思い出す。 漢詩や短歌、平安時代の女性貴族の作家から文豪、現代の作家まで様々な作家の紹介、代表作。 作品が作られた舞台や背景。用語の説明、歳時記まで。  生きていく上で勉強ばかりが重要なわけじゃない。 けれどこの国語図録は私の人生を豊かにしてくれたと思う。 今の時代はスマホでググればすぐに何でも出てくる。 AIに尋ねれば答えてくれるし、何でもすぐに調べることができるわけだけど。    今日は中秋の名月だ。 国語図録の中秋の名月のページをめくる。 月にまつわる和歌や地方の習慣、中秋の名月が歴史でどのように扱われていたのかが載っている。 関東風と関西風の月見団子の違いも。  ちなみに我が家ではどちらも用意する。 裏の畑のすぐそばに生えている、すすきを取ってこよう。 お団子は団子粉で作ろうかな。 作ったらすぐに子供達に食べられちゃいそうな気がするけど。  私はそっと、国語図録を本棚に戻した。 学生時代に思いを馳せて、図録のページは私の人生の1ページへとなった。
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作者:しとえ
2026/09/24 • 👁 76回 • 💬 0件
ミステリー・サスペンス
1743文字 約4分で読了

大きなくりの木のしたで

 ゴールデンウィークの里山公園の駐車場は、思ったよりもガラリと空いていて、桜はすっかり新緑に染まり、今年も順調に夏に向かっているらしかった。  結婚式の準備のため実家に帰省していた私は、自室の片付けの途中でピンク色のくたびれたミニ封筒を見つけた。小学生か、もしかしたら中学生の頃だったかもしれない。かつての親友と交わした約束。そんな物が押し入れの奥で、おそらくこの日を静かに待っていたのだ。 「大きなくりの木のしたで、ゆみこの30さいのたんじょう日に会おうね。」  由美子が書いたのか、私が書いたのか。ただ、由美子の誕生日は忘れもしない、なんたって子供の日。明日だ。  そして、私は約束の場所のはずの里山公園に行った。もしかすると、昔のように由美子はあそこでスケッチブックを広げているのだろうか。━━いや、まさかね、と。  記憶の映像よりずっと整えられた歩道に、時の経過を超えて懐かしさが込み上げてくる。胸がむず痒い。  由美子とは別の高校に進んだ。私よりずっと勉強のできた由美子は、いつしかSNSでだけの存在になっていた。  手紙を見つけた日の夜、久しぶりにアカウントを検索してみたけど、一切の投稿が消されていた。確か起業して社長さんになったんじゃなかったっけ……。現在の由美子の認識が曖昧。だから少し、期待も心配もしていた。  その栗の木は、私の記憶よりずっと逞しくなっていた。こんなに大きかったかな。普通、私が成長しているんだから小さく感じる物じゃないのか。枝に蕾が成っている。しがみつくサナギのように。 「あかね……?」  由美子だった。思い出に耽って何分その場で呆けていたのか、声をかけられるまで全く気配を感じなかったから驚いた。懐かしいはずの顔を前に、私の鼓動はみっともなく狼狽した。 「由美子……だよね? 信じらんない!」  私たちは笑った。再会を祝し抱擁を交わし声を上げた。由美子の温かさに、私はいつの間にか泣いていた。 「そっかぁ。茜も結婚かぁ」  由美子は満足そうに言ってくれた。嬉しくて恥ずかしくて。でもそれは、無神経の言い訳だった。 「由美子は?どうしてるの?」  だから、本当は聞かなければよかったんだ。会話の流れでこうなることは仕方がないことだったとは言え、SNSのことがあったのだから私はもっと慎重になるべきだった。 「私は、バツ付いちゃったなぁ。だから、縁起悪いよ〜?」  その言葉と笑顔の意味を、もっと汲んでやるべきだった。 「でも、社長さんでしょ?ほんと昔からすごいよ、由美子は」  この時吹いた強い風は、忠告だったのかもしれない。 ━━例えば、神様か何かからの。 「……うん。実はね。元旦那に、会社取られちゃったんだ。裁判もしたけど、ダメだった。だから取られたって言うのは、私の主観ね。