ミステリー・サスペンス
ダリを真似る男
2,056文字
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昔サルバドール・ダリと言う芸術家がいた。
彼は夢の中の世界をキャンパスに描こうとした。
肘掛け椅子に座り、スプーンを持ち、キャンパスの前で眠りにつく。眠りに落ちると手の力が抜け、スプーンが床に落ちる。その音で目を覚ました彼は、キャンパスに筆を走らせた。こうして完成した名画が「記憶の固執」と言われている。
ある日、芸術家Aが言った。
「サルバドール・ダリは夢の中をキャンパスに描いた。なら俺は、「夢の中で眠る自分が見る夢」を描いて見せよう。」
言ったはいいが、周りの芸術家たちは誰1人芸術家Aを相手にしなかった。
それもそのはず、芸術家Aの作品は誰にも評価されていなかったのだ。芸術家Aの作品に買い手がつくことは珍しく、売れたとしても、その日のパン代が稼げればいいくらいのものであった。だが、芸術家Aは「夢の中で眠る自分が見る夢」を描くことは、成功への近道だと信じていた。この計画が成功しなければ、芸術家をやめようとすら考えていた。それほど芸術家Aはこの計画に全力を注いだ。
芸術家Aは自宅でその計画を決行した。ダリと同じように肘掛け椅子に座り、スプーンを持ち、キャンパスの前で眠った。「夢の中で眠っている自分」を想像して…。
自分が望む夢なんか見れるはずがない。
誰しもがそう思った。しかし、芸術家Aの強い願いは通説すらも否定した。芸術家Aは「夢の中で眠っている自分が見る夢」を見たのである。
スプーンの落ちる音で目を覚ました芸術家Aは、狂ったようにキャンパスに絵を描いた。完成した絵は、天国の絵か、地獄の絵か、はたまた別世界の絵なのか判断できない程、奇怪な絵であった。尋常ではない世界を描いたその作品は、瞬く間に有名な作品となった。
その後も芸術家Aは「夢の中で眠っている自分が見る夢」の絵を書き続けた。パン代にしかならなかった芸術家Aの作品は値段が跳ね上がった。一番高い作品は、小さな家が一件購入できる程にまでなった。
芸術家Aを取り巻く環境は劇的に変化した。世界中の芸術家が、世界中の金持ちが、そして世界中の有識者が、芸術家Aとの繋がりを欲した。人々は芸術家Aが次に生み出す作品を待ちわびた。
芸術家Aの作品に対する期待が熱を帯びるに連れ、いつしか、芸術家Aは自分の表現のためではなく、作品を購入する客の為に絵を描くようになった。そして、芸術家Aは作品を際限なく量産するようになる。
そんな活動を続けていた芸術家Aの末路は、誰もが容易に想像できるものであった。ある日を境に作品がぱったりと売れなくなってしまったのだ。原因はレアリティの低下だった。気がつけば、芸術家Aは作品を作りすぎていた。
芸術家Aは再び以前の生活に逆戻りした。世界中の芸術家からは芸術を金に変えた男と揶揄され、世界中の金持ちは芸術家Aの作品に目を向けなくなった。そして、世界中の有識者達は、芸術家Aの作品を酷評するようになった。
芸術家Aは苦悶した。
「このままでは、私は金に飢えた芸術家としてみんなの記憶に刻まれてしまう。」
芸術家Aは三日三晩寝ずに考えた。考えた末、芸術家Aは一つの答えにたどり着いた。
「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢を書こう。」
つまり、より深い夢の階層に潜り込み、その世界を描こうと試みたのだ。安直なアイデアであったが、芸術家Aのアイデアは再び脚光を浴びることとなった。
「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢」は、以前描いた「夢の中で眠る自分が見る夢」よりも遥かに混沌とした作品となり、見るもの全てを混乱させる不思議な力を秘めた作品となった。
以降、「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢」を書き続けた芸術家Aはその作風が飽きられる度に、さらに深い階層の夢を描くようになった。
「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中眠る自分が見る夢…。」
そして…。
芸術家Aの精神は徐々に崩壊してく…。
ある日、芸術家Aが「夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢の中で眠る自分が見る夢…。」を描こうと眠りについた時の事。
あまりに深い夢の階層に辿り着いた芸術家Aは、果たして自分が夢の中のどの階層にいるのかわからなくなってしまった。あまりの恐怖に焦った芸術家Aは、夢の奥深くで、自分の喉に筆軸を突き立て、自らを覚醒させ、強引に一つ上の階層へ戻ろうと試みた。夢の中で夢を見ている自分の喉に筆軸を突き刺すと、夢の中で夢を見ている一つ上の階層の芸術家Aは目を覚ました。芸術家Aは、夢の中で何度も何度も自分を傷つけ、目覚め続けた。
数日後、芸術家Aの家を訪れた客人は恐ろしい光景を目にする。
芸術家Aは、自分の喉に筆軸を突き立て、息絶えていた。
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