「やあやあ!泣いてるお嬢さん。今夜はハロウィンなのにお菓子をもらいに行かないの?」
窓からピーターパンがやってきて、ふわりと私の前に舞い降りた。
「パパお仕事で帰ってこないの。今日は私一人なの」
私がそういうとピーターパンは、そっと涙を拭ってくれた。
私とパパは2二人暮らし。お仕事の晩は仕方がないの。
ティンカーベルがくるくると私の周りを回ると、私の体がふわりと浮いた。
妖精の粉で体がキラキラ。
みんなで窓の外に飛び出すとカボチャの馬車がお出迎え。
それに乗り込んだら舞踏会に出発だ。
月の宮殿、目指してカボチャの馬車は進むよ。
月の宮殿に着いたら、ピーターパンは王子様に変身して私をダンスに誘うの。
妖精の粉は今度はドレスに変わってみんなの注目の的。
「さあワルツを踊りましょう」
今夜は素敵なハロウィンナイト。
おばけも人間も妖精もみんなみんな一緒に手を取り合ってダンスするのよ。
月明かりでできた砂糖菓子をいっぱいもらったら朝の光の道を カボチャの馬車は進んで行くよ。
キラキラ、キラキラ朝日の中に月への道もカボチャの馬車も消えてゆく。
これは夢だったのかしら、それとも本当にあったことなのかしら?
夢とうつつの狭間の国、ネバーランドの王子様ピーターパンはどこに行ったのかしら?
すやすや すやすや
気がつけばベッドの中。
「ただいま遅くなったね、ごめんね寂しい思いをさせて。ハロウィンのお菓子を買ってきたよ」
パパは私に月明かりみたいな金貨の包み紙のチョコレートを渡してくれるの。
キラキラの包み紙を開いてチョコを、パクリ!
私の素敵なハロウィンナイト。
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「なんかまた、……雨が降りそうだなあ」
窓の外を見上げて|陽太《うちの子》が呟いた。
そして、私と目が合うと、いつも通り優しく抱きついてくる。
「おはよう、ベル。今日も元気そうでよかったよ」
ベルと呼ばれた私は、ここのうち、清見家の犬だ。
|赤ちゃん《パピー》の頃、引き取られてきた保護犬。
遥か昔、まだミックスなんて洒落た名前じゃなく、雑種って呼ばれてた……陽太が生まれる前だったから……、ええと何年前だったかしら?
「ねえ、ベル」
ロートルな頭で記憶を呼び戻しているというのに、容赦なく陽太が話しかけてくるせいで、私は考えることをさっさと諦めた。
「この前、天草に『うちに十七歳の犬がいるんだ』って話をしたらさ、」
天草というのは、陽太の学校の友達の名前らしい。
この春に新しい学校に行き始めてから、
「昨日の授業では、なんちゃら先生が」
とか、
「今日のテストで、かんちゃら先生が」
みたいに先生の名前しか聞いたことがなかったから、初めて、
「今日、天草がね!」
って、話してくれた時には、びっくりしすぎて魂が抜けそうになったわよ。
……あ、これは棺桶ギャグね。
「ね、聞いてる?」
記憶を煮干しみたいに噛みしめながら思い出していたら、隣にいる陽太が不満げに唇を尖らしていた。
あなたは赤ちゃんの頃から、変わらないわね。
唇を尖らすと、ひよこのような表情になるの。
「フゥン」
少しだけ声を漏らして陽太の体にのっそりと寄りかかってやると、陽太は安心したように、私の頭を撫でてくる。
あったかい手ね。
「でね、その天草がね。ベルに会ってみたいって」
あら。
「うちのベルは、黒ラブと柴のミックスだから大きいよ、て言ったら「ますます会いたい」って言うんだ。天草んちは八百屋さんだから、おじいちゃんが生き物はダメ、って言うんだって」
昔ながらのお店なのね。
そこの角の八百屋さんなんて、お母さんと買い物に行くたびに、猫がザルに乗ってたわよ。
「だからさ、」
陽太の瞳がキラキラと輝く。
雨上がりの葉っぱに残った雫のように。
「今日、連れてきてもいいかな?騒ぐようなやつじゃないから」
真剣な顔して。
ばかね、そんなに気を遣わなくても大丈夫よ。
陽太の大切なともだちなら、私も会ってみたいわ。
私は老犬だ。
年は陽太よりひとつしか変わらないけど、お医者さまからは人間として数えたら百を超えてると言われた。
ここに来た当初は子熊みたいだね、なんて言われた真っ黒な毛も、今ではだいぶ白が目立っている。
目は見えづらいし、鼻もイマイチ、立つのもニンゲンみたいに、
「よっこらせ」
だしね。
小さい頃は陽太のお気に入りのミニカーをスクラップ送りにした自慢の歯も、今ではビスケットがやっとだ。
