君は覚えていない。
前世では、殺し合っていた。
そして、そのまた前世でも。
だが俺も、君と最初に出会った生を覚えていない。
今世、俺――古賀聖宗は日本に生まれ、この聖・カタリナ学園の教師になった。
〝厄災の魔女〟の生まれ変わり、|朝宮茉莉《あさみやまつり》を見張るために。
「おはようございます、古賀先生」
「古賀先生、ご機嫌よう」
「ああ、おはよう」
正門に立ち、次々と登校してくる女生徒たちと挨拶を交わしつつ、俺はただひとりを待っていた。
そろそろ来る頃だが。
俺は、腕時計に目を落とした。
いつも正門前に横付けされる黒塗りのベンツは、まだ見えない。
「古賀セン、おっはよ!」
肩を叩かれ、顔を上げると、担任しているクラスの生徒だった。
「こら、古賀先生だろう」
背中に向かって声をかけると、彼女はべっと舌を出し、小走りに校舎に消えていった。
のどかな朝の登校風景。
黒い炎に包まれた廃墟、血飛沫、悲痛な叫び声。
身体に染みついた凄惨な戦いの記憶も、今はまるで御伽話のように遠い。
そのとき、低いエンジン音が聞こえた。
顔を上げると、いつもより少し遅れて校門前に黒いベンツが停まり、後部座席のドアから、少女が楚々とした仕草で降り立った。
「お嬢様、いってらっしゃいませ」
「はい、いってまいります」
女性運転手に丁寧に会釈をすると、腰まである長い黒髪が揺れた。
朝宮は今、前世を忘れている。
だが、あの黒髪が紅に染まるとき、〝厄災の魔女〟として覚醒する。
そのとき俺は、朝宮の命を奪わなくてはならない。
「古賀先生、おはようございます」
朝宮は俺の前で歩みを止めると、きちんと礼をした。
顔を上げ、花が綻ぶように微笑んだ。
「ああ、おはよう」
朝宮が俺の前を通り過ぎた。
残り香がふと鼻を掠め、近頃繰り返し見る夢が頭に蘇った。
風がそよぐ葦原に、明るい笑い声が響いている。
紅い巻き毛の少女が金の波を掻き分けてゆく。その後を、銀髪の少年が笑いながら追いかけてゆく。
やがて少女は振り返り、震える手を差し出した。
「お願い、一緒に来て」
だが、少年はその手を取らなかった。
銀髪の少年は、幼い頃の俺とよく似た顔をしていた。
紅い巻き毛の少女は、朝宮……なのか。
覚えている四つの生のどこにもそんな記憶はない。
ならば、これは失った最初の生の記憶なのだろうか。
俺たちは、最初から敵ではなかった……?
一瞬、さらさらと揺れる黒髪に、紅い巻き毛が重なった。
目をこすり、俺は朝宮の背中をもう一度見つめた。
ふと、横から視線を感じた。
発進しかけた黒いベンツの運転席から、女性運転手がじっとこちらを見ていた。
――それは夢ではない。あの方はお前を愛したが、お前はあの方を見捨てた。その痛みこそが、覚醒の引き金だ。
言葉だけが、頭の中に直接響いた。
はっとして振り返ると、いつの間にか朝宮がこちらを見ていた。
黒かった髪の先が、紅に染まり始めていた。
――殺さなくては。
そう思ったのに、耳の奥に、葦原を駆ける少女の笑い声が蘇った。
俺は、朝宮を殺すための一歩を、どうしても踏み出せなかった。
《おわり》
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ひとつ ひとつ 誰かの想い
きらり きらり 描いた軌跡
ひとつ ひとつ 積み重なって
めぐる めぐる 扉がひらく
まわる まわる あなたの世界
かける かける 誰かのもとへ
ひとつ ふたつ 増えていく
ゆれる ゆれる 私の心
ふわり ふわり 伝えてくれる
まわれ まわれ どこまでも
ふたつ みっつ いつまでも
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A「おはようございます! 今日からお世話になります、田中です!」
B「お、待ってたよ。私が教育係の木村な。よろしく。じゃあさっそく、うちの部署の仕事の流れから説明するな。うちは基本的に、クライアントから案件を受注して、それを形にして納品するのがメインやねん」
A「なるほど! もらって、作って、あげるんですね!」
B「……まあ、ざっくり言うたらそうやな。あげるっていうか『納品』な。で、まずは基本として、取引先の人に送る『ビジネスメール』の書き方から覚えてもらおうか」
A「ビジネスメール! やったことないです! あれですよね、最後に『バイバイ』って書くやつですよね!」
B「書くかぁ!!」
A「えっ! 書かないんですか!?」
B「書かへんよ。友達じゃないねんから。ビジネスメールの最後は『よろしくお願いいたします』で締めるのが鉄則やねん。バイバイって送ったら次の日から仕事なくなるわ」
