SF・ファンタジー
139文字 約1分で読了

文化的すれ違い

「グロリアどの! いずこに?」侍娘のアヤメから、あたいは必死に身を隠した。女だけの傭兵団、そんな関係もあるけど覚悟できていない。しんがりを務めた戦いで、彼女に言われたんだ。「月が、綺麗ですね」分かるかよ、求婚の言葉だなんて。ただ戦士らしく答えただけさ。「ああ、死ぬには良い夜だ!」
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作者:有賀慧
2026/10/13 • 👁 32回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
140文字 約1分で読了

離してくれそうにない

竜騎士にとって、飛竜をねぎらって可愛がるのは当然の行為だ。翼やあごを撫でることで、彼らの士気を高める。でもね、求愛の舞を見せられても困るのよ。種族違いじゃん。そもそも、君は雌で私は女だし。そう言ったら、キュイキュイ鳴きながら首をこすりつけてくる。これ、マーキングされているんじゃ?
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作者:有賀慧
2026/10/13 • 👁 21回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1343文字 約3分で読了

夢見た曲の再構築

私は作曲家 目下 スランプ中である かつては ヒットメーカーとして持て囃された事もある これまで いくつもの流行りの曲を作っては いくつもの曲を使い捨てにされてきた 私には 長い間 人の心に残るような そんな曲を作るのは無理なのだろうか? そう思うと その事実が頭から離れず 新しい曲を書く事が出来ない 多少のスランプなら これまで幾度も経験したが 今回ばかりは重症のようだ 今日も曲を書こうと努力はしてみるものの やはり駄目だった どうしても 新しい曲が書けない 所詮 私には才能がなかったという事だろうか…? 「えぇい! クソ!」 もうやめだ 今日は寝てしまえ …… ふて腐れて眠りに就くと その日 私は夢を見た 誰かがピアノを弾いていた それは私かもしれないし 他の誰かかもしれない そんな誰かが ピアノを弾いている夢 夢にまで音楽が出てくるとは 本当に重症である これは明晰夢と呼ぶんだろうか? 私はこれが夢である事を認識しながら 誰かが弾くピアノに耳を傾ける事にした (これは…) 演奏されるメロディーは どこか不思議で懐かしく そして何よりも甘美な音色だった 今まで聴いた事もないような 夢の中で夢見心地になるような そんな曲を その誰かが演奏していた …… 朝になり 私は目を覚ます 脳裏にはあの曲が焼き付いたままだった 居ても立ってもいられず すぐに五線譜にペンを走らせ あの曲を書き記して演奏してみる 「……」 私が今まで書いてきた 使い捨てにされた曲の数々は 使い捨てになるべくして 使い捨てになったのではなかろうか? そう思える そんな曲 「この曲を… この曲を発表すれば」 きっと この曲ならば 人々の心にずっと残るだろう スランプなんて 容易く払拭できるに違いない だが… だが そこで私はふと悩む 果たして この曲を自分の曲として 世の中に発表してもよいものだろうか? これは 夢の中で『誰か』が演奏していた曲だ 私が実力で書いたものではない だが しかし あくまで 私自身が見た夢だ それはきっと 私の脳が構築して生まれたに違いない …… この曲は 天使が授けてくれた祝福の曲なのだろうか? それとも 悪魔が囁いた悪い悪戯の曲なのだろうか? これまで 本当に沢山の曲を書いてきた それならば それならば 一度くらい… こんな風に授かった曲を自分のものとして発表しても それは 罪にはならないのではないだろうか…? そう 一度くらいなら… …… 私は悩みに悩んだ挙句 この曲を世には出さない事にした 私はプロの作曲家 使い捨てにされようと 自分の曲は自分の手で書きたい そしていつか 使い捨てにされないような人の心に残る曲を 本当の意味で 自身の力で作り上げたい きっと その時に見える景色は絶景に違いない そんなチャンスを 夢の中で『誰か』が弾いていた曲で 自らの実力以外で成し遂げてしまうのは あまりにも もったいないだろう? 結局 この 夢の中で聴いた曲をしまい込み 私はスランプと戦いながらも 新たな曲を生み出すため 今日もまた 必死で五線譜と格闘する日々を送るのだった …… なぁ ところで 世の中に発表しなかったとしても 愛しのあの娘に この曲をこっそり弾いて聴かせるのは それは罪じゃないよな? この曲を「愛し君に捧げる」とか言って 演奏すれば 彼女はもう私の虜だろう 天使も悪魔も それくらいなら きっと許してくれるに違いない 私が作った曲じゃない事は秘密にしておけばいい ああ それがいい ふふっ 次に会う日が今から楽しみだ
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作者:lue
2026/10/12 • 👁 56回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
134文字 約1分で読了

