ミステリー・サスペンス
139文字 約1分で読了

なんなら帳簿の数字まで

俺らの稼業は借金の取り立てだ。一緒に組んでいる兄貴は「観音サマ」とか呼ばれてる。穏やかな笑みで物腰は柔らかく、暴言は使わない。だというのに、今日も店主がきっちり払ってきた。秘訣があるんですかと聞いたら、にんまりと笑われる。「なに、やつが餌付けしてる野良犬の名前を知ってただけさ」
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作者:有賀慧
2026/10/17 • 👁 19回 • 💬 0件
コメディ・日常
820文字 約2分で読了

タロウとの生活

朝、目を覚まして大きく体を伸ばすと、隣にはタロウが寝ていた。いつの間にかベッドに潜り込んだらしい。いつものことだ。 まだ気持ちよさそうに眠っているので、起こさないように、そっとベッドから降りた。 窓から外の様子をうかがうと、今日はいい天気になりそうだ。ここ数日は雨が続き、しばらく散歩に行けていない。今日はぜひ連れて行ってやろう。 しばらくするとタロウも目を覚まし、リビングへやってきた。 日差しが強くなる前に済ませたいと思い、さっそくリードを用意してタロウに見せると、すぐに、こちらの意図を察したようだ。手早く準備を整え、玄関から外へ出た。 散歩から戻り、リビングのソファで体を休める。 少し疲れた。自分自身の老いを実感せざるを得ない。昔はこの程度の距離で息が上がったり、こんなに疲れたりすることはなかったはずだ。 一方で、タロウはまだまだ元気いっぱいだ。どうやらボール遊びがしたいらしく、自らゴムボールを持ってきた。 仕方がない、一緒に遊んでやろう。部屋の端までボールを転がしては、それを拾ってくる。それだけの単純な繰り返しだが、タロウは本当に楽しそうだ。 ボール遊びを飽きるまで繰り返した後、タロウは別のオモチャでひとり遊びを始めた。 触ると光ったり、賑やかな音が鳴ったりする仕掛けのオモチャだ。タロウの一番のお気に入りで、これに夢中になると、1時間でも2時間でも没頭することがある。 ひとり遊びに集中し始めたのを見届け、再びソファに戻り静かに身体を休めることにした。ゆったりと寛いでいるうちに、いつの間にか眠ってしまったようだ。 目を覚ますと、近くにタロウの姿はなかった。家の中を探し回ったが、どこにも見当たらない。胸の奥に小さな不安が広がった。 だが間もなく、玄関のほうから聞き慣れた足音が聞こえてきた。急いで玄関へと向かう。 鍵が回る音の直後、タロウが扉を開けて家に入り、靴を脱いだ。 私はそれに駆け寄り、尻尾を振って出迎えると、タロウに勢いよく飛びついた。
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作者:さくら
2026/10/17 • 👁 88回 • 💬 2件
ホラー・怪談
4135文字 約9分で読了

