ポエム・詩
146文字 約1分で読了

枯れたなら

最初は絵付けだった。 たまたま あなたと訪れた旅先で 記念になるからと お互いチャレンジした。 そこから 二人でハマって 陶芸が趣味になった。 記念品も もう棚におさまらないくらい。 ある日 あなたが誕生日プレゼントにと 壺に生け花を。 「花が枯れたら また生けるね」って。 よくできた壺。 よくできた旦那だ。 「壺名人」より
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作者:柊ことは
2026/10/21 • 👁 14回 • 💬 0件
恋愛
265文字 約1分で読了

最後の砦

「最近よく来るね。 そんなにうちの店が好きかい?」 老婆が意地悪そうに笑う。 「何でもいいでしょ。 私の不安を早く買い取って! こんな私じゃ嫌われちゃう」 と叫ぶと 「おやまぁ、 今日はいっそう元気がいい 不安だこと。 いただいたよ」 その声を合図に 私の心は温かく軽くなる。 「不安なんて売り物になるの? うさんくさいな。 私には不要だからどうでもいいけど」 そうこの店では 長いこと不安が売られている。 もう 私はここがないと 彼と笑顔で向き合うことさえ できない。 ある日 居ても立ってもいられず お店に駆け込もうとしたら 空き地になってた。 私はその場で 崩れ落ちてしまった。
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作者:柊ことは
2026/10/21 • 👁 15回 • 💬 0件
ポエム・詩
163文字 約1分で読了

今ここから

振り返ると 私が座って花を摘んでは 花びらをちぎって捨てて…。 あれは 自己満足であなたを愛した私。 前を向くと 私が真っ直ぐ歩いて 花の香を嗅いだり 水をあげたり 足どりも軽やかで…。 ここから見える景色が あまりにも違って 私もいつか 花を愛でることができるのかな?って 思うけど 振り返った私ではいたくないなって。 「これまで いま これからの じぶん」より
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作者:柊ことは
2026/10/21 • 👁 10回 • 💬 0件
ポエム・詩
146文字 約1分で読了

聞こえなかったブレーキ音

「そういうのしんどいよ」 あれが 最後かもしれなかった ブレーキの音。 誰と行くの? どこ行くの? 何時に帰ってくるの? 遊びでも仕事でも 聞きすぎて あなたが 私に近づいてこなくなった。 そして あの言葉も今の距離も 「もう少し距離感気をつけて」って 意味だったのかも。 あなたから届いた 最後のメッセージが読めずにいる。
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作者:柊ことは
2026/10/21 • 👁 10回 • 💬 0件
ポエム・詩
188文字 約1分で読了

キャンセルができなくて…

新しい門出だと祝ってくれてるのか それとも 慰めてくれてるのか 記念日に予約してた ディナー前に あなたと別れ ヤケになって 一人できてやった。 「ここ一度来てみたかったし 予約取るのも大変だったし キャンセル料かかるし」なんて 料理が運ばれるたびに 言い訳を重ねて食べて。 最後に いちごの代わりに 薔薇があしらわれたアイス。 一口食べたら 口のなかで香りとともに溶けて 涙も溶け出した。 『薔薇をひとくち』より
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作者:柊ことは
2026/10/21 • 👁 10回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1410文字 約3分で読了