赤い月

ある時海に沈んだお月様を、大きなクジラが食べてしまった。 「だってパンケーキみたいにおいしそうに見えたんだもん」 とクジラは言う。 仕方がないので神様は僕の畑にあったイチゴを一つ摘んで、代わりに空に放り上げた。 だから今夜もお月様はストロベリームーン。 赤くて美味しそうでしょ!
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作者:しとえ
2026/10/12 • 👁 44回 • 💬 2件
SF・ファンタジー
774文字 約2分で読了

適材適所

 息を切らせた垂れ目の男とぐっしょりと濡れそぼったコートを交互に睨み、痩躯(そうく)の女は奇麗に並んだ白い歯を剥き出しにした。 「ほうら! だから嫌だったのよ! 毎回毎回これじゃあ――」 「何?」  と垂れ目の男は聞き返す。痩躯(そうく)の女は「もうウンザリだって云ったのよ。別れましょう」と吐き捨て返事も聞かずに踵を返すと、呆けている男を残して雨へと駆けて行った。  ぐしょぐしょでアパートに辿り着いた男の前には見知らぬ外国人が一人立っていた。警官か軍人か、そんな様式の制服を着ている。 「早速ですがご同行願います。一刻を争いますので詳細はヘリの中で説明します。おい!」  外国人警官が右腕をぶんと振るうと、見慣れない機具で完全武装したコマンド数人が沸いて出て、垂れ目の男を取り囲んだ。ぐう、と云う暇も無く男は黒塗りの2ローターヘリに担ぎ込まれ、暫くするとヘリはどこかの小さな空港に降り立った。どやどやとジェット機に押し込まれ、居心地の悪い沈黙が数時間、垂れ目の男を襲った。おぼつかない足取りでアスファルトに降り立った男に、砂っぽい熱風が吹付けた。 「国王に会っていただき、すぐに作戦を開始します」  垂れ目の男は武装コマンドに引きずられていった。 「説明してくれ!」  とうとう男は叫び声を上げた。外国人警官が「おう!」と漏らし、険しかった表情を目一杯崩して垂れ目の男の肩をそっと撫でた。 「これは失礼。では簡潔に。ここボガン王国は今年に入ってすぐ数百年来のかんばつに襲われ数万人の餓死者を出し、そしてその数は現在も尚増加中なのです。ボガン王国からの援助要請を受けた我々国連超自然現象機構は、この事体に対処すべくあらゆるエージェントデータを検索し、あなたを適任者として選出しました」 「適任者?」 「はい。あなたは間違いなく世界最高の……」 「世界最高の?」 「……雨男ですから」  ――おわり
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作者:飛鳥弥生
2026/10/12 • 👁 25回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
1143文字 約3分で読了