あの時、あなたは顔を真っ赤にしてわんわん泣いたけど、私がいなくなったらまた泣くんでしょうね。
がんばってつくった工作を壊された時も、学校で履いてた靴を無くした時も、陽太は私にしがみついてきた。
びしょびしょの湿った顔を私に押し付けながら。
だけど私は、陽太が大人になるまで側にいてあげられない。
桜の花びらを追いかけ回して笑い転げながらの散歩も、真っ青な海を見た帰り、車の中で一人と一匹で寄りかかりながらのうたた寝も、もうできない。
――だからね、陽太。
あなたの大切な人に、あなたを託したいのよ。
泣き虫なあなたを。
おばあちゃんになった私に、変わらず優しさをくれるあなたを。
「あ、晴れ間が出てきた」
陽太の声に顔をあげると、雲の切れ間から神様が降りてくるような朝日が漏れてきていた。
「傘、持っていかなくてもいいかな」
陽太はお母さんが作っておいてくれたお弁当をバッグに詰め込むと、バタバタと洗面台に向かう。
『天草』と友人になってからの陽太は、髪型を気にするようになった。
学校での出来事を話してくれることも増えたし、笑顔もたくさん見せるようになった。
ともだち、なんて言ってるけど、本当は好きな人なんじゃないかしら。
きっと可愛い女の子ね。
「じゃあ、留守番頼むね、ベル」
玄関で靴を履いて、つま先を二度ほどトントン、と鳴らす。
扉を開けて、すっかり晴れてしまった空を陽太は仰ぐ。
でも。
「あ、向こうは真っ黒だ」
遠くの山の方角には鈍色の雲が居座っているのに気付いたらしい。
傘を持って行くか迷っているのね。
「やっぱり、折りたたみを持っていこう」
渋々といったように、手にした陽太の折りたたみ傘を私は、
「え!……ベル⁉︎」
軽く齧って引っ張った。
「ちょっと?なんで?」
陽太は私が心配だから、強くは引っ張れない。
すぐに諦めて、折りたたみ傘を離す。
私は傘の上に、よいしょ、と座り込んでやった。
「もしかして、」
視線が合うように陽太はしゃがみ込むと、私の耳の下の毛を撫でる。
昔はふさふさで艶やかだった毛も、今は少なくなり色褪せてしまったけど、陽太はいつだって私を愛しそうに撫でてくれる。
「傘はいらない、って言ってるの?」
ええ、そうよ。
私は座ったまま尻尾を二度ほど横に振る。
「ベルは雨が降らないって、言ってるの?」
そうじゃないわよ。
陽太が傘を持っていかなければ、天草と「相合傘」ができるでしょう?
二人で一緒の傘に入って、昨日より仲良くなって帰ってきなさいよ。
私のそんな気持ちが伝わるはずはなかったけれど、陽太は弾けるような笑顔を見せる。
「ベルを信じるぞ! 今日はもう雨は降らない、って。」
……そうじゃないけど、まあいいわ。
私はのそのそと立ち上がって、思い切り尻尾を振る。
膝の関節はギシギシ軋むけど、まだまだこれくらいはできるのよ。
「じゃあ行ってきます! 天草はデカいけどいい|男《ヤツ》だから、ベルも仲良くしてな」
……え?
天草って男なの?
てっきり可愛い女の子だと思ったのに。
ガチャリと閉まる鍵の音を聞きながら、私は思いを馳せる。
陽太が、デカい天草と相合傘で帰ってくる姿を。
♢
太陽が空のてっぺんに昇った頃、雲がその輝きを塞ぎ始め、やがて雨が降ってきた。
いつものように、窓から外を眺めていた私の目に映ったのは。
可愛い女の子と相合傘をする陽太でも、デカい男の子と相合傘をする陽太でもなく――。
弾ける雨粒の中、びしょ濡れなくせにキラキラした笑顔で笑い転げながら走ってくる、陽太と天草だった。
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町にソフトクリーム屋さんがオープンしました。
いろんな種類のソフトクリームが売っているのです。
それを聞いた 食いしん坊なキツネさん。
「今日オープンだって!一緒に食べに行こうよ!」
キツネさんが仲良しのタヌキさんをさそいます。
「僕お金持ってないよ!」
タヌキさんは言いました。
「大丈夫、ジャーン!」
キツネさんは葉っぱを取り出してお金に変えました。
「バレたらおこられちゃうよ!」
「大丈夫、大丈夫。そんなにばれないよ」
キツネさんは頭に葉っぱを乗せて人間の男の子に変身します。
「タヌキさんも葉っぱを乗せると、ドロン!」
同じように男の子に変身しました。
だけど耳がうまく隠せません。
「どうしよう、こまったな」
するとキツネさんは、ボウシをわたしました。
「これをかぶったら、大丈夫だよ!」
