雨の中、赤信号がなかなか変わらない。
疲れた気分で足もとを見ると、小さな蝸牛が一匹いた。優雅に渦巻いた殻を背負い、ゆっくりとわたしの足のほうへと進んでくる。
その殻の色が、金銅仏のようなありがたい美しさ。おそらく中に幸運がしまわれていて、それをわたしの見知らぬ誰かのところへ、慎重に運んでいる最中なのだ。
わたしは少し意地悪をするつもりで傘をかたむけ、縁にたまった水滴を蝸牛の上に落とす。うまく当たらない。
そんな遊びをしているうちに、信号が青になった。じゃあね、ばいばい。
道路を渡り切ってから気づく。
もしかしてあの蝸牛は、わたしに幸運を運んできたのでは?
ふりむくと、さっきまでわたしが立っていたあたりを、黒い合羽を着た人が乗る自転車が、乱暴な速さで通っていった。
Fino
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研究室は冷蔵庫のようだった。機械だけが低く唸り、人の息を寄せつけない。
職場に慣れた頃、僕はある異変に気づいた。
同僚で大学からの友人、三島葵が深夜まで地下室にいることだ。スマホを忘れて取りに帰ったとき、地下室から葵が出てきた。
葵はいつも着ていない作業着姿で、疲れた顔をしていた。
そして地下室が発光していた。それは一つの光ではない、無数のモニターが発光し重なっている。
地下室を見ると、九十年代の箱型のパソコンが積み上げられ、タワーになっていた。ブラウン管モニターは青白い光を発して、鈍い動きで数字を表示している。
「地下で何してたんだ?」
僕が驚いて言うと、葵はため息をついた。
「…………誰か、一人には話しておこうと思ってた。まぁ、あんたでいいか。秘密にしてくれる?」
葵はショートボブの髪を耳にかけて言った。
「あぁ、話してくれよ。僕でいいなら」
僕が答えると、葵は地下室に降りて行った。僕も後に続く。
古いPCが分解されマザーボードがいくつも積み重なっていた。タワーになった箱型のパソコンに繋がれたケーブルはビニールチューブで覆われている。赤、黒、緑と色分けされていて、なんとなく爆弾のコードを想起させた。
中央のテーブルに置かれたアルミのトランクに接続された太いケーブルが光って、情報を送っているようだ。
アルミケースの中には、古いマザーボードが敷き詰められていた。
「なんだよ、これ」
僕が訊くと、葵はマザーボードに繋がっているキーボードを叩き始めた。
「タイムマシーン、ブルーマシーンよ」
「は? なにそれ」
「古い基盤にはノイズがあるの、そのノイズがね、時間の縫い目みたいにうねるのよ。新しいものだと止まっちゃう。私は過去の景色が欲しかった。新しいものより古いものがピッタリだった。だって私は過去に行きたいから」
葵が微笑んで話した。タイムマシーン、彼女はそんなものを作ろうなんて考える夢想家ではない。常に必要とされ、実行可能な仕事しかして来なかった。
しかし、彼女の憂いのある微笑みには心あたりがある。
最近、彼女は恋人を亡くした。自殺だった。
「このマザーボードはランダムな電子のゆらぎがある。そのゆらぎを行きたい年月日に設定した。タイムマシーンなんて作れないと思ったけど、ここにある廃棄物で作れてしまうなんてね。時間波へのパルス送信装置。なかなか我ながら名案よ」
「…………その、止めに行きたいのか。彼を助けに」
僕が言うと、葵は僕を無表情で見た。
「うん、そうだね。あの日、私は…………間違っていたから。間違いを正しに行く」
「その、彼の死を止められなかった、それは君のせいではないと思う。こんなたくさん機械を作って、君がそこまで追い詰められていたなんて。僕がよかったら、何があったか、話してくれ」
僕が言うと、葵はうつむいた。
「そうね。話しておきたい。この椅子、古いけど座って」