A「よろしくお願いいたします、ですか。なんか、おねだりしてるみたいで恥ずかしくないですか?」
B「おねだりちゃうねん、挨拶や。あとメールの最初には、必ず『お世話になっております』って入れるんやで」
A「お世話になっております……? でも、僕今日入社したばっかりで、その人にお世話になったこと一回もないですよ? 嘘つくことになりませんか?」
B「嘘とかじゃないねん!!」
A「ええっ!?」
B「それがマナー、そういう決まり文句やねん。お世話になってなくても『なっております』って言うのが、社会のルールとしての優しさやねん」
A「社会の優しさ……。じゃあ、まだお世話してくれてないけど、これからよろしくねっていう、未来への投資の言葉なんですね」
B「……まあ、その解釈で納得できるならそれでええわ。で、メールができたら、次は名刺交換の練習もしような」
A「名刺! 自分の名前が書いてある、あのちっちゃいカードですね!」
B「そう。相手から名刺を出されたら、必ず両手で受け取って、『頂戴いたします』って言うんや」
A「両手で。こうですか?」
B「そうそう。で、受け取ったらすぐにポケットに仕舞うのはNG。机の上に綺麗に並べておくのがマナーやからな」
A「あ、机に並べるんですか。じゃあ、相手の名刺がどんどん増えていったら、机の上が名刺だらけになって、トランプの『スピード』みたいになりますね!」
B「遊ぶな仕事中に!!」
A「いや、並べるって言うから!」
B「並べるけど、ゲームはせえへんよ! 相手の名前を忘れないように、確認するために置いておくねん」
A「確認するため……。でも先輩、相手の顔の前に名刺をかざしながら喋ったら、名前を絶対に間違えなくて済むんじゃないですか?」
B「……それは失礼やろ。相手の顔が見えへんし、お前がずっと名刺で顔を隠しながら喋る変な奴になってまうやろ」
A「あ、僕の顔が隠れるんですか」
B「お前が隠してんねん。いいか、名刺は胸の高さで持って、相手の目を見て喋る。これが基本や」
A「胸の高さで、相手の目を見る……」
B「そう、その感じ……って、距離近っ!! なんで俺の5センチ前まで詰めてくんねん!」
A「相手の目をしっかり見ろって言うから! 近くないと黒目の色とか見えないですよ!」
B「黒目の色はどうでもええねん!!」
A「どうでもいいんですか!?」
B「視力を測ってるんちゃうねん。アイコンタクトや。まあ、初日やからな。これから少しずつ覚えていけばええよ。焦らずいこう」
A「はい! 先輩、僕、一生懸命がんばって、この会社の『王様』になります!」
B「社長な!!」
A「あ、社長か!」
B「ごっつい新人が来てもうたわ……」
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私は先見の勇者。初探索のダンジョンの特徴も、初見の怪物の弱点も、全部お見通し。小娘でも輝金級冒険者を名乗れる異能には、実は秘密がある。「ねえ、隠し部屋はこの奥?」私のひとり言に耳の奥で声が答えた。(うん。ゲームなら壁を30回叩いて体当たりで宝物庫に着くね)「了解したわ、ヒカル!」
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「ねぇ、ちょっと入ってみない?」
高校生にしては茶色い髪を風になびかせて笑う詩織。
親から聞いたところ優等生のようで、私は彼女の髪を見るたびに不思議に思う。
「えー、やだよ。濡れちゃうよ」
この暑い時期、詩織に同意する人が多いだろう、だけど私は海に入るのは避けたい。金槌にとって海に入るなんて自殺行為だ。
「ねぇ、膝までだけでもダメ?」
「いやだ、詩織1人で入りなよ」
「そっかぁ、1人で入ってもつまらないよ。澪ちゃんのせいで今年は海に入れなかったよ」
少し意地悪な顔をしながら私を批判する。ただ本気ではないことくらい、短い付き合いの私でもわかる。
「それは残念だね」
そう言いながら、私は聞き流す。
「今年の夏は今年だけだよ?それに来年はもうここにいない」
詩織の指が私の頬に触れる。ただでさえ暑いのに、触られた部分が余計に熱を帯びる。私は暑さにやられたのだろうか。
「また来年こっちにきなよ」
来れないことは分かっている。
「そうだね、それも良いかも」
「来年だったら一緒に海に入ってあげる」
私は出来ない約束をしている。詩織は来ることができないことくらい私が一番分かっている。
「ねぇ、そろそろ夏休みが終わるね、ちゃんと宿題やった?」
おどけた笑顔で詩織が聞いてきた。来年の話をしたくないのだろう。
