祭りでリンゴ飴を買ったけど、私の口には固すぎて大きすぎる。すると、一緒に来た友人が「貸してよ」と言った。手渡したら彼女は自分でぱくりとかじる。欲しいなら言えばいいのに。ふくれつらの私の顔は、彼女の手で挟まれた。「口移し。女友達ならノーカンよ」待って、本命相手はノーカンじゃない!
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斬首の感覚で私は目を覚ました。また三年前に戻ったと気づき、頭を抱える。何度繰り返しても、王子に婚約破棄され人生転落よ!「眠れましたか、お嬢様」やけになった挙句、思いつきでお付きの侍女をベッドに引きずり込む。三年後、女王に即位する私のそばで彼女は微笑んでいた。このルート、ありなの?
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病から目が覚めた時、俺は慣れ親しんだ光景に驚いた。間違いない、十年以上遊んでいたネットゲームだ! これが異世界転生か! 感動で跳び上がった俺の視界は、瞬く間に暗転した。薄暗い部屋、目の前に黒服のゲームマスターがいる。「なぜここに呼ばれたか分かりますか? 本作にジャンプ動作はありません」
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戦争はもうスマホで見物する時代だ。SNSを開くとBGM付きの動画で、ドローンが車列や兵士に突っ込むのが見られる。仕事合間の良い息抜きだ。お、ライブ配信か、いまどきはすごいな……待て、なんか風景が……日本じゃないか? あの建物は見覚えが。いや、そこは娘が通う学校⁉︎ 待て、待ってくれ!
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小学校のかけっこの頃から、アイツとはライバルだ。肩を並べて走り、追いつき追い抜き、けれども追い越される。その瞬間こそ見知った顔が一番輝くんだ。だから、受験のためにアイツが陸上部を辞めると聞いて、わたしはたまらず泣きすがった。「なんでよ! あなたを追いかけて同じ女子高に入ったのに!」
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深夜の列車
飛び乗った列車は、映画か何かで見たような、和風とも洋風ともつかないレトロな雰囲気だった。 客車は二人がけの座席が向かい合って配置されていて、大人が四人まで座れるようになっている。 私は窓側の席につき、外を眺めた。 ぼんやりと見える山の輪郭(りんかく)やぽつぽつと見える家の灯りが、私の後ろへ、後ろへと流れていく。
それにしても、ベンチに座っていた『男』とは、いったい何者なのだろうか。 男が抱く鞄には、何が入っていたというのだろうか。
さっき出会った人から聞いた話が、しゃぼん玉のようにふうわりと浮かぶ。 私はそれを窓の外の景色に託し、目を閉じた。 列車の揺れとレールのつなぎ目を通るときのガタンゴトンというあの衝撃音が私の心と身体を眠りへと引きずり込んだ。
「乗車券を拝見します。」
声が聞こえ、ぱっと目を開けた。
「乗車券を、拝見します。」
声は、頭の中でもわんもわんと漂っている。 視線を、声が降ってくるほうへゆっくり移動させると、レトロな制服に身を包んだ車掌が立っていた。
じょうしゃ、けん……?
ぽかんとしていると、車掌は私の右手へ視線を移し、
「そちらです。」
と言った。
――え?