咲かない桜

この季節 わたしはこの桜の樹の下で 小説を読むのが日課だった とある春の日の 晴れた昼下がり 麗らかな春の陽気に ふと眠気が差し 気が付けば うとうとと眠ってしまった …… 気付いたら そこには 男の人が遠い目をしながら立っていた その男の体は 半分透けているようだった 「こんにちは」 (おや? こんにちは) 「あなたは… 誰?」 (私…? 私かい…?) (そうだなぁ… この桜の精ってところかな?) 「この桜の?」 (そう この桜の) 「この 咲かない桜の?」 (そう この… 咲かない桜の) 「他の桜はもう花開いているのに  なぜ あなただけ花が咲かないの?」 (そうだなぁ…) (遠い… 遠いむかしね…) (ここには 駆け落ちした若い男女が 慎ましくも 幸せに暮らしていたんだ) そう言って 彼はさらに遠くを見つめる (けれどある年 この桜が咲く頃に 流行病が男の命を奪ってしまった) (残された女は 哀しみに暮れながらも 男の亡骸を この桜の樹の下に埋める事にした) (彼女は強い人だった) (いつまでも… いつまでも彼の事を忘れないように) (また 桜が咲く度に 彼を思い出せるようにと) (ずっと彼を忘れないようにと) (そう想って ここに亡骸を埋めたんだ) (けれど…) (けれど それが失敗だった) (亡骸から染み出した流行病が 桜の樹を伝い この地に 強く広まってしまった) (女の身もまた 男の命を奪った流行病に侵された) 「……」 (ただね) (流行病は すぐに死に至るような病気ではなかったんだ) (男が死んだのは 彼の体が 生まれながらに弱かったから) (だから すぐにこの地を離れれば 女は死なずに済んだはずだった) (ただ…) (ただ 女はここを離れようとはしなかった) (男の亡骸を この桜の下に埋めたから) (男の傍を離れたくなかったから) (咲く桜を見る度に 男を忘れないと決めたから) (結局ね… 女もその流行病で命を落としたよ) 「……」 (……) (この桜が咲かないのはね) (きっと 呪いみたいなものなんだよ) 彼は哀しそうな顔をしながら 続ける (本当は この樹をも 流行病が侵してしまったせいなんだけど) (だけどね) (だけど 私は違うと思っている) (結果として 男が女の命を奪った事になる) (だから…) (きっと 彼女は今でも 私を恨んでいるんじゃないかな) (その想いが… 強い恨みが 花を咲かせる事を許さない) (だから 今年も この桜は 花を咲かせなかったんだ) 彼は目を伏せた 「そっか…」 (……) 「来年は…」 「来年は咲くといいね」 (そう…だね) (ああ そうだね ありがとう――) そう言い残すと 彼の体はすっと消えてしまった …… わたしが覚えているのは ここまで 目を覚ました時には もう彼の姿はなかった それに どこまでが夢だったのかも定かじゃないけど 「来年は咲くといいね…」 わたしは読みかけの小説を閉じ しばらくその樹に触れたあと そっと 咲かない桜の樹の元を離れるのでした
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作者:lue
2026/10/11 • 👁 45回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
150文字 約1分で読了

人工知能

 近頃は人間と人工知能の違いがあまりよくわからなくなった。街中で話している目の前の人は人間だろうかそれとも人工知能だろうか。そっと背中を押してみる。 途端に飛び散る赤い飛沫。 ……どうやら人間だったらしい。  いや待て、頭部からコードのようなものがいっぱい伸びている。なんだ人間によく似せた人工知能だったのか。
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作者:しとえ
2026/10/11 • 👁 56回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
659文字 約2分で読了

否定するための銃

今日 生きた事を否定するための銃 使い方はこうだ 最初は空なので とりあえず弾を込める必要がある まずは 今日あった嫌な事を思い浮かべる 少しでも構わない だが たくさんでも構わない 浮かべた思い出の数だけ 弾数は増える 弾数が多いに越した事はない いっそ詰められるだけ詰めておけ そうしたら あとはそいつをこめかみにあて そのまま力いっぱい引き金を引く 大丈夫 痛みはない 発砲音さえしない それどころか硝煙すら上がらない 僅かに感じるとすればカチッという 引き金を引く乾いた音 それだけが 今日 生きた事を否定するための銃に手を掛けた 唯一の証になる 今日あった嫌な事だけ綺麗さっぱり忘れられる 弾痕は残るが それ以上も以下もない この様に便利な銃ではあるが 多用はあまり勧めない まず 銃なので弾倉には当然 限りがある 限界まで弾を込めた場合 空きを作らない限り 次の弾を込める事は出来ない 次に 証は消えない 嫌な思い出は消えるが それを消したという事実は消えない 最後に よく考えてから使ってほしい 撃つ前に 出来ればその前に 弾を込める時点で しっかり悩んでから手に取ってほしい 嫌な思い出は確かに消せる ただし 一度 撃った弾をもう一度使う事は出来ない なぜならばその記憶はすでにない 撃ったが最後 その思い出はもう戻らない 以上 これらの点をよく踏まえた上で使用していただきたい なお 今日 生きた事を否定するための銃の使用に際して 一切の責任は負わない 嫌な思い出の中に消したくない 何かが混じっていたとしても 抗議には応じかねる 全ては自己判断で願う ちなみに私の場合 とりあえず近いうちこの銃を持ち 質にでも足を運ぼうと考えている
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作者:lue
2026/10/10 • 👁 55回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
4067文字 約9分で読了