葵が青いデスクチェアを引きずってきた。葵は丸椅子に腰掛け、向かい合う体制になる。
「私の恋人、小野春樹は、心を病んでた。それは私のせいなの。私が彼の痛みを理解しなかった。彼はね、職場で男の上司から言葉のセクハラを受けていたのよ。まぁいわゆる男社会の下ネタでしょう、それぐらいのことでって私は言ってしまったの。男同士でセクハラなんて、と私は軽く見てた」
葵が目を伏せて話しながら、キーボードを打つ。
「ただ、わからなかった。わかろうとしなかった。私はセクハラや痴漢に遭ったことがない。それに男性はそういう下世話で性的な話を好むものと思ってた。でも、彼はとても繊細で…………たとえば、彼女といつ寝ただとか、そういう話題が嫌だった。嫌がる相手にはさらに言うものでしょう、そういう最低な男って。彼は職場の人にも相談したけれど、聞き流すようにしか言われなかった」
葵のキーボードを打つ音は激しくなった。
「ねぇ、聞き流すって、難しいよね、できないよね。そういう人がいることも、私は理解できなかった。彼が遺書でその苦しみを書いていた。言葉だけではなく、上司に体を触られていたことも。私は彼の両親に土下座した。私が、私がわかってあげられたら、と。彼の両親は私を責めなかった。あの時、彼が死ぬ前に電話に出なかったのに…………また職場の愚痴だからって、私が拒否したから」
「それは」僕の口は乾いて苦くなった。
「君のせいではないだろう。その上司のせいだ」
「そうかな。私は自殺のほとんどは他殺だと思う。私の無言が彼を殺した。遺書にはこう書かれていたわ。誰も苦しみをわかってくれず、辛かった、と。無理解って罪よ」
葵が立ち上がり、部屋を見渡した。
「ようやく、完成した。さぁ、これが成功するかどうか、見届けて」
葵が笑った。
僕が初めて見た、葵の満面の笑みだった。
「そんな、ちょっと待ってくれ」
積まれたパソコンの画面が急速に動き、ケーブルが眩しい光を発して、僕は目がくらんだ。
タイムトラベルなんて、そんなの幻想だ。葵、行かないでくれよ。
※
タイムトラベルは成功した。
私は嘘をついた。
私は私が生まれた日に来ることができた。彼が死んだ日ではない。私は彼の自殺を止めるためにタイムマシーンを発明したんじゃない。
病院からは海が見える。秋の真っ青な空の日に私は産まれた。
黒の反対はブルーだと思う。
ブルーこそ何もかも飲み込む。だから私はタイムマシーンにブルーマシンと名前をつけた。私は作業着から看護婦の服に着替えて、赤子の自分をさらった。
思ったよりあっけなく自分をさらうことができた。
柔らかくて、ぎゅっと抱いたらもろもろに壊れてしまいそうだった。
私は私を抱いて、真っ青な海に行く。
九月の海は少し冷たい。
私は泣き始めた赤ん坊の私を抱きしめて、海に沈む。
すべてを無にしよう。
「葵、僕は秋の海が好きなんだ。ここの海辺のカフェ、すごくいいね。このシフォンケーキも美味しい。また、来ようね」
春樹はあの時、本当に嬉しそうだった。
「愛してるよ。お互い、仕事が落ち着いたらさ…………結婚しようね」
あの時合わせた春樹の額は、とても暖かかった。
「葵の凛としているところが好き。僕はすぐ感情的になってしまうから、君の意見で救われるんだ」
春樹はあの時、私を尊敬の目で見てくれた。
「ごめん、仕事の愚痴ばっかり。僕ってやっぱり、男らしくないよね。情けなくてごめん。男らしくならないと社会で生きていけないよね」
春樹はあの時、本当に苦しそうだった。
「いつもごめんね、愚痴ばっか…………こんな遅い時間に電話してごめん。ちょっと声が聞きたかったんだ。結婚しようって言ってたのに、僕が不甲斐なくてごめんなさい。君のことを、愛していたよ」
留守番電話に残っていた声は、とても落ち着いていた。謝罪と絶望の混じった声だった。
春樹はその電話のあとに死んだ。
電話に出て、私の声を聞いたら、死なずにいてくれた?