驚いて右手を見ると、買った覚えのない切符が握られていた。目が泳ぐとは、今の私の状態を表しているのだろう。それでも、これ以上車掌を待たせてはいけないと思い、状況がよく分からないまま切符を手渡した。車掌は無表情で受け取ると、パチンと切符を切り、私に返した。
「見つかるといいですね。」
車掌はそう言って微笑み、車両を後にした。
手渡された切符には、小さな猫の形の穴が開いていた。 そして、古風な書体で、
北の町
と書かれていた。
列車は、ガタンゴトン、ガタンゴトンと音を立て、私を見知らぬ町へと運んでいった。
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その町へ行くには、各駅停車の電車を三度乗り継ぎ、最後には一日に数本しか走らない、一両編成のディーゼル車に揺られる必要があった。
線路脇に生い茂る夏草が、電車のボディをパチパチと叩く。そのたびに、私は自分がどこか、取り返しのつかないほど遠い場所へ運ばれていくような錯覚に陥った。
――遠い町のどこかで。
誰が言ったのかも分からないそのフレーズが、窓の外を流れる緑の波に重なっては消える。
三か月前まで、私は東京の広告代理店で、分単位、いや秒単位のスケジュールに追われていた。
深夜、コンビニの冷え切った弁当を食べている途中、ふと自分の指先が震えているのに気づいた。何に対しての恐怖なのかは分からない。ただ、ここではないどこかへ行かなければ、私は私でなくなってしまうという確信だけがあった。
退職届を出し、荷物をまとめ、私はスマートフォンの地図を無造作にスクロールした。指が止まったのは、地図の端、海と山に挟まれた小さな空白の地点だった。
降り立った駅は「渚崎(なぎさき)」という無人駅だった。改札を出ると、潮の香りが混じった、少し重たくて温かい風が吹いた。
駅前には錆びた看板を掲げたタバコ屋と、シャッターの下りた文房具店があるだけだ。時間が止まっているのではなく、あまりにもゆっくりと流れているために、動いていることに気づかないだけなのだと感じた。
私が借りたのは、坂の上にある古くて大きな平屋だった。大家さんは足の悪い老婆で、名前をトキさんと言った。
「何もない町だよ、ここは。若者が来るなんて珍しいねぇ」
トキさんはしわくちゃの手で私に麦茶を差し出しながら、不思議そうに笑った。
「何もないのが、いいんです」
本心だった。ここには私を急かすディスプレイも、見知らぬ他人の不機嫌な視線も、何者かにならなければならないという強迫観念もない。
この町での生活は、驚くほど単調だった。朝、鳥の声で目を覚まし、顔を洗って裏庭の小さな畑をいじる。午後は近くの小さな図書館で、ボランティアとして本の整理を手伝う。夜はトキさんから分けてもらった野菜で簡単な食事を作り、暗闇が町を飲み込む前に眠りにつく。
最初の一か月は、その静寂が怖かった。耳鳴りがするほどの静けさの中で、自分の心臓の音だけが大きく響く。私は自分が透明な存在になって、そのまま消えてしまうのではないかと怯えた。
でも、二か月が過ぎる頃、私の感覚は少しずつ変わり始めた。
図書館で古い郷土資料を整理している時、一枚の写真を見つけた。五十年前の、この町の祭りの様子が写っている。白黒の写真の中で、今の私と同じくらいの年齢の男女が満面の笑みで踊っている。背景にある建物は、今では朽ち果てて空き地になっている場所だ。
その時、気づいた。私が「何もない」と思っていたこの場所には、確かに誰かの人生があったのだ。ここで生まれ、恋をし、働き、そして老いていった人たち。彼らにとって、この町は世界の中心であり、帰るべき場所だった。「遠い町」というのは、あくまで私から見た主観に過ぎない。誰かにとっては、ここが唯一の「ここ」なのだ。
