コメディ・日常
799文字 約2分で読了

父の子守歌

ねんねんころりねんころり 歌う月夜の物語 月のうさぎは 歌います 良い子はお眠り夢の中 ねんねんころりんねんころり お月様は優しくて 金の毛布をかけてくれるよ おやすみおやすみ はるちゃんは暖かなお布団の中 おやすみおやすみねんころり ねんねんころりねんころり  目を閉じれば優しい子守歌が聞こえてくる。 少し高めの男性の声で。 お父さんの子守歌だ。  記憶の中の父は、いつも気難しい顔をしていた。 しわがれた声で、私が歌うと不機嫌そうな顔をする。 記憶に残る父は歌ったりしない。 私は仏壇にそっとお線香を供えた。  もう父が亡くなってから十年。 色々と思うことはある。 かなり気難しい性格だった父に甘やかしてもらった記憶はない。 だがそんな父とは違う姿が私の記憶の奥底にあるのだ。 若い姿で高い声で歌う父の姿。 その2つは、どうしても重ならなかった。 父はいつからあんなに気難しい性格になったのだろう。  父の書斎を掃除していてある時 一つのカセットテープを見つけた。 母から父が若い頃 歌手を目指していたという話を聞いたことがある。 当然だがその頃はまだ青年と言っていいぐらいの歳で、結婚してからしばらくの間も仕事の合間にあちらこちらで歌う活動をしていたらしい。 私の知らない父の姿。 アルバムの写真の明るい表情の青年はどう考えても記憶に残る父と一致しない。 私が3歳の時に父は甲状腺がんで喉の手術をしたらしい。 それっきり父の夢は断たれてしまった。 歌うのが好きだったらしい父の話を聞きながら、歌の嫌いな父の姿を思い出す。 父にとって歌うということは、辛くて重々しい記憶になってしまったのだ。 そしてそれは幼い娘の私が歌うだけでも嫌だったのだろう。  カセットテープをセットする。 スイッチを押すと父の歌声が聞こえた。 おやすみおやすみ はるちゃんは暖かなお布団の中 おやすみおやすみねんころり ねんねんころりねんころり 私のために作ってくれた子守歌。 それは世界でただひとつの幸福な思い出。
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作者:しとえ
2026/09/27 • 👁 74回 • 💬 0件
ポエム・詩
139文字 約1分で読了

背中合わせの撫子色

小物で取り入れたり 差し色で取り入れてみたり… 裏切らない可愛さだったはず。 なのに どうしたって その色が似合わなくて。 とても素敵な色なのにね。 撫子色。 私は モノクロの世界でしか 生きれないのかな。 じゃあ モノトーンコーデでいこうか いっそのこと ゴスロリを極めてみようか。 『撫子色の裏切り』より
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作者:柊ことは
2026/09/27 • 👁 42回 • 💬 0件
ポエム・詩
140文字 約1分で読了

ふたりで美術館

美術館デートのお土産で 買ってきた 絵画のポストカード。 どちらが正解? 「こっち?」 『いやいや、こっちでしょ』 なんて 上にしたり下にしたり。 ふたりで大笑い。 スマホで正解を探すと 逆さまだった。 しかし、よく出来ている。 なんて ふたりで眺めながら 「芸術センスないね」 『あなたもね』って また笑った。
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作者:柊ことは
2026/09/27 • 👁 71回 • 💬 0件
コメディ・日常
261文字 約1分で読了

ふわふわ

一日の終わり しゃかしゃかしゃか 僕は机に肘をつき しゃかしゃかしゃか 君との履歴を見返してる しゃかしゃかしゃか 僕は君にこんなにも夢中で しゃかしゃかしゃか すべてを君と結びつけてしまう しゃかしゃかしゃか こんな風に机に飛び散った雲も しゃかしゃかしゃか やっぱり君の顔 しゃかしゃかしゃか♪ 「見て! 歯磨きの泡が!」 しゃかしゃかしゃか♪ 「君に見えてきた!」 しゃかしゃかしゃか♪ 思わず伝えた甘酸っぱい想いも しゃかしゃかしゃか♪ 君からの通知音で甘々さ! しゃかしゃか…しゃか… 「きしょい、もう関わらないで」 しゃか………う… 歯磨き粉って、"辛い"んだ
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作者:ごみがき
2026/09/27 • 👁 114回 • 💬 0件
ミステリー・サスペンス
2056文字 約5分で読了