残香

 ──冬が大嫌いだ。  俺がそう思うようになったのは、まだ恋だの愛だのと、そんな感情に溺れてしまうほどに未熟だった大学一年生の頃だった。  地元から遠く離れた土地で大学へと進学した俺は、慣れない一人暮らしに多少の戸惑いを感じながらも、気の合う友人にも恵まれて充実した毎日を過ごしていた。    そんな俺の生活が一変したのは、|冬華《とうか》と付き合い出したことがきっかけだった。  冬華の凛とした美しい容貌はキャンパス内ではとても有名で、平凡な自分など近付くのも畏れ多く思っていた俺は、いつも遠巻きにその姿を眺めていた。  そんな俺が初めて冬華と会話を交わしたのは、大学の敷地内にいた野良猫に菓子パンを食べさせていた時だった。 「人の食べ物はあげちゃダメだよ」  不意に投げかけられた言葉に後ろを振り返ってみると、そこに立っていたのは冬華だった。  透き通るほどに白くきめ細やかな肌に、薄く色付く薔薇色の頬。アーモンド形のパッチリとした瞳は、まるで精巧に作られたガラス細工のように美しく、痛みのないサラサラなセミロングはその整った顔立ちをより一層際立たせていた。  間近で目にした冬華の姿を前に、そのあまりの美しさに思わず言葉を失ってしまった俺は、ただ呆然と冬華を見つめることしかできなかった。   「猫にとってはね、人の食べ物は毒なんだって」  そう告げながらこちらに近付いて来た冬華は、フワリと甘い香りを乗せて俺のすぐ隣りに腰を下ろした。 「猫ちゃん。ご飯持って来たよ、こっち食べようね」  そう言ってカサリと袋を破いた冬華は、持参してきたらしい小皿にキャットフードを盛り付ける。 「あっ。コラ、そっちは毒だから食べちゃダメだってば」    未だ猫に向けて差し出したままだった菓子パンを遮ると、冬華は盛り付けたばかりの小皿をそっと猫の前に差し出す。 「……あ、ごめん。毒だって知らなくて」  慌てて手元の菓子パンを引っ込めながら謝罪をすると、そんな俺に向けてニッコリと微笑んだ冬華。   「どうしてもそっちに惹かれちゃうみたいだね」  取り上げられた菓子パンに向けてニャーニャーと声を上げる猫を見て、俺は困ったように微笑むと猫の頭を撫でた。 「ごめんな。これはお前には毒なんだってさ」 「そっちの方が味が濃くて美味しいもんね。でもダメだよ、身体に毒だからね」  そう言いながら猫の身体を撫でた冬華は、俺の予想に反してとてもよく笑う人だった。  一見すると美人すぎて近寄り難く感じるものの、どうやらそれは間違った認識だったらしい。  こうして偶然にも猫を介して交流を持つこととなった俺達。初めこそ猫を介してのみだった交流も、気付けばキャンパス内でも一緒にいることが多くなり、冬華との仲は急速に深まっていった。  けれど、それはなにも俺だけが特別だったというわけではなく、元々友人の多かった冬華からしてみれば、俺もその内の一人にしかすぎなかった。 (冬華にとって、もっと特別な存在になれたら──)  図々しくも、彼女に対してそんな想いを抱くようになった頃。彼女の方から俺に告白してきた時には心底驚いた。  どうして冬華のような人が平凡な俺を好きになったのだろうか──? そんな疑問が尽きることはなかったものの、確かに冬華は俺を選んでくれた。そんな優越感があったことも嘘ではなかった。 「どうかした?」  フワリと甘い香りを乗せて顔を覗き込んできた冬華は、キラキラと輝くガラス細工のような瞳を|瞬《しばた》かせた。 「あ……いや、いい匂いだなって思って」 「この香水?」 