「ありがとう」
タヌキさんは、ボウシをかぶりました。
「キツネさん、しっぽ!」
「おっと、いけない!」
キツネさんはコートを着ました。
これでもう大丈夫、どこからどう見ても二人は 人間の男の子です。
町のソフトクリーム屋さんまで二人は歩いて行きました。
「ソフトクリームくださいな!」
そう言ってキツネさんは葉っぱのお金を出します。
「いらっしゃい 坊や、どの種類がいいんだい?」
お店のおばちゃんが、たずねます。
「うーん」
キツネさんは ソフトクリームの写真を見ます。
「全部!」
「全部だね。じゃあ特別に虹色のソフトクリームを作ってあげるからちょっと待ってて、坊や」
お店のおばちゃんは、虹色をしたソフトクリームをキツネの坊やに渡しました。
「わーすごく大きい!」
二人は目を輝かせます。
一番上はストロベリー味、二番目はみかん味、三番目はレモン味、四番目は抹茶味、五番目はほうれん草、六番目はソーダ味、そして七番目はさつまいも味がします。
「僕も同じのがいいな!」
タヌキさんも同じものを作ってもらいました。
二人は夢中で食べています。
口の中がキンキンに冷えて、息を吐き出すと虹になりました。
びっくりしている二人。
おばさんは笑います。
「美味しいだろう。とびっきり美味しい季節の果物と野菜とそれから 虹をすりおろして入れたからね」
二人はおばちゃんの顔をよく見ました。
「あれ?もしかして山姥のおばちゃん?」
「そうだよ、やっと気がついたね」
とおばちゃんは笑いました。
「できれば、葉っぱのお金じゃなくて本物のお金を持ってきて欲しかったけどね」
二人は顔を見合わせました。
「ごめんなさい、本物のお金ないの」
「じゃあ、お金は払わなくてもいいけど、たまにお手伝いに来てくれないかな」
おばさんはそう言いました。
「はーい!」
二人は元気よく返事をしました。
さてその後、町のソフトクリーム屋さんに時々二人はお手伝いに行きます。
ソフトクリーム屋さんは とても繁盛しているそうですよ。
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「スノードロップの鉢が欲しいの」
キーラお嬢様が唐突にそう言い、アリエッタは目を瞬かせた。季節はちょうど春を予感させる頃。スノードロップなど簡単に手に入るが。
「お庭にあるじゃないですか」
ルベットの邸には庭があり、そこにスノードロップが植わっている。それどころか春告げの花は街の至るところに植えられていて、探すまでもなく目にできるのだが。
キーラは可愛らしい顔を顰めて、首を振った。
「そうだけど。鉢が欲しいの。一輪だけ。部屋の窓に置きたいの」
何故また。不思議に思いながらも、わがままとしては可愛らしいその願いを叶えるために、アリエッタは動いた。お嬢様のお部屋に置くにちょうど良い大きさの、少し洒落た柄の入った陶器の鉢を、物置から見つけ出す。それから庭師に頼み込み、庭のスノードロップをひとつ移してもらう。
わがままから半日もせず手に入った鉢の花を目にして、キーラは顔を輝かせた。飛び跳ねそうなほど嬉しそうに鉢を受け取ると、意外にも捨てられた猫でも運んでいるかのような慎重さでもって、部屋の隅へと移動した。ベッドの向こうに回り込み、近くの窓に鉢を置く。それからベッドに腰掛けて、じっと花を見つめていた。日陰だからだろうか。花は閉じかけている。
あまりに真剣に見ているものだから、アリエッタは首を傾げた。
「何故お花が欲しかったのですか?」
「この前読んだ本のね、真似をしてみたかったの」
キーラは立ち上がると、本棚へと駆け寄った。一冊抜き出して、アリエッタへと突き付ける。『春の妖精』とそこには書かれていた。
「異国ではね、春にだけ咲く花を、〝春の妖精〟と呼ぶのですって」
この本は、それを知った作者が着想を得て、春の花の妖精に纏わる話を書いた短編集。その中に、スノードロップの話もあったそうだ。
「冬の終わりにね、女の子が、スノードロップの花の下で弱っている妖精を助けるの。妖精は花の傍にいなくちゃいけなかったから、女の子は花を鉢に植え替えた」
女の子は窓辺に鉢を置き、毎日スノードロップの世話をした。生き生きとした花の傍で、妖精はみるみるうちに元気になっていった。そして花が終わる頃、全快した妖精は女の子の下から旅立っていく。
「花が萎れると、スノードロップは花がら摘みをしないといけないんですって」