ダリを真似る男

 昔サルバドール・ダリと言う芸術家がいた。  彼は夢の中の世界をキャンパスに描こうとした。  肘掛け椅子に座り、スプーンを持ち、キャンパスの前で眠りにつく。眠りに落ちると手の力が抜け、スプーンが床に落ちる。その音で目を覚ました彼は、キャンパスに筆を走らせた。こうして完成した名画が「記憶の固執」と言われている。  ある日、芸術家Aが言った。  「サルバドール・ダリは夢の中をキャンパスに描いた。なら俺は、「夢の中で眠る自分が見る夢」を描いて見せよう。」  言ったはいいが、周りの芸術家たちは誰1人芸術家Aを相手にしなかった。  それもそのはず、芸術家Aの作品は誰にも評価されていなかったのだ。芸術家Aの作品に買い手がつくことは珍しく、売れたとしても、その日のパン代が稼げればいいくらいのものであった。だが、芸術家Aは「夢の中で眠る自分が見る夢」を描くことは、成功への近道だと信じていた。この計画が成功しなければ、芸術家をやめようとすら考えていた。それほど芸術家Aはこの計画に全力を注いだ。  芸術家Aは自宅でその計画を決行した。ダリと同じように肘掛け椅子に座り、スプーンを持ち、キャンパスの前で眠った。「夢の中で眠っている自分」を想像して…。  自分が望む夢なんか見れるはずがない。  誰しもがそう思った。しかし、芸術家Aの強い願いは通説すらも否定した。芸術家Aは「夢の中で眠っている自分が見る夢」を見たのである。  スプーンの落ちる音で目を覚ました芸術家Aは、狂ったようにキャンパスに絵を描いた。完成した絵は、天国の絵か、地獄の絵か、はたまた別世界の絵なのか判断できない程、奇怪な絵であった。尋常ではない世界を描いたその作品は、瞬く間に有名な作品となった。  その後も芸術家Aは「夢の中で眠っている自分が見る夢」の絵を書き続けた。パン代にしかならなかった芸術家Aの作品は値段が跳ね上がった。一番高い作品は、小さな家が一件購入できる程にまでなった。  芸術家Aを取り巻く環境は劇的に変化した。世界中の芸術家が、世界中の金持ちが、そして世界中の有識者が、芸術家Aとの繋がりを欲した。人々は芸術家Aが次に生み出す作品を待ちわびた。  芸術家Aの作品に対する期待が熱を帯びるに連れ、いつしか、芸術家Aは自分の表現のためではなく、作品を購入する客の為に絵を描くようになった。そして、芸術家Aは作品を際限なく量産するようになる。  そんな活動を続けていた芸術家Aの末路は、誰もが容易に想像できるものであった。ある日を境に作品がぱったりと売れなくなってしまったのだ。原因はレアリティの低下だった。気がつけば、芸術家Aは作品を作りすぎていた。  芸術家Aは再び以前の生活に逆戻りした。世界中の芸術家からは芸術を金に変えた男と揶揄され、世界中の金持ちは芸術家Aの作品に目を向けなくなった。そして、世界中の有識者達は、芸術家Aの作品を酷評するようになった。  芸術家Aは苦悶した。  「このままでは、私は金に飢えた芸術家としてみんなの記憶に刻まれてしまう。」  芸術家Aは三日三晩寝ずに考えた。考えた末、芸術家Aは一つの答えにたどり着いた。  「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢を書こう。」  つまり、より深い夢の階層に潜り込み、その世界を描こうと試みたのだ。安直なアイデアであったが、芸術家Aのアイデアは再び脚光を浴びることとなった。  「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢」は、以前描いた「夢の中で眠る自分が見る夢」よりも遥かに混沌とした作品となり、見るもの全てを混乱させる不思議な力を秘めた作品となった。  以降、「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢」を書き続けた芸術家Aはその作風が飽きられる度に、さらに深い階層の夢を描くようになった。  「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中眠る自分が見る夢…。」  そして…。  芸術家Aの精神は徐々に崩壊してく…。  ある日、芸術家Aが「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢…。」を描こうと眠りについた時の事。  あまりに深い夢の階層に辿り着いた芸術家Aは、果たして自分が夢の中のどの階層にいるのかわからなくなってしまった。あまりの恐怖に焦った芸術家Aは、夢の奥深くで、自分の喉に筆軸を突き立て、自らを覚醒させ、強引に一つ上の階層へ戻ろうと試みた。夢の中で夢を見ている自分の喉に筆軸を突き刺すと、夢の中で夢を見ている一つ上の階層の芸術家Aは目を覚ました。芸術家Aは、夢の中で何度も何度も自分を傷つけ、目覚め続けた。  数日後、芸術家Aの家を訪れた客人は恐ろしい光景を目にする。  芸術家Aは、自分の喉に筆軸を突き立て、息絶えていた。
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作者:毎日休日
2026/09/27 • 👁 62回 • 💬 0件
ホラー・怪談
820文字 約2分で読了

