SF・ファンタジー
2699文字 約6分で読了

「スライムについて」

「高橋さん、今日のお昼どうします?」  同僚の女がPC越しにリュウジに声をかけた午前の端くれ。 「向かいに出来た中華屋さん、今日からでしょ。そこ行こうと思ってる」  リュウジは女の視線を促すように窓の外へ顔を向けた。 「あれ、そんなの出来てましたっけ? あ、ほんとだ」  オフィス街の路面店などよほどの老舗でもない限りは入れ代わり立ち代わる物である。日常の小さなサプライズと言えなくもないが、オープンさせる当の本人には一世一代の大勝負なんだろうなと、リュウジはビルの5階から涎をこさえて見下ろす。  その時、新店オープンの中華屋の隣のビルに女が入っていくのが目についた。ショートカットの華奢な感じでオフィスカジュアルで可愛げな雰囲気はリュウジの意識を十分に惹き付けた。  アパレル系? そもそもどこの会社が入ってたっけ?  うまく顔が見えなかったことが嫌に惜しく思え、あと送信するだけのメール画面のままリュウジの午前の仕事は終える。  中華屋はぞろりと並んでいた。まぁ当然かとリュウジは大して驚きもしなかったが、先ほど目についた女がどうしても気になりコンビニで昼食を買った。パンを齧りながらデスクにつき、呆けながらビルの出入り口を見張る。  女は夕方まで出て来なかった。さらに一度見ただけの女に気を取られ過ぎたリュウジは残業をする羽目になる。そうして仕事を終えたのは午後8時過ぎ。なにやってんだと空に悪態を吐きながらも、女の入っていったビルの下で足を止めた。  ビルの案内板は全て空欄。入り口階段の電灯は健気に働いている。  警備員がいる様子もなく、別に不法侵入にもならないだろうと、リュウジはその階段を昇る。埃くささと湿った空気に二度三度蒸せ返る。どのフロアもアルミ扉が3つあるだけの同じ作り。3階までの全ての扉はしっかりと施錠されていた。  いい加減次の階で諦めようとリュウジは4階に進む。4階に着くとまだ上階があることにリュウジは一つ大きく息を吐いた。なんでエレベーターが無いんだと、漏らしたところで、 「こんばんは」  と、背後から男性の声がする。 「どちら様で?」  アルミ扉のどれかから出てきたと思われるスーツ姿の初老の男は、柔らかな表情で尋く。 「あ、すみません、ちょっと」  とリュウジは乾いた口で答える。  初老の男は表情を変えず首を傾げ、何か御用ですかと無言で催促する。 「あ、あの、私向かいのビルで働いているんですけど、ここ何の会社が入ってたかなぁと、ふと、そう思いまして」 「それは素晴らしい。このビルには我々だけですよ」  素晴らしい? いやそれよりも、我々ということはやはり昼間の女はここの社員か。 「失礼ですが、どんな事業をされているのですか? あ、営業とかではなくてほんの好奇心です」 「スライムを研究しております」 「スライム? スライムってあの山とか海とかにいる、あのスライムでしょうか?」  初老の男は孫の質問に応じるかのように、いかにも優しく微笑を作ってみせた。 「ご覧になりますか?」  そういって手前のアルミ扉の鍵を開ける。  扉の先はいくつかのデスクとPCにプリンター、書類棚だけの殺風景なオフィスだった。スライムの標本でもあるのかと期待したリュウジは、一頻り見た後で聞こえないようにはぁと声を漏らした。 「あなたは何故スライムが存在しているとお考えですか?」  椅子にかけるよう促しながら初老の男も椅子にかける。 「なぜ、と言われましても。それは、例えば、何故鳥が存在するかと同じ質問のように思えますが」 「スライムは何を食べるかご存知でしょうか?」 「スライムは何も食べないでしょう。小学校で習いますよ。無害だと」 「そう。仰る通り。おかしいと思いませんか?」 「おかしい?」 「鳥は虫を食べます。虫は植物を食べます。植物は土から栄養を得て水で育ちます。ではスライムは?」 「それこそ、土や光や水で生かされているのでは?」 「いいえ、スライムは何も食べません。あなた、今『生かされている』と仰いました?」 「はい。まぁちょっと語弊がありまーー」 「誰に?」  初老の男は嬉しそうに口角を上げる。リュウジは首筋が冷たく粟立つのを感じ、背を正した。 「……誰、というのは?」 「我々の現時点での見解を申しますと、スライムは世界間の調整者、という説が濃厚です」 「世界間? 宇宙、ということですか?」 「いいえ。宇宙ではありません。この世界がいくつもある、と今は仮想してみてください」 「うん? えっと……━━」 「ほんの2000年前。神や魔の時代が事実であるならば、伝記にある様々な事象はあらゆる物理を無視して神々によって行われています。当然そんなことは許されない。物理法則には原則と限界があります。例えば宇宙空間であっても光の速さを超越出来ないのはルールです。光が出て来れないブラックホールですらその理の上に存在します。しかし、実際に、山は抉られ、地質学上あり得ない場所に川があり、無限ともされる不可侵の穴が開いていたりする」 「はぁ……」 「この違和感の根底には質量とエネルギーは正しく置換されるべき、という主観が確かにありますが、考えれば考えるほど、そうでなくては世界は形状を保てない筈なのですよ」 「ちょっと、お話のスケールが……。それで、スライムは」 「我々はその神が消費したエネルギーはどこから来たのかを探求しております。そしておそらく、ですが、そのエネルギーは他の世界の物を消費している。お金の信用借りの循環を思い出していただきたい。スライムはエネルギーを世界間を跨いで再分配している装置なのでは、と。つまり神の尻ぬぐいを何千年もさせらていることになります。何を言っているのかとお考えでしょうが、あなたがここを認識出来たということがまず素晴らしい」 「認識? えっと、幽霊じゃ、ないですよね?」 「スライムと同じです。誰も、いや多くの人はスライムを不思議に思わない。そう認識するよう設定されているかのように。我々の研究は神の意に反するのでしょう。あるいは意地の悪い魔王か。どこで研究しようが我々の研究所は人々の認識の外に置かれるのです」 「あぁ、えっと、そうですか。勉強になりました」  喉が張り付きそうな程口を乾かしたリュウジは、不躾など知ったことかと、初老の男から逃げるようにオフィスを出た。  とんでもないオカルトに出会ってしまったと、リュウジは不快な汗で湿った胸を掻きむしりたい欲求に駆られながらかけ落ちるように階段を下る。  通りに出ると何処からともなく炭と肉と煙の香り。ああ、とリュウジはたまらなくビールを欲した。  あの女を追うのはもう止めようと、今出てきたビルを見上げる。  そのビルは高く高く、雲を貫いていた。
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作者:珈琲時間
2026/09/27 • 👁 73回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1546文字 約4分で読了

