SF・ファンタジー
果てを求める者
1,546文字
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それはなんでもないある日の事だった。
「すいません。貴方は電線の果てと言う物を見た事は、ございませんか」
「電線の果て?」
いきなり見知らぬ人に話しかけられた驚きもあったけれども、怪しく思うよりも先に、あまりにも奇妙なその問いかけにつられて思わず空を見上げた。
最近では防災対策や、景観保護などの理由から、電柱を減らそうとしているらしいという話を聞いた事があるが、
まだまだこの辺りでは現役だ。
そもそも人が生活している限り電気は必要なのだから、どこまでも続いているような気がする。
「発電所から家庭までじゃないですかね」
「それでは、人の住まない場所までいけば果てはあるのでしょうか」
考えてみると、|人気《ひとけ》の少ない山奥や浜辺でも電線はある。
その果てなんて考えた事も無かった僕は、その問いかけに答えを返す事が出来なかった。
それにしてもこんな奇妙な事を思い付くなんて不思議な人だな。
そう思いながら、あらためて目の前の人物を観察する。
痩せ型で頼りない感じの身体つきと、この国の人とは少し違う感じの、まるで作り物の様な目鼻立ち。
「この辺りは、初めてですか?」
「ええ、少々遠い場所から参りました」
なんだか喋り方もぎこちないし、遠い国からの観光客なのだろうか。
「私は様々な果てを見る為、長い旅をしています」
「様々な果て?」
「私が最初に興味をひかれたのは雲でした。そこに確かに形があるように見えるのに、触れる事が出来ない」
それから彼は止める間もなく、今まで見てきた果てについて語り始めたのだった。
「時折山の低いところに取り残された雲を見る事はありますが、近付く前に高い所に昇ってしまったり、文字通り雲散霧消してしまう。」
それはそうだ。そもそもそんなに簡単に近づけるわけがない。
「そこで文献を紐解くと、雲と言う物は非常に小さい粒子の集合であり、感じる事は出来ても元々触れられる物では無かった事を知りました」
よくは覚えていないけれども、確か小学生の頃に学んだ記憶が僕にも蘇ってきた。
「地上まで降りてきた雲は霧と呼ばれ、手に届かない空にある時は憧れられたりもするのに、いざ身近に来るとあまり歓迎されるものでも無い」
それはそうだ、ただ先が見通せなくて鬱陶しいだけだもの。
「私は常に探しているのです。例えば他にも虹の果てを追いかけたり、寂れた線路の果てを辿ったり⋯⋯」
このままでは男の話がとめどなく続きそうだと感じた僕は、さりげなく話題を逸らそうとした。
「それで今は電線の果てを探しているのですか、もう少し遠くへ行かれた方が良いかもしれませんね」
その言葉で男は我に返った様だった。
「長々と私のよもやま話をしてしまって、申し訳ありませんでした。それではごきげんよう」
こうしてその男は何処かへと立ち去っていったのだった。
◇◇◇
何故こんな時に、忘れていたあの日の記憶が蘇ったのだろうか。
「電線の果て」
思わず呟いてみる。あの時僕も探すのを手伝っていれば、何かが変わったのだろうか。
ーー今となってはそれを確かめる時間はもう無い。
自分達を護ってくれるはずだった希望の手段は、総てを滅ぼす絶望の手段になってしまった。
「遠くにある時は憧れで、近くにあると歓迎されないか⋯⋯」
そう思いながら見上げた空には、幾つもの光の軌跡が見えた。
後少しでこの星は、果てどころか総てが無に戻るのだろう⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
◇◇◇
モニターには自ら発光しないはずのその星が、至る所で輝いている様が映し出されていた。
蝋燭の最期にも似たその輝きは、やがて厚い灰色の雲に覆われるのだろう。
「星の果てですか」
「いや、今の文明が果てるだけだ」
「そうですね。星の寿命はまだまだ果てない」
地表の調査から戻った彼は、仲間達とそんな会話を交わしながら次の果てを求めて去っていった。
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