一緒に立ち上げた友達に、浮気されて。離婚して。今はね、心の療養ってやつ。生活保護、受けてるんだ。お金も無くなっちゃった。ほんと、私、縁起悪いよ」  そんな話を、あまりに優しい表情で言うから、由美子の心は、もう今ここにはいない気がした。残酷なほど、静かで穏やかだった。 「たまにはさ、ご飯行こうよ!連絡していい?」  気まずさから逃げるような私の発言は、この上なく迂闊で浅ましくまさに愚行というべき行い。 「それはさ……、私が、鬱だから? 今、こんな、だから? 茜さ、全然連絡くれなかったじゃん? 私、何度も、連絡しようとしたんだよ。辛いこと、仕事仲間には言えないこといっぱいあってさ。その度、茜の顔が浮かんできて。でも、茜はいつも楽しそうな写真たくさん上げてたし、そうだよね、忙しいよねって。いつかの誕生日に、おめでとう、元気してる?ってDMしたの覚えてる?返事、なかったんだよ」  なんて答えるのが、正解だったんだろう。 「ごめん」  由美子は絞り出したような声でそう言ったけど、それはどう考えても私が言うべきだった。  そこから、何を話して、どう解散したのか、まるで覚えていない。  一年前の今日。私は、罪を犯した。 「茜は悪くない」  そう言う友だちも人もいっぱいいた。でも、犯罪でなくとも、違法でなくとも、これは罪だ。  だって由美子は終わりを選んでしまったのだから。 「由美子。赤ちゃんできたんだよ。見てる?」  大きな栗の木の下で、あの時と同じように、心臓が二つ、動いている。
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作者:珈琲時間
2026/09/24 • 👁 39回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1728文字 約4分で読了

人生再始動センター

「吾輩は猫である」  ...なんて誰にも届かない戯言を言ってみる。  私は猫。  ただの猫。  ここ、2106年"人生再始動センター"で他人の人生を盗み聞いているただの猫。  おや、そんなこんなで誰か来たようだ。 「頼む! やり直させてくれ!」  駆け込んで来たのは中年の男性。  どうやら慌てている様だ。  一人目:月は沈み、日は昇る 「どうしました?」  受け答える青年。  私がここに来た頃以前から勤めているだけの、ただの青年だ。  中年の男性は言う。 「人を轢いてしまったんだ! 早くやり直させてくれ!」  どうやら交通事故を起こして人を殺してしまったらしい。  そんな中年男性に、青年は淡々と言う。 「分かりました。生年月日とお名前を教えてください。」  その言葉に、中年男性は落ち着きを取り戻しながら応える。 「1984年1月20日生まれの42歳、葉崎之和(はざきゆきお)です。」 「では、葉崎さん。貴方の戻りたい日時とその状況を教えてください。」 「は、はい。日時は今日の午前11時、状況は私がトラックを運転しているとボールを取りに飛び出した少年とその子を庇った女性を轢いてしまった時です。」 「成程。では奥に進んで頂く前に最後の確認です。」 「な、なんです?」  戸惑いながらも聞く中年男性に青年はこう言う。 「この先に進んだ場合、その時点での記憶までしか引き継げません。それでも宜しいですか?」 「えぇ。構いません!」  その言葉に、青年はニコリと微笑み中年男性を奥へと案内する。  二人目:誕生日 「やり直させてくれ!」  次の人はサラリーマンの様な風貌の男性だ。 「何としてでもやり直したいんだ!」  かなりテンションが高いサラリーマンだ。  慌てた様子で言っている。 「落ち着いて下さい。先ずは生年月日とお名前を教えてください。」 「す、すいません...僕は1990年3月18日生まれの35歳です。名前は下森信幸(げもりのぶゆき)です。」 「分かりました。下森さん。では貴方の戻りたい日時とその状況を教えてください。」 「戻りたいのは2105年の7月12日です。状況は息子の誕生日前日です。」 「分かりました。それでは奥に進んで頂く前に最後の確認です。」  