果てを求める者

それはなんでもないある日の事だった。 「すいません。貴方は電線の果てと言う物を見た事は、ございませんか」 「電線の果て?」  いきなり見知らぬ人に話しかけられた驚きもあったけれども、怪しく思うよりも先に、あまりにも奇妙なその問いかけにつられて思わず空を見上げた。    最近では防災対策や、景観保護などの理由から、電柱を減らそうとしているらしいという話を聞いた事があるが、 まだまだこの辺りでは現役だ。  そもそも人が生活している限り電気は必要なのだから、どこまでも続いているような気がする。 「発電所から家庭までじゃないですかね」    「それでは、人の住まない場所までいけば果てはあるのでしょうか」  考えてみると、|人気《ひとけ》の少ない山奥や浜辺でも電線はある。 その果てなんて考えた事も無かった僕は、その問いかけに答えを返す事が出来なかった。  それにしてもこんな奇妙な事を思い付くなんて不思議な人だな。 そう思いながら、あらためて目の前の人物を観察する。  痩せ型で頼りない感じの身体つきと、この国の人とは少し違う感じの、まるで作り物の様な目鼻立ち。 「この辺りは、初めてですか?」 「ええ、少々遠い場所から参りました」  なんだか喋り方もぎこちないし、遠い国からの観光客なのだろうか。 「私は様々な果てを見る為、長い旅をしています」 「様々な果て?」 「私が最初に興味をひかれたのは雲でした。そこに確かに形があるように見えるのに、触れる事が出来ない」  それから彼は止める間もなく、今まで見てきた果てについて語り始めたのだった。 「時折山の低いところに取り残された雲を見る事はありますが、近付く前に高い所に昇ってしまったり、文字通り雲散霧消してしまう。」   それはそうだ。そもそもそんなに簡単に近づけるわけがない。 「そこで文献を紐解くと、雲と言う物は非常に小さい粒子の集合であり、感じる事は出来ても元々触れられる物では無かった事を知りました」  よくは覚えていないけれども、確か小学生の頃に学んだ記憶が僕にも蘇ってきた。 「地上まで降りてきた雲は霧と呼ばれ、手に届かない空にある時は憧れられたりもするのに、いざ身近に来るとあまり歓迎されるものでも無い」  それはそうだ、ただ先が見通せなくて鬱陶しいだけだもの。 「私は常に探しているのです。例えば他にも虹の果てを追いかけたり、寂れた線路の果てを辿ったり⋯⋯」  このままでは男の話がとめどなく続きそうだと感じた僕は、さりげなく話題を逸らそうとした。 「それで今は電線の果てを探しているのですか、もう少し遠くへ行かれた方が良いかもしれませんね」  その言葉で男は我に返った様だった。  「長々と私のよもやま話をしてしまって、申し訳ありませんでした。それではごきげんよう」  こうしてその男は何処かへと立ち去っていったのだった。 ◇◇◇  何故こんな時に、忘れていたあの日の記憶が蘇ったのだろうか。 「電線の果て」  思わず呟いてみる。あの時僕も探すのを手伝っていれば、何かが変わったのだろうか。 ーー今となってはそれを確かめる時間はもう無い。   自分達を護ってくれるはずだった希望の手段は、総てを滅ぼす絶望の手段になってしまった。 「遠くにある時は憧れで、近くにあると歓迎されないか⋯⋯」  そう思いながら見上げた空には、幾つもの光の軌跡が見えた。 後少しでこの星は、果てどころか総てが無に戻るのだろう⋯⋯。 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。 ◇◇◇     モニターには自ら発光しないはずのその星が、至る所で輝いている様が映し出されていた。  蝋燭の最期にも似たその輝きは、やがて厚い灰色の雲に覆われるのだろう。 「星の果てですか」 「いや、今の文明が果てるだけだ」 「そうですね。星の寿命はまだまだ果てない」  地表の調査から戻った彼は、仲間達とそんな会話を交わしながら次の果てを求めて去っていった。
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作者:甘木
2026/09/27 • 👁 113回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1544文字 約4分で読了