異星間コミュニケーション

異星人との交流は、単純な電波信号の受信から始まった。 初期は手探りのやり取りであったが、言語体系の解読が進むにつれ、地球と異星人との間には安定した通信プロトコルが確立された。 通信が言語としての意味を持ち始めた当初、地球側は発信する情報に細心の注意を払った。 歴史上の無数の戦争や、現在も続く紛争の事実は伏せられた。同時に、地球側の科学技術レベルについては、すでに恒星間航行が実用化の直前であるかのように誇張して伝達された。 好戦的で野蛮な種族であると認識されることへの恐れと、科学力が劣っていると見透かされれば容易に侵略を許してしまうのではないかという安全保障上の危惧が、地球人に虚勢を張らせたのだ。 しかし、数年間にわたる対話により、両者の間にあった壁は徐々に取り除かれていった。 学術的な情報交換から始まった対話は、次第に互いの哲学や芸術、日々の生活の些細な思考にまで及んだ。 相手への理解と信頼が深まるにつれ、地球側の代表者たちは嘘をつき続けることに耐えがたい罪悪感を抱き始めた。 ついに地球側は、自星がいまだ争いを克服できていないこと、そして科学技術も彼らが語っている水準には遠く及ばないことを正直に告白した。 それに対する異星人から返ってきたメッセージは、地球人を深く安堵させるものだった。彼らもまた、地球からの侵略を恐れ、平和で高度な文明を装っていたのである。 互いの見栄と虚勢、そしてその根底にある恐怖心すらもが共通しているという事実は、両者の精神構造が極めて似通っていることを証明していた。 通信帯域の拡張により、やがて画像データのやり取りが可能となった。 モニターの画面に初めて異星人の姿が映し出された時、地球では驚きの歓声があがった。 そこにいたのは完全に「人」であった。頭部には目、鼻、口が同じ配置で備わり、胴体から伸びる両手両足、そして手の指の本数に至るまで、地球人と全く同じ構造をしていた。 さらに映像データには、彼らの日常生活が収められていた。それは地球で撮影したものであるかのように見紛うものであった。 街並みを歩く人々、家庭での暮らしぶり、はては野球に酷似したスポーツに興じている子供たちの姿まであった。 収斂進化の極致か、あるいは、はるか古代の共通祖先を持つのかは定かではない。 しかし、この奇妙なまでの一致は、両者が遠い星で離れ離れに育った兄弟のような存在であるという認識を決定づけた。これにより、また一つ、異星文化コミュニケーションにおける壁が取り払われたように考えられた。 たとえ今後、意見の相違や摩擦が生じたとしても、この根源的な同質性があれば、必ず良好な関係を築いていけるはずだという結論がお互いの星で導き出されたのだ。 ​ そして数年後、地球よりもわずかに宇宙航行技術で勝っていた異星人が、ついに地球へと到達可能な宇宙船を完成させた。 地球人にとっても異星人にとっても、初の異星間外交の幕開けであった。 数名の乗組員と外交担当者を乗せた 小型の宇宙船が彼らの星を飛び立ったとの報告を受け、地球では彼らを歓迎する準備が進められた。 しかし、彼らの宇宙船が太陽系外縁に到達し、地球の観測設備がその姿を捉え始めた時、対策室は沈黙に包まれた。 観測データが示す接近中の宇宙船の直径は、地球そのもののサイズを上回っていたのだ。 空を覆い尽くすほどの巨大な質量体が、地球に迫っていた。 それは越えようのない、まさに大きな壁のようであった。
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作者:さくら
2026/10/21 • 👁 8回 • 💬 0件
ポエム・詩
65文字 約1分で読了

またり

そよぐカーテン 外からの風 いや扇風機が向いただけかよ 膨らんで 網戸に吸い付いて 藍色の織り目から透ける光 少し薄暗い部屋の 気だるい夏の空気
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作者:如月ニヒト
2026/10/21 • 👁 33回 • 💬 0件
児童文学
2594文字 約6分で読了

