SF・ファンタジー
マイ フルーツモンスター
1,469文字
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「フルーツモンスターや……」
「え、知ってるの? ていうか見えるんだ……」
僕は今幽霊と暮らしている。いや、幽霊なのかも怪しいが、浮遊しているし、触れることが出来ないし、何せ携帯のカメラに写らない。そもそも暮らしている、というか気付けばいた。僕は自分の脳がおかしくなったのかと怖くなって、彼女に見せることにした。
「お菓子の。知らん? おんなじ顔しとる……」
子どもの落書きのようにクリクリとした目に、輪郭の曖昧な球体。どちらかと言えばまっくろくろすけだなぁっと改めてソイツを見ていた。
「舞、何色に見える?」
「ピンクやろ!」
「僕には水色なんだよなぁ……」
「病んどるんやない?」
否定は出来ないが、舞にも見えてる以上それはブーメランなんよ。
舞は天井の隅にいるソイツに触れようとベッドの上に立ち上がった。
「無駄だよ。逃げるもん」
ソイツに触れようとするとふわりと躱される。まるで気流の影響を受けているようにどこまでもすり抜けていく。もう何度だって捕まえようとしたんだ。
「この子、ご飯は?」
諦めてベッドに腰掛けた彼女は、テレビの上を浮遊するソイツを見つめていた。何度か跳ねたり手を激しく動かしたりしたせいで暑くなったのだろう。Tシャツをパタパタと仰いでいた。
「え、いや……どうだろう。食べてる時もじっと見られてるけど」
「虐待やん!!」
えぇぇ、と言葉を失った僕を他所に彼女は冷蔵庫を物色し始め、魚肉ソーセージを剥き、小皿に乗せてテーブルの上に置いた。
二人してしばらく様子を見守ったがソイツは魚肉ソーセージに興味を示すことは無く、相変わらず僕らの方をじっと見つめていた。部屋の湿度が上がったのか暑さがだんだんと不快になっていく。
「これ、どうするん?」
「分かんないよ」
「来週から一緒に住むんよ? この子、マンションまで付いてくるん?」
「外出してる時も部屋にいるから、外までは来ないと思うけど……」
まるで話の内容が分かっているかのようにソイツはパチパチと瞬きをして相変わらず天井付近を漂っている。
「なんかさ、付き合い始め思い出さない? エアコン壊れてて扇風機だけでどうやって夏凌ごうかって話ししてたじゃん」
「うん! 酸っぱい物食べた!」
「ああ……、言ってたね。酸っぱい物食べたら涼しくなるって」
「なったやろ?」
「どうだっけ?」
そういえば舞が好んで食べていたお菓子のパッケージのキャラクターにこの幽霊は似ているかもしれない。あぁ、あれがフルーツモンスターか。
窓を開けることもなく、エアコンを付けるでもなく、そうやって昔話を咲かせていたのは、ソイツが風の影響で飛ばされないかと気を使ってた訳じゃない。とも言い切れないなと、久しぶりに見る舞の満面の笑みの影で思っていた。
翌週。予定通り僕らは一緒に暮らし始めた。
引越しのさ中、アイツの瞬きはいつもより多いと感じた。
新居にフルーツモンスターは来なかった。まだあの部屋にいるのだろうか。何かコミュニケーションがあった訳では無いんだけど、何故だか少し寂しさを覚えた。最後に部屋を出る時のあの目……。
「またな」と口にしたのは、おかしな未練からなのか、未だに分からない。
「今日からよろしくね」
「うん……。あのね、」
「何?」
「実は二人きりじゃないんよ……」
僕は急いで部屋中を見渡した。トイレやバスルーム、他の部屋も見て回った。
フルーツモンスターは、やっぱりいない。思わず動揺した。みっともない。
なんだか恥ずかしくなってリビングに戻ると、彼女は俯いてどこかそわそわというかもじもじとしていた。
「舞、見えてるの?」
「ううん、あのね、赤ちゃんできた」
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