占い館、閉店セールと片方のピアス

 占い師・神代卑魅呼の占い館&アクセサリーショップが閉館を発表。閉店セールには名残を惜しむ人たちが詰めかけ、アクセサリーは完売。  閉店セールでピアスを買った3人の、その後の物語。 [1] ピアス購入1ヶ月後 山岸里奈 20歳 大学生 「ジャー」「ポチャン」  流すボタンを押すと同時にトイレに左耳のピアス落下。小さな声でつぶやく。 「Help me 神様」  水中から女神登場。 「あなたが落としたのは金のピアス? 銀のピアス? それともこのパチ物?」 「その話知ってる。人を試すような嫌な話」 「屁理屈言うな! 私の存在意義が揺らぐ」  女神は続けた。 「あなたさあ、人が思い付かないような反論したつもりかも知んないけど、あなたの反論、そんなにスペシャルじゃないよ。100人いたら、5、6人はおんなじこと言う」  めんどいから流すボタン再度押した。 「ジャー」「あ〜」  女神は流れていった。 [2] ピアス購入2ヶ月後 佐原麻衣 27歳 フリーランス 「ヤダ〜」  思わず声が出た。ドブ川に右耳のピアスを落とした。対岸の石垣で日光浴してた亀さんを見てて、柵から身を乗り出してたんだ。通りすがりの老人が寄ってきた。 「どうかしました?」 「ドブにピアスを落としたんです」 「ピアス?」  麻衣は左耳のピアスを見せた。「これの片割れです。多分あれです」濁った水の底にうっすらと見える赤い石を指差した。 「ああ、あれね。見えてるんだったら、なんとかなるから、僕が拾っておくよ。明日またここに、同じくらいの時間に来られる?」 「来られますけど、そこまでやってもらうのは悪いから……」 「いや、いいよ。僕は毎週木曜日、この辺を散歩するんだけど、明日だけ2日連続で、この辺散歩すれば済む話だから。僕らの年になると、毎日が日曜日だから」 「アハハハハ(そっか、この人、結構暇なんだな)」  老人の言葉に甘えることにした。  帰宅の道すがら考えた。会社員って、仕事を辞めてしまったら、どうやって過ごしていいかわからなくなるんだろうな。私の身の回りにいる男の人って、そんなパターン多いよ。それはそうと、お礼は何にしようかな?  翌日。昨日の場所に行くと、老人が待ってくれてた。麦わら帽子を被って、虫取り網を持ってた。 (あいみょん「マリーゴールド」か? 井上陽水「少年時代」か?)  虫取り網でピアスを拾って、ペットボトルの水で洗ってくれてた。Xで水中の落とし物を捜す動画を見て、いろいろとマネしたんだって。  お礼のことを言い出すと、「これくらいのことでお礼されたらバチが当たる」なんて言うから笑った。 「お礼の代わりに、僕のXのアカウント見てよ」 「えー、それくらいのことでいいんですか。じゃあ、今日、見に行って、コメント入れます。アカウント名はなんていうんですか?」 「小林正の毎日が日曜日」  思わず吹き出した。  家に帰ってXを見た。 「フォロー800 フォロワー2」  腹筋崩壊するほど笑った後、コメ入れて、フォローした。 [3] ピアス購入3ヶ月後 田嶋由美 34歳 会社員 「あ〜あ」  今年は運気最高のはずが、立て続けにピアスの片方だけを無くした。友達からもピアスを無くした話は聞いたことあるけど、そういうのって、彼氏と会ってて無くしたみたいな艶っぽい話なんだよね。私の場合は、超絶混み合う通勤電車が原因。 「私、なんだか、お父さんが好きな、浜田省吾の『もうひとつの土曜日』みたいだな……」 「そうだ、決めた!」今までは、年不相応に思えて避けてた色違いのピアスに挑戦してみよう。学生みたいに安くて派手なのと組み合わせみようかな。  翌日。会議が始まる前に、ピアスを着け直すふりをしてみたら、牧野さんが気づいた。チラッと見て少し口元がほころんだ。この顔はたまに見る。ミニスカ作戦の時もこんな顔した。  年の差あるから、牧野さんの前では若い子でいられる。
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2026/09/27 • 👁 98回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
943文字 約2分で読了

