ポエム・詩

まちぼうけ

1,004文字 約3分で読了
作者:佳乃こはる
 まだか、まだ来ないのか。  イライラしつつ顔を上げる。   だから言ったんだ。 「じゃあ○○○モールでね」 「△▽駅で」   全く君は、いつだってそうだ。  そんな曖昧な約束で、 ちゃんと会えるわけがないのに。  いいか、施設は広いんだ。  私は東入り口で、君はインフォメーションで。  ふたりの時間を一体どれだけ無駄にしてきたことか。  時計をちらと見、それから、もう十何度目かのベルを鳴らすも、やはり君は電話に出ない。  焦燥にも似た怒り。  ああ、まただ。  まだ気がつかないのか。  次こそはもっと綿密な計画を。詳細かつ狂いのない、隙のない約束を。幾度となく思いを巡らせては、同じ事を繰り返す。  見ると、若い男が安堵の表情を浮かべながら、私のすぐ隣を駆け抜けていった。  男はばつが悪そうに笑いながら、同い年くらいの女のもとへ近づいてゆく。  その女は、ひどく嬉しそうな顔で男に寄り添った。  ふたりが仲良く肩を並べ、私の目の前を通り過ぎていった。  仕合わせな横顔に、仕合わせな横顔が重なる。  なんとまあ、呆れたことだ。  女はさっきまで、身体を揺らしながら足踏みをし、私と同じようにイライラしていた。  その感情も、今はもうすっかり忘れてしまっている。  そして次回、性懲りもなく 同じ過ちを 繰り返すのだろう。  ふたりの小さくなってゆく背中を見届け、もう一度だけ時計を見ると、私は小さくため息をついてその場を離れた。  土曜日の午後、いつも決まった時間に、私は必ずそこを訪れる。  そうして電話と時計とを交互に見つめ、時に辺りを探しながら、またイライラと空を見上げる。  そこには私と同じように誰かを待つ人、人、人。  最後の一組が目の前から消えるのを見届けて、私はようやくその場を離れる。  ふと見ると、映画館の入り口から少し離れたところで、ふた組前に立ち去ったペアが喧嘩をしていた。 「見ろよ、映画がもう始まっちゃったじゃないか。君のせいだぞ」 「何よ、あなただって前回、同じことをしたじゃないの」  まあまあ、赦してやんなさいよ。  これからのふたりの時間のためにも、チケットを無駄にしないためにも、ここは怒りを鎮めてさ、途中から楽しめばいいじゃないか。  心の中でそのふたりを宥めつつも、先ほどまで苛々していた自分を思い出して恥じた。  来週も、さ来週も私はここに来るのだろう。  君を待つために。  はじけるような笑顔と、何とも言えない安堵感、ふとした気の緩みを味わうために。  もう二度と、君は来ないと分かっているのに。 (おわり)
2026/09/24 ・ 👁️ 113回 ・ 💬 0件

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