妖精の贈り物

「スノードロップの鉢が欲しいの」  キーラお嬢様が唐突にそう言い、アリエッタは目を瞬かせた。季節はちょうど春を予感させる頃。スノードロップなど簡単に手に入るが。 「お庭にあるじゃないですか」  ルベットの邸には庭があり、そこにスノードロップが植わっている。それどころか春告げの花は街の至るところに植えられていて、探すまでもなく目にできるのだが。  キーラは可愛らしい顔を顰めて、首を振った。 「そうだけど。鉢が欲しいの。一輪だけ。部屋の窓に置きたいの」  何故また。不思議に思いながらも、わがままとしては可愛らしいその願いを叶えるために、アリエッタは動いた。お嬢様のお部屋に置くにちょうど良い大きさの、少し洒落た柄の入った陶器の鉢を、物置から見つけ出す。それから庭師に頼み込み、庭のスノードロップをひとつ移してもらう。  わがままから半日もせず手に入った鉢の花を目にして、キーラは顔を輝かせた。飛び跳ねそうなほど嬉しそうに鉢を受け取ると、意外にも捨てられた猫でも運んでいるかのような慎重さでもって、部屋の隅へと移動した。ベッドの向こうに回り込み、近くの窓に鉢を置く。それからベッドに腰掛けて、じっと花を見つめていた。日陰だからだろうか。花は閉じかけている。  あまりに真剣に見ているものだから、アリエッタは首を傾げた。 「何故お花が欲しかったのですか?」 「この前読んだ本のね、真似をしてみたかったの」  キーラは立ち上がると、本棚へと駆け寄った。一冊抜き出して、アリエッタへと突き付ける。『春の妖精』とそこには書かれていた。 「異国ではね、春にだけ咲く花を、〝春の妖精〟と呼ぶのですって」  この本は、それを知った作者が着想を得て、春の花の妖精に纏わる話を書いた短編集。その中に、スノードロップの話もあったそうだ。 「冬の終わりにね、女の子が、スノードロップの花の下で弱っている妖精を助けるの。妖精は花の傍にいなくちゃいけなかったから、女の子は花を鉢に植え替えた」  女の子は窓辺に鉢を置き、毎日スノードロップの世話をした。生き生きとした花の傍で、妖精はみるみるうちに元気になっていった。そして花が終わる頃、全快した妖精は女の子の下から旅立っていく。 「花が萎れると、スノードロップは花がら摘みをしないといけないんですって」  それはスノードロップに溢れる街の者であればよく知っていることだったが、アリエッタは黙っていた。この邸では庭師がすぐに摘んでしまうので、キーラは知る機会がなかったのかもしれない。 「だから女の子は、妖精が旅立ったあとにスノードロップの花がら摘みをするのだけど――」  その花びらの中に妖精がお礼に残した〝贈り物〟があった、というのが、その物語の結末であるらしい。  キーラは、それに憧れて、スノードロップを飾りたくなったのだという。 「別にね、本当に妖精から何か貰えるかも、なんて思ってるわけじゃないのよ? 物が欲しいわけじゃないの。なんていうか――そう、これはいわば〝ごっこ遊び〟よ」  ただ物語をなぞらえて満足したかっただけなのだ、とキーラは言う。 「もしかしたらここに妖精さんがいるのかもって、そう空想するだけで楽しいと思わない?」  まだ純粋な子どもの心を持つお嬢様が、微笑ましかった。  それからキーラは毎朝花の世話をした。アリエッタが用意した水をあげ、声をかける程度のものだったが。日差しを浴びて花びらを綻ばせ、夜には熱を溜めるために閉じる。そこにまた一つの〝生〟を感じてか、キーラなりに精一杯花を慈しんでいた。  それだけに、花の終わりの時期が近付くと、キーラの顔もまた曇りだす。明らかに精彩を欠き、瑞々しさを失った花に、アリエッタもまた寂しさを覚えた。何よりキーラの喜びが一つ減るのが惜しい。 「花摘みをしないとね」  夜を迎えても花弁を開いたまま俯いている白い花を前にして、ネグリジェ姿のキーラはぽつりと溢す。 「ええ。今摘めば、栄養が球根に行きわたります。後はときたま水を与えていれば、来年にはきっとまたきれいな花を咲かせますよ」 「来年かぁ。できるかな。花が咲いているときは、お話とかして楽しかったんだけど」 「球根にもお話してあげたらどうですか? 土の中にいてもきっと聴いてくれますよ」  来年はもしかしたら、お嬢様とお話をしたくて早く咲いてくれるかも、などと言ったら、キーラはくすくすと笑った。〝ごっこ遊び〟などと子ども染みたことを言っていたとは思えないほど、大人びた顔で。花とはいえ、何かの世話をした経験が、少しだけ彼女を成長させたのかもしれない。  花のことを残念がりながら、キーラは眠りに就いた。アリエッタはそっとキーラの部屋を出て、自室に戻る。  実は、少し前から、企んでいることがあった。  机の抽斗から、大事に仕舞い込んでいたブローチを取り出す。白い陶磁器で作られた楕円形のブローチで、スノードロップの絵が描かれている。  大した価値のある物ではなかったが、アリエッタがずっと大事にしていたものだった。  ブローチをエプロンのポケットに忍ばせ、アリエッタは部屋を出て、残っていた仕事を片付ける。いつもならメイド仲間と寛いでいくところを、今晩は辞して、キーラの部屋に向かった。  音に気をつけながら、慎重にドアを開ける。  少女は、穏やかな寝息を立てていた。忍び込んだアリエッタに気が付かない。  健やかな夢を祈りながら、アリエッタはそっと企みを遂行した。窓辺に行き、ポケットに入れていたブローチを取り出す。  咲いている間、花のお世話をしていたお嬢様に。〝妖精の贈り物〟だ。  本当は、物語に沿って、花の中にでも隠せれば良かったのだが。  妥協して、花から落ちたかのようにブローチを土の上に飾り、季節外れのサンタ・クロースの気分を味わったアリエッタは部屋を出た。  翌朝。アリエッタの期待通り、キーラは呆然とスノードロップの鉢を見つめていた。目と口を開けて、声なく窓辺に立ち尽くしている。  企みが成功したようで、アリエッタは口元が歪むのを隠しきれなかった。さすがにお嬢様も悟る。肩を竦めるとブローチを拾い上げ、指先で土を払った。 「そうよね。花を置かなくても、元々うちには妖精さんが居るものね」  予想外の言葉に、アリエッタは呆気に取られた。キーラは指先で挟んだブローチをアリエッタにかざして見せる。 「素敵な贈り物をありがとう、お手伝い妖精(ブラウニー)さん。これからもよろしくね」
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作者:森陰五十鈴
2026/10/21 • 👁 15回 • 💬 0件
恋愛
3697文字 約8分で読了