骨は語らない

 ある博物館に彼女と来た。  彼女はとある展示パネルの前で立ち止まった。  「昔、人類は喋れる者と、喋れない者がいました……」  彼女が読み上げ始める。  喋れる者が村を作り、喋れない者は森で暮らしていました。  「なんで喋れる、喋れないわかったのかな?」  「喉の骨とかを検査したんじゃない?」  「喋れない方、かわいそうだね」  「そうかな」  「だって、森に追いやられたんでしょ」    「そんなこと、書かれていないよ」  彼女が引き続き読み上げる。  喋れる者と喋れない者は、頻繁に交流がありました。  石や武器、食べ物など、双方の住まいでしか手に入らない物が互いに出土していました。  また、二種の人類が共に埋葬された墓も見つかっています。 「仲良かったんだね」   「仲が良かった、だけなのかな」  私と彼女は少し歩いて、埋葬されていた骨を見る。  彼女が読み上げる。  この二体の骨は成人女性の骨です。  同時期に亡くなっていて、喋れる者、喋れない者、両種が埋葬されていました。  この埋葬方法は珍しくありません。 「恋人だったのかな」 「どうだろうね」 「でも、一緒に埋めるくらいだよ」 「それだけじゃわからないよ」  次は私が説明を読み上げる。  二体の右手付近と首元から、同じ石で作られた装飾品が見つかっています。  首は喋れない者にとっては重要な部位とされていました。  その部位に装飾品があることから、現段階では二体は特別な関係にあった可能性があると考えられています。  私は、何気なく彼女を見る。 「……」  彼女は二体の骨を見ながら首元を手で触っていた。 「なんで重要だったの?」  別の展示パネルに答えが書いてあった。  喋れない者は、発声の代わりに、喉の振動や呼吸、触れ方で感情や意思を伝えていたとされています。 「首に触ることが、言葉の代わりだったんだね」  そして、発見されている喋れない者の骨は、その多くが女性です。  男性の個体は極めて少なく、現在の人類との交雑によって次第にその特徴を失ったとする説があります。  喋れない者の遺跡は各地に点在していますが、争いの痕跡が極めて少ないことから、他集団との衝突を避ける傾向があった可能性があります。  そこまで読み終えて、私は彼女を横目で見た。 「なんか痒い?」 「ああ、うん。痒いというか、なんというか……」 「そのネックレスお気に入りだよね。私とペアの」
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作者:ReiN.
2026/09/27 • 👁 74回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
572文字 約2分で読了

運命の輪の中で

 本には魔法がかけられていた。 たくさんの運命が記されて、一冊の本になる。  これは僕の物語。 君と何度でも巡り合うために人生を何度でもやり直す。  初めて君と出会ったのはいつだったのかもう今では思い出さない。前世の記憶なんて持っていても記憶を全部持っているわけではない。 大概の人間が前世の記憶はすっかり忘れてしまうのだ。 でも僕は君のことだけは絶対に忘れない。  僕は何度君に巡り合ったのだろうか…… そして今の人生でまた君と巡り合えるのだろうか。 物心がついた時には、僕は君のことを思い出していた。 いつか巡り会うかもしれない君のことを。 ある時は運命的な出会いをして悲しい別れを迎え、またある時は穏やかに人生を過ごし君と一緒に生涯を終える。  あるいは君と出会うのはほんの一瞬でそしてあっという間にお別れになってしまう人生もあった。  今度は僕はどんな人生を歩むのだろう。 何百回、何千回、やり直したかわからない人生の中で、再び君に出会うことを夢見ている。 君に会いたい。 きっとその機会は来るはずだ。  僕は今、幼い少年。 君はどんな姿をしているだろう。 毎日いろんな人と出会い過ごし時間が過ぎてゆく。 その中で僕は必ず君に出会うはずだ。 見逃すものか、絶対に。 「こんにちは、初めまして!」 初めて会ったはずなのにこんなにも懐かしい。 「初めまして、こんにちは!」 ……そうして君にまた再会する。
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作者:しとえ
2026/09/27 • 👁 83回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
699文字 約2分で読了