『メイワクですスてないでください』

昨日、後片付けでバタバタしていたせいで、ギリギリになったゴミ出しで、ゴミ捨て場に向かうと張り紙が貼ってあった。 『メイワクですスてないでください』 急ぎで回収業者が書いたのだろうか? シワシワの紙にガタついてかなり汚い字で書いてあった。 誰かが別日のゴミを出したのだろうと、私は気にせず燃えるゴミを出した。 『フカイですジブンでソウジしてください』 次のゴミ回収日にも、貼ってあった。 最初は読みやすさと強調の意味でカタカナで書いたのだと思っていたが、もしかして、子供が書いただろうか? 何にせよ、以前の張り紙は効果がなかったらしい。 『スんでるヒトのキモチをカンガえてください』 なるほどと腑に落ちた。 どうやら向かいのマンションに住んでいる子供が書いたのだろう。 また気にせず、ゴミを出す。 『まだキがツかないの?おマエだよ?』 とうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。 怒りにまかせて書いたであろう張り紙。 近所の子供という推理は合っていたらしい。 ――次のゴミの日。 遠目から紙に書かれた文字数が変わっていることを確認する。 また今日もか。 燃えるゴミを出すため、近づく。 文字が読めるまで近づくと私はゴミ袋を落とした。 『スイドウカン』 私はゴミ袋をそのままにして、家に帰り、カギをガチャガチャと焦りながらもかけたあと、スタンガンと包丁を手に取り、家中のドアや押し入れを片っ端から開けた。 手の先が冷たくなる。 汗が背中を伝う。 次に考えたのは盗聴器や隠しカメラの類。 ネットでそういった被害を調べて、思い当たる場所を確認し尽くしたが見当たらなかった。 誰もこの家にいない。 誰にも聞かれてない、見られていない。 ――最期に立ち寄った風呂場。 あの日を思い出しつつ、わずかに残った赤黒い跡を睨む。 自身の息切れと換気扇の音、わずかな水音。 何故か私の心音は自覚できるほどハッキリと聞こえ、周囲の音はどんどん大きくなっていくように感じた。 ……頭上から子供の声が聞こえた。 『迷惑です。棄てないでください。』
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2026/09/27 • 👁 68回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1546文字 約4分で読了

