曇天の空を見上げれば降ってくる雨粒は黒く見えた。
まるでこの世界を塗りつぶしていくようだ。
友人の死を知ったのは昨日、残念ながら葬式には間に合わなかった。
喪服代わりの黒い服は雨に濡れてますます黒くなる。
こんなに早く別れが来るなんて思わなかった。
自分と歳の変わらない友人はきっと自分と同じぐらいの命を持っていると思っていた。
誰もいない墓地を言葉もなく去ってゆく。
濡れて冷え切った体は悲しみに追い打ちをかけるようだった。
最後にあったのはいつだったか。
いまいち思い出せないのだがおそらくは学生時代を最後にもう会っていないのだろう。
側石の上を歩いて行く友人の姿がまぶたに浮かんだ。
軽い足取りで両手を広げてフラフラと…
どこかそのまま飛んで行ってしまいそうなそんな雰囲気が絶えず友人にはあった。
歩いていればカラスの鳴き声が聞こえる。
お供え物を狙ってやってきたのだろう。
カラスは困った鳥だが同時に陽気な鳥でもあると思う。
黒い体は闇のようで、だがどこにでもやってきて貪欲に食べ物をさらって気ままに生きている。
ゴミ捨て場を荒らし…昔は墓地も荒らしていたのだろう死肉を喰らいながら。
嫌われ者だが生きていく力の強い鳥だ。
僕が供えた果物を加えて飛んで行った。
屋根の上にとまりぴょんぴょんと飛び跳ねるその姿は、僕には笑っているかのようで ちょっとだけ腹立たしい。
だが友人はきっとそんなことでは怒らないだろう。
鳥が好きだった……
今頃あいつの魂も鳥になって飛んで行ったのかもしれないとふと思った。
だとしたらあのカラスは友人を迎えに来たのだろうか。
鳥の世界は自由気ままだ。
雨に濡れたってきっと飛んで行ける。
その強い翼を武器に。
コンビニに入ろうとして、ずぶ濡れで少し気が引けた。
ハンカチで軽く体を拭くと中に入る。
世界は雨に濡れていつもよりほんの少し暗い色になる。
色をなくし薄暗いモノクロの映画の様だ。
申し訳ないと思いながらお茶と弁当買い、雨が上がるまでコンビニの中で待つ。
やがて小降りになり、ほんの少し雲の間から青空が見えた。
外に出れば 水たまりがキラキラと光を反射している。
青い空から光が差し、色のない世界に再び色が戻ってきた。
それは雨に現れて新しく生まれ変わった世界の様だった。
飛んで行くカラスの姿が見えた。
この世界で、あいつもまた飛んで行ってたのかもしれないと思う。
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行き場のない人生の
行く先はやはり惨めで
惨敗ばかりでした。
それなりに努力は
してきたつもりです。
幸福だったかどうかは
分かりません。
今も昔も これからも
天国などというものは
この世界にも死後の世界にも
存在しないので有りましょう。
優しいあなたは
私のことを知れば手を
差し伸べてくれるでしょう。
けれど どうしてその手を
掴むことができましょうか…
私はあなたを不幸にしたくないのです。
あなただけが私の中の
無垢で美しい存在だったのですから。
さようなら……
あなたに言える お別れの言葉が
これだけなのがあまりにも悲しい
学生時代の大切な友人が死んだ。気がつけばの自殺だった。
彼女が抱えている問題に気がついたのは、死んでからもう随分経ってからだった。 私は彼女のために何かしてあげられただろうか……と自問自答する。
だが結論はいつも同じで、結局のところ彼女に何もしてあげることができなかったのだ。
SNSに残された彼女のアカウントをそっと指で追ってゆく。
これが彼女のアカウントだと気がついたのは、たった一つの投稿でだけだった。
絵文字で隠されていたけどそこに映っていたのは彼女と私だ。
卒業したあの日一緒に行った遊園地。
そこには『人生で一番楽しかった1日』と書かれていた。
彼女はずっと自分が抱える問題を決して私には話そうとはしなかった。
きっと私では受け止めきれないことを分かっていたのだろう。
体中山ほどある自傷の痕、SNSに上げられた血まみれの写真、否定され続けた言葉、OD、摂食障害、自分で開けた大量のピアス、 家族の問題、家出に失敗して連れ戻されたこと、 夜な夜な徘徊していたこと、 薬物を飲んで意識が朦朧としていたらレイプされたこと……
「死にたい」「消えたい」「自分がいなければみんな幸せ」という言葉が山のように書き込んであってとても苦しかった。