それはスノードロップに溢れる街の者であればよく知っていることだったが、アリエッタは黙っていた。この邸では庭師がすぐに摘んでしまうので、キーラは知る機会がなかったのかもしれない。
「だから女の子は、妖精が旅立ったあとにスノードロップの花がら摘みをするのだけど――」
その花びらの中に妖精がお礼に残した〝贈り物〟があった、というのが、その物語の結末であるらしい。
キーラは、それに憧れて、スノードロップを飾りたくなったのだという。
「別にね、本当に妖精から何か貰えるかも、なんて思ってるわけじゃないのよ? 物が欲しいわけじゃないの。なんていうか――そう、これはいわば〝ごっこ遊び〟よ」
ただ物語をなぞらえて満足したかっただけなのだ、とキーラは言う。
「もしかしたらここに妖精さんがいるのかもって、そう空想するだけで楽しいと思わない?」
まだ純粋な子どもの心を持つお嬢様が、微笑ましかった。
それからキーラは毎朝花の世話をした。アリエッタが用意した水をあげ、声をかける程度のものだったが。日差しを浴びて花びらを綻ばせ、夜には熱を溜めるために閉じる。そこにまた一つの〝生〟を感じてか、キーラなりに精一杯花を慈しんでいた。
それだけに、花の終わりの時期が近付くと、キーラの顔もまた曇りだす。明らかに精彩を欠き、瑞々しさを失った花に、アリエッタもまた寂しさを覚えた。何よりキーラの喜びが一つ減るのが惜しい。
「花摘みをしないとね」
夜を迎えても花弁を開いたまま俯いている白い花を前にして、ネグリジェ姿のキーラはぽつりと溢す。
「ええ。今摘めば、栄養が球根に行きわたります。後はときたま水を与えていれば、来年にはきっとまたきれいな花を咲かせますよ」
「来年かぁ。できるかな。花が咲いているときは、お話とかして楽しかったんだけど」
「球根にもお話してあげたらどうですか? 土の中にいてもきっと聴いてくれますよ」
来年はもしかしたら、お嬢様とお話をしたくて早く咲いてくれるかも、などと言ったら、キーラはくすくすと笑った。〝ごっこ遊び〟などと子ども染みたことを言っていたとは思えないほど、大人びた顔で。花とはいえ、何かの世話をした経験が、少しだけ彼女を成長させたのかもしれない。
花のことを残念がりながら、キーラは眠りに就いた。アリエッタはそっとキーラの部屋を出て、自室に戻る。
実は、少し前から、企んでいることがあった。
机の抽斗から、大事に仕舞い込んでいたブローチを取り出す。白い陶磁器で作られた楕円形のブローチで、スノードロップの絵が描かれている。
大した価値のある物ではなかったが、アリエッタがずっと大事にしていたものだった。
ブローチをエプロンのポケットに忍ばせ、アリエッタは部屋を出て、残っていた仕事を片付ける。いつもならメイド仲間と寛いでいくところを、今晩は辞して、キーラの部屋に向かった。
音に気をつけながら、慎重にドアを開ける。
少女は、穏やかな寝息を立てていた。忍び込んだアリエッタに気が付かない。
健やかな夢を祈りながら、アリエッタはそっと企みを遂行した。窓辺に行き、ポケットに入れていたブローチを取り出す。
咲いている間、花のお世話をしていたお嬢様に。〝妖精の贈り物〟だ。
本当は、物語に沿って、花の中にでも隠せれば良かったのだが。
妥協して、花から落ちたかのようにブローチを土の上に飾り、季節外れのサンタ・クロースの気分を味わったアリエッタは部屋を出た。
翌朝。アリエッタの期待通り、キーラは呆然とスノードロップの鉢を見つめていた。目と口を開けて、声なく窓辺に立ち尽くしている。
企みが成功したようで、アリエッタは口元が歪むのを隠しきれなかった。さすがにお嬢様も悟る。肩を竦めるとブローチを拾い上げ、指先で土を払った。
「そうよね。花を置かなくても、元々うちには妖精さんが居るものね」
予想外の言葉に、アリエッタは呆気に取られた。キーラは指先で挟んだブローチをアリエッタにかざして見せる。
「素敵な贈り物をありがとう、お手伝い妖精(ブラウニー)さん。これからもよろしくね」
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今日はとても風が強い日です。
というのも、風の精が今日はいっぱい街にやってきたのです。
風の精たちの運動会の日でした。
晴れ渡った空の下、風の子供たちが走り出します。
「よーし負けないぞ!」
「あっちのビルまでかけっこだ!」
お日様の合図を皮切りに風の子供たちは勢いよくダッシュ!