ある日の午後、私は防波堤に座って海を眺めていた。すると、地元の女子高校生が一人、隣にやってきた。彼女はセーラー服の襟を風になびかせながら、黙って海を見ていた。
「ねぇ、お姉さん」
唐突に、彼女が声をかけてきた。
「はい?」
「東京から来たんでしょ? 何でこんな、世界の果てみたいなところに来たの? スタバもないし、服を買うところもない。みんな、ここを出て行きたいって思ってるのに」
彼女の瞳には強い憧れと、それと同じくらいの諦めが混じっていた。
私は少し考えてから答えた。
「私はね、自分の場所を見失ったから来たんだと思う。ここに来れば自分が誰なのか、思い出せるような気がして」
彼女は鼻で笑った。
「変なの。私はここじゃないどこかへ行けば、もっと素敵な自分になれると思ってるのに」
彼女との会話は、鏡を見ているようだった。
かつての私は、ここではないどこかを求めて全力で走っていた。そして、今ここにいる私は、かつていた場所から逃げてきた。でも、どこまで逃げても、どこまで追い求めても、私は私を連れて歩くしかない。
「遠い町」なんて、本当はどこにもないのかもしれない。自分が立っている場所を愛せるか、あるいは受け入れられるか、それだけのことなのだ。
夏が終わり、風が秋の気配を運んできた頃、私は一通の手紙を書いた。宛先は、かつての職場の同期だった友人だ。
「お元気ですか? 私は地図の余白みたいな町で、ゆっくりと息をしています。ここは本当に遠い場所です。でも、ここにある風も、光も、人々の営みも、全てが本物です。今まで私は、遠くにあるものばかりを見て、足元の石ころに気づかずに転んでばかりいました。でも今は、その石ころの冷たさや、形の違いを楽しめるようになっています」
手紙を持ってポストに行く途中、トキさんとすれ違った。
「おや、顔色が良くなったねぇ。あんた、もうすぐここを発つんだろう?」
図星だった。自分でも無意識のうちに、次の場所へ向かう準備を始めていた。
「分かりますか?」
「何となくね。ここは止まり木みたいなもんだ。羽を休めた鳥は、また飛んでいかなきゃいけない」
トキさんは優しく微笑んで、私の肩を叩いた。
「どこへ行っても、あんたがここで過ごした時間は消えないよ。遠い町のどこか。そこでの記憶が、いつかあんたを支える日が来る」
私は冬が来る前に、この町を発つことに決めた。
最後の夜、私は二階の窓から町を見下ろした。小さな電球の灯りが、ポツリ、ポツリと点いている。それぞれに物語があり、それぞれの「今」がある。
私はこの町の名前を一生忘れないだろう。でも、明日からはまた、別の「ここ」を探して生きていく。
翌朝、駅のホームに立つ私の手には、小さな鞄一つ。そして、やってきた一両編成の電車に乗り込む。ディーゼルの音が響き渡り、ゆっくりと列車が動き出す。
窓の外、ホームの端でトキさんが小さく手を振っているのが見えた。私はその姿が見えなくなるまで、何度も手を振り返した。
電車は、昨日までいた「遠い町」を背にして走る。トンネルを抜けるたびに、空の色が変わっていく。
私は手帳を開き、新しい真っ白なページにペンを走らせた。
「遠い町のどこかで、私は私を見つけた」
書き終えると、心地よい眠気が襲ってきた。
ガタン、ゴトン……と響くリズムは、もう私を急かすことはない。私は目を閉じ、まだ見ぬ次の町へと想いを馳せた。
どこへ行こうと、そこが私の居場所になる。そんな根拠のない、けれど強い確信が、胸の中に静かに灯っていた。
(了)
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もう2週間も、まいにちお外は雨です。
きょうもあそびに、いけないなぁ
はるくんはしょぼんとしています。
いいやちょっとだけ、あそんじゃおう!