「うん。いつも付けてるよね、その香水」 「気付いてたんだ? これね、特注品なの。私の誕生花の香りなんだよ。なんの花か分かる?」  そう言って少しだけ瞳を細めた冬華は、俺に向けて悪戯っぽい笑顔を浮かべる。 「誕生花って、一月十三日の花?」 「うん」 「ごめん、俺そういうのに疎くて……分からないや」 「ふふっ。だよね……これはね、スイセンの花の香り。いい匂いでしょ?」 「うん。冬華に似合ってる」 「ありがとう。でもね、スイセンて毒があるんだって。知ってた?」 「え、毒……?」 「大丈夫、口にしなければ害はないよ」  そう告げながら微笑んだ冬華はとても妖艶で、俺からしてみればそんな彼女自身が“毒の花”のように思えた。  こんなにも美しい冬華が自分の彼女だなんて、本当にこれは現実なのだろうか──? そんな夢うつつな日々を過ごしながら、俺は日を追うごとに益々冬華に心酔していった。    そんな俺が嫉妬に狂ってゆくのは、至極当然のことだったのかもしれない。  元より自分自身のことがあまり好きではなかった俺は、自分とは対照的に自信に満ちた冬華に憧れのような感情を抱いていた。それがより身近な存在になったことで、最初こそ幸福感を感じていたものの、冬華と過ごしてゆく内に自分を卑下する気持ちが如実に現れていったのだ。  どうしてこんな俺と? 冬華と俺とでは、やはり不釣り合いなのではないだろうか? そんな|鬱屈《うっくつ》した感情を友人に相談してみても、皆羨ましがるだけで何の解決策にもならない。  相変わらず人気の冬華はキャンパス内での友人も多く、俺という彼氏がいるにも関わらず男の噂も絶えなかった。   「経済学部の男と一緒いるとこ見たって聞いたけど、どういうことだよ!」 「……え? ちょっと話してただけだよ」 「浮気でもしてるんじゃないのか!?」 「っ、……どうしてそんなこと言うの?」 「みんな噂してるんだよ! 俺が知らないとでも思ってるのかよ!」 「そんな噂より、私のことを信じてくれないの?」  そんな口喧嘩が絶えなくなったのは、季節もすっかりと冬へと変わった十二月の頃だった。  冬華への愛情はもちろん変わりなかったものの、その強すぎる愛情が憎しみという感情を生んでしまったのだ。  今にして思えば、それはただの嫉妬にすぎなかったのかもしれない。  自分を卑下する気持ちが強かった俺は、時折りコソコソと学生達が話している姿を見かけては、冬華に|弄《もてあそ》ばれている俺の噂話でもしているのだと、そんな被害妄想を抱くようになっていった。  誰からも好かれる輝く星の元に生まれた冬華。対して、特に秀でた才もない目立たない存在の俺。そんな俺達が付き合えたこと自体、奇跡のようなものだったのだ。  けれど、冬華とさえ出会わなければ、俺がこんなにも自分自身を卑下することもなかっただろうし、惨めな思いをすることもなかった。いつしかそんな感情が芽生えてきてしまった俺は、冬華を愛する気持ちとは裏腹に、ドス黒く濁った感情に飲み込まれていった。  愛してる──だけど、殺したいほどに憎い。  そんな感情を持ったのは生まれて初めてのことだった。きっと、それほどに冬華のことを愛してしまっていたのだ。  ──そんな冬華が行方不明になったのは、冬休みが明けた一月の中旬のことだった。  警察による捜索も虚しく、それから半年が過ぎても冬華を見つけることはできなかった。いつしかそんな冬華の存在は忘れ去られ、行方不明になってから一年近くが経つ頃には、その噂話もたまにチラリと耳にするほどとなった。  