「ずっと一緒にいたから分かるでしょ、あまりやってない」
「澪ちゃんって優等生みたいな見た目なのに意外だよね」
「詩織は逆だよね、非行少女っぽい」
東京では髪を染めるのは普通なのだろうか、田舎者の私は分からない。
「そうでしょ、実は非行少女なんだ」
「嘘つき、優等生って聞いたよ」
「あ、知ってたんだ。実は真面目に学生してるよ」
親から聞いたよ、と言いかけたが言葉を飲み込んだ。なんとなく言いたくなかった。声を発したいが言葉にできない私は砂浜に落ちていた白く濁ったガラス片をいじることしかできない。
「流石に夏休み中には終わるよね?」
「無理だよ、手伝ってよ」
「できる限りは手伝うけど、もう明後日には東京に戻っちゃうよ」
知っている、私は悪あがきをしている。東京なんか戻らなければ良いのに。
「あ、流木。発見」
詩織がビーチサンダルをパタパタさせながら、大きな流木を持ってきた。
「大きいね、この流木。字が書けそう」
そう言いながら詩織が、落ちている石を使いながら器用に名前を書く。
―かざましおり・うんのみお―
とても器用だ。
「はい、これプレゼント」
「え、プレゼント?」
「そう、海にきた記念品」
突拍子のないプレゼントだ。短い付き合いの私には理解できない。いや、多分付き合いが長くても詩織の行動は理解出来ないだろう。
「学校でもそんな感じ?」
「え?どういうこと?」
この様子だと普段からこんななのか。
「いいや、とりあえず貰っておくね」
「じゃあ100円ね」
屈託のない笑顔だ。ただ名前を書いただけの流木にお金を取るなんて驚きだ。
「いや、いらないよ」
「しょうがないから、特別に無料であげるよ。記念日」
そう言いながら詩織は砂で汚れた足を払う、私は苦笑いをしながらガラス片を捨て流木を受け取る。とても軽い、流木って軽いんだ。
空がトキ色に染まる。もう親が夕飯を作っている時間だ。
詩織と肩を並べながら、車が通れないような狭い道を歩く。
「ねぇ、その流木。大切にしてよ」
「どうしようかな」
まだ詩織が帰るまで時間はある。
(どこに流木を飾ろう)
詩織が帰ってから流木を飾ろう。まだ記念日は続くから。
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水溜まりに飛び込むとそこは闇だった。
しばらく泳いでいると、闇から黒、黒から青みがかった黒へ、絵の具に水を垂らしたように一瞬、それなのに巧妙な変化を遂げた。
青みというより黒に近い水は、ゴウゴウと音を立てて恐ろしく高い波となり体を呑み込む。この波に呑まれれば間違いなく死んでしまうだろう。
少しくらいなら大丈夫かと思い、波に呑まれる前に自ら海底付近まで潜ると、とてつもなく長い大きな何者かと出くわしたが顔も見えない。
「やあやあ、お散歩かい?」
その声でようやく顔の位置が把握できたので、そちら側を向くがイマイチはっきりとした場所が特定できなかった。顔の特定はできなかったが、声の主はリュウグウノツカイだ。出会ったのは初めてだったが、神秘的なオーラを放っていたのですぐにわかった。
いかつい見た目のわりに気のつくやつで、目のやり場に困っていると顔をにゅっとオレのすぐ側まで近づけてくれた。
「ここだよ。お散歩かい?」
「まあね。どうせもうすぐ潜れなくなるから」
「なるほどなぁ。立派な尾ヒレなのにもったいないね」
「なぁに、あんたほどじゃない。あんたのなんか、尾なのかヒレなのかさっぱりわからないんだから」
オレはからからと笑った。
「そうかい?尾でもヒレでもあるからまあそれが正解なんじゃないのかな。触ってみるかい?」
「いいや、いいよ」
本当は触ってみたいな気持ちがあったが、どうにも神聖な生き物に見えてためらわれた。オレが触ったらそこから腐れて汚してしまうような気さえした。
リュウグウノツカイに別れを告げると、オレはさらに奥へと進んだ。
トンネルのようなところをくぐり抜けると、ぼやっとした光が見えた。ぼやっとしているわりに、どこまでも照らしてくれる不思議な輝きだった。深海に眠る繊細な砂一粒一粒まで照らされはっきりとこの目に見ることができる。吸い込まれそうなぼんやりとした光に近づくと、光の後ろにチョウチンアンコウが見えた。
「珍しいものが釣れたな」
「釣られてないやい」
「光を目指して来たのだろう?」
「目指して来たといえば来たけれど」
チョウチンアンコウはゆったりと頭のチョウチンを揺らした。ぼやっとした光も一緒に揺れるので少し酔いそうになるが、体の大きさ自体は親しみのある大きさだったので少し安心した。
「何かいい獲物は取れたかな?」
「別に獲物を捕まえに来たわけじゃないんだ。散歩みたいな感じかな」