果てを求める者

それはなんでもないある日の事だった。 「すいません。貴方は電線の果てと言う物を見た事は、ございませんか」 「電線の果て?」  いきなり見知らぬ人に話しかけられた驚きもあったけれども、怪しく思うよりも先に、あまりにも奇妙なその問いかけにつられて思わず空を見上げた。    最近では防災対策や、景観保護などの理由から、電柱を減らそうとしているらしいという話を聞いた事があるが、 まだまだこの辺りでは現役だ。  そもそも人が生活している限り電気は必要なのだから、どこまでも続いているような気がする。 「発電所から家庭までじゃないですかね」    「それでは、人の住まない場所までいけば果てはあるのでしょうか」  考えてみると、|人気《ひとけ》の少ない山奥や浜辺でも電線はある。 その果てなんて考えた事も無かった僕は、その問いかけに答えを返す事が出来なかった。  それにしてもこんな奇妙な事を思い付くなんて不思議な人だな。 そう思いながら、あらためて目の前の人物を観察する。  痩せ型で頼りない感じの身体つきと、この国の人とは少し違う感じの、まるで作り物の様な目鼻立ち。 「この辺りは、初めてですか?」 「ええ、少々遠い場所から参りました」  なんだか喋り方もぎこちないし、遠い国からの観光客なのだろうか。 「私は様々な果てを見る為、長い旅をしています」 「様々な果て?」 「私が最初に興味をひかれたのは雲でした。そこに確かに形があるように見えるのに、触れる事が出来ない」  それから彼は止める間もなく、今まで見てきた果てについて語り始めたのだった。 「時折山の低いところに取り残された雲を見る事はありますが、近付く前に高い所に昇ってしまったり、文字通り雲散霧消してしまう。」   それはそうだ。そもそもそんなに簡単に近づけるわけがない。 「そこで文献を紐解くと、雲と言う物は非常に小さい粒子の集合であり、感じる事は出来ても元々触れられる物では無かった事を知りました」  よくは覚えていないけれども、確か小学生の頃に学んだ記憶が僕にも蘇ってきた。 「地上まで降りてきた雲は霧と呼ばれ、手に届かない空にある時は憧れられたりもするのに、いざ身近に来るとあまり歓迎されるものでも無い」  それはそうだ、ただ先が見通せなくて鬱陶しいだけだもの。 「私は常に探しているのです。例えば他にも虹の果てを追いかけたり、寂れた線路の果てを辿ったり⋯⋯」  このままでは男の話がとめどなく続きそうだと感じた僕は、さりげなく話題を逸らそうとした。 「それで今は電線の果てを探しているのですか、もう少し遠くへ行かれた方が良いかもしれませんね」  その言葉で男は我に返った様だった。  「長々と私のよもやま話をしてしまって、申し訳ありませんでした。それではごきげんよう」  こうしてその男は何処かへと立ち去っていったのだった。 ◇◇◇  何故こんな時に、忘れていたあの日の記憶が蘇ったのだろうか。 「電線の果て」  思わず呟いてみる。あの時僕も探すのを手伝っていれば、何かが変わったのだろうか。 ーー今となってはそれを確かめる時間はもう無い。   自分達を護ってくれるはずだった希望の手段は、総てを滅ぼす絶望の手段になってしまった。 「遠くにある時は憧れで、近くにあると歓迎されないか⋯⋯」  そう思いながら見上げた空には、幾つもの光の軌跡が見えた。 後少しでこの星は、果てどころか総てが無に戻るのだろう⋯⋯。 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。 ◇◇◇     モニターには自ら発光しないはずのその星が、至る所で輝いている様が映し出されていた。  蝋燭の最期にも似たその輝きは、やがて厚い灰色の雲に覆われるのだろう。 「星の果てですか」 「いや、今の文明が果てるだけだ」 「そうですね。星の寿命はまだまだ果てない」  地表の調査から戻った彼は、仲間達とそんな会話を交わしながら次の果てを求めて去っていった。
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作者:甘木
2026/09/27 • 👁 113回 • 💬 0件
ポエム・詩
766文字 約2分で読了