雨がこぶりりになったのをみて、はるくんはおにわに出ていきます。
大きな水たまりがいっぱい。
そこでスイスイとカエルがおよいでいます。
はるくんはうれしくなって、水たまりをのぞきこみました。
するとびっくりしたカエルは、
ぴょーんと
ジャンプ。
はるくんもびっくりしておもわず、とびはねました。
ドロがおようふくにつきます。
「どうしよう……」
はるくんはこまってしまって、ドロを見ました。
でもよく見ると、ドロのカタチが『くんしょう』みたいでとってもかっこいいのです。
ママにおようふくを、よごしちゃったことおこられちゃうかな。すぐに「おきがえしなさい」って言われちゃうかな。
でもこんなにかっこいいドロだったら、もうちょっとつけていたいなとはるくんはおもいました。
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9/1 『夏の哀愁』
くたびれ果てた夏を私は洗濯機で洗濯した。
秋風に干して、色あせた夏はほんの少し汚れが取れた。
あんなにも鮮やかにまぶしかった夏は、強すぎる日差しの中で すっかり色褪せ秋風の中心地良さそうに目を閉じていた。
そんな 哀愁ある姿に愛しさを感じた。
9/2 『涙の形の月』
雲から見える朧月は半月だったのだろうか。
涙の形に見える。
今宵は空も泣いているらしい。
晴れている中、雨が降るのは狐の嫁入りというが、朧月夜に晴れた空から降る雨は何というのだろう。
一体何のもののけが嫁入りしているのだろうか……
涙の月は、誰の涙だろう。
9/3 『煌めくトンボたち』
太陽に照らされてキラキラと輝くトンボたち。
それは特別な魔法がかかっているのだ。
秋という名の魔法が。
金色の稲穂の上に、さらに光り輝くトンボたち。
ふと妖精の魔法の粉、というのはこんな輝きなんじゃないかなと考えた。
9/4 『いわし雲と秋の風』
イワシの大群がやってきた。今日は釣り放題である。天の川の釣り堀で、秋の風に流されていわし雲の大群がやってきたのだ。
牛飼いなんてやめて漁師に転職しようかな。
そうしたら自分の船も持てるし、天の川を越えて織姫にも会いに行ける。
9/5 『コスモス咲く頃に』
「コスモスが咲く頃に、帰ってくる」
そう言ってあなたは出て行った。
今思えば、死亡フラグだったのかもしれない。
だけどね……
あれ以来、秋になってもコスモスが咲かない。
私はコスモスを描いて壁に飾った。
すると、
「ただいま」
あなたの声が聞こえた。
9/6 『月明かり寂しくて』
窓から注ぐ月明かりは色がない。
夜はモノクロームの世界だ。
静かに海の底に沈んでいく様に。
こんな夜にはただ一人。
泣いてもいいだろうか……
ただ月ばかりが空から、
私を見ていた。
9/7 『彼岸花と稲荷神社』
彼岸花が咲いたということは、あやつが帰ってくるのじゃろ。
盆にも帰ってきたばかりじゃが、律儀に顔を見せてくれるのは嬉しいの。
全く人というのは、あまりにも儚い命じゃ。
じゃが死後もやってきては話してゆく。
我が神で良かったの。
幾千年そなたを待ち続けられる。
9/8 『さようなら夏の日々』
さようなら、眩しい夏は終わりました。
唸るほどしんどかった、あの夏は終わりました。
僕たちの青春の、あの夏は終わりました。
もうすっかり秋の風に、
この身を置いて、
今はただ、眩しい日々を思い出すのです。
9/9 『歌う秋風』
秋風はその身の軽さに、歌を歌い出しました。
葉っぱの間を、ヒューロロロ♪
「デュエットしよう秋風さん」
コオロギが誘います。
響くコオロギたちの歌。
どんぐりのがパラパラと地面に落ちて、リス達は大喜び。
「もっと歌ってよ秋風さん」
食いしん坊のリス達は飛び跳ねました。
9/10 『優しい死神』
死は平等に誰にでも優しくやってきて、死者を抱きしめるのだ。
貧しいもの哀れなもの、安らかな死後の世界へと運んでいくのだ。