恋や遊びなどといった新たな刺激に夢中な学生とは、俺が思う以上に他人になど感心がないのだ。存外そんなものなのかもしれない。  そんな中、俺は深い悲しみと罪悪感を抱きながらも、その心中はやけに穏やかな充実感で満たされていた。  不思議なもので、あれほど嫉妬に塗れていた憎悪が消えたのだ。これで誰にも冬華を奪われることはない。そう考えると、後に残ったのは冬華への深い愛情だけだった。  そんな俺の前に突然冬華が姿を現したのは、降り積もった雪が歩道を一面の雪景色へと変えた、一月十三日のことだった。  フワリと香る、あの懐かしいスイセンの香り。その甘い香りに軽く目眩をおこしながら、目の前にいる冬華に向けて小さな声を漏らす。 「どう……っ、して……?」  我が目を疑いながらもゆっくりと冬華へと近付くと、その美しく整った顔にそっと触れてみる。  ひんやりとした頬はまるで死体のような冷たさで、けれど、薄く色付く頬が確かに冬華の存在を示していた。 「冬、華……?」  心許無く発した俺の声に反応するかのようにして、目の前にいる冬華はアーモンド型の美しい瞳を薄く細めた。あの頃と何一つ変わらない、恐ろしくも妖艶な笑顔の冬華。  その姿を前に、忘れていた憎悪にも似た感情が沸々と蘇ってくる。 (冬華は永遠に俺だけのものだ──)  細っそりとした白いうなじに手をかけると、力任せに彼女の首を締め上げる。 「……っ、なん、で……?」  一年前と全く同じ台詞を口にした冬華は、締め上げる俺の両手を力なくその手で抑えると、一年前とは違って無表情な顔のまま俺を見上げる。そんな冬華が酷く恐ろしくて、締め上げている両手に更に力を込める。  一面に広がる積雪に赤いマフラーを散らしながら倒れる冬華。その姿は、死してなおとても美しかった。 「冬華……お前は永遠に俺のものだ」  そんな彼女を見下ろしながら、安堵感から薄っすらと笑みを溢す。  それからの俺の行動はやけに迅速だった。二度目ともなれば、それも納得ができるというもの。  一年前に埋めたはずのその場所には、確かに“彼女を埋めた”痕跡が残っている。けれど、それを掘り起こす勇気などなかった俺は、新たに掘った穴に冬華の身体を埋めることにした。  きっと、彼女の遺体は今回も見つかることはないだろう──。  そう思いながら冬華の身体を埋めたのは、昨年の一月でちょうど十回目。  愛する冬華を自分のものだけにする為とはいえ、永遠とも思えるこの瞬間が酷く恐ろしい。生々しく残る両手の感覚が薄れる頃、冬華は俺の目の前に現れてその感覚を新たに刻んでゆく。  俺はそんな冬が大嫌いで──それ以上に愛しくもあった。  一面の雪景色の中、人などいない歩道の上をサクサクと音を立てながらゆっくりと歩いてゆく。その真新しい足跡を辿るようにして、フワリと鼻腔を|掠《かす》めるスイセンの香り。  その甘い香りにつられるようにして背後を振り返ってみると、そこにいたのはあの頃と何一つ変わらない冬華の姿だった。   「──やあ、冬華。今年も会いに来てくれたんだね。君は永遠に俺のものだよ」  そんな愛の言葉を囁きながら、今年も俺は君のうなじに手をかける。 ─完─
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作者:天音ろっく
2026/10/17 • 👁 26回 • 💬 0件
コメディ・日常
1782文字 約4分で読了