違和感

違和感を覚える。 朝、夕方に流れるはずの「家路」が流れる。 違和感を覚える。 たくさんの人が小さな部屋の中で座り、一人一人名前で呼ばれ、向こう側にあるドアへ入って行く。 甘い、アロマキャンドルというものだろうか。 それと眠たくなる音楽が流れ、落ち着けと諭されているようでほんの少し苛立った。 奇妙な空間だ。 違和感を覚える。 何故か自らの足は、見知らぬ土地の見知らぬ道を歩ませる。 私の家はトイザらスの通り。 レンタルビデオ屋の向かいだったはず。 違和感を覚える。 エスカレーターの前の人がこちらを見ている。 違和感を覚える。 電車が来る時のメロディが違う。 違和感を覚える。 家のカギをかける所を、見知らぬ女性がそばで見ている。 怖いのでその女性に語りかけることができない。 違和感を覚える。 突然大きな声を出したくなる。 私はその見知らぬ女性に怒られた。 違和感を覚える。 怖い感情より、申し訳ない気持ちが強かった。 違和感を覚える。 部屋には下手な絵とネイル用品、小さな青い宝石がついた雫のようなピアスが大量に散乱していて、捨てようとすると手を止められた。 違和感を覚える。 その女性の目に映る私は歪み、一滴その人の頬を撫でるように落ちて行った。 私の視界もいつしか歪む。 温かい、名も知らぬその女性の手をそっと包んだ。 それからドリアを食べた。 ドリアは好きだ。 毎日でも食べたい。 違和感がない。 湯船につかり、歯を磨く。 でも面倒だ。 私の髪ってこんなに長かった? 違和感を覚える。 妙な錠剤を飲まされる。 違和感を覚える。 私の布団は中央だった。 父が右隣、母が左隣。 今は見知らぬ女性が右隣。 左隣の空白が、何故か大きな不安を呼び込む。 右隣の女性が「明日の朝、散歩行く?」と尋ねてきた。 私は「嫌、面倒くさい」と答えると、その女性は嬉しそうに微笑んだ。 違和感を覚えた。 明日もこの違和感は続くのだろうか?
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2026/09/27 • 👁 71回 • 💬 0件
ホラー・怪談
727文字 約2分で読了

ゴミ袋の色

 週に一回のゴミの日が来た。   「ゴミ出しに行くよ」 「うん、ちょっと待って。髪を結うから」 「待ってるね」  こんなに暑いのに、彼女は長い髪を結ばない。  首元には髪が張り付いている。 「お待たせ。じゃあ行こうか」 「うん」  彼女は透明な袋を持つ。    私は彼女の空いた手に指を絡ませて、ゴミ捨て場まで行く。  以前、当番制にした時に揉めてしまってからは、二人で行くようになった。  これで喧嘩の種を摘んだ。 「おはようございます」  ご近所さんがほほ笑んでいる。今日は息子さんの姿がない。  いつも不愛想だった息子さん。でも必ず一緒にゴミ捨てに来ていた。  持っている袋の色は赤。 「おはようございます。今日は赤なんですね」   「ええ、すっきりしました」  最近、ご近所さんは悩んでいると愚痴を言っていた。  悩みが解消したらしい。  その後、一言二言やり取りをして、私たちもゴミを出す。  子供の受験も、義母との確執も、すべて解決したらしい。    彼女と「よかったね」と言いながら、ゴミ捨てが終わった。  帰り際、彼女は「次は黒色買わないと」と言う。  私も「そうだね」と言う。  黒い袋があるのは知っていたけれど、なにに使うかは知らない。  帰ったら黒色は何か調べよう。  そう思うけれど、きっとすぐに忘れる。  家に着いたが暇だ。  「今日休みだよね、何しよう」  「とりあえず、家事しないと」  彼女は、長い髪を指先でいじりながら言う。  付き合う前からの癖だから、私は特に何も言わない。 「そうだね、家事しようか」  私たちは、洗濯物を干したり、床掃除や、ついでに窓も掃除をした。  そんな一日だった。  翌週。   「ゴミ捨て行くよー」  彼女の手には黒いゴミ袋。  指先はいつもの癖の行き場を失って、服の裾を弄っている。  しばらくしたら、そのシャツの裾はよれて、透明なゴミ袋行きだろう。
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作者:ReiN.
2026/09/27 • 👁 72回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1544文字 約4分で読了