私が、私が存在しない世界になれば、春樹と付き合っているのが私みたいな無情な女でなければ、彼はきっと救われる。
春樹、私はね、凛としてなんかいない。
共感力の足りない女だった。
海底に沈む。
私は青に飲み込まれ、消える。
嘘をついて、ごめんね、さようなら。
※
「どうした? こんなところで」
僕は上司に声をかけられた。
気づくと眠っていたようだ。古いPCが保管された薄暗い倉庫で、僕はなぜここに来たのか思い出せない。
箱型の古いPC、ケーブル。すべて埃を被って機能していないのに、なぜかそれらが光輝いていたような気がした。
僕の頬に、涙がつたう。
「何か、とてもひどい嘘をつかれた気がする」
それは、青い夜の嘘だった。
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妻が死んで1年が経った。
法事に来ていた娘たち夫婦は昨日帰ったばかりだ。
妻の墓に今日も線香を供える。
娘夫婦は同居しようと勧めてくれるが、妻と共に過ごしたこの地を離れる気にはなれず断っている。
一人暮らしにはずいぶん慣れてきたと思うが、静かになった家にいればやはり思い出されるのは妻のことばかりだ。
気晴らしの散歩。
だが向かう先はいつも同じで妻の墓だった。
気温はずいぶんと暖かくなってきて桜の花はすっかり散り、若葉の眩しい季節だ。
そういえば妻と出会ったのもこんな季節だったなと思い出す。
妻はほがらかな性格で小鳥を買うのが好きだった。
インコや文鳥といったありふれた鳥ばかりだが、それまで俺は鳥を買ったことなどなかったものだから意外と人懐っこいことに驚いたものだ。
野鳥の鳴く声があちらこちらから聞こえる。
そういえば家の近くでツバメが飛んでいたなということを思い出した。鳥たちも子育ての季節だ。
墓地の井戸のそばで鳥の声がする。
近くまで来ているのだろうそう思って顔を上げたら、水道のすぐそばにスズメのヒナが落ちていた。
チイチイと鳴きながら、こっちを見分ける。
ふと足を怪我していることに気がついた。
本来、野鳥のヒナというのは触ってはいけない。
近くに親鳥がいるだろうし、触ることで親鳥は寄り付かなくなるし、野鳥自身が病気を持っている可能性もある。
人間にとっても野鳥にとっても決して幸福なことにはならない。
だが俺は怪我したスズメの子供を放っておくことができなかった。
……これは緊急保護だ。
自分に言い聞かせてそのヒナを保護し、動物病院に連れて行った。
そうして先生の話のもと数日間ヒナを預かることになった。
怪我が治るまでの間だ。
チイチイという鳴き声を聞きながら、妻が病気だった時のやり取りを思い出していた。
亡くなる1年前、病院での話だ。
「21g何の重さだかわかる?」
「……なんだよ急に」
「魂の重さ21gなんだって。ちょうど小鳥1羽分ぐらいだね」
「……」
「私が死んだら小鳥になって会いに来るからね」
「バカなこと言うなよ」
俺はコーヒーを飲み干した。
そうだスズメのヒナに名前をつけようか。
別に名無しでも困らないと言えば困らないのだが、こうして俺のところに縁があってやってきたわけだから……
しばらく考えてから、チイという名前をつけた。
それはチイチイと鳴くからというのもあるが、独身時代に妻のことを『ちぃちゃん』と呼んでいたからだ。
妻の名前は千春という。
あまりにもバカバカしい考え かもしれないが彼女がこのスズメの子を俺のところによこしてくれた様な気がした。
彼女の魂がスズメになって会いに来たとは思わないが……
チイは日に日に元気になっていった。
初めは入れた餌をちゃんと食べてくれるか心配したものだが全くの杞憂で、もりもり餌を食べおまけにひどく人なつっこい性格らしく、俺の手や肩に乗ってくる。
怪我もずいぶん良くなったらしい。
あちらこちら跳ねながら飛び回っている。
放し飼い状態だからそのうち自然と出て行くのだろうと思う。
穏やかな日差しの中で緑はほんの少しずつ濃くなってゆく。
俺はチイを肩に乗せて妻の墓参りに行った。
いつものように散歩がてら。
チイは初めて会った墓地の水道のあたりで飛び空へ舞い上がっていった。
それは短い間共に過ごしたチイとの別れだった。
青空の下で、妻の笑っている顔がふと思い出された。
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木星の衛星「エウロパ」の地下海を泳ぐ探査艇が、奇妙な人工物を発見した。
それは、周囲の氷や岩石とは明らかに異なる「完全な立方体」をした、掌サイズの黒い石だった。
地球の最先端研究所に持ち込まれたその石は、世界中の科学者を驚愕させた。
あらゆる電磁波を完全に吸収し、表面温度は常に絶対零度。
どれだけ強いレーザーを照射しても、原子ひとつ傷つかない。さらに驚くべきことに、その質量を測定すると、なんと「正確にマイナス12グラム」を示したのだ。
置いた秤のメモリが、逆に軽くなる。
「これは、負の質量を持つ未知の安定物質……いや、一種の『時空の穴』だ」
物理学者たちは色めき立った。この石の構造を解明すれば、空間を歪めて移動する「ワープ航法」や、重力を自在にコントロールする技術が手に入るかもしれない。