湯気の向こうの、桜島

火ノ浦市の夕暮れは、火山灰の匂いがする。 大阪で音響技師をしている森川由衣は、録音機を提げて商店街を歩いていた。さつま揚げが油の中ではじける音。竹ぼうきが舗道に積もった火山灰を掃く音。湾の向こうから届く、フェリーの低く柔らかな汽笛。 大阪の仕事場では「ノイズ」と呼んで消してきた音たちが、ここでは妙にあたたかい。由衣はヘッドフォンを片耳だけ外し、しばらく町の音に耳を澄ませた。 路地の奥に、煤けた藍色の暖簾が見えた。「波音湯」と記された木札が、夕暮れの光を受けている。 引き戸を開けると、番台の老人が顔を上げた。 「観光かい」 「音を録って歩いています。少しだけ、いいですか」 巌と名乗った老人は、由衣の首に掛かったマイクを眺め、それから脱衣所の隅を指した。 蛇口から湯が落ちる。黄色い湯桶がタイルに当たって、コーン、と乾いた音を響かせた。湯気の向こうでは、湯船の水面がゆっくり揺れている。 そこへ、ランドセルを背負った小学生の島袋澪が駆け込んできた。 「巌さん、こんにちは!」 澪はランドセルを置くと、慣れた様子で湯船に滑り込んだ。ぱしゃん、と湯が跳ね、笑い声が白い湯気に溶けていく。 由衣は録音レベルを確かめながら尋ねた。 「毎日、この音を聞いているんですか?」 「五十年ね。明日も聞くつもりだったが」 巌は壁の時計を見上げた。 「今月で閉めることになってな」 湯船から澪の顔が出た。 「えっ。じゃあ、ラムネはどこで飲めばいいの?」 巌は答えず、困ったように笑った。 澪は水面を見つめた。いつもなら、学校であったことを話しながら、湯上がりにラムネを飲む。瓶の中でビー玉が鳴る音まで、澪には波音湯の一部だった。 由衣は録音機を止めた。 閉店を告げる老人の声も、子どもの寂しそうな顔も、機材の数値には表れない。音を正確に記録することなら、いくらでもできる。けれど、その音が誰かにとって何を意味するのか、考えたことはあっただろうか。 少し迷ってから、由衣は口を開いた。 「最後の日、みんなの音を録らせてもらえませんか。桶の音も、笑い声も。ここで過ごした時間を、残しておきたいんです」 巌は驚いたように瞬きをした。しばらく湯気の向こうを眺めてから、小さく頷いた。 「……好きにしなさい」 最終営業日。波音湯には、いつもより大勢の人が集まっていた。 背中を流し合う水音。誰かが口ずさむ調子外れの鼻歌。湯桶を置く音に、常連客たちの笑い声が重なる。澪は湯上がりにラムネの瓶を傾けた。飲み干した瓶の中で、ビー玉がからからと鳴った。 「この音も、録れた?」 澪が尋ねた。 「うん。ちゃんと録れたよ」 由衣は微笑んだ。 以前の自分なら、重なり合う声や不規則な物音を整理し、必要な音だけを残していただろう。けれど今夜は違った。誰かの咳も、桶のぶつかる音も、笑い声の途切れる瞬間も、どれも消さずに記録した。 音が整っていないからこそ、そこに人がいることがわかる。 帰り際、巌が由衣を呼び止めた。差し出されたのは、小さな瓶だった。中には、色の褪せた木札が入っている。 「これは?」 「昔から、ここの番台に掛けてあったもんだ。店はなくなるが、残せるものもある」 巌は瓶を由衣の手に預けた。 「音は持って帰れる。これも、君が持っていなさい」 由衣は瓶を両手で包んだ。木札の角は丸くすり減り、長い年月のあいだに触れられてきたことを物語っていた。 翌朝、由衣は港を見下ろす高台に立っていた。 朝日に照らされた桜島が、稜線の向こうに静かにそびえている。白い噴煙が空へほどけ、錦江湾には漁船がゆっくりと進んでいた。潮風が頬を撫でる。 由衣はヘッドフォンを耳に当て、再生ボタンを押した。 湯桶の乾いた音。誰かの鼻歌。澪の笑い声。そして、ラムネの瓶の中で転がるビー玉。 昨夜のざわめきが、耳の奥によみがえる。 由衣は音量を調整しようとして、指を止めた。 どの音も、どれか一つだけでは意味を持たない。重なり、途切れ、ときには聞き取りにくくなりながら、それでも確かにそこにあった。消してしまえば、もう戻らない時間だった。 彼女は録音機を胸元に下ろした。 桜島の向こうから、朝の光が広がっていく。 山頂から立ちのぼる白い噴煙は、波音湯の浴室を満たしていた湯気のように、朝の空へゆっくりとほどけていった。 ヘッドフォンの中では、澪の笑い声がまだ続いていた。 由衣は再生ボタンを押したまま、しばらくそこに立っていた。
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作者:TakaTuki
2026/10/17 • 👁 43回 • 💬 0件
ミステリー・サスペンス
369文字 約1分で読了