「深海に散歩とは羨ましいね」
「そうでしょう」
オレは元気に尾を振って見せた。
「それにしてもその光はどうだろう。目がくらくらするよ」
「かっかっか。そのための光だからねぇ」
「何だ、そうなのか。散歩のとき迷子にならないためかと思った」
「それも一理あるな」
チョウチンアンコウはうんうんと頷いた。
チョウチンアンコウにヒレを振って挨拶をし、別れを告げた。
また闇に戻ってしまったのであてもなく進んで行くと、体にものすごい衝撃を受けた。何の衝撃かはわからないが、渦潮のようなものが巻き起こりオレは吹っ飛んでしまう。
「何だ、イカじゃないのか。道理で小さいと思った」
「あんたがでかすぎるんだよ。リュウグウノツカイはもっともっとでかかったけどな」
「聞き捨てならんことを!」
シーラカンスがきっと睨んで、いっぱいあったヒレを思い切りゆらゆらと揺らした。どうやらこれで渦潮のようなものを発生させたらしい。
「生きた化石をなめるでないぞ」
「生きてるってことは化石じゃないじゃん」
「まあ……そうじゃな」
少しがっかりしたようだったので、オレは自分なりに慰めてやることにした。そろそろ大人にならなくてはいけない時期だと思う。
「リュウグウノツカイも長くてかっこよかったけど、シーラカンスはシーラカンスで骨っぽいところがいいと思うよ。生きた化石って言われるだけあるよね。まあ、本当の化石ではないけれど」
シーラカンスの顔を見たが、眉を深く寄せ複雑な表情をしていた。誉めたつもりだったがあまり効果はなかったようだ。申し訳なく思って、さっさとその場を後にすることにした。
次にもし誰かと出会うのならば、チョウチンアンコウくらいの大きさの生き物が気持ち的に楽ではあるが、突然嫌な気配を感じて後ろを振り返る。
今日出会った中で一番嫌な形をしていた。地上にいるであろう蛇っぽい形。 リュウグウノツカイは大きすぎて何も思わなかったが、今目の前にいるやつは小ぶりなので逆に恐ろしくなって身震いした。
「おい、お前散歩か?」
「散歩だよ」
「食ってもいいか?」
「食ってもおいしくないよ」
フウセンウナギがいきなり体を膨らませた。丸く大きくなり、形はちょっとチョウチンアンコウに近くなった。
「大きくなっただろ?」
「そうだね、大きくなったね」
細長いよりは丸く大きくなった方が、心持ち恐怖感が遠のいた。少し気持ちが楽になった。
「大きくなると強そうだよ」
「マジか。もっと膨むことだってできるんだぜ」
フウセンウナギはもっと膨らんだ。膨らんでいるうちにオレはさっさと泳ぎ始めた。やつが膨らんでいるうちはいいが、たぶんそのうち縮んで細長くなる。そうなるとどうしても蛇の形に見えて嫌な気持ちになるだろう。
さっさとその場を離れるために、ヒレと尻尾を必死に動かした。
気がつくと水溜まりの外に出ていた。
リュウグウノツカイもチョウチンアンコウもシーラーカンスもフウセンウナギももういない。
水溜まりに映る自分の姿を見てため息をついた。がっかりしたわけではない。ついにヒレも尻尾もなくなり四肢のみとなったのだ。深海には行けないが、フウセンウナギに会うことはないのがせめてもの救いかもしれない。地上を自由に歩き回る権利を得た。
オレは全身ミドリになった。あとは、蛇に遭遇しないことを天に願うばかりだ。
(了)
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私は憤っている。
友達の■■と、■■■が約束の時間から1時間強経っても来ないからだ。
二人とも今時、学校の七不思議なんて信じて怖がっている。
バカバカしい。
私が確かめてやるからと三人で約束した……はずだった。
「あいつら...!」
ポツンと校門前に一人の私。
連絡を入れようと思ったが、スマホの充電は切れていた。
いつも帰宅後キッチリ充電していたのに、なんて間の悪い。
あいつらの不義理と自分のウッカリにイラつき、もういい!と校門を飛び越えて侵入する。
この学校の七不思議は、時間が決まっている。
幸い腕時計があったので時間の確認はできるが、チンタラしている暇はない。
私は一人で懐中電灯を手に、夜の校舎を周った。
1時半、定番のベートーヴェン。カギがかかっているので、外から窓をのぞいたが異常はなし。
噂を広めた人はもう少し、オリジナリティとかを大切にしてほしい。
2時、人体模型。
うん、以下同文だ。
2時半、笑う花壇。
……オリジナリティって、センスが同居しないと意味ないんだな。
異常なし。
3時、3時半、4時……異常なし。
ん?何か前も同じようなことあった気が……?