人類の科学は、一気に数世紀ぶん進歩するはずだった。
世界中から天才が集まり、数ヶ月に及ぶ総力戦の解析が行われた。
そしてついに、石の内部から微弱な「量子信号」を取り出すことに成功する。信号を言語に翻訳するプログラムが走り、ディスプレイに文字が浮かび上がった。
人類初の、異星文明からのメッセージ。
科学者たちが固唾を飲んで見つめる中、画面に表示されたのは、実に拍子抜けするような内容だった。
【紛失届】
品名:時空安定用重力アンカー(文鎮サイズ)
特徴:黒色、立方体、質量マイナス仕様
状況:オリオン腕方面への家族旅行中、子供が窓から落としたと思われます。拾った方は、最寄りの銀河役場までお届けください。
なお、原始文明の方が神の道具と勘違いして、分解しようと無理なエネルギーをかけると、反作用でその惑星系が消滅しますのでご注意ください。
部屋がしんと静まり返った。
主任研究員は、ちょうど石に超高出力の粒子加速器を照射しようと、照射ボタンに指をかけていたところだった。
彼はそっと指を離し、額の汗を拭った。
「……よし、みんな。これは見なかったことにしよう。今すぐ、エウロパの元の場所に沈めてくるんだ」
人類が宇宙の真理に到達するには、まだ少し、早すぎたようだった。
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「パンダさん、いなくなっちゃったんだね」
パンダのぬいぐるみを抱えてしょぼんとしている息子。
息子が誕生日の春休みにはいつも白浜のパンダを見に行くことにしていた。
写真立てには去年のパンダを見に行った写真が飾ってある。
今年はパンダが全部中国に返還されていなくなってしまった。
5歳の誕生日がもうすぐやってくる。
息子が3歳の時、4歳の時の写真を私はちらりと見た。
「パンダしゃん!」
初めて見たパンダを目の前に、そう言ってはしゃいでいた息子の記憶が脳裏によみがえる。
今年は違うところにしようか。
もちろん白浜はとても楽しいけれど、違うところに連れて行ってもいいかもしれない。
しょんぼりしている息子に違うところの場所の話をどうやって持ちかけようか。YouTubeで他の場所の映像を探す。
だがそれを見た息子は、
「やっぱり白浜がいい。楽しかったもん」
と言った。
「そっか。じゃあ今年も白浜に行こう!」
息子はパンダのぬいぐるみを抱えたまま嬉しそうに、
「うん!」
と言った。
パンダがいなくても、きっと楽しいことはいっぱいある。
見ててよパンダさんたち、私と息子は今年も楽しむんだから!
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花よ花よ 愛する花よ
どうしてほんのわずかな時間だけ
しか咲いてくれないのです。
花よ花よ 愛する花よ
ずっと咲いてておくれと望むのは
あまりに自己中心でしょうか。
花よ花よ 愛する花よ
愛おしいと心の底から貴方のことを
思うだけしかできないけれど
貴方の姿をまぶたに浮かべ
心の底から貴方のことを
愛しているのだと
どうか分かってください。
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9月1日
『鬼百合の里山』
山はすっかり鬼百合の季節だ。
鬼を打ち払ったという賢者は鬼たちと共に亡くなったという。
後には山に鬼百合の花が咲くばかり……
亡くなった賢者の化身なのかそれとも鬼の亡霊 なのか……
地元の人間は恐れて誰も鬼百合を触ろうとしない。
花は黙って 誰に見られる事もなく毎年咲いては枯れてゆく。
9月1日の花言葉 オニユリ「賢者」
✿✿✿
9月2日
『マリーゴールドと思い出』
華やかな黄色いマリーゴールドの花が咲いた。
健康的で君の笑顔みたいだ。
君はいつも明るくて、そばにいるだけで僕は元気になった。
可愛い娘。
マリーゴールドの花でおままごとしていた事を昨日みたいに思い出す。
君は卒業して今年から社会人。
がらんとした部屋からマリーゴールドの庭が見える。
9月2日の花言葉 黄色いマリーゴールド「健康」
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9月3日
『コスモスの咲く公園』
爽やかな秋の風が吹いていた。
美しいコスモス畑が広がっていて、世界はこんなにも美しかったのかと思った。
我が子と二人手をつないで少し遠くの公園まで歩く。砂場と滑り台があるだけの小さな公園。
だがそこに 広がるコスモス畑に私も息子も目が釘付けになっていた。
9月3日の花言葉 コスモス「美しさ」
✿✿✿
9月4日
『偽イソップ物語』
頑張ったけどぶどうが取れなかった狐。
「あのぶどうは酸っぱいに違いない!」
と狐は言った。
「そんなことないよ、美味しいよ」
リスはぶどうのつるを噛み切って狐のところに落としてあげた。
そして2人で仲良くぶどうを分け合って食べたとさ。
9月4日の花言葉 ブドウ「思いやり」
✿✿✿
9月5日
『オミナエシの咲く季節』
親切な君に感謝を伝えたい。
だけどどうすれば伝わるんだろう。
お礼のプレゼント?それとも旅行にでも連れて行ってあげるとか?