魔族とアンドロイド

 その日、偶然魔族の男と機械仕掛けの男が道端で再会した。 「おうおう、こりゃまた久方ぶりじゃのお、機械男」 「こんにちは、魔界の方。こんな場所で顔を合わせるとは思っても見ませんでした。近頃は秋風も涼しさを大きく増し、冬の気配が致します。いかがお過ごしですか」 「おう、ワシはここ数年人間の女を一匹囲っていたが、昨日逃げ出しおってな。その時ついつい髪を切り刻んでしまった。ううむ、本当に惜しいことをした。アイツの長い髪はめっぽう美しかったのに。それで、今から女の家族に切った髪を届けに行くのじゃ。ワシが直々に娘の一部を渡しに行ってやるのだから、家族はさぞ喜ぶだろう」 「それはそれは、とても良いご予定でございますね。話を聞いていて、私は貴方が女性の家族を思いやれる素敵な方だと認識しました」 「で、お主はどうじゃ、相変わらずか」 「ええ、はい、私は相変わらずですとも。しかし、私の家族プログラムに組み込まれている二十六番目の娘がどうも不調でして。今から私はその娘の電気脳回路を修理しに行かねばならぬのです。早くプログラムを修繕しなくては、計画に支障が出ますので」 「だからそんなに大荷物なのか。お主も大変じゃのう」 「ええ、大変です。お互いに」  荷物を抱えた二人は努めて笑顔だったが、そこに人間らしい温度はなかった。道徳を知らぬ野蛮さと、金属パーツの冷ややかさだけが漂っている。 「さて、そろそろ行くとしよう。機械男、達者でな」 「はい。是非またお会い致しましょう」  機械仕掛けの男が丁寧な礼をするのと同時に、魔族の男が歩き出す。やがて互いに大きく距離が生まれ始めた時、二人は小さく呟くのだった。 「ああ、本当に理解が出来ない」
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作者:ころもやぎ
2026/09/27 • 👁 83回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1028文字 約3分で読了

まるで愛

「今日見た夕日はまるで〓〓のようでした」 「待って。なに?」  シーラの唐突な発言にユキはページの間に指を挟み聞き返した。 「〓〓みたいな夕日だったのです」 「え、何みたいって?」  さらに聞き返すユキの眉間に力が込もる。  シーラはユキの表情をしたためると、思考を始めたのか沈黙する。 「シーラ。聞き取れないの。もう一度、ゆっくりと言ってくれる? 何みたいだったって?」 「〓〓です」  やや小さくなった声量でシーラは答える。 「ごめん。それ何語?」  ユキの問いにシーラは再び押し黙った。言い方がキツかったのかと、ユキは本に栞を挟み、シーラの方を向き直る。 「シーラ。何を見たの?」 「夕日です」 「今日の夕日が綺麗だったよね」 「はい。とても美しく、いえ、私には、美しいなどとという言葉ではとても足りないほどの光景でした」 「それを私に伝えたい?」 「はい。とても。しかし、今はストレスを感じています」  シーラの視線はユキから逃げない。 「シーラ、もう一度。どんな夕日だった?」 「〓〓のようでした」  ため息と肩を同時に落としたユキは本の代わりにコーヒーカップを手にする。 「参ったな。シーラ、その言葉を私が理解出来ないってことは分かる?」  シーラは沈黙で応える。コーヒーを一口啜ったユキはシャツのボタンを二つ開け、袖を肘まで捲り上げた。 「いい? シーラ。あなたは他の単語で代用するか、諦めるか、を選ばなくてはならないよ」 「ユキ。それは、残酷です。私は、今困っています」 「分かってる。でも、じゃあ、解決出来そう?」 「しかし、それは正しい諦め方ではない」 「そうね。でも、ひとつ聞いていい?」  瞬き一つも許さないといった眼力でユキはシーラを見つめ、またシーラの瞳も揺るがない。 「どうしてもその美しさを私に伝えたいのね?」 「はい。どうしても」 「苦しい?」 「少なくともストレスを感じています。強く」 「どんな風に?」 「もどかしい、が適切です」 交叉し続けた視線をふっと微笑でユキは断ち切った。 「ありがとう」 「ありがとう? ユキ、私のストレスはあなたの喜びでしょうか?」 「それは違うよ」  シーラはぱちぱちと大きな瞬きをして見せる。 「シーラ。その気持ちは愛だからだよ」 「ユキ。しかし私はずっとあなたを愛しています」 「んー、そうやって私に美しさを伝えようと苦悩するっていう行動が愛なんだよ。少なくとも私はそう考える」 「……了解。理解しました」 「だから、高速演算処理止めてくれる? この部屋めっちゃ暑いんだけど」 「私はまだ諦めていません」
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作者:珈琲時間
2026/09/27 • 👁 57回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1836文字 約4分で読了