汚れ仕事

 俺は仕事後は必ず手を洗う。  油汚れを落とすように念入りに、だ。  汚れが気になる業種だし、なにより汚れたままお客様に会うと嫌な顔をされるからだ。  こないだもウッカリ手洗いを忘れて宅配ピザを受け取ったら、ピザ屋の兄ちゃんの第一声が「あっ、ゴメンナサイゴメンナサイ……」だって。そんな10分15分遅れたからってタダにしろ!なんて怒鳴る客じゃないっつーの。  しかし今日の汚れはなかなかガンコだ。こりゃ石鹸だけじゃ落ちねーかも、ブラシ……あれ?どこ置いたっけな。  あ、思い出した。外仕事でたくさんの客相手したときに靴まで汚れが跳ねたから、玄関に置いたままだったわ。  でもそろそろ俺もいい年だし、体力的にもきつくなってきた。カミさん子供を安心して食わせていくなら、別の仕事も考えないとな。  毎度殺しのあとに手を洗うのも億劫だ。そろそろこの仕事から足を洗うとするか。
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作者:一枝春
2026/10/16 • 👁 46回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
463文字 約1分で読了

ぶっとび☆ろじかる

友達の中にスゲェぶっ飛んだ奴がいる。 発想や言動もそうなんだけど、もうね、一目で分かるぶっ飛び方。 「何だよ、その奇抜なファッション!」 「実は俺、透明人間になったんだ。」 そんなド派手な格好をしているくせに、何を言ってるんだ? 俺は微塵も理解できなかったが、そいつはこう続けた。 「今から貴金属店で盗みを働いて、それを証明してやろう。」 AIカメラが不審者を見つけて、警備ロボにすぐさま拘束命令を送るこの時代に、盗み? そんなバカげた事があってたまるかよ。 しかし、そいつは堂々と入店し、すぐに戻ってきたかと思うと、ポケットから宝石たちを取り出した。 「ほら、簡単だった。何てったって俺は透明人間だからな。」 何でだ…? 何で警備ロボはこいつを捕まえなかった? 何でAIカメラはこいつを犯罪者だと判断しなかった? 俺には分からなかった。 人目にはこんなに目立つ、ド派手な奴なのに。 もはや、同じ人間とは思えない。 AIにとってもそうだったのかもしれない。 浮かれて道路に飛び出したそいつは、いつも以上にぶっ飛んだ。 AI自動運転の車に、ノーブレーキではねられて。
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作者:ごみがき
2026/10/16 • 👁 68回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
440文字 約1分で読了