秋、落葉、風、そして遥か遠い地球

「ねぇ、貴方。この本知ってる?」  リビングのソファに腰かけ寛ぐ男に、女はにわかにそう尋ねた。 「雑誌かい? 随分と古いみたいだけれど」  背もたれの後ろに立つ女の見せた本の表紙を、首を傾けた男が見やる。そのくすんだ本は酷く色褪せており、霞んだタイトルから見るに旅行雑誌のようであった。 「仕事先で、古本の整理をしていた時に見つけたの。5億年前の星間旅行雑誌。『地球』って言う星の特集をしていたみたいよ」  ぱらぱらとページが捲られるその古本は、どうやら司書として働いている彼女が勤め先から借りてきた物の様だった。  彼女がめくって見せたページ。灰色の木が連なり、赤子の掌のような葉が舞うその光景は、どうやら色褪せた森の写真の様だった。 「ほら、ここの記事。地球の森は季節が巡ると、葉が赤や黄色に色付くみたいなの。山が燃え盛るように粧うその景色はこの世の物とは思えないくらい美しいそうよ」  興奮気味にそう話す女に対して、男は少し冷めた様子で応えた。 「うーん、この古びた写真だと良く分からないけれど……」  眉をひそめて男が写真を見つめているとその雑誌は突然閉じられ、代わりに男の視界いっぱいに、女がぐいっと顔を寄せた。 「ねぇ、私この『地球』って星に行ってみたいわ。この雑誌に写る『紅葉』って物をこの目で見てみたい」  男の目をじぃと覗き込み、女はにっこりと笑う。男は少し考え込むと、彼女のその絹のような白い頬にそっとくちづけをした。 「わからないな。君より美しい景色がこの世界にあるとは思えない」  むっとしたように頬を膨らませ、彼女はソファの前まで回ると彼の膝の上に腰掛けた。 「狭い世界で満足しようとするのは貴方の悪い癖よ。海の深さを知らない蛙に空の深さは測れない。そんな中途半端な『美しい』を私に贈るつもりかしら?」  男に体重を預け、その両手を彼の首に回す。男は観念したように体の力を抜き、2人は重力のままソファに横になった。 「……それで、いつ頃行くつもりだい。記事を読むに、それを見るには時期が大切なんだろう?」 「地球の時差を計算すると丁度今の時期みたい。明日は2人とも休日だし、しばらく2人で出かけてなかったでしょう? 「了解。ワープ旅行機のチケットを予約しておくよ」  男がポケットから端末を取り出し操作する。今度は女の方からゆっくりと、慈しむようにその唇を重ねた。  ◆  施設には、電話ボックスのような黒い箱が幾つも並んでいる。2人は互いに身を寄せあい、その箱のひとつに足を踏み入れた。  ワープ旅行機。2人の住む星の旅行客が一般に利用するその装置は、星の旅行会社が運営する施設に設置されている。顧客は会社からチケットを購入することでその装置を利用することができた。    狭いボックスの中には仄かに光るパネルが1枚だけ設置されている。2人はボックスの扉を閉めると、そのパネルに手を触れた。 「さて、『地球』の座標は調べているのかい?」 「えぇ、勿論よ」  女に言われた通りに、男は座標を入力する。パネルは数多の星々のデータを瞬く間に走査し、やがて該当するひとつの惑星を導き出した。 「あったよ、『地球』。あまり人気は無いようだね。口コミが1件も無いけれど、本当にここで合っているのかい?」 「えぇ、合っているはずよ。あの雑誌も5億年前の話だからもうトレンドが変わってしまったのかもしれないわね」 「今からでも流行りの星にするかい?」 「いいえ、私は貴方とこの星に行きたいの」  頑固にも思える程に真っ直ぐな意志を持ち、女はきっぱりとそう言い切った。  