いいや、ここはシンプルに!
「ありがとう!」
君に向かってそう言った。
9月5日の花言葉 オミナエシ「親切」
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9月6日
『白髪千里となりて』
貴方を待つうちに長い歳月が経ちました。
私の髪もひげもパンパスグラスの様に真っ白になりました。
人と妖怪では寿命の長さが違います。
もう一度貴方に会いたくて、転生してくるのをずっと待っているのです。
ですがもう会えないかもしれません。
何度でも輪廻転生してくる貴方を待っているのです。
9月6日の花言葉 パンパスグラス「歳月」
✿✿✿
9月7日
『オレンジ畑』
オレンジ畑には山のようにオレンジの実がなっている。
美味しくなあれ、美味しくなっていっぱい食べてもらえるように純粋に祈りを込めて。
だが嵐がやってきた。
たくさんのオレンジの実が風で地面に落ちてしまった。
オレンジたちは 工場へ。
美味しい純粋なジュースになったのさ。
9月7日の花言葉 オレンジ「純粋」
✿✿✿
9月8日
『どうやら無自覚』
全く彼女はホウセンカ みたいだ!
ちょっと触るとものすごく怒る。
「私に触れないで!」
そう言ってこっちを睨みつけてくる。
いや気軽に肩を叩いた僕が悪かったけど。
セクハラで訴えるなんてあんまりじゃないか!
自分の娘ぐらい年が離れた女性にセクハラなんてするわけないだろ!
9月8日の花言葉 ホウセンカ「私に触れないで」
✿✿✿
9月9日
秋のお散歩
幼い君の手を引いて歩いた散歩道。
秋風の中シオンの花が咲いていた。
「君を忘れない」
幼い愛しい日々も、成長してたくましくなっていく君も。
ずっとずっと私の心の中。
9月9日の花言葉 シオン「君を忘れない」
✿✿✿
9月10日
『最近の男は怖がりもしない!と口先女は愚痴りましたとさ』
華麗で豪華なダリアの花束を持って僕は君の元へと向かった。
ここで待っていれば君が来るはずだ!
足音が近づく。
ほらやってきた!
「私キレイ?」
そう言って君はマスクを外す。
「大きな笑った口元がとても素敵です!僕とお付き合いしてください!」
硬直する君。
君は一目散にマッハで逃げ出した。
9月10日の花言葉 ダリア「華麗」
✿✿✿
9月11日
『火傷の後には』
痛いよ!
僕がそう言うとおばあちゃんがアロエを持ってきて傷口に貼ってくれた。
少しひんやりして苦痛が和らぐ。
その時、おばあちゃんってすごいなと思った。
何でも知っている。
ベランダにはアロエ。
大人になってからも、たまにおばあちゃんを思い出し怪我をしたら傷口に貼る。
アロエの魔法だ。
9月11日の花言葉 アロエ「苦痛」
✿✿✿
9月12日
『葛湯の思い出』
風邪を引いた僕に母は葛湯を入れてくれる。
葛湯を飲めば体がほんの少し楽になったような気がする。
母は僕を女手一つで育ててくれている。
本当に芯が強い人だなと思う。
「飲んだらしっかり休んでね」
「はーい」
母が去って行く足音を聞きながら布団にもう一度入る。
9月12日の花言葉 クズ「芯の強さ」
✿✿✿
9月13日
『恋の期待』
僕の胸は期待に膨らんでいた。
なぜかと言うと、好きなあの子から校舎の裏に来てと言われたからだ。
僕のラブレターの返事だろうか?
「あのさ毎日、下駄箱に手紙を入れるのやめてくれる?気持ち悪いし 怖い」
「……」
君が立ち去った後、花壇に目を落とすとゼフィランサスの花が揺れていた。
9月13日の花言葉 ゼフィランサス「期待」
✿✿✿
9月14日
『愛と歳月』
秋の風にシュウメイギクが揺れる。
あの人のことを思い出す。
何年も歳月が過ぎて、だんだんあの人が死んだことを悲しいと思わなくなった。
忘却が愛を思い出に変えてゆく。
いつの日か私も死ぬだろう。
その時にあの人のことを私はどう思っているだろうか。
9月14日の花言葉 シュウメイギク「薄れゆく愛」
✿✿✿
9月15日
『弔いの日』
私のお葬式にはね、真っ赤なドレスがいいわ。
ダリアの花みたいな華麗なドレス。
それを着て弔いの皆様を眺めるの。
白い百合で覆い尽くされて、青い空にさようなら。寂しい曲なんて流さないで!