占い館、閉店セールと片方のピアス

 占い師・神代卑魅呼の占い館&アクセサリーショップが閉館を発表。閉店セールには名残を惜しむ人たちが詰めかけ、アクセサリーは完売。  閉店セールでピアスを買った3人の、その後の物語。 [1] ピアス購入1ヶ月後 山岸里奈 20歳 大学生 「ジャー」「ポチャン」  流すボタンを押すと同時にトイレに左耳のピアス落下。小さな声でつぶやく。 「Help me 神様」  水中から女神登場。 「あなたが落としたのは金のピアス? 銀のピアス? それともこのパチ物?」 「その話知ってる。人を試すような嫌な話」 「屁理屈言うな! 私の存在意義が揺らぐ」  女神は続けた。 「あなたさあ、人が思い付かないような反論したつもりかも知んないけど、あなたの反論、そんなにスペシャルじゃないよ。100人いたら、5、6人はおんなじこと言う」  めんどいから流すボタン再度押した。 「ジャー」「あ〜」  女神は流れていった。 [2] ピアス購入2ヶ月後 佐原麻衣 27歳 フリーランス 「ヤダ〜」  思わず声が出た。ドブ川に右耳のピアスを落とした。対岸の石垣で日光浴してた亀さんを見てて、柵から身を乗り出してたんだ。通りすがりの老人が寄ってきた。 「どうかしました?」 「ドブにピアスを落としたんです」 「ピアス?」  麻衣は左耳のピアスを見せた。「これの片割れです。多分あれです」濁った水の底にうっすらと見える赤い石を指差した。 「ああ、あれね。見えてるんだったら、なんとかなるから、僕が拾っておくよ。明日またここに、同じくらいの時間に来られる?」 「来られますけど、そこまでやってもらうのは悪いから……」 「いや、いいよ。僕は毎週木曜日、この辺を散歩するんだけど、明日だけ2日連続で、この辺散歩すれば済む話だから。僕らの年になると、毎日が日曜日だから」 「アハハハハ(そっか、この人、結構暇なんだな)」  老人の言葉に甘えることにした。  帰宅の道すがら考えた。会社員って、仕事を辞めてしまったら、どうやって過ごしていいかわからなくなるんだろうな。私の身の回りにいる男の人って、そんなパターン多いよ。それはそうと、お礼は何にしようかな?  翌日。昨日の場所に行くと、老人が待ってくれてた。麦わら帽子を被って、虫取り網を持ってた。 (あいみょん「マリーゴールド」か? 井上陽水「少年時代」か?)  虫取り網でピアスを拾って、ペットボトルの水で洗ってくれてた。Xで水中の落とし物を捜す動画を見て、いろいろとマネしたんだって。  お礼のことを言い出すと、「これくらいのことでお礼されたらバチが当たる」なんて言うから笑った。 「お礼の代わりに、僕のXのアカウント見てよ」 「えー、それくらいのことでいいんですか。じゃあ、今日、見に行って、コメント入れます。アカウント名はなんていうんですか?」 「小林正の毎日が日曜日」  思わず吹き出した。  家に帰ってXを見た。 「フォロー800 フォロワー2」  腹筋崩壊するほど笑った後、コメ入れて、フォローした。 [3] ピアス購入3ヶ月後 田嶋由美 34歳 会社員 「あ〜あ」  今年は運気最高のはずが、立て続けにピアスの片方だけを無くした。友達からもピアスを無くした話は聞いたことあるけど、そういうのって、彼氏と会ってて無くしたみたいな艶っぽい話なんだよね。私の場合は、超絶混み合う通勤電車が原因。 「私、なんだか、お父さんが好きな、浜田省吾の『もうひとつの土曜日』みたいだな……」 「そうだ、決めた!」今までは、年不相応に思えて避けてた色違いのピアスに挑戦してみよう。学生みたいに安くて派手なのと組み合わせみようかな。  翌日。会議が始まる前に、ピアスを着け直すふりをしてみたら、牧野さんが気づいた。チラッと見て少し口元がほころんだ。この顔はたまに見る。ミニスカ作戦の時もこんな顔した。  年の差あるから、牧野さんの前では若い子でいられる。
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2026/09/27 • 👁 98回 • 💬 0件