コメディ・日常

新人と上司

1,473文字 約3分で読了
作者:河内謙吾
A「おはようございます! 今日からお世話になります、田中です!」 B「お、待ってたよ。私が教育係の木村な。よろしく。じゃあさっそく、うちの部署の仕事の流れから説明するな。うちは基本的に、クライアントから案件を受注して、それを形にして納品するのがメインやねん」 A「なるほど! もらって、作って、あげるんですね!」 B「……まあ、ざっくり言うたらそうやな。あげるっていうか『納品』な。で、まずは基本として、取引先の人に送る『ビジネスメール』の書き方から覚えてもらおうか」 A「ビジネスメール! やったことないです! あれですよね、最後に『バイバイ』って書くやつですよね!」 B「書くかぁ!!」 A「えっ! 書かないんですか!?」 B「書かへんよ。友達じゃないねんから。ビジネスメールの最後は『よろしくお願いいたします』で締めるのが鉄則やねん。バイバイって送ったら次の日から仕事なくなるわ」 A「よろしくお願いいたします、ですか。なんか、おねだりしてるみたいで恥ずかしくないですか?」 B「おねだりちゃうねん、挨拶や。あとメールの最初には、必ず『お世話になっております』って入れるんやで」 A「お世話になっております……? でも、僕今日入社したばっかりで、その人にお世話になったこと一回もないですよ? 嘘つくことになりませんか?」 B「嘘とかじゃないねん!!」 A「ええっ!?」 B「それがマナー、そういう決まり文句やねん。お世話になってなくても『なっております』って言うのが、社会のルールとしての優しさやねん」 A「社会の優しさ……。じゃあ、まだお世話してくれてないけど、これからよろしくねっていう、未来への投資の言葉なんですね」 B「……まあ、その解釈で納得できるならそれでええわ。で、メールができたら、次は名刺交換の練習もしような」 A「名刺! 自分の名前が書いてある、あのちっちゃいカードですね!」 B「そう。相手から名刺を出されたら、必ず両手で受け取って、『頂戴いたします』って言うんや」 A「両手で。こうですか?」 B「そうそう。で、受け取ったらすぐにポケットに仕舞うのはNG。机の上に綺麗に並べておくのがマナーやからな」 A「あ、机に並べるんですか。じゃあ、相手の名刺がどんどん増えていったら、机の上が名刺だらけになって、トランプの『スピード』みたいになりますね!」 B「遊ぶな仕事中に!!」 A「いや、並べるって言うから!」 B「並べるけど、ゲームはせえへんよ! 相手の名前を忘れないように、確認するために置いておくねん」 A「確認するため……。でも先輩、相手の顔の前に名刺をかざしながら喋ったら、名前を絶対に間違えなくて済むんじゃないですか?」 B「……それは失礼やろ。相手の顔が見えへんし、お前がずっと名刺で顔を隠しながら喋る変な奴になってまうやろ」 A「あ、僕の顔が隠れるんですか」 B「お前が隠してんねん。いいか、名刺は胸の高さで持って、相手の目を見て喋る。これが基本や」 A「胸の高さで、相手の目を見る……」 B「そう、その感じ……って、距離近っ!! なんで俺の5センチ前まで詰めてくんねん!」 A「相手の目をしっかり見ろって言うから! 近くないと黒目の色とか見えないですよ!」 B「黒目の色はどうでもええねん!!」 A「どうでもいいんですか!?」 B「視力を測ってるんちゃうねん。アイコンタクトや。まあ、初日やからな。これから少しずつ覚えていけばええよ。焦らずいこう」 A「はい! 先輩、僕、一生懸命がんばって、この会社の『王様』になります!」 B「社長な!!」 A「あ、社長か!」 B「ごっつい新人が来てもうたわ……」
2026/10/01 ・ 👁️ 62回 ・ 💬 0件

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