お別れするのはとっても悲しいのだから……
9月15日の花言葉 赤いダリア「華麗」
✿✿✿
9月16日
『神装束』
君の織り上げた茜色の着物は、茜さす空の下とても似合っているなと思った。
茜の花は目立たない。
とても小さな花だけどこんなにも美しい織物を作り上げてくれるのだ。
まるで小さな茜の花のように目立たない君だけど、その胸の内が茜色のおりもののように 鮮やかであることを私は知っている。
9月16日の花言葉 アカネ「私を思って」
✿✿✿
9月17日
『大切な君への願い事』
「今夜は流星群だってさ」
二人でベランダに出るが空が曇っていて見れそうにない。
「残念だね」
「うん残念だ」
君と僕は部屋へと戻る。
星は出ていないけどベランダにはミセパヤの星形の花が咲いている。
大切な君と星を見ながらどさくさに紛れプロポーズしようなんてとてもじゃないが言えない。
9月17日の花言葉 ミセパヤg「大切なあなた」
✿✿✿
9月18日
『花の色』
アザミの花の色のトートバッグを買った。
これは私のお守りだ。
これに本を入れて出かける。
お気に入りの本を持っていたらとても安心するから。爽やかな風が頬を抜けて、アザミの花が咲いていた春を思い出す。
春と秋は少し似ている。
どちらも花咲く美しい季節だ。
9月18日の花言葉 アザミ「安心」
✿✿✿
9月19日
『サルビアの記憶』
夏になれば思い出す。
小学校にサルビアの花が植わっていたことを。いつも校長先生が花を植えていたから、あの花も校長先生が植えたのだろう。
真っ赤なサルビアの花と先生の笑顔を思い出す。
先生お元気かな……
私はそっとプランターにサルビアの花を植えた。
9月19日の花言葉 サルビア「尊敬」
✿✿✿
9月20日
『彼岸の岸辺』
あなたに会いたくて一途に思い続けております。彼岸花の咲、あの世とこの世のほとりで。
いつかあなたをこちらにお迎えしようと、だけどそれはあなたが死んでしまうということです。
それはあまりに悲しくて、私はいつもここから あなたを見ております。
9月20日の花言葉 彼岸花「あなたに一途」
✿✿✿
9月21日
『花冠』
「ママ、見て見て!」
サンビタリアの花で作った花輪を持って娘が駆け寄ってきた。
私は娘を見つめる。
「上手にできたね」
花壇の花はすっかり なくなってしまったけれど 娘の笑顔は花よりもずっと美しく見えた。
9月21日の花言葉 サンビタリア「わたしを見つめて」
✿✿✿
9月22日
『千日紅の花の恋』
僕はずっと君に変わらぬ恋をしていた。
それこそ子供の頃、千日紅の花でおままごとをしていた頃から。
だけど君とは違う高校になって離れ離れになってしまう。その前に勇気を持って告白するんだ。千日紅を片手に君が通るのを待っている。
……神様どうか僕に勇気をください!
9月22日の花言葉 センニチコウ「変わらぬ恋」
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9月23日
『秋の庭』
そろそろ 秋だというのに露に濡れてダリアの花は優雅に咲いていた。
初夏からずっと庭を彩ってくれている。
疲れた日常を華やかにしてくれるのだ。
一つ花瓶に入れてテーブルに飾る。
この花のように周りを明るくする人間になりたい。
9月23日の花言葉 ダリア「優雅」
✿✿✿
9月24日
『おじいちゃんからの贈り物』
ぶどうの収穫機がやってきた。
今年も孫娘たちは喜んでくれるだろうか。
こんなにも思いやりを込めて育てたのだ、きっと喜んでくれるだろう。
今年は特に美味しくできたと思う。
一つ一つ丁寧に箱に詰めて配達に出す。
孫娘たちの笑顔を思い浮かべながら。
9月24日の花言葉 ブドウ「思いやり」
✿✿✿
9月25日
『恋心と勇気』
久々に同窓会であった幼馴染はずいぶんと素敵な女性になっていた。