彼女が生きていた証がもうここにだけしか残っていないようであまりにもつらかった。
私が彼女のSOSに気づいてあげれば……
だけどそのことで私が悩むのを見れば、彼女もまた苦しんでしまったのかもしれない。
彼女はそんな性格だったのだから。
きっと最後の投稿は私に向けての言葉だったのだろう……
さようなら……
あなたに言える お別れの言葉が
これだけなのがあまりにも悲しい
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この一年の間に、何度、きみを思い返しただろう。
仕方がない…、と言っても、割りきれるものでもない。
大切に、大切にしてきたものだからこそ、失った時の壮絶な混乱は、心身の支障をきたす。
しぐさ、表情、声…
思い返す全てが、精神をえぐる刃物となって、呼吸が正常にできなくなり、涙が頬を、幾度も流れ落ちる。
考えてはいけない時に、出てきてしまった思い出を、頭をぶんぶんと振ることで、払い落とすようにしても、無意味だとわかってはいる。
しかし、何とかして、一旦それを制御しなくてはと必死になる。
だいすきで、いとおしくて、だいじな存在…
スマホの写真を整理すると、たくさんきみの写真が出てくる。
しかし、未だに直視ができないほど、つらく、苦い気持ちになり、すぐにスマホの画面を消す。
呼吸が荒くなり、取り乱す。
「……いつになったら、こんな状態から抜け出せるのか……」
時間が解決してくれる
よく聞く言葉だ。しかし、これは事によりけりだと、自分は思う。
時が経てば、解決することも本当にある。ただやはり、全てのことが、この言葉に当てはまるとは限らない。
亡くなったきみが、夢に出てきてくれた時があった。
その時のきみは、いつも通り元気で、自分に明るく話しかけてくる。だいすきなきみだった。
その夢は、救いだった。
あぁ……、かなしくないのかな…って。
助けられなかった自分を、うらんでいないのかなって……。
本当に…、本当に、ごめん。
助けてあげられなくて、ごめん。
何度考えただろう。
何か不思議な事が起きて、過去に戻れることができたら、自分は、真っ先に、きみのところに駆けつけるだろう、と。
しかし、何度考えても、そんな不思議な現象は起きない。
悔やんでも…、悔やんでも、時間はあの時に戻せない。
「……きみにいつも話していたように、どんなことも、前に進むしか……解決方法はないんだね、きっと」
たくさんきみに、未来の話をしていた。必ず実現したい夢や希望の話し。
きみは、微笑みながらいつも聞いてくれていた。
必ず、あなたなら、叶えられるよ
つらさは変わらない。
苦い気持ちも変わらない。
後悔や、流す涙も、変わらない。
でも、きみがいつも、自分を真っ直ぐに信じていてくれた微笑みも、自分の中で、変わらない。
「……このまま、今の自分のまま、ゆっくり歩くよ
必ず、きみに話したことを、叶えるために……」
それが、今の自分の、生きる意味であり、原動力だ。
(終)
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祖父の工房は、雨の音で満たされていた。
山裾の細い道を曲がるたび、草の匂いに鉄の匂いが混じる。軒の下に吊された古い風鈴が、濡れた風に揺れて小さく鳴った。扉を引くと、薄闇の奥でひとつだけ灯りが息をしている。炉だ。灰に埋もれた心臓のように、微かに赤い。
「ただいま」
返事はなかった。代わりに、金床を拭う布の音がした。祖父は無言で手を止めず、私を見もしない。ツナギの背中は濡れて色が濃い。肩の線が、思った以上に細くなっていた。
「もう、終いだで」
ようやく出た声は、灰の底から拾い上げたように低い。
私は笑ってみせた。「終いなんて言わないでよ。僕が来たんだ。教えて」
祖父は布を畳み、私の横をすり抜けて外へ出た。雨は少し弱まっている。雨樋を指差して、一言だけ。
「樋、詰まっとる」
ほつれた麻紐のように、その言葉が私の胸に絡みつく。私は無言で脚立に上がり、樋の落ち葉を掻き出した。雨水が勢いを取り戻し、地面の砕石に細い河を彫る。
その夜、祖父は何も語らなかった。父はいつも通り、終電で帰り、いつも通りため息をつき、いつも通り少し強めに缶ビールを空けた。サラリーマンの父は、鍛冶の家に生まれながら鍛冶の語彙を持たない。食卓で祖父と目を合わせないのも、いつも通りだった。