そんな彼女の性格をよく知っているからか、男もそれ以上は何も言わず、ただ頷きながらパネルを操作した。 「……ワープが始まる。掴まって」 「えぇ」  男が女を片腕で抱き寄せる。最後のボタンを押し、パネルの青白い光が段々と強くなってゆく。  システムの回る甲高い音が、ワープ旅行機の狭い空間に反響する。隙間風の吹き込むようなその音ともに、強くなった光が2人を包み込む。  そして高潮が舞台照明を落とすように断ち切られた時、2人はその空間から消失し、狭いその箱の中には暗闇だけが残っていた。    ◆  2人の住む星から遠く離れた宇宙の彼方。その銀河系の惑星である『地球』の表面に、突如として黒い箱が出現した。  電話ボックスのようなその黒い箱の扉が開き、最初に男がその惑星に降り立った。 「段差があるよ、気をつけて」 「えぇ、ありがとう」  男が伸ばした手を取り、女もまたその惑星に降り立つ。2人は揃ってその星の光景を見上げ、そして思わず息を吐く。  その息には、隠しようもない喪失感が溶け込んでいた。 「あら、まぁ……」 「これは……」  2人の目に映ったのは、高くそびえ立つ灰色の山。そして周囲のどこまでも続いてゆく、砂漠のように真っさらな灰色の荒野だった。  空は青を忘れ、虚脱感すら覚えるような黒が広がる。そのてっぺんからはギラギラと燃える太陽だけが残酷にその熱を浴びせかけている。  途方も無いほどに巨大な災害がこの星を襲ったのだろうか、それともこの星に住む人々が互いに争い、自ずから自らの故郷を火炙りにしたのだろうか。頬を撫でる乾いた風にはもはや生命の息吹を感じることもできず、その全てが焼き尽くされた後であることを積もった灰だけが物語っている。    ――地球は、死んでいた。   「あぁ。これじゃあ本当に、あの色褪せた写真そっくりじゃないか」  モノクロの景色を眺めながら、少しだけ歩いた男が足を止める。地面を覆う粉雪の様な灰に、靴裏の跡だけが残った。  照りつける太陽が煩わしかったのか、女は黒い日傘を取り出すとそれを開きながら男の隣に立った。 「……。」  女は何も言わずに、目の前にそびえる山を見上げていた。植物の生える気配もなく、ただ淀んだ煤と灰に塗れたセピア色の山。侘しさだけを身に纏うその姿は、昨日まで彼女が期待していた華やかさとは似ても似つかない。 「僕達の見たあの秋の光景は、5億年以上前に置き去りにしてしまったんだね」  男は、女がきっと不機嫌になっているだろうと思った。だから、彼女を励ます言葉を探してこう続けた。 「木の葉は尽き果て、森は枯れてしまった。君の望んだ彩やかな景色はとっくに消え去ってしまったのだろう。でも、きっと儚いからこそ美しかったんだろうね」  傘を差して佇んでいた彼女が、流れるような目で自らの足元を軽く見つめた。 「それは、……どうかしらね」  穏やかな声色で、女はそう呟いた。目を伏せて、しばらく2人の足跡だけが残る灰の大地を眺めてばかりいた彼女は、静かな風の音を聴きながら男に尋ねかけた。 「……ねぇ、私達の愛情はこの世の何よりも美しいけれど、貴方はこの関係が刹那に終わった方が良いと思うかしら」 「まさか」  間髪を入れずに、男はそう答えた。その言葉を聞き、女は愛おしそうに微笑む。 「……きっと秋が美しかったのは、儚いからではなく移ろうものだったからなのだと思うわ。消えない、ただ、変わって行く」  傘の外に掌を広げる。風にまった灰の粒が、その手に優しく舞い降りる。 「あの本では、秋が巡ると冬が訪れたわ。裸になった木々には綿のような雪が穏やかに降り積もるの。秋になれば木々は彩やかなドレスで着飾っていたように、冬にはありのままの身体に白粉《おしろい》だけを纏わせるのでしょう」  男は女の話す意図が読めなかった。