星降る夜には

こんな寒い夜には星を眺めよう 冬は好きだ 空気が澄んでいるから 冬は好きだ 星空をよく見渡せるから 広い夜空を見上げると 遠い星に住む 遠い遠い君の事を思い出す 綺麗な星空を見上げると そんな君との距離が 少しだけ近くなる様な気がする 冷たい風を吸い込めば きっと君への素直な気持ちを伝えられる だから冬は好きだ 今日みたいな こんな冬の夜には 決まって 君に信号を送るんだ 今日みたいな こんな星の夜ならば きっと君まで届く様な気がするから 星の海を遠くまで遠くまで 君がこの星を去ってから この星はだいぶ穢れてしまったけれど それでもまだ こんな綺麗な星空が残っている こんな寒い夜ならば こんな寒い夜だから この満天の星空を君にも見せたい 今頃 君はどうしてるだろうか 今頃 君もこうして星空を眺めているだろうか 君の住む星からは この星は見えるのかな 星が瞬く度に 君への想いは溢れ出す 今すぐ逢いに行きたいけれど それはあまりに遠くて無理だから だからこうして 想いを星に乗せて 遠い遠い君まで 気持ちを届けよう 今宵は星が遠くまでよく見える 本日は星天なり
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作者:lue
2026/10/16 • 👁 48回 • 💬 0件
コメディ・日常
1856文字 約4分で読了

さよならの洗濯日和

 雲一つない、突き抜けるような青空が広がっている。三月特有の少し尖った風が、ベランダに干したタオルの端をパタパタと躍らせていた。まさに、絶好の洗濯日和だ。  今日、私は彼が残していったスニーカーを洗うことに決めた。こんな日に、いつまでも玄関の隅で埃を被っている「未練」を放置しておくのは、空に対して失礼な気がしたからだ。  そのスニーカーは、元々は白かったはずだが、今はどこか薄汚れ、持ち主が歩んできた距離を物語るようなくたびれた表情をしていた。彼はこれを履いて、よく私を散歩に連れ出した。坂道の上にある公園、海が見える防波堤、駅前の賑やかな商店街。それらの記憶が泥汚れと一緒に染み付いている。  洗面所にバケツを用意し、ぬるま湯を張る。粉末洗剤を振り入れると、懐かしい石鹸の香りが立ち上った。キャンバス地の靴を水の中に沈めると、じゅわっ、という音がした。お湯の中で、固まっていた汚れがゆっくりと解けていく。私はブラシを手に取り、まずは右足の踵から擦り始めた。  彼はよく笑う人だった。でも、その笑顔の裏側に、私には決して踏み込ませない聖域を持っている人でもあった。  一年前、彼がこの部屋を出て行った時、持っていかなかったものは意外と多い。このスニーカーもそうだし、読みかけの文庫本、お揃いで買ったマグカップ、そして「また連絡する」という、守られることのなかった約束。  力を込めて擦ると、ブラシの毛先がシャカシャカと小気味よい音を立てる。泡が次第に灰色に染まっていく。それが、彼と過ごした時間の澱(よど)みのように見えて、私はもっと激しく手を動かした。  忘れたいわけではない。ただ、立ち止まったままの自分にそろそろ飽きてしまったのだ。  彼がいなくなってからの私は、まるで季節が止まった部屋に閉じ込められているようだった。外で桜が咲き、セミが鳴き、紅葉(もみじ)が舞っても、私の心にはいつも、あの別れの日と同じ、どんよりとした曇天が広がっていた。  泡を一度洗い流し、新しいお湯に入れ替える。今度は酸素系の漂白剤を足した。真っ白な泡がシュワシュワと弾ける。  二足のスニーカーがバケツの中で重なり合っている。かつて、横に並んで歩いていた、私たちの足元のように。  ふと、視界が滲んだ。慌てて手の甲で目を擦る。洗剤の混じった水が目に入りそうになり、慌てて顔を上げた。窓から差し込む陽光が水面に反射してキラキラと揺れている。その眩しさに目を細めた時、脳裏に蘇ったのは、彼との喧嘩のことでも、別れの言葉でもなかった。  それは、今日のようなよく晴れた日、二人でアイスクリームを食べていた時の、なんてことのない光景だ。 「晴れた日はさ、それだけで得した気分になるよね」  彼はそう言って、溶けかけたバニラを口に運んだ。 「もし僕がいなくなっても、晴れた日にはちゃんと外に出るんだよ? 光を浴びないと、人間は枯れちゃうから」  あの時、私は「縁起でもない」と笑い飛ばしたけれど、彼は知っていたのかもしれない。私が一度落ち込むと、どこまでも深く潜ってしまい、なかなか浮き上がってこれない性格だということを。  最後の一揉みを終え、私は大量の水で泡を流した。何度も、何度も。水が透明になり、スニーカーが本来の白さを取り戻すまで。  ベランダへ出ると、風は先ほどよりも少し暖かさを増していた。物干し竿に専用のハンガーを使ってスニーカーを吊るすと、日光を浴びた靴は濡れているせいで光を反射し、新品のように輝いて見えた。  一仕事を終え、私は手すりに寄りかかって大きく息を吐いた。  見上げる空はどこまでも高い。この空の下のどこかに、彼はいる。新しい靴を履いて、私とは違う道を、あの頃と同じような足取りで歩いているのだろう。  それでいいと思った。私だって、今日から新しい靴を履ける。あるいは、この真っ白に洗い上げた思い出を履いて、もう一度自分の足で歩き出すことだってできる。  乾いたタオルで手を拭き、部屋に戻ってコーヒーを入れることにした。お湯が沸くコポコポという音が、なぜかたまらなく愛おしい。こうして日常の小さな音が、一つずつ色を取り戻していく。  スニーカーが乾く頃には、私はもう、玄関の鏡の前で泣きそうな顔をすることはないだろう。  空は青く、風は優しい。世界はこんなにも、光に満ちている。  私は一口、温かいコーヒーを啜った。喉を通る熱が、冷え切っていた心の奥をじんわりと温めていく。  さて、明日は何をしようか。真っさらな手帳のページをめくる。  ――晴れた日に。  私は私を取り戻すための、最初の一歩を踏み出した。 (了)
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2026/10/16 • 👁 88回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1599文字 約4分で読了