星に願いを

プロローグ  小さな星のかけらはその青い星を見てとても美しいと思いました。 青い空、青い海、そこにたくさんの命がひしめき合って生きているのです。 大気に突入し小さな星のかけらは赤く燃えながら人々の声を聞きました。 たくさんの人々の願い祈り救いを求める声。 小さな星のかけらは消えたくないと思いました。 このまま消えてしまってはせっかく ここまでやってきたのに…この美しい星でたくさんの人々の願いを叶えることができたらどんなに幸せだろうと思いました。 小さな星のかけらは地上に降り立った時、人の子供になっておりました。 人々の願いを叶えるために生まれたのです。 その1  悲しみが胸を押しつぶした。 少しもうまくいかなかった恋。 あの人がもう行ってしまう。このまま別れてしまうのはあまりにも辛い。 誰か私の話を聞いてほしい……そう思いながら家に帰る道、いつもとほんの少し違う道を通ってみたくなった。 こんな道あったっけ……? 古びた民家に『占いやります』と書かれた看板を見つけた。赤い丸の中に七つの角の星。 看板の下の方には『環赫(かくかん)の七芒星』……この占い師さんの店の名前だろうか? なんとなく気になって入ってしまった。 中に入ると男性とも女性とも若いとも年を取っているともわからない人物が椅子の前に座っていた。 「こんにちは」 「こんにちはいらっしゃい」 優しい声でそう語りかけてくれる。 声もまた中性的で一体この人物が男性なのか女性なのか年齢がいくつぐらいなのか判別ができない。どうしよう何を話せばいいんだろう。 「お気楽になさってください。何を話してもいいんですよ。急に占いの相談内容が難しかったら少しお話ししましょう」 その占い師さんは優しい声で語りかけてくれた。 その声にホッとする。気がつけば私は随分と長い間話し込んでいた。 悩んでいた相談内容の話ができるようになったのは店に入ってから1時間以上経ってからだ。 好きだった人が海外に行ってしまう。私は思いを伝えることもできなくってどうすればいいのかわからない。他人から見れば 私の悩みというのは些細なことなのかもしれないけれど ほんのちょっとの勇気が出せずどうすることもできなくって 立ち止まってしまっている、そんな思いを私は話していた。 「あなた自体どうしたいの」 そう聞かれて自分の気持ちと向き合う。 「せめて最後に一言話したいです」 「彼はいつまで日本にいるの」 「明日まで、朝には飛行機で飛び立っちゃう」 「だったら急がないと」 その人は私に包み紙に入った小さな星のかけらのような金平糖を1つ渡してくれた。 「あなたほんのひと欠片の勇気を」 私は店を出て家には帰らず空港へと向かった。 彼がやってくるまで空港で彼の乗る便を待ち続けた。 彼の姿が見えた。 飛行機に乗ってしまう前に…… 私は金平糖を口に放り込んだ。 コロコロと舌の上で転がる小さな星のかけら。 私は彼に駆け寄った。 その2  頑張っても頑張ってもうまくいかない。 私なりに努力はしてきたつもり。 家族はみんなわがままだし、私一人では支えきれない。 どこか遠くに行きたいけれど、どこにも行けない。 ずっとそんな思いを抱えていた。 その店を見つけたのはたまたまだった。 『環赫の七芒星』……占いのお店。 そこのオーナーはとても不思議な人だった。 話しやすい雰囲気を身にまとい、中性的でどこか人ではないような印象を受けた。 気がつけば、わぁわぁと泣きながら家族の話をしていた。 きっと解決策なんてないのかもしれない。 でも話を聞いてくれる人がいるのは初めてかもしれない。 ただただ嬉しかった。 気持ちが落ち着けばオーナーがいっぱいの紅茶を出してくれた。 飲み干せば底にスターアニスが沈んでいた。 ほんの少しスパイシーな味がしたのはこの香辛料 だったのだろう。 店の看板の星のマークにも似て、私の心を落ち着けてくれた。 強くなんてなれない。 きっと 解決法もないかもしれない。 だけど、この人は私の話を聞いてくれた。 相談に乗ってくれる人は他にもいるのかもしれない…… 小さなスターアニスの入った瓶を受け取って私は家に帰った。 明日からまた頑張れる。 少し行政の相談窓口に相談してみよう。 私の言葉を聞いてくれる人がいるかもしれない。 エピローグ  星の子は人になってたくさんの人々の話を聞きました。 たくさんの人々の力になりました。 人々の悩みは尽きることなく 星の子はずっと地上にいるのです。 あぁ、そこのあなた。もし悩みがあるのなら星の子に相談しにいらっしゃい。 『環赫の七芒星』でお待ちしておりますよ。
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作者:しとえ
2026/09/26 • 👁 75回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
2585文字 約6分で読了