いいや、そんな穏やかな死神ばかりではない。
それでもきっと、祖父の元に訪れたのは優しい死神だったのだろう。
穏やかな死に顔をしていたのだから。
9/11 『遥かなる夢の彼方』
私は旅に出た。
不安の丘を越え、太陽が死んだ海を船で行く。行き場をなくした優しさが待っている遥かなる夢の彼方の大陸目指し。
途中で、疲れ果てた愛情と聞いてほしい我が儘と、それから口に出せなかった愛の言葉たちに会った。
もう少しだ、
夢の彼方へきっとたどり着く。
9/12 『稔り頭部を垂れて』
久々の里帰り。
稲穂は重く頭を垂れ秋風の中に豊かな実りの季節がやってきた。
スキップしながら帰る子供は、幼い5歳の私だ。神輿を担ぐ子は、11歳の私だ。
稲刈りをしている男性は、本当はそうなるべきだった私だ。
「ただいま」
玄関の扉を開ける。
「おかえり」
母の声。
9/13 『りんごの色の頬をして』
君は林檎色の頬をして、嬉しそうに飴を頬張る。
秋祭り、娘と二人歩いた道。親子連れが歩いていて、幼かった娘を思い出す。
今、私は孫の手を引いて歩いている。
お彼岸で帰ってきた娘と孫の3人で同じ道を歩く。
飴を買ったら孫娘はあの日の娘と同じ林檎色の頬の笑顔。
9/14 『銀色のすすき野にて』
友人と久々に会う約束をした。
銀色のすすき野にて君を待つ。
君はあの頃と変わらない姿で現れた。
もう50年も経つというのに。
人と妖とでは生きる長さが違う。僕も妖になりたかった。
そうしたら君と同じ時間を生きれるのに。
9/15 『最後の蝉とコオロギ』
今年最後の蝉がぽとりと地面に落ちた。
たくさんのコオロギたちの歌を聴きながら、夏のことを思い出す。
このコオロギたちよりずっと大勢の仲間たちともっと大きな声で歌っていたのに。
蝉は最後の歌を歌った。
やがて静かになり、コオロギたちの歌ばかりが響き渡ったのだ。
9/16 『残炎は夕日に溶けて』
夏の名残が、夕日の中に溶けていた。
暑さも、思い出も、みんなみんな夕日の中。
激しい 眩しさで人々の上から照らしていた太陽は、思い起こすようにその光を街に照らし出した。
だが静かな闇があたりを包み、夏は終焉を迎えたのだと悟った。
9/17 『宵闇が訪れた時』
宵闇は街を行く。
泣いているあの子の窓から入って涙をそっと拭って、また街明かりの下を飛んで行く。
黒猫に挨拶をして、月にキスをして、寂しい歌を歌いながら。
夜明けを告げる鳥が歌い出すその時まで……
宵闇はそっと誰かの家の窓から入って、悲しみを拭ってゆくのだ。
9/18 『秋風の便り』
「こんにちは!秋風さんからお便りです」
友達の秋風さんからお便りが届いた。
私は嬉しくなって便箋を開いた。
春風さんへ
お元気でしょうか。色づき始めた木々の間を走り抜けリスに挨拶する毎日。葡萄も梨もたわわに実っております。
大好きな春風さんへ銀杏の葉を送ります。
秋風
9/19 『夢明かりの晩に』
蜜蝋の中に 一昨日見た悲しい夢を 一つ 溶かし込んで明かりをつけた。
悲しい夢は綺麗な光になってゆらゆらと輝いた。星の明かりが輝く寂しい晩に、蝋燭の光はまるで星が一つ増えたみたいだった。
悲しい夢は綺麗な光になって一晩中輝き続けた。
#140字小説
9/20 『恋するとは残酷なこと』
こんなにも恋しているのに、あなたが恋するのは私ではない。
こんなにも愛しているのに、あなたが愛するのは私ではない。
だからあなたを殺して、その心臓だけでもいいから頂戴。
こうしてまた一つ、恋という名のエゴのもと命が消えたのだ。
9/21 『9月の瓶詰め』
夏が終わり涼しい9月がやってきた。
こんな日には9月の瓶詰めを作るに限る。
咲き始めたコスモスの花、田んぼの上のトンボのきらめき、涼しい風にたなびくいわし雲。
瓶の中に入れて、そっと棚にしまう。寒さの冬や、雪解けの春、暑すぎる夏にちょっとだけ中身を出して楽しもう。
9/22 『雨音は涼しさを運んで』