帰り道、一緒に公園を散歩する。
子供の頃から幼馴染と公園でよくペチュニアの花でままごとをして遊んでいたっけ。
「あなたと一緒なら心がやわらぐのよ」
「LINE 交換しよう」
スマホ には君の連絡先。
だけど連絡できずに僕はいた。
9月25日の花言葉
ペチュニア「あなたと一緒なら心がやわらぐ」
✿✿✿
9月26日
『離れゆく愛』
蓮の池のそばを歩いて行く。
いつもの散歩道、去年はあなたとここを歩いた。
蓮の花が綺麗だねと話したっけ……
お盆になるから、あなたは帰ってきてくれるだろうか。
まだあなたが死んでしまった実感がない。
あなたの愛をいつか忘れてしまうのが怖い。
9月26日の花言葉 蓮「離れゆく愛」
✿✿✿
9月27日
『お花も一緒にご飯を食べたいと思ったの。』
「ひらめいた!」
突然息子はそう言った。
庭のトレニアの花をバケツに入れて家の中に持って帰ろうとする。
一体何事かと思って息子に尋ねると、
「このお花 一つしかないからお家に連れて帰ってあげようと思う」
なんて言い出す。
私は少し考え、
「お日様が当たらないとダメなんだよ」
と言った。
9月27日の花言葉 トレニア「ひらめき」
✿✿✿
9月28日
『墓参りの花』
お墓参りの切り花に庭のシオンを摘んできた。
じいちゃんがこの話 好きだったな。
ばあちゃんは花を見ると少し寂しそうな顔をした。
「あの人、天国で待っててくれるかね」
手を合わせながらばあちゃんはそう言った。
「あんまり早く言ったらじいちゃん怒るかもよ」
長生きしてよばあちゃん。
9月28日の花言葉 シオン「君を忘れない」
✿✿✿
9月29日
『林檎の木の下で』
春に林檎の花の下で君に出会った。
夏に君と林檎の木の下で笑い合った。
秋になると たわわに林檎の実がなった。
かごいっぱいに林檎を収穫して、君に差し出す。
君は笑顔で受け取って、翌日パイを焼いて持ってきてくれた。
ああ、やっぱりそんな君のことが好きだ。
9月29日の花言葉 林檎「選ばれた恋」
✿✿✿
9月30日
『公園にて待つ』
公園で貴方を待っている。
期待に胸を膨らませながら。
ほら貴方がやってきた!
貴方は手に花束を持って。
それは私にかしら?
貴方は花束を地面に置きそっと手を合わせた。そして私は自分が死んでいたと思い出した。
貴方がいなくなった後、ただ静かに公園のゼラフィン サスの花が揺れていた。
9月30日の花言葉 ゼフィランサス「期待」
続きを読む
私は草原に一人で立っていた。
風が吹いていて、私のポニーテールが揺れている。
手には剣を持っていた。
重さは分かるのに、なぜ持っているかは分からない。
剣を見ると、傷が多い。
ここはどこ?
そう思った瞬間、白い怪物が出てきた。
その怪物は、私より大きく、のっぺりしている。
ゆらゆら私に近づいてくる。
逃げようと反対側を向こうと思った、その瞬間、怪物に向かって走った。
剣を振り上げ、怪物の頭部を刺し倒した。
「助けに行かないと…」
私は無意識に呟いていた。
誰を助けにいく?
わからない。
私は、とりあえず歩く。
目的はない。
ある町についた。
活気がない。
なぜか、私は歓迎された。
理由はわからない。
町の人は、私の名前を呼んでいるようだが、聞き取れない。
町を散策していると、張り紙が目に入る。
綺麗なダークブロンドの女性が映っている。
私は、目を離せなくなった。
私の顔を見ているはずなのに、目線が合わない町人は言った。
「――様、早く姫様を助けてください」
「ええ、もちろんです」
私は、手で口をふさいだ。
私の意思ではない。
町人はにっこりと満足げだ。
「あなたは姫様を救うために旅をしていますもんね、素晴らしいです」
「はい、必ず姫様を助けます」
口が勝手に動く。
体が勝手に、歩く。
戦うしかない。戦うしかない。
逃げたら、どうなる?