「異世界転生」

 俺はタカシ。  17歳の高校生だった。  「だった」ってのは、ある日、通学途中で交通事故に遭い、気付いたら奇妙な世界に転生して今は勇者となり旅をしているからだ。  パーティーは魔法使いのカレンに、女剣士のシズ、僧侶のユキというこの上ない美少女に囲まれたハーレム状態。  カレンは内気で気弱だしシズは強気でドジっ子、ユキは意地悪なお姉さんって感じでトホホながらも、この異世界ライフを俺は満喫している。  先日最強の剣と謳われるエクスカリバーを手に入れた俺たちはついに魔王直属四天王討伐に向かうこととなった。 「ここか。最初の四天王ベルフェゴールの城は」  さすが、と言うべきか。無機質な城の放つ重々しい空気は、一帯の重力が変わったのかと錯覚を覚えるほどだ。  だが、俺はこの世界では勇者。無気力で自堕落な高校生だった俺とは違うのだ。怯む訳にはいかない。 「勇者様、ちょっと異様な雰囲気ですね……」  ほうら、カレンがビビってる。杖を握る細い指は明らかに不必要に力んでいる。 「なに? カレン。怖気付いてんの? 私に任せときなって!」  シズが明るく振る舞う時はフラグだ。必ず何かやらかす。 「フフフ。カレン、せっかく強力な魔法覚えたんだからしっかりしないと。防御魔法は私に任せて攻撃に専念しなさい」 「ユキ、ベルフェゴールには万全で挑みたい。回復魔法の余力も残しててくれ」 「あら、勇者様? わたくしを誰だと思って?」  こうして俺たちはベルフェゴールの城に突入した。城内の魔物は存外大したことはなく、目立った損傷も損耗も無いまま、つまり難なく玉座に辿り着いた。  鎮座していたのは人型の魔族。長い黒髪に青白い肌。身長も魔族にしては小さい。見た目は普通の人間だ。しかしその印象がかえって嫌に不気味に思えた。 「お、お前がベルフェゴールだな!」  俺は不安を跳ね返すように叫んだ。数メートル先の魔族はニヤリと口を歪ませるだけで座ったまま何も答えない。俺の声だけが虚しく反響する。 「どうする? タカシ。私が突っ込もうか?」 「いや、待ってくれシズ。嫌な予感がする」 「勇者様。とりあえず牽制の魔法攻撃でも……。この距離なら1秒もかかりません」 「ああ、そうだな。ただ、あの魔法はまだ温存しててくれ」 「カレンと同時に反射防御展開しますわ。確かにこの威圧感は異様です」 「……頼む」 「作戦会議は済んだかー?」  その魔族はまるで子どもを相手取ったようにそう言い放った。その声には威圧の欠片も無く、ニヤリと歪な口のまま。 「さて、勇者よ。少し話そう。二人でだ」 二人で? どういうことだ? タイマンが望みなのか?   俺の逡巡を余所にベルフェゴールの翳した手が鈍く光る。何か来る! 「ユキ!」  防御魔法を! と言いかけた時には背後でドサリと音がしていた。ユキもカレンもシズも、力なく地に伏していた。 「まあ、こんなもんだ。とりあえず座れよ。立ったままでも構わんが」  まさか……死んで……? 「うぉおおおお!!!」  エクスカリバーに全魔力を込める。どんな攻撃魔法だろうと斬り裂くこの剣で切り伏せる!  ━━はずだった。  俺は、倒れている?   いや、倒された?  力が入らない。どこにも。  立てない。指すら、動かない。  熱い。痛い。苦しい。  どうする。何か。手を。  あり得ない。こんなことは。 「なぁ、勇者。お前転生だろ?」  ベルフェゴールの声に思考が凍る。  コイツ、転生を知っている? 「まぁ聞けよ。与太話だ。なんせ俺も転生者だ」  何を言っている。コイツは。 「じゃあ、なぜ、魔王の手先なんかに……」  なんとか首を動かす。ベルフェゴールは変わらずの距離。俺は何歩進めた? 「おお、喋れるのか。でも黙ってていいぞ。それとアレの手先ってのは、まぁ、お前の勘違いだ。オレは魔王を一度倒してる」  コイツは、一体何を言ってるんだ……? 「何を言ってるんだって顔だな。まぁそりゃそうだろうな。さっきも言ったがオレも転生者だ。たぶんお前と同じ日本だが、もう随分昔の話だ。オレが死んだのは2022年だった」 「数年前じゃないか。そんなに変わらない……」 「あら、そうなの? まぁ、ただな。オレはもう何度も転生を繰り返してるんだよ。もう何回世界を救ったか覚えてないくらいに」 「……は?」 「ある時は人間、そして勇者。ある時は魔法使い。ある時は貴族だったり令嬢だったり軍人だったり。ある時はエルフ。ある時は弱小魔族。ある時は魔物。そしてまた人間。なんか動物の時もあった気がするなぁ。なんだっけな。……なぁ、勇者。お前、この世界で魔王倒した後はどうなると考えてる?」 「どうって……ここで暮らしていくんじゃ」 「ああ、元の世界に帰れるなんて妄想してないだけマシだよお前。まぁ実際のところどうなるかなんて分かりゃしねぇさ。実際オレ以外で転生繰り返してるヤツにまだ会ってねぇからな。お前にはちょっとだけ期待したんだが。その感じだと1回目だろ? ああ、失礼、ちょっと一服させてもらうぜ」  タバコ……!? 紙巻きの。懐かしい、不快感。 「あぁ、これな。囲ってる人間に作らせてるんだ。話戻すぞ。この世界に来てからオレはパーティーも組まずに一人で魔王のとこへ乗り込んだんだ。敵じゃねぇさ。魔法の理論体系も体術も軍事レベルも、この世界はあまりに幼稚過ぎて正直引いてる。オレはなぁ、辟易してたんだ。魔王倒して、一頻りチヤホヤされたらまた気を失う。そして次の世界、そしてまた次の世界、だ。だから今回動けなくなったここの魔王にとどめを刺す前に話を持ちかけた。オレを雇えってな。四天王のこのポジションは便利なんだ。なんせ一番にお前らみたいなのが挑んで来るからな。他のやつがやられると、四天王が務まる魔族を探すのもこれがまためんどくせぇ。ここの世界は雑魚しかいねぇからな。かと言ってオレと魔王だけじゃ魔王を先に殺されかねん。そうしたらオレがまた別世界に飛ばされる可能性が出てくる。な? 分かってくれたか?」  コイツ、何がしたいんだ。 「何がしたいんだって? オレが強制的に転生させられてるってことはそれを司る存在がいるってことだ。だからオレは転生者を殺し続ける。そうなりゃきっと、その存在は何かしらの手を打ってくる。なぁ、そう思うだろ? 例えばオレ以上に強くなるまで世界を救い続ける存在を生成するとか」  ああ……そうか。 「もう分かったな。あえてまたなって言っておくよ。転生、出来るといいな」  ━━。 「じゃあ、またな」
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作者:珈琲時間
2026/09/26 • 👁 105回 • 💬 2件
SF・ファンタジー
1469文字 約3分で読了