雨音が聞こえる。
夏の終わりの夕立と、9月の初めの台風と、少しずつ雨は涼しさを運んできてくれる。
雨上がりの空はいつもより透き通って、夕日に染まった 入道雲が名残惜しそうにこっちを見ていた。
もうすっかり夏は終わりを迎えたようだ。
9/23 『憂いある月の下で』
月がだんだんとかけていく。
みんなのため息を吸い込んで、月はだんだんと砕けて小さくなって消えていく。
その優しい光を不安な人々に与えながら。
優しい 小さな光は 人々の胸の中で小さな希望へと変わっていくのだ。
そして訪れる新月。
9/24 『月を見上げた兎』
かぐや姫を見守るため、兎は月からやってきた。姫はすっかり美しく成長し、兎は胸をなでおろした。
姫が月に帰った後も兎は地上に残った。
姫が愛した地上を兎もまた愛していたのだ。
だがこうして月を見上げて、兎は姫のことを思い出す。
今宵、満月。
姫はいかがお過ごしか……
9/25 『都会の夜』
大人になったら都会の夜を楽しむんだ。
夜の街でお酒を飲んで、夜更かしして、おしゃれをして……
なんて 子供の頃に憧れたけど、大人になってそんなにいいものじゃないということはわかった。
お酒を飲んで、夜更かししたいわけじゃない。だけどそうしなくちゃ大人って大変だ。
9/26 『コスモス色の恋心』
学校の帰り道、花占いをするの。
コスモスの花がたくさん咲いていて、1つ摘んで。私のことが好きかしら?
好き、大好き、愛してる!
9/27 『冷たい夜の底で』
静かなやすらぎがやってきた。
冷たい夜の底で。
君は一人泣いていて、私は手を差し伸べたいと思った。だが一体私に何ができよう……
君の頬を伝う涙をそっと拭ってあげたいが、それも叶うことがないのなら、私は消えて夜露になりたいと思った。
9/28 『両手いっぱいの秋』
「ママ見て見て!どんぐり」
息子は両手いっぱいにどんぐりを拾ってきて満面の笑顔で私に見せた。
「すごいね!」
私がそう言うと嬉しそうに笑った。
その時から毎日、どんぐりがポケットにいっぱい。
まだまだ当分続きそうである。
9/29 『春からの手紙』
入道雲のお兄さんは秋風に手紙を渡した。
秋風ちゃんへ
そろそろ台風シーズンもさよならして、本格的な秋になったと思います。お仕事とても忙しいと思いますが頑張ってください。
秋風ちゃんが心地よく吹いてくれるからみんな秋が大好きなんです。私も大好きだよ。
春風
9/30 『収穫祭の祭り囃子』
街角で 祭り囃子が聞こえた。
あゝ、そうかもう収穫祭の季節だ。この辺りでも秋祭りなのか。そう思って 祭り囃子がどこから聞こえてくるか探したが、音ばかりが耳の中に響きどこで 祭りが行われているのかわからない。
もしかすればこれは遠い昔の風の記憶なのかもしれない。
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浴室で右腕を掲げた。ダウンライトが明るく肌と靄を照らす。シャワーが降り注ぐ中、ちょうど腕の青い血管に沿って、お湯が伝っていく。
今日起きたこと、昨日起きたこと、明日起きること……全てはタロットカードをシャッフルして、日毎一枚ずつめくるみたいに、一つずつ均等に割り振られたものだとしたら。誰しもが平等に、幸と不幸を体験していくことが、あらかじめ決められたものだとしたら。
これは罰なんかじゃない。 そう、脳内で自分に言い聞かせた。
シャワーが熱いから、湯気は朦々と立ち上り続けた。何分間そうしていたか分からない。腕を降ろして、レバーを下げる。するとお湯は止まった。
――止めたから、止まるのだ。
肌に弾かれた水滴をみて、私は冷蔵庫にゼリーを冷やしておいたことを思い出す。
後で食べようと思った。
それはとても、私にとっては幸せなこと。そして同時に、あの人にとってはくだらないこと。