わからない。
私は旅をしている。
何が目的かもわからない。
体が勝手に動いたりする。
戦うしかない。戦うしかない。
張り紙が目に映る「Aisla姫」
島、と書いてある気がした。
隔離された姫…。
家に帰って、顔も思い出せない彼女に会いたい。
覚えているのはただ一つ
「アリサ…」
張り紙の女性と目が合った気がした。
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アリエッタには三分以内にやらなければならないことがあった。この邸のお嬢様キーラのお茶請けとなる菓子を選ぶことだ。
テラスでお茶が飲みたい、と言い出したキーラのために、アリエッタは紅茶を用意することとなった。キッチンで、よく温めたポットに茶葉を入れ、ゆっくりとお湯を注ぐ。あとは砂時計をひっくり返して待つだけ。わがままお嬢様にしては手心の加えられた言いつけに、余裕余裕、と鼻歌まじりに落ちる砂を見つめていると。
「お茶請けもお願いねー」
テラスから可愛い声が飛び込み、アリエッタはたちまち冷や汗を掻くこととなった。
お茶請け。すなわち、お菓子。
そりゃそうだ、と自分で自分に突っ込む。甘いものが大好きな大好きなお嬢様が、お茶だけで満足するはずがない。
手心が加わっている、だなんて。自分ののんきさを呪いつつ、頭を激しく回転させ、視線だけでキッチンを見渡した。ここはお金持ちの邸宅。お菓子のストックなら、いっぱいある。
だが問題は、お嬢様の要望で。
「私の気分に合ったものでお願いねー」
などと、間延びした声でとんでもないことを言うものだから、困ったものだ。
キーラの気分? 知るはずがない。むしろ「これだ」と指定してくれれば、悩まずに済んだものを。
しかし、アリエッタはこの邸の使用人。お嬢様に反発し逆らうことなど、許されるはずもない。
速やかに、お菓子を用意しなければならない。それも、お茶が渋くなるその前に。
アリエッタはキッチンの棚へと駆け寄った。そこには、いろいろなお菓子がある。金平糖、スミレの砂糖漬け、フルーツ入りのパウンドケーキ。ショコラに、クッキー。スコーンに、マカロン。
さあ、どれがいいでしょう。
今の時間は、午後一時。お昼は早めに食べたとはいえ、二時間後にはまた〝お茶の時間〟がある。軽いものが良いだろう。というわけで、ケーキとスコーンはなし。
今日のおやつの予定は何だっけ、とアリエッタは思い出す。パンケーキ、だった気がする。蜂蜜をたっぷりかけるのだ、とキーラが意気込んでいるのを、午前中に見た。ならば、濃厚な甘さのショコラもなしか。
砂時計の砂は、さらさら落ちる。残りはあと半分。
今日の朝食は、クロワッサン。バターがきっちり練り込まれたやつ。キーラは三個も食べていたから、バター味には満足したはずだ。同じくバターを使ったクッキーは、外しても良いだろうか?
棚にあるピンクのマカロンは、フランボワーズのフレーバー。今日のお昼はサンドウィッチで、キーラは苺のジャムが挟まったものをデザート代わりに食べていた。ならば、果物にも満足しているだろうか? こちらも選択肢から外しておこう。
今淹れている紅茶は、薔薇の香りがするフレーバーティー。それなら同じ花のスミレはやめておこう。風味が相殺されてしまう。
そうすると残ったのは、金平糖。アリエッタは、色とりどりの星がいっぱい詰まった小瓶を掴み取り、踵を返す。砂時計の砂は、あと少し。テーブルに駆け寄って、ポットとカップ、それから小瓶をお盆に載せて、キーラの待つテラスへ向かった。
まだ幼さの残るお嬢様は、白いテーブルに肘をついて、足をぶらぶらさせて、ミモザの咲く庭を眺めていた。フリルたっぷりの黄色のドレスが、小さく揺れている。
キーラはアリエッタに気がつくと、姿勢を正して、催促した。アリエッタは素早くテーブルにカップを置くと、琥珀色の液体を注ぎ込む。芳醇な薔薇の香りが広がった。
それから、そっと小瓶を置く。
「金平糖?」
キーラは不思議そうに小首をかしげる。間違ったか、とアリエッタは顔を強張らせた。もしかして気分ではなかっただろうか。消去法で決めたのが悪かった?
だが、キーラはアリエッタの懸念を打ち消すように小瓶に手を伸ばし、蓋を開けた。瓶を傾けてカラカラと金平糖を掌に出し、一粒摘んで口の中に放り込む。硬さに少し苦労しながらも咀嚼して、飲み込み、紅茶を啜った。
「うん。……まあ、いいんじゃない?」
評価はまずまず、及第点、といったところか。ホッとしていいのか、がっかりしたほうがいいのか、アリエッタには判断がつかなかった。
だが、キーラのご機嫌は損ねなかったようで、お嬢様はポリポリと無心になって金平糖を食べている。
ひとまず安心していいか、とアリエッタは胸を撫で下ろした。
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上手くいかぬものよ。夢で幾度語りかけても、こたびの娘は寝汚い。仕方なく耳元で使命を囁きながら祝福を与えておる。にしても、こやつの器は底なしか。えっ、お祓いの儀式? 何をやってくれておる! ぐう、宗派が違うゆえ神官にわらわの言葉が届かぬ。待て待て、この娘は女神が選びし大聖女なるぞ!
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