あっちこっちのビルを避けながら、一番向こうのお山まで走って行きます。
「やったー僕が一番!」
「残念!負けちゃった!」
風の子供たちは大喜び しながら木の周りをぐるぐると回ります。
「次は、リレーだって」
「じゃあ今度こそ僕が勝つからね!」
風の子供たちはまた走り回ってビルの間を抜けて行きます。
何も知らない人間たちは帽子を抑えて空を見ました。
「今日はすごい突風だ」
「まるで風が戦争しているみたいじゃないか」
そんなことを話しているのです。
いいえ、本当は仲良しの風の子供たちが、
追いかけっこをしているのですよ。
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とうげいの名人に 作られた3つのツボが、木ばこの中に ならんでいました。
船にゆられて ゆーら、ゆら
木ばこの中で、ツボたちは 話しあいます。
「わしはお花の先生に、
りっぱな 生け花を
生けてもらうんじゃ!」
大きなツボは、じしんまんまんに そう言いました。
「私はキッチンでミソを入れてもらうの!おさとうでもいいわ!」
中ぐらいのツボはごきげんに そう言いました。
「ボクは何を入れてもらえるんだろう……」
小さなツボは考えました。
船はみなとで とまって、にもつが つみ下ろされます。
木箱もかかえられて いよいよ 船をおりるという時でした。
強い風が吹いて、バランスをくずした木箱は海の中へ まっさかさま。
海の底で、木ばこから ほうりだされたツボたちは あっけにとられていました。
「どうしよう、せっかくキッチンに行けると思ったのに!」
しょんぼりしている中ぐらいのツボ。
「ここでは キレイな花を 入れてもらえない じゃないか!」
おこってる 大きなツボ。
小さなツボはだまって かなしんでいました。
魚のおやこがやってきます。
「見て見て お父さん、大きなツボだよ!」
「やあ、これは とてもりっぱだ」
魚のおやこは 大きなツボを すっかり気にいり そこにすむことにしました。
中ぐらいのツボのところにタコがやってきます。
「これはボクの体にぴったりのサイズだ!」
タコは中ぐらいのツボがすっかり気に入ったみたいです。
小さなツボはしょぼんとしています。
「だれもボクを えらんで くれないのかな」
その時、一ぴきのヤドカリがやってきました。
「ステキ!ちょうどボクの せなかに ぴったりだ!」
ヤドカリはツボを せおいます。
そんなわけで、3つのツボは海の中で 楽しく今もすごして いるのですよ。
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雨がぽつぽつと降り始めた。おれは枝の間から空を見上げ、途方に暮れる。
街のはずれの林の中にある、木が連なった天然の隠れ家がおれの住処だった。ここにいれば雨に濡れないが、飯を取りに行くことができない。
生まれたときは共に生まれた兄弟たちと過ごしていた気がする。しばらくおれたち兄弟は、力を合わせて生き延びた。ところが気がつけば、おれと一緒にいる奴はいなくなっていた。いなくなった奴のことを構っているほど暇ではない。おれはおれで生き延びなくてはならない。
「お、先客か。邪魔するぜ」
不意に声をかけられて、おれは驚いた。おれの目の前に、知らない奴が現れた。追い払おうかと思ったが、おれより大きい奴におれはビビってしまった。その隙に、そいつはおれの住処に潜り込んできた。
「ちょっとだけ雨宿りさせてくれよ」
おれはそいつをよく見た。先ほどは驚いてしまったが、貧相な体つきでちょっと吠えれば簡単に倒せそうだ。
「おっと、ただで雨宿りしようなんて思ってないさ。一宿の恩義、って奴だ」
そう言うと、そいつは何か美味そうなものを取り出した。そして半分にしておれの前に置いた。どうやらおれにくれるらしい。
「弁当の半分くれてやるんだ、有り難く思えよ」
ほう、これは「ベントウ」というものなのか。おれはついぞこんな美味いものを食ったことがなかった。おれはそいつがもっと美味いものをくれるのかと期待したが、そいつは半分にした「ベントウ」を食ってしまったようだった。
「悪いな、もうないよ」
おれはがっかりした。雨の音が強くなった気がした。
「でもそんなに気に入ったなら、また持ってきてやるさ。ここ、お前が見つけたのか?」
そいつはおれにずっと何か語りかけてきた。おれは返事をする義理などないから、雨が止むまでそいつを放っておくことにした。
「なんだよ、つれないな。どうせ俺は犬にもそっぽを向かれるんだ」
それでも、そいつはおれに話しかけてきた。親はなく親戚の家を転々としてきたこと。最近は戦争が続いていて不景気で食事が減らされていること。せめて木の実やキノコでも採ってこようと林をうろついていること。さっき食べたものは、そいつの一日分の食事だったこと。
自分も腹が減っているのに、おれのようなものに食べ物を恵むなんておれは馬鹿げていると思った。こいつは馬鹿なのだろう。
「何でだろうなあ、俺って不器用なのかな。死んじまったほうがいいのかな」
やはりこいつは馬鹿だ。美味いものをくれる奴が死んでいいはずないだろう。おれはそいつが死なないように、少しだけ側に寄った。