好きなものも嫌いなものも、どちらでもないものも、この世には溢れていて……その価値は人によって全く違う。不必要に見えても、ある人には必要であったりする。
目に見えない価値観を並べて数えて、全く同じ人を見つけるなんてこと。きっと月面着陸するくらい難しいんだろう。
そんなことをモヤモヤと考えながら脱衣所に出て、長い髪の水分をバスタオルで拭き取る。この後ドライヤーをしなくてはならないことを思うと、重たく濡れた髪を衝動的に切ってしまいたくなった。
あの人は、怒るだろうか。
薄暗いリビングには、月明かりが漏れている。本当はここが外で、向こう側が部屋なのかも知れないなどと考える。 締め出されるのも、閉じ込められるのも、本人の思考次第なのだ。 私の居たい場所は、一体この世界のどこにあるのだろう。
そんなの誰も教えてくれないし、自分でもよく分からない。
フローリングとスリッパの衝突音だけが響く部屋。時計は午前零時を示している。
今の私は透明人間にかなり近いのではないか。そんなことも最近はよく思い浮かぶ。 透明で軽い命は風に吹かれなくとも、勝手に宙へと浮き上がるもの。私はふいに引きちぎれてしまいそうな、心許ない糸を右手首に巻き付けて、いつでもその浮力に抗っているのだった。
肌を鬱血させながら、地面というものにいつまでも執着している。
ふわふわとした思考を、頭痛が現実に引き戻してくれた。けれど、痛み止めはもう手元に無い。
冷蔵庫をあけると、明朝の卵が一つしかないことに気づいた。私は食べなくてもいいかと過ぎって、やはり私の生活の中心にはあの人がいるのだと思い知る。
バスタオルを巻いた胸元に冷気が当たり、身震いをした。なんだか居心地が悪かった。風邪でもひきそうな気分だけど、それで仕事が休めるのならそれでもいいやとも思う。
フルーツが色々入ったゼリーと、食器棚の引き出しから銀色のスプーンを取り出す。リビングのテーブルは一人で掛けると、やけに悠々としていた。黙り込む、あの人の質量を想う。
今夜はどうやら満月らしく、電気をつけなくても部屋は明るく感じた。薄ら青い月明かりが、スプーンに掬った、偽物みたいな青いゼリーに吸い込まれてゆく。
――きらきらと。
私はゼリーを舌で潰しながら願う。明日はきっと、このテーブルであの人と話し合うことが出来ますように。
あの人にとって一番価値あるものはプライドだ。私よりもずっと大事なそれを擦り付けて、勝ち誇ってくれてもいい。だけど、私のくだらない話も、時には掬いとってほしい。
結局のところ、私の意見が通らなくたって構わないのだ。私はただ、話し合いたいだけだった。なんでもない事も、大切な事も。多分、こうなってしまう前からずっと。 言葉を失ったら、それは人間と呼べるのだろうか。必要最低限で済ませる暮らしに、何か意味はあるのだろうか。
同じ席に着いて、目を見て話してほしかった。誤魔化さないでほしかった。本音で話してほしかった。
今では問題が起こると、なんだかんだと理由をつけて席を降りるあの人の背中。もう出会った頃のように広くもなく、優しくも見えない。
見て見ぬふりの日常は、一見穏やかにみえる。けれど知っている。ハリボテの日常に、愛は宿らないのだと。
割れたグラスも、二度とは直せない。けれど……どこかに回収されて、高温で融かされて、また同じ顔のグラスに生まれ変わるかもしれない。だとしたらまた、選んでくれるだろうか。私は選びたいと思えるだろうか。
満ちては欠ける、月の夜。変わって欲しいのか、或いは変わりたいのか、それすらももう分からなかった。
もう一口ゼリーを口に運ぶと、爽やかなソーダの香りが広がり、すぐに甘味を失っていくのが分かった。
右腕を掲げると、銀色のスプーンに月光が反射する。てらてらと。白い肌も、発光していたのかも知れない。
それから手首にはまだ、青みがかった血管が薄らと浮かんでいた。
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