「この先に進んだ場合、その時点での記憶までしか引き継げません。それでも宜しいですか?」 「はい! 勿論です!」  そう言い、サラリーマンは奥に進む。  三人目:ダ・カーポ 「やり直させて下さい。」  次に来たのは化粧が厚い女性だ。  そして、内に秘める怒りを隠しきれていない。 「はい。先ずは生年月日とお名前を教えてください。」 「ワタシは1996年8月9日生まれの29歳です。五十嵐咲実(いがらしさくみ)です。」 「分かりました。では貴方の戻りたい日時とその状況を教えてください。」 「戻りたいのは五年前の12月4日です。状況は外で立っているワタシを彼が声を掛けてきた所からです。」 「はい。では、奥に進んで頂く前に最後の確認です。」  「この先に進んだ場合、その時点での記憶までしか引き継げません。それでも宜しいですか?」 「えぇ、勿論。二度とあんな男にひっかからないわ!」  そう言い、厚化粧の女は奥へ進む。  四人目:三態 「頼むぅ、戻してくれぇぇ!」  最後に来たのは髪の無い、皺の多い老人だ。 「分かりました。先ずは生年月日とお名前を教えてください。」 「わしは1930年の5月29日生まれ95歳の丙宗吾(あきしゅうご)です。」 「了解しました。では、貴方の戻りたい日時とその状況を教えてください。」 「わしを生まれた頃へ戻してくれぇ。」 「承知しました。では、奥に進んで頂く前に最後の確認です。」  「この先に進んだ場合、その時点での記憶までしか引き継げません。それでも宜しいですか?」 「早く戻してくれぇ!」  半狂乱ながらも老人は奥へ進んで行った。  n人目:頁 「くわぁぁ...」  滑稽過ぎて欠伸が出てしまう。  最初の中年男性はいっつもここに来ては繰り返している。ずっと妻子を助けようとして。  サラリーマンは息子を殺しに過去へと戻る。  化粧が厚い女は何度繰り返しても同じ人と付き合うし、しわしわの老人は若々しさを求めて繰り返す。  愚かだね。  過去に戻っても未来なんて変わらないのに。  果たして次はどなたが来るのだろうか。  さて、私もそろそろ行こうと思う。  人生の繰り返しに。
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2026/09/24 • 👁 95回 • 💬 0件
ミステリー・サスペンス
3961文字 約8分で読了

天才の発想

高校時代、クラスメイトのサトウと話していたことがある。 「将来、世界中のやつらと友達になりたいよな。」 だから彼が分厚い本を開いているのを見たとき、僕は当然それが英語の参考書だと思った。 だが、そこに積まれていたのは『古今和歌集』や『志賀直哉全集』など、全てが日本文学だった。 「勉強をするんなら英語じゃないの? 日本語だらけじゃないか。」 「いや、お前もしておけよ。いずれ母国語のほうが大切になる時代が来る。」 学年トップの天才だった彼の言葉の意味を、僕は理解が出来なかった。 サトウはそれから独り、落語を聞き、国語辞典を読み、詩や俳句を書き続けるという奇行を深めていった。 頭が良いと云われるやつでも意味わからんことをするんだなと僕は感じながら、何を勉強するでもなく、毎日たくさんの遊びに没頭した。 ――それから数年。 AIの搭載されたワイヤレスイヤホンによって、全ての言語がリアルタイムで翻訳できる時代になった。 バーで久しぶりに見かけたサトウの周りには、世界中の人々が群がっていた。 「あの時の空模様は、職人に振られたばかりの江戸っ子が描いた浮世絵みたいに、見事なまでににっちもさっちもいかない群青色だったのさ!」 サトウの粋な日本語は、AIによって心を揺さぶる英語に翻訳され、外国人たちを大爆笑させていた。 母国語の表現力が、そのまま翻訳後の魅力となっていたのだ。 「久しぶりだな。」 僕を見つけたサトウが隣に腰掛け、聞いてもいないのに、勝ち誇ったように語り始めた。 「5年前、俺は気付いたんだ。 これからはAI翻訳が完璧になるから、英語を覚えるコストは無駄だ。 人間が磨くべきは『通訳に渡す前の母国語による表現力』。 