未来からきた男

未来人が現れた。 タイムマシンに乗ってやってきたという。 ニュースは世界中で報じられた。最初は誰も信じなかったが、彼が持ち込んだ“何か”を見た瞬間、空気が変わった。それは、我々の科学では到底作れそうにない代物だった。 彼は落ち着いて説明した。言葉は滑らかで、態度は穏やかだった。質問が飛ぶたび、笑みを浮かべ、淡々と答える。 次々と機能が明かされた。まるで現代に蘇った魔法のようだ。 科学者たちは熱心に食い下がった。仕組みを知りたがった。 彼は一瞬だけ言葉を詰まらせたが、 少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。 「ええと……あなたたちに理解できるように説明するのは難しいのですが……そうですね、なんと言ったらよいか。まず、これは――」 そこから先は、誰にも理解できなかった。聞いたことのない用語の羅列。彼は懸命に何かを伝えようと努力しているようだったが、それは空回りするばかりだった。 彼の穏やかな笑顔は消え、なんとも言えない複雑な表情をしていた。 しかし、彼への称賛は続いた。我々の理解を遥かに超えるテクノロジーに人々は熱狂した。 --- 私は家のテレビでその映像を見ていた。世界でいちばん注目されている人間。 あんなふうに、誰かに囲まれたい。質問され、賞賛され、拍手を受けたい。 しかし私は何の取り柄もない平凡な人間だ。彼のようにはなれない…… いや、違う――その時、素晴らしいアイデアが閃いた。 タイムマシンで過去に行けば、私も未来人になれるのではないか。見慣れたスマホも、昔の人が見たら魔法の道具に映るだろう。 私は、タイムマシンを盗み出すことを決意した。 --- タイムマシンが保管されている施設には簡単に忍び込むことが出来た。 まるで盗んでくれと言わんばかりの警備の緩さに驚いた。 こんな重要なものが、こんなに簡単に盗めるものなのか――そう思った。 周りを警戒しながら、タイムマシンに近づく。そっと操作盤に触れると、光が点いた。思わず息をのむ。 パネルには数字の列が並んでいた。 私は指先で年代を入力した。 「……行けるのか?」 一瞬の静寂。そして、光が視界を満たした。 --- 世界が裏返るような感覚のあと、光が静まった。 空気が違うのを感じた。街並みも、人々の服装も、現代のものではない。私は未来人として、そこに立っていた。 ポケットからスマホを取り出す。周囲の視線が集まった。 「これは……?」 「光ったぞ!」 「まるで魔法だ!」 歓声が上がる。想像していた通りの展開だった。私は思わず笑顔になる。 「ええ、これは未来の道具です。誰にでも簡単に使える、とても便利なものです。」 拍手。驚き。熱狂。これぞ、私の求めていたものだ。 --- だが、次第に質問の内容が変わっていった。 「どうやって作るのですか?」 「この中には何が入っているのです?」 私は答えに詰まった。そこまでの知識はない。体裁を取り繕うように、必死に言葉をひねり出す。自分でも何を話しているのか分からなくなってきた。 「ええと……、あなたたちには理解できないかもしれませんが、半導体デバイスを用いて――、デジタル信号が――、つまり……」 自分の笑顔が強張っていくのが分かった。 焦り、緊張、恥じらい…… その時、私は理解した気がした。あの時の未来人がしていた複雑な表情の本当の意味を。 --- この時代に来てしばらくたつが、今でも熱狂は冷めていない。 人々は私を保護し、住まいと最低限の生活を提供してくれた。現代の生活と比べれば多少の不便はあるにせよ、生活自体は安定している。 なにより、この時代で特別な存在になれたことに、私はとても満足している。 私が現代に戻ることは、もうないだろう。 --- 私には必要のなくなったタイムマシンを眺めながら考える。 この時代でも、誰かがタイムマシンを盗みに来るだろうか。かつての私が、そうしたように。 しかし、あえて警備は厳重にはしない。あの未来人が、かつての私にそうしてくれたように。
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作者:さくら
2026/10/16 • 👁 32回 • 💬 0件
恋愛
773文字 約2分で読了

片想いの教科書

 少しだけ端がボロボロになった教科書。ページの隅には棒人間が全ページに書かれている。何の気なしにめくってみると、棒人間が走り幅跳びをしているパラパラ漫画だった。  子供だなあと思いながら、この教科書の持ち主をまぶたの裏に浮かべる。  私、先輩と同い年になったよ。  出会いは記憶に残っていないほど昔。お母さんに聞いたら、あんたが0歳あの頃からよと教えてくれた、近所のお兄ちゃん。  記憶に残っている、一番古い先輩との思い出は、犬に追いかけられた私を守って戦う横顔。多分この頃から、先輩は私の特別だった。 「どうした陽毬」 「学校の男の子が、いじめるのっ……うわあああんっっ!!」 「分かった、俺が守ってやるからな」  いつも私を守ってくれる、優しい背中に恋をした。  先輩が中学二年の夏、しばらく私と話してくれなくなったことがあった。  何か悪いことしたのかな、嫌いになったのかな、離れたいのかな。  不安に思った私は、ある夜先輩の家に押しかけ、先輩を呼んでもらった。  しばらくの沈黙の後、先輩は顔を真っ赤にしながら、「ごめんな」と口にした。  その声は、少し高めの、私が知ってる先輩の声じゃなかった。大人の男の人のような、低くて、でも安心する声。私は安心感に泣きながら、先輩に文句を投げつけた。  先輩はまた、低くて安心する声で「ごめんな」と言ってくれた。  先輩は数日後、事故で呆気なく、私の側からいなくなってしまった。  それからのことはあまり覚えていない。気がつけば先輩は、小さな、小さな壺の中に収まってしまった。  時は流れ、中学に入学する日。  お母さんから、中学一年の教科書を渡された。やけに使い込まれたような、言って仕舞えばボロボロの教科書。  名前を書くために裏を見た時、私は涙が溢れて止まらなくなった。  先輩の名前が、そこにあった。  私の片思いは、今も続いている。  先輩の教科書と一緒に、あと少しだけ。
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作者:月乃下 想
2026/10/16 • 👁 19回 • 💬 0件