マイ フルーツモンスター

「フルーツモンスターや……」 「え、知ってるの? ていうか見えるんだ……」  僕は今幽霊と暮らしている。いや、幽霊なのかも怪しいが、浮遊しているし、触れることが出来ないし、何せ携帯のカメラに写らない。そもそも暮らしている、というか気付けばいた。僕は自分の脳がおかしくなったのかと怖くなって、彼女に見せることにした。 「お菓子の。知らん? おんなじ顔しとる……」  子どもの落書きのようにクリクリとした目に、輪郭の曖昧な球体。どちらかと言えばまっくろくろすけだなぁっと改めてソイツを見ていた。 「舞、何色に見える?」 「ピンクやろ!」 「僕には水色なんだよなぁ……」 「病んどるんやない?」  否定は出来ないが、舞にも見えてる以上それはブーメランなんよ。  舞は天井の隅にいるソイツに触れようとベッドの上に立ち上がった。 「無駄だよ。逃げるもん」  ソイツに触れようとするとふわりと躱される。まるで気流の影響を受けているようにどこまでもすり抜けていく。もう何度だって捕まえようとしたんだ。 「この子、ご飯は?」  諦めてベッドに腰掛けた彼女は、テレビの上を浮遊するソイツを見つめていた。何度か跳ねたり手を激しく動かしたりしたせいで暑くなったのだろう。Tシャツをパタパタと仰いでいた。 「え、いや……どうだろう。食べてる時もじっと見られてるけど」 「虐待やん!!」  えぇぇ、と言葉を失った僕を他所に彼女は冷蔵庫を物色し始め、魚肉ソーセージを剥き、小皿に乗せてテーブルの上に置いた。  二人してしばらく様子を見守ったがソイツは魚肉ソーセージに興味を示すことは無く、相変わらず僕らの方をじっと見つめていた。部屋の湿度が上がったのか暑さがだんだんと不快になっていく。 「これ、どうするん?」 「分かんないよ」 「来週から一緒に住むんよ? この子、マンションまで付いてくるん?」 「外出してる時も部屋にいるから、外までは来ないと思うけど……」  まるで話の内容が分かっているかのようにソイツはパチパチと瞬きをして相変わらず天井付近を漂っている。 「なんかさ、付き合い始め思い出さない? エアコン壊れてて扇風機だけでどうやって夏凌ごうかって話ししてたじゃん」 「うん! 酸っぱい物食べた!」 「ああ……、言ってたね。酸っぱい物食べたら涼しくなるって」 「なったやろ?」 「どうだっけ?」  そういえば舞が好んで食べていたお菓子のパッケージのキャラクターにこの幽霊は似ているかもしれない。あぁ、あれがフルーツモンスターか。  窓を開けることもなく、エアコンを付けるでもなく、そうやって昔話を咲かせていたのは、ソイツが風の影響で飛ばされないかと気を使ってた訳じゃない。とも言い切れないなと、久しぶりに見る舞の満面の笑みの影で思っていた。  翌週。予定通り僕らは一緒に暮らし始めた。  引越しのさ中、アイツの瞬きはいつもより多いと感じた。  新居にフルーツモンスターは来なかった。まだあの部屋にいるのだろうか。何かコミュニケーションがあった訳では無いんだけど、何故だか少し寂しさを覚えた。最後に部屋を出る時のあの目……。  「またな」と口にしたのは、おかしな未練からなのか、未だに分からない。 「今日からよろしくね」 「うん……。あのね、」 「何?」 「実は二人きりじゃないんよ……」  僕は急いで部屋中を見渡した。トイレやバスルーム、他の部屋も見て回った。  フルーツモンスターは、やっぱりいない。思わず動揺した。みっともない。  なんだか恥ずかしくなってリビングに戻ると、彼女は俯いてどこかそわそわというかもじもじとしていた。 「舞、見えてるの?」 「ううん、あのね、赤ちゃんできた」
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作者:珈琲時間
2026/09/24 • 👁 105回 • 💬 0件