桜散る、桜咲く

 4月1日。  桜の花びらが、風に吹かれて自室の窓を舞い踊るように横切っていく。  終わってしまった。俺の高校生活が。  なんでこんなにもあっという間なんだろう。  花弁を散らす桜と自分自身がこれほどに重なることがなんだかおかしくて、奇妙な笑いすら漏れる。  まるまる三年前の、入学式の朝。  春光の満ちる体育館で、斜め前に座るブレザーから伸びる真っ直ぐな首筋に釘付けになった。 「春田 櫂《かい》くん」 「はい」  低めの少しハスキーな声と共に、彼はすっと美しい背で立ち上がる。  こんな退屈な儀式のこんな一瞬に、これほど胸が震えるなんて。  知っている。自分の中に芽生えた蕾は、きっと一生開花することはないのだろうと。  中学校時代も、部活の先輩を目で追う自分に気づき、悶々と戸惑う間に先輩の横には可愛い女子が寄り添うようになって。  自分の恋に望みは抱けないのだと、少しずつ脳に刷り込まれた。  脳はそれを学んだはずなのに、心はそんなことには従ってはくれない。  心は脳などに従わないものなんだ。  滑り出した高校の日々の中で、性懲りもなく刺さってくる痛み。心が脳の指令を受け入れてくれたなら、きっとこんなことにはならないのに。  理数科にいたおかげで、クラス替えは免れた。  けれど振り返れば、そのせいで俺の3年間はまるで数時間しかなかったようでもある。  彼しか見ていなかった。彼しか追っていなかった。彼のことしか考えていなかった。ただの一秒も、彼から心が離れなかった。  元々単独行動が好きだったし、クラスメイトも皆さほど他人に興味を示さず、教室は適度に居心地良かった。俺はいつも自分の席でひとりスマホを見るふりをして彼を盗み見た。  明るい茶色の素直な髪。裏表のない笑顔で友達と笑い合う。スケボーが好きらしい。時折頬杖をついて、教室の窓の外をひとりで眺めている。  柔らかそうな髪が風に吹かれて煌めくその残像が、いつまでも瞼から消えなかった。  耳に嵌まったイヤホンの奥に流れる旋律を、いつも聴いてみたくてたまらなかった。  高二の夏休み前。大学入試に向けクラス内の意識が少しづつ高まる。  そんなある昼休み、彼は不意に俺の前の席の椅子を引き寄せ、椅子の背を抱えるようにしながらガタリと跨って俺の正面に座った。 「……」  突然の出来事に目を白黒させる俺に、彼はこともなげに話しかける。ずっと前から親しい友だったかのように。 「な、水島くん。物理教えてくんね?」 「——……え」 「いや、難しーじゃんフツーに。水島くん、物理点数いいらしいって聞いたからさ」 「……お、教えられるかどうか……」  彼は、プッとおかしそうに吹き出した。 「センセーみたいに教えろとは言わないからさ。なんかヒントっぽいものが欲しいってのかな」 「……あ、そ、そういうことなら……」  俺はショートしそうな脳をなんとか動かし、必要な言葉を唇からなんとか押し出した。 「事によれば手伝えなくもないかもしれない」 「はははっ! なんだよその日本語?」  彼の笑顔を、初めて間近で見た。  パチパチと炭酸水みたいに弾ける笑み。遠目から見れば360度綺麗なその顔は、笑うと思った以上に幼い。白く清らかに伸びた首筋と、ボタンの一つ開いた襟元が直視できない。  俺は思わずスマホを取り落としそうになり、手汗で滑る指で必死に端末を握り直した。  俺は、彼にうまく教えられていただろうか。  放課後の図書室やファストフードのテーブル。そんなありきたりな場所が、これほどに特別な場所になろうとは一ミリも想像しなかった。  物理を教える時間は、いつも彼と二人きりだった。 