まあ、いいか。
さっさと終わらせて明日、二人に文句言ってやる。
いよいよラスト、4時半「鵺の扉」。
3階校舎奥の空き教室の扉を、時間ぴったりにノックする。
すると化け物の声が聞こえるというもの。
私は腕時計を見ながら歩……
「え?」
危なかった。
あと一瞬、腕時計から目を上げるのが遅れていたら。
廊下が途切れている。
懐中電灯で照らしても、底が見えないほど深い。
「ヒッ!?」
天井から何かがサラサラと落ち、放心していた私の背中に当たる。
砂?これが霊障!?
怖くなった私は必死に、自分の考えを否定し、空き教室へ走る。
「そんなわけない……!そんなわけ……」
次の瞬間、私の足元は崩れた。
――激痛で目を覚ます。
崩れた瓦礫、直観でもう助からないことを悟る。
あ、日の出だ……。
ああ……全部思い出した。
「本当は先生に怒られるのが怖くなって、約束破ったの私だっけ。
ごめんね、二人と……も……。」
遠くからトラツグミの声が聞こえた気がした。
「やっぱりデマだったんだ。」なんて下らないことを考えながら、私の意識は遠のいていった。
――
「オーイ!オーイ!」
「おい、もういいって。どう見ても死んでるだろう。」
「……あいつくらいの娘がいたんだよ。」
「みんな辛いんだよ!いくら子供だって……!」
「あれだけ廃墟は危険だから近づくなって言ったのに……。」
「いい加減にしろ!早く行くぞ!」
「……おう。」
二人の男は『学校だった瓦礫』を後に踵を返した。
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あなたに
愛されたくて
それこそ
1から10まで
イエスと言ってきた。
泥にまみれて
あなたを愛した。
あなたと一緒なら
その泥も
勲章だと思えた。
でも
あなたは
あっさり
私の前から姿を消した。
あなたは
泥だらけの私を
外側から見てただけで
1滴の泥もかかってなかったんだね。
『泥んこ勲章』より
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彼がもうすぐ
海外留学に…。
彼の夢は
応援してる。
それは
嘘じゃない。
でも…
ブルーもしくはブルー
そういうことだろ。
そこは
もう素直に。
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クラスに楓ちゃんという女の子がいる。
一学期の間は学校に来ていたが、夏休みがあげて二学期からはずっと休んでいる。
どうやら病気らしい。
詳しいことは知らないけれど……
夏休みのある晩、楓ちゃんのおばあちゃんが夜に山道を登っていくの私は見たことがある。
あれは夏祭りの夜だった。
だから私も祭りの帰りだったのだ。
こんな時間にどうしてだろう、疑問に思った私は後をつけた。
おばあちゃんはまっすぐに山の祠に向かって歩いて行く。
「乙姫様、乙姫様、私の命と楓の命を交換してください」
楓ちゃんのおばあちゃんがそう願っているのを聞いた。
……楓ちゃんの病気はそんなに悪いのだろうか?
結局夏休みが明けても、楓ちゃんはずっと学校に来ない。
もうそろそろ二学期が終わる頃、彼女は学校にやってきた。
真っ白な髪、シワだらけの肌、しわがれた声、まるで老婆のように背を丸め……
「楓さんは、病気の治療のために引っ越すことになりました。皆さん今日はお別れの挨拶に来てくれました。握手しましょう!」
先生がそう言った。
一人ずつ同級生たちが握手して、お別れの言葉を言ってゆく。
私の番がやってきた。
目の前にいるのは楓ちゃんだろうか、それとも……
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