「……雨、早く止むといいな」
雨は夕方になるまで止まなかった。少し冷たい風が吹いてきたが、おれは誰かといるってことがとても温かいのだと初めて知った。
***
それから折に触れて、そいつは住処に現れた。ベントウをおれにくれて、何かを喋って帰って行く。俺はただ黙ってベントウを食って、そいつの話を聞いた。いろんなことを喋る奴だった。誰も見たことがない動物の話や行ったことのない場所の話。そいつは「どうせデタラメなんだけど」とよく言っていたが、デタラメでも喋ることがあるのはすごいことだとおれは思う。
おれはそいつに比べて何も考えていなかった。生きるのに考えることなんかいらないと思っていたのに、どうしてこいつはそんなに嬉しそうに語るのだろう。おれと同じくいつも腹を空かせているはずなのに、楽しそうなそいつがおれは羨ましかった。
ある日、そいつが顔を腫らして来たことがあった。そのときはベントウはもらえず、ただ黙ってそいつは座り込んでいた。おれはそいつに触って、住処の中へ入れてやった。きっと敵に襲われたのだろう。それでおれに助けを求めに来たんだ。俺の縄張りの中なら、おれは守ってやるから、安心しろ。おれはそう言ってやった。
そうして、おれはそいつを仲間だと思うようになった。
***
もうじき冬になるという頃、そいつは息を切らして現れた。
「聞いてくれよワン公!」
そして、おれの前に何かを紙を広げて見せた。
「召集令状だ! 俺に兵隊になれってさ! これで国の役に立てるんだ! どうだ、すごいだろう!」
おれはそいつが喜んでいるので「ワン」と答えてやった。
「兵隊になったら、たくさん手柄を立てて出世してお前を迎えに来てやる。そして将校様の愛犬としてたらふくいいもん食わせてやる。俺を馬鹿にした奴らもぎゃふんと言わせてやるんだ!」
おれにはそいつが何を言っているのかよくわからなかったが、それほどその紙は素晴らしいものなのだろう。
「そういうことだから、じゃあなワン公。俺はお前のことを忘れないぞ。きっと帰るからな」
そいつはとびきり美味いベントウをくれた。そしておれの頭を何べんも撫でて、おれの前からいなくなった。
おれはまたすぐそいつが来るだろうと思った。冬が来て春が来て、夏が来てもそいつは来なかった。雨が降る日も風が吹く日も待っていたが、帰ってこなかった。
それから何回か季節が巡る間、火事や騒ぎが増えた。ようやく元の賑わいが戻ったある寒い風が吹く頃、おれはそいつがもう二度と来ないのではないだろうかということに思い当たった。あんなに嬉しそうだったのに、もう会えないのか。そう思うと、おれの心まで寒くなるような気分だった。
おれは住処の中で丸くなった。そいつのいない場所がやけに広く感じられた。
〈了〉
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ルベット家は商人を邸に呼び寄せるほどの財力はない。だから買い物は基本的に街に出ることになる。
その日もアリエッタは、キーラお嬢様と買い物に出ていた。目的は特になく、強いて言うならキーラの気晴らしのためだった。
お嬢様とはいえ、お小遣いは子ども用のそれ(それでも市民基準よりは多いが)。アリエッタが手に持てるだけの可愛らしい小物とお菓子を買った帰り道、キーラは突然ある店のショウウィンドウに貼り付いた。
「うわぁ……」
大きな目を輝かせて、キーラが見つめていたのは、白い円形のディスプレイに展示された靴だった。ラズベリー色のパンプス。淡いピンクの花のコサージュが付いている。華やかながらも少し落ち着きのあるその靴は、十代後半の娘たちへと向けたものだろう。
ただ一つ。その靴の踵が高かった。女性の拳くらいの高さがある。社交に出たばかりの娘に履かせるのにも、躊躇う高さだ。
「すてき……欲しいなぁ」
ねぇアリエッタ、とキーラはお付きのメイドを振り仰ぐ。アリエッタは苦笑しつつ首を横に振った。
「無理ですよ。お嬢様にはまだお早いです」
キーラは口を尖らせる。最近の彼女は、背伸びしたいお年頃。お子様扱いを嫌がられる。だから、アリエッタは付け加えた。
「お嬢様、まだヒールを履かれたことないでしょう?」
キーラは足元に視線を落とした。リボンの飾りが付いたシックな黒いパンプスには踵がない。
しかしキーラはキリッと顔を上げた。
「練習すれば、すぐに履けるようになるわ」
気概は結構だが、アリエッタとしてはやはり受け入れられない。
「いきなりあの高さは危険です。足を捻ってしまいますよ」
それでもキーラは諦めがつかないらしい。じとっとラズベリーのパンプスを見つめ続ける。窓に両手を付けて、片恋でもしているかのように、切なそうに。
「そんなに気に入ったんですか?」
アリエッタはさすがに困惑した。この靴はたった今見つけたばかりである。衝動的に欲しくなることはあるかもしれないが、執着するだけの理由が見当たらない。キーラは欲しい物は手に入れないと気がすまないという我儘な性質でもないので、なおさらだ。
「どうしてその靴が欲しいのですか?」
「マリアの靴に似ていると思ったの」