中途半端に英語や他言語を学ぶより、日本語を極める方が遥かにコスパが良かったんだよ。」 ドヤ顔で語る天才の完璧に聞こえる論理。 「俺が忠告したように、お前も勉強しておけば良かったのにな。」 サトウは僕を見下しながら笑みを浮かべた。 「いやぁ、さすがサトウくんだね。 はぁ…。」 僕は氷をカラリと鳴らしながら、呆れの混じった息を吐いた。 「でもさ、表現力を磨いても、結局『言葉』っていう不完全なツールに縛られていないかな。 思考を一度言語に変換して、それをAIに翻訳させて耳に届ける…それってまだ完成形じゃないと思うんだ。」 サトウの笑みから余裕が消える。 「来月、思考を脳波で直接やりとりできる『非言語ダイレクトデバイス』のβ版がでるんだって。 言葉にしづらい脳内のグラデーションが、伝えたいだけ、伝えたいまま、相手の脳にそのままの形で伝わる。 つまりさ…」 僕はグラスに目を落としながら、静かに笑みを返した。 「テクノロジーが発展したら、そもそも『言葉』を使う必要すらなくなると、僕はわかってたんだ。 だから僕は勉強なんて一切しなかったんだよね。 コスパで言えば…僕が一番良いんじゃないかな? …あ、でもサトウくんの表現力はやっぱりすごいよね。 今の感情、すごく伝わってくるよ。 非言語ダイレクトデバイスなしでも、ね。」 ―――――――― 以下は解釈の手引きです。 多分にネタバレも含みますので、解釈や楽しみ方を縛られると感じる場合は、この手引きを読まないことを推奨します。 『天才の発想』は作者の意図として、読みやすく書いて「文章から受ける印象をそのまま受け取る」のと、人物に魂も吹き込んで「"僕"がどのような人物で、どのような人生を歩んできたか想像して読む」のでは、物語の印象がガラっと変わるよう、ダブルミーニングを込めて書きました。 なので、そのまま受け取って、「"僕"が皮肉を込めて、サトウを論破した」と解釈してくださることも間違いではありません。 (むしろ、書き手がどういう意図で書いたとしても、読み手の数だけ解釈が広がるほうが健全であると考えているので、どんな解釈でも正解だと思います) ここまで読んで、「他にどんな意図があったんだ!?」「"僕"を想像することで、別の物語に見える…?」と気になってくださったら、とても嬉しいです。 この手引きを読んでいる途中で読み直してくださっても、最後まで読んでから改めて振り返っていただいても、書き手である私は幸せです。 さて、 "僕"とはどのような人物なのか タイトルの"天才"とは、いったい誰を指しているのか 私は"僕"も一人の天才として描きました。 サトウは努力もでき、誰が見てもわかる天才。 対して"僕"は、発想がぶっとびすぎていて、周囲に理解されないタイプの天才…。 "僕"は幼少から、誰にも理解されず、何かを言えば「現実的じゃない」「もっと大人になれ」のように煙たがられる存在でした。 感情に配慮するよりも論理的な思考が得意で、物事の本質やこれからの予測に長けた人物。 「将来こうなるから、こうしたほうがいい」 サトウと同じように先を視ることはできますが、視えすぎてしまうが故に、無駄に思える努力ができない。 それを他人は達観と捉えるのか、はたまたうつけと捉えるのか…現実的なのは後者でした。 そのように周囲に理解されず、冷たくあしらわれてきた"僕"は、自分の才能に気付いていません。 「僕がなにかをやっても理解されない」「僕が間違っているのかもしれない」 そんな想いから、どんどん孤立し、塞ぎがちになっていきます。 "僕"が「サトウよりも、もっと先が視えてしまう」天才だったとしたら… >学年トップの天才だった彼の言葉の意味を、僕は理解が出来なかった。 なぜ、理解ができなかったのか? "僕"が孤立し、塞ぎこんでいったとしたら… >「いやぁ、さすがサトウくんだね。 はぁ…。」 >僕は氷をカラリと鳴らしながら、呆れの混じった息を吐いた。 この呆れは、ため息は、誰に向けられたものだったのか? "僕"が対人経験をつめていなかったのなら… >…あ、でもサトウくんの表現力はやっぱりすごいよね。 >今の感情、すごく伝わってくるよ。 非言語ダイレクトデバイスなしでも、ね。 この発言の意図、この台詞の前の"間"はどういう意味だったのか? そして、そもそも冒頭の「将来、世界中のやつらと友達になりたい」を達成したのはどちらなのか? 答えの1つとして、私の解釈は… AIが進歩する。 そしたらテクノロジーは今まで以上の速度を持って発展する。 そうなると脳波による意思の疎通が可能になる。 そんな未来が来る確率が高いのであれば、何かを努力するよりもその時を待っていたほうが時間を有効に使えるので、"僕"は勉強をすること自体が理解できない。 呆れ、ため息は、サトウの考え(ひいてはサトウ自身)に向けられたものではない。 「サトウは地道に努力を続けてさらに魅力的になり、友達がたくさん出来る人気者でいる。 対して僕はわかっているのに友達がぜんぜん出来ない。 なんて無能なんだろう。」 そんな想いから、"僕"自身に向けられたものだった。 カラリとなった氷と、孤独な"僕"。 どことなく似ている。 感情の扱いや、対人経験を弱点とする彼は、唯一の友達と言えそうなサトウに対して、コミュニケーションとして、サトウが言っている"コスパ"をテーマに正論だけをぶつけてしまった。 対人能力が低くても理解できるくらいに、サトウは余裕をなくしてしまったので、"僕"は「まずい…いつも通り正論だけ言っちゃって、友達をなくすパターンだ」と認識し、相手が褒めて欲しいところを汲み取って最大限のフォローをした(つもり)。 結果として、サトウはもっとえぐられて、唯一の友達も失ってしまうのだけれど、不器用な"僕"は皮肉をいうつもりも傷つけるつもりもなかった。 そして、結果として"僕"が想定する未来が来たとしても、友達を作れるのはやはりサトウで。 "僕"の正論や、遊んで得た世界なんかのイメージを渡すよりも、サトウのように感性を広げたほうが、どう考えても万人に受ける。 そもそもコミュニケーション能力とはそういうものだ。もともと言葉だけの物ではない。 母国語の拡張による多角的表現の大切さ。 それが"僕"にもわかってしまった。 もう一人の天才"僕"の、不器用で悲しい物語。 物語は書き手の数だけではなく、登場人物や読み手の数だけ、なんなら乗算のようにたくさんの解釈が生まれるものだと思います。 これは私の解釈なので、皆様それぞれの解釈をもちつつ、そんな受け取りかたもあるんだって楽しんでもらえると幸いです。 「"僕"ってただのナマケモノで、皮肉に聞こえたのはただの負け惜しみ、遊びほうけたことの正当化なんじゃないの?」って感想をもらって、ハッとさせられました。 私にはない視点、受け取り方でした。(書いた私が言うのも変だけど) これだから物語は面白い。 さて、つたない文章をここまで読んでくださり、ありがとうございました。 書き手として、このように講釈をたれるのは、もしかしたら反則なのかもしれない。 しかし、私は書き手と同時に、読み手でもありたい。 なので、ご容赦いただけると幸いです。 私のことは嫌いになっても、作品のことは嫌いにならないでくださいッ! そして、非言語ダイレクトデバイス、はやく実用化されないかな? 本編よりもこの手引きのほうが、時間的にも文章量的にも圧倒的に長い。 それでもまだまだ脳内をぶちまけた感じとはほど遠い。 このイメージを、受け取りたい人にそのまま伝えられる未来が待ち遠しいです。 ニュー○リンクがこのまま続いたら、この未来が確実に来ると思っています。 ニューラ○ンク頑張って!("僕"を凌駕するほどの怠惰の権化) 最後に、サトウくん、ごめんね。 "僕"と対比させるために、めちゃくちゃイヤミなやつとして描写しすぎたかもしれない。 もし、サトウくんがぶちぎれて、殺人事件のサスペンスミステリーに発展しても驚かないよ。 その時に、サトウくんが刺すのは "僕"なのかな… 私なのかな…
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作者:ごみがき
2026/09/24 • 👁 184回 • 💬 0件