「他の奴らいるとうっさくて集中できねーし、水島も嫌がるだろーと思ってさ」  シャーペンを指先でくるくると弄び、問題文を読みながら彼はさらりとそう話す。  彼は理解が早いし、一度教えたものは間違わない。閃いたようにノートに数式を書き出し、彼は顔をあげるとニカっと微笑んだ。 「ってか、水島の説明聞いてるとセンセの話よりよくわかるわ。なあ、受験まで俺の部屋に住み込みしねえ?」  そういう冗談と笑みが、何度俺の胸を震わせたか。  ——今、好きだって言ったら。  このまま、もうずっと二人きりでいられるんじゃないだろうか。  そんな勘違いが、何度脳をよぎっただろう。  そんな夢みたいな時間は、瞬く間に過ぎていく。  高3になり、彼に引き続き勉強を教えながら、俺も猛烈に勉強に熱が入った。  同じ大学へ行きたかった。都内でもトップクラスの大学を目指す彼と。  なのに彼は、願書提出直前に突然志望校を変更した。  ここから遠く離れた大学に。  やりたいことがあるんだと言った。そこでしかできないことがある、と。  俺が同じ大学を目指していたなんて、彼はこれっぽっちも気付いていないのだろう。  ——当たり前だ。 「水島も、こっちに変えたらいいじゃん、志望校」 「え?」 「なんでもねーよ」  一度だけ、彼が冗談めかしてそう言った。  俺も彼も、無事に合格した。  嬉しさより悲しみの方が強い合格通知なんて、この世にあるだろうか?  3月6日。まだ肌寒い中、体育館で校長たちの話を聞き、別れの歌を歌い、俺たちはバラバラと校門に向かって歩いた。  高校の卒業式は、誰もが既にそれぞれの未来に目を向けている。深い悲しみに暮れる空気が薄いことが、せめてもの救いだ。 「暇できたら、遊びにこいよ。寺社仏閣巡りツアーやってやるから」 「……あんま興味ない」 「はは、つれねーの」  俺の横で空を仰ぐ彼の顔があまりに陰りなく眩しくて、俺は答える言葉をろくに選びもせず俯いた。 「じゃな」  校門の出口で卒業証書の入った筒を小さく掲げ、彼がいつもの笑顔を見せる。  いつもの笑顔。  最後の笑顔。  ——ずっと好きだった、って伝えたら。  好きでたまらないんだ、と打ち明けたら。  このまま、ずっと一緒にいられるんじゃないか。  この門を出たあとも。  ——やめろ。  この3年間をバケツいっぱいの墨汁で真っ黒に塗り替える気か?  何も答えられずにいる俺を置き去りに、彼はすいと美しい背を見せた。  何の躊躇もなく校門を跨ぐと、彼はそのまま振り向くこともなく淡い日差しの中へ歩み出した。  3年間、片時も胸を離れなかった姿が、滲んで見えなくなる。  彼の中に、俺は残らない。小さな爪痕一つすら。  最後の笑顔すら彼に向けられなかった。別れの一言すら言えなかった。  俺は、ただ肌寒い風に吹かれて校門の前に突っ立っていた。  あの卒業式から、3週間と少し。  暖かい日がだんだん増え、周囲は次第に春へと塗り替えられていく。  部屋の窓から顔を出すと、近くの公園の桜が輝くような花を風に揺らしている。  4月1日。めでたい進学初日に桜が満開を迎えるなんていう心憎い神の計らいも、今の俺にとっては煩わしい皮肉にしか思えない。  彼は、あちらで新生活の準備を整えている頃だろうか。  いつもと変わらない、どこか幼い笑顔で。引っ越したアパートのお隣の住人に挨拶したり、近所の店で自分用のマグカップやスリッパや食器を選んだり、今日の夕飯のメニューを考えたり、面倒くさいから外に食いにいくか、と街を探索に出かけたり……しているのだろうか。  