マリアとは、お嬢様が|聖典《バイブル》とみなすほど夢中になっている小説の主人公だ。爵位の低い家に生まれた少女が、成長とともに様々な逆境を乗り越えて幸せを掴む話。自立した精神を持つ彼女にキーラは強く憧れを抱いたようで、たびたびアリエッタに話を聞かせてくれた。というか、アリエッタも読まされた。
確かに、とアリエッタは物語を思い出す。この靴は、マリアがデビュタントを迎えたときの靴を思わせる。
だからといって、いきなりこの靴をキーラに履かせるのは躊躇われた。そもそも、キーラのお小遣いでは買える値段ではない。さすがにその辺りはキーラも理解しているようで、お父様におねだりしようかしら、と呟いている。
アリエッタは頭を捻った。仮にキーラの父が購入を認めてくれたとしても、今その靴を彼女の傍に置いておくことに、アリエッタは賛成できない。あればきっと無茶をしてでも履きたくなってしまう。怪我の要因となりかねない。
だから、お嬢様をひとまず諦めさせるだけの何かが必要だ。
「でしたら、お嬢様。来年のお誕生日のプレゼントにおねだりしてはいかがでしょう」
キーラは窓から視線を外し、アリエッタを見上げた。その眦がきりりと吊り上がる。キーラの誕生日はついこの間過ぎたばかりだ。つまり一年後ということになる。そんなに我慢させられるのか、と不満なのだろう。
「それまでにお嬢様は、その靴が似合うだけの淑女の振る舞いを身に着けましょう」
アリエッタは諭す。無理をして背伸びをしても、履きこなすことなどできはしない。ついでに、靴に合う服もない。せっかくの憧れの靴を手に入れても、悲しい思いをする可能性のほうが高いのだ。
「どうせなら堂々とその素敵な靴を履きたいと思いませんか?」
両手を窓に貼り付かせたまま、キーラは俯く。視線の先は、自らの足元だ。底が扁平な靴の踵を浮かせる。慣れないつま先立ちに、窓に両手をついていてもなお、まだ幼い身体はよろめいた。
現実と理想のギャップを、彼女はどう受け止めたのだろうか。
「……うん。そうね」
踵が地に着き、手がようやくショウウィンドウから離れた。可愛らしい顔に表情はなく、気落ちしているのは確かだった。アリエッタはそんな聞き分けの良い彼女を帰路へ促す。
「帰ったら、旦那様にお話しましょう。ご予約を取っていただかなければ」
「……うん!」
キーラの表情が少し明るくなる。決してその場しのぎで誤魔化されただけではないことが分かったからだろうか。
いきなり高いヒールの靴が欲しいと言われて面食らってしまったが、キーラが淑女教育に前向きになったのは良いことだとアリエッタは思う。ルベット家に生まれたからには、いずれ淑女の振る舞いを求められるだろうから。
そして、キーラが目指す淑女像を具体的に持ったのも良いことだ。
まずは、キーラがヒールに慣れるための、踵低めの靴を手配しなければ。
帰ったら奥様に相談しよう、とアリエッタは心に決めた。
続きを読む
最近、お嬢様は読書に夢中になっているようだった。
娘を可愛がっている旦那様と奥様は、これを歓迎した。キーラお嬢様が読んでいるのは少女趣味の娯楽小説。だが、本を読む――活字に触れるという行為そのものが素晴らしいものであるとのお考えだからだ。ちなみに、系統は違えど旦那様も奥様も読書を嗜んでおり、ルベット家には本がたくさんある。
しかし、キーラが奥様のお部屋に置かれているブックタワーを制覇することを宣言したときは、密かな騒ぎになった。騒いだのは、ジルダ奥様や、アリエッタをはじめとするメイドたち――すなわち女性陣のみであったが。
「困ったわ。キーラったら、本当に私の本を読む気なのかしら」
私室に集まった一部メイドたちに囲まれて、ベッドの上に腰を下ろしたジルダはおろおろしながら部屋の一角にあるブックタワーを眺めた。おしゃれなものを好む女主人の部屋にあるそれは、やはり見た目が重視されている。美しい木目と深い色合い、さらにニスを塗られて光沢を放つシックな木製の板が、ポールを中心にして螺旋状に配置されている。その各段には、横積みにされた美しい想定の本。背表紙には読むだけでうっとりできるような美しいタイトル。奥様の許可を得て本を眺めたメイドたちは憧憬し――同時に頭を抱えた。
ジルダもまた、娘と同じく乙女嗜好だった。ポエトリーなタイトルが示すのはみな、ロマンス小説だったからだ。本に関心のある婦人ならば、誰もが憧れるようなものばかり。アリエッタだって、もし貸してもらえるというのであれば、貸してほしい――そんなものばかりだった。
ただし、その中には刺激的なものも含まれていた。聖職者や高潔なお嬢様であれば渋面ものの刺激物だ。
なるほど、ジルダが娘に本を貸すのをためらうのも無理はない。
「よくこのようなものを……堂々と飾っておけましたね」
眉間を揉みながらも失礼ながらアリエッタが意見すると、ジルダはバツが悪そうに俯き、唇を尖らせて、上目遣いでメイドたちを見回した。まるで少女のような拗ね方である。
「だって、旦那様は私の本に興味がないし。表紙からは中身は分からないもの」
確かに、ジルダの愛読書には、直接的なタイトルのものはない。人によっては詩集かと勘違いしそうなものが多かった。中身をじっくりと読まなければ、バレることはないだろう。アリエッタたちが気づいたのは、ひとえに評判を知るが故――関心の対象だったからだ。