だから下手に何かを言う気にもなれず、黙ってその目を閉じた。  そうして沈黙のまま耳を澄ませると、乾いた風の隙間から、微かに水の流れる音が聞こえてきた。 「……?」  瞼を開ける。目の前には女が、こちらを見つめて笑っている。彼女の指さす先を見ると、何も無いように思えた灰の大地の割れ目から、滲み出るように流れる綺麗な小川があった。 「見て。山は既に灰となったけれど、水は未だせせらぐのだわ。積もった灰が雨水を濾過して、小川は硝子玉のように透き通っているわね」  女に連れられ、男もその小川を覗き込む。くるぶし程度の深さの、小さな川。水草は無く、魚も当然暮らしてはいない。しかし、彼女の言う通り、その水はどこまでも透き通っていた。 「……綺麗だね」  しゃがみこみ、その水の流れに軽く手を触れる。さらさらとした水の流れが指に跳ね、鈴のような音が心地よく耳を撫でた。 「その言葉、今日の私はまだ聞いてないのだけれど」 「今日も一段と綺麗だよ。そのドレスもよく似合っている」  傘を差したまま男の隣にしゃがみこんだ女が、冗談めかしてそう言った。それに真っ直ぐに応える男の態度が愛おしく、彼女はクスクスと笑う。 「いつか私が新しいドレスを買った時、古くなったこのドレスを、やがて着なくなってしまうでしょう。それでも貴方は、新しい衣装を身に纏う私をまた恋しく思うはずよ」  ポケットから取り出した黒いレースのハンカチを男に差し出しながら、女は落ち着いた声色でそう言った。  男がハンカチを受け取り、水に濡れた手を拭う。そうしながら、男はようやく、あの時の彼女の言葉の意図が少し理解できた気がした。 「来てよかったでしょう?」  女が尋ねる。   「そうだね、僕の心も変わってゆくみたいだ」 「ふふ。……大好きよ、貴方」  何度も伝えた言葉。しかし、まるで初めて口にしてみるかのように、彼女はその想いを幸せそうに紡いだ。 「うん、僕もだ」  ハンカチをポケットにしまう。そして、男は女の手を取り、2人は一緒に立ち上がった。  振り向くと、黒い電話ボックスが小さく目に映る。2人はいつの間にか、随分と遠くまで歩いてきた様だった。   「そろそろ帰ろうか。晩御飯の支度をしなきゃいけないからね」 「えぇ、そうしましょう」  女の手を軽く握ったまま、2人は並んでゆっくりと歩く。  乾いた風が、一際強く吹き抜ける。舞い上がった風が灰を巻き込み、色褪せた雪が静かに降り始めた。  ――髪の1本が風に吹かれ、落葉のように灰の大地に降り立った事に、2人は気付かなかっただろう。  付着した微生物が、死滅した星に取り残される。死の星もまた移ろい、生命が再び、微かに息づき始めた。  また5億年後、この星はどのように色付くのだろうか。
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作者:灯色セラミ
2026/10/10 • 👁 70回 • 💬 0件
SF・ファンタジー
140文字 約1分で読了

間に入るべからず

竜騎士は、人と飛竜が心を通わせて成り立つものだ。雛の頃から面倒を見て、共に訓練して、一人前になる。だから他の者が割って入る余地なんかない。なのに近衛の男がやたらと言い寄ってくる。あっち行って、お前みたいな軟派野郎はお断り。お姉様はあたしが憧れるほど頼もしい、ヒト族の雌なんだから。
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作者:有賀慧
2026/10/10 • 👁 23回 • 💬 0件