過去の時間など、一秒たりとも思い出す事なく。  自分の中の時間は、一秒も進んでいない。  卒業式の校門前で、がちりと動きを止めたまま。  この針がまた動き出すのは、いつだろう。  それも、なんだかどうでもいい。  あの3年間の、まるで数時間にしか思えないような彼との一瞬一瞬は、もう二度と巡ってこないのだから。  ふと、机のスマホがメッセージの着信を告げる。  のろりと取り上げ、画面を確認した。 『今、何してる?』 「……」  間を開けず、次のメッセージが届く。 『どーせ春休みで暇だろ? 荷解《にほど》き手伝えよ』 「……荷解きって」  こぼれ出した独り言を、そのまま返信する。 『あー悪い。昨日こっちに引っ越ししてさ、今新しい部屋で荷物開けてんだよ。ひとりでだりーし、誰か手伝ってくんねえかなあって。うちの部屋から桜がめっちゃ綺麗に見えるから、ついでに花見できるぞ』 「……」  何を言ってるんだろう。  最後の大事な瞬間に、あんなにあっさり背を向けたくせに。  唇を噛み締めながら返信を打つ。 『……だって、春田はもう、いっちゃったじゃんか。そんな遠いところに』 『は?   遠かったらもう会わねえの? それ何ルールよ?  春休みなんだし、地獄の受験終わったんだし。どうせならしばらくこっちで観光でもすれば?』 「……」  俺の返事を待つような時間が少し開いたが——絶句して突っ立ったままの俺の目の前に、今度は苛立ちを抑えきれないようなメッセージが送りつけられた。 『まさかの既読無視か?  最後の日だってのに最後の最後までお前リアクションうっすいし。死ぬほど迷った挙句こんなクソ恥ずいLINE送ってんだ!! なんとかいえ!!!』  ——ずっと好きだった、って伝えたら。  好きでたまらないんだ、と打ち明けたら。  このまま、ずっと一緒にいられるんじゃないか。  この桜が散った後も。  そんな支離滅裂な思いを押し殺し、俺は震える指で返信を打つ。 『行くよ、明日。  朝イチで』 『——は?   朝イチはやめろ、メーワクすぎる』  HAHAHA!とゴリラが泣き笑いするスタンプがピコンとそこに付け足された。        〈了〉
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作者:aoiaoi
2026/10/21 • 👁 18回 • 💬 0件
児童文学
381文字 約1分で読了

風が強い日には

 今日はとても風が強い日です。 というのも、風の精が今日はいっぱい街にやってきたのです。 風の精たちの運動会の日でした。 晴れ渡った空の下、風の子供たちが走り出します。 「よーし負けないぞ!」 「あっちのビルまでかけっこだ!」 お日様の合図を皮切りに風の子供たちは勢いよくダッシュ! あっちこっちのビルを避けながら、一番向こうのお山まで走って行きます。 「やったー僕が一番!」 「残念!負けちゃった!」 風の子供たちは大喜び しながら木の周りをぐるぐると回ります。 「次は、リレーだって」 「じゃあ今度こそ僕が勝つからね!」 風の子供たちはまた走り回ってビルの間を抜けて行きます。  何も知らない人間たちは帽子を抑えて空を見ました。 「今日はすごい突風だ」 「まるで風が戦争しているみたいじゃないか」  そんなことを話しているのです。 いいえ、本当は仲良しの風の子供たちが、 追いかけっこをしているのですよ。
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作者:しとえ
2026/10/21 • 👁 27回 • 💬 0件