メイドたちは一様に肩を落とした。
「ひとまず……奥様が倒錯的な嗜好の持ち主でないことに安心いたしました」
「そうじゃないでしょ」
現実逃避をしかけたアリエッタに、同僚のメイドが突っ込んだ。
「まあ、お嬢様には読ませられない本を片付ければ良いだけでしょう」
彼女の発言に、アリエッタとジルダは頭を振った。彼女は奥様付きのメイドから、娘をよく知るジルダや、お嬢様付きのアリエッタの心痛を理解していないのかもしれない。
「無理よ……。あの子、そういうところは目敏いのよ」
仮にいくつかの本を抜き出して。キーラは高さの低くなった本の山に、きっと気が付く。これまでは母親の部屋に遊びに来た程度で、ブックタワーをインテリアの一つくらいにしか見ていなかったであろうけれども。そして、気が付いてしまったら、きっとその訳を尋ねる。ここで誤魔化しなどしたら、キーラの好奇心をかえって搔き立てることになるだろう。が、正直に駄目な理由を言っても、それはそれで興味を持つ。
〝なんとなく〟の違和感に気が付き、一度気になると追及してしまう。そっとしてほしいことに目を瞑っていてはくれない。子どものような無邪気な聡さと好奇心がキーラの魅力であり、一方で非常に手に負えないところなのだ。
「では、こっそりと本を並べ替えておくとか」
例えば、キーラに下の段から本を読ませる。一段制覇したら、次の段へ。そうやって、上へ上へと読み進めさせる隙を狙い、刺激的な本を少しずつ密かに制覇済の段に移せば。キーラはその本をすでに読んだものと認識して、気にすることはないかもしれない。
そのメイドの提案は、なかなか良いように思われた。キーラは目敏いが、記憶力が格別に研ぎ澄まされているわけではない。読んでいない本のタイトルを一冊一冊把握しているなんてことは、さすがにないだろう。
「うう~ん……そうねぇ」
それでもジルダは気が進まないようだった。誤魔化せるかもしれないが、確実な手段ではない。万が一のことが起きたときに、それはそれで面倒くさい。それに、下手な誤魔化しをして、旦那様に密かな趣味がバレてしまったらと思うと、怖いのだ。
「だったら、やはり正直に」
「今からでも隠してしまうのが一番なのでは」
ああすれば、こうすれば。メイドたちは議論を交わすが、ジルダが納得するようなものは出てこない。さんざん頭を捻る女性陣のもとに、部屋の扉をノックする音が届いた。
「お母様、ご本を貸してくださいな!」
奥様の私室は、たちまち阿鼻叫喚の巷と化した。
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ある晴れた秋の昼下がり、子猫のクロちゃんトラックの上でお昼寝をしました 暖かくてポカポカ 気持ちが良いのです。
すや すや すや
優しい 秋の風が吹きます。
「ちょっと荷物を運んでくるよ」
飼い主の佐藤さんが トラックのエンジンをかけます。
上で子猫のクロちゃんが寝ていることも気づかずに。
トラックはどんどんどんどん走って行きます。
そして大きな建物の前で止まりました。
止まったはずみでクロちゃんは目を覚ましました。
「一体ここはどこだろう?」
クロちゃんはトラックの荷台からぴょんとおりました。
あたり一面、秋桜の花が咲いています。
初めて見る花に大興奮のクロちゃん。
秋桜はそよそよと揺れています。
白、ピンク、赤。黄色や オレンジ色の黄花コスモスもあります。
嬉しくなったクロちゃんは喜んで 花畑の中を走り回りました。
佐藤さんは気づかずにトラックのエンジンをかけて家に帰ってしまいました。
だんだんと空が 茜色に染まって夕方になってきました。
クロちゃんはお腹が空いてきました。
だけどここは一体どこなのでしょう?
お花が綺麗で走り回っていたけれど、知らない場所です。
寂しくなってクロちゃんはにゃーにゃーと、泣きました。
すると そよそよと揺れていた 秋桜 たちがクロちゃんに話しかけます。
「どうしたの猫の坊や、迷子なの?」
「お母さんはどこかしら?それとも飼い主さんと一緒だったの?」
「わかんない、ここはどこ?」
クロちゃんは泣き止んで秋桜たちの方を見上げました。
「それじゃあ坊や向こうにある大きい建物に行ってごらん 。人間がいっぱいいるからきっと力になってくれるよ」
「うん」
クロちゃんは建物の方に向かって歩いて行きます。
自動扉が開いて中に入りました。
職員さんが気がつきます。
「あらあら、子猫ちゃんは一体どこから来たの?」
クロちゃんを抱き上げてそう 尋ねます。
首輪の鈴が チリンとなりました。
「あら名前が書いてあるわね。それに電話番号かしら?」
職員さんは電話をかけて佐藤さんに連絡してくれました。
「ありがとうございました。クロ、どこに行ったか心配したんだぞ」
佐藤さんはクロちゃんを抱き上げてトラックに乗ります。
トラックの窓から秋桜を見る、クロちゃん。
そよそよと秋の風の中、秋桜は気持ちよさそうに揺れていました。
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