翌朝、工房の戸を開けると、炉の前に祖父がいた。
ツナギ姿の背中が、火の方にわずかに傾いでいる。私が挨拶をすると、祖父は顎だけで炉を示した。
「ふいご」
私はふいごの柄を握り、初めての呼吸を工房へ送る。ぎい、ぎい、と乾いた音が、煤の柱から垂れる。炉の奥の炭が赤く育っていく。祖父は火箸で炭を寄せ、玉鋼の塊をそっと置いた。青黒い塊が、炎に舐められて色を変え始める。
私は訊きたいことだらけだった。これ、なんでこうやるの。どのくらい熱すればいいの。どのタイミングで叩くの。祖父は何も答えない。金槌を手に取ると、柄の位置を少し直し、ただ一言。
「見て、盗め」
私は唇を結んだ。炉から上がる熱気が頬を押し上げる。祖父は赤めた鋼を金床に乗せ、最初の一撃を置いた。乾いた音。二度目、三度目と、音が変わる。赤からオレンジ、オレンジから黄へ。鋼が呼吸をはじめ、火花が散るたび、工房の壁が一瞬明るくなる。私はふいごを引きながら、その音の違いを耳で追った。
叩いては折り、折っては叩く。折り返し鍛錬。祖父の腕の筋に、細い縄のような影が何本も立つ。汗が袖を重くし、ツナギの布地が肌に張りつく。祖父はゆっくり呼吸しながら、打撃の間を少しずつ詰める。金槌が鋼を割り、鋼が金槌を受け入れる音。私の知らないテンポだった。
火から外すと、鋼はすぐに色を失っていく。祖父は躊躇なく炉へ戻し、私はふいごに力を込める。ぎい、ぎい、ぎい。
そのときだ。祖父の袖口が、わずかに、別の布に見えた。縦縞の木綿。私は瞬きをする。ツナギの灰色の下に、藍の着物が透けて見える。金槌を振り上げるたびに、その影は濃くなる。火花が跳ねるたび、闇に浮かぶのは、祖父の背中ではない。江戸の刀匠の背中だ。
カン。カン。カン。
遠い時間の音が、この工房の中で鳴っている。
「……おじいちゃん?」
祖父は振り向かなかった。ただ、叩く手をひと呼吸だけ止めた。
「火は、昔から同じや」
その一言が、焼けた釘のように胸の中に刺さった。
昼、祖父は作業を止め、桶を指さした。
底に黒い泥が溜まっている。水と砥石の粉と鉄粉が混じり合った、重い泥。
「触るな。トドロや」
「トドロ?」
「砥泥(とどろ)。刃が生まれる途中のもんや。捨てるもんでも、ただの汚れでもない」
祖父は柄杓で少しすくい、光にかざした。黒いのに、光る。粒子のどれもが、細かく震えているように見えた。
「よう見とけ。おまえの隣に、いつもおる」
隣に──。
私はうなずき、泥の表面に映る自分の目を見た。ぼやけている。だが、確かに何かがこちらを見返している。
父は夜遅く帰ってきて、工房の灯りを見ると眉をひそめた。
「まだやっとるのか」
「僕がやってる」
「……何のために? 刀なんて、もう飾りやぞ。稼ぎにならん。会社の総務だって空きがある。おまえには安定した暮らしをしてほしいんや」
祖父はちゃぶ台の端で湯飲みを手に、黙っていた。私も黙っていた。父はしばらく沈黙し、吐き出すように言った。
「親父が何も教えんかったのは、そういうことや。切るもんが要らん時代に、刃を打って、どうする」
祖父の湯飲みが、わずかに卓に触れて音を立てた。
「切るためだけの刃やと思っとるんか」
父は答えず、冷蔵庫を開け、缶ビールを取り出した。それ以上、誰も何も言わなかった。
日々は、火の色で刻まれた。
選別した玉鋼は炭素の色で違って見えると祖父は言った。硬いものは刃金に、柔らかいものは心鉄に。私はわざと逆に置いてみた。祖父は何も言わない。火に入れて、金槌が一度、音を外した。祖父は炉から目を離さず、私にふいごの手を止めるよう顎で示した。
「音、違うやろ」
私は謝った。祖父は謝る私に興味はない。音にしか興味がない。
造り込みに入ると、祖父の注意は刃先ではなく、芯の通りに向けられた。硬い鋼と柔らかい鋼を重ねるとき、祖父は指先で「重なりの気配」を確かめる。溶接の線に、目に見えない波が走るのだと、祖父は言った。それが真っ直ぐでないと、刃は長く生きられない。
私は理由を訊かなかった。訊いても、祖父の言葉は、きっと私を通り抜けてしまうと思ったからだ。代わりに、音と火の色と、祖父の肩の角度を盗んだ。
火造りの日、祖父は反りをつけるための打ち込みを、ほんの僅かに外した。外したというより、外しに行った。鋼は人間がまっすぐにしようとしても、火と冷えの中で勝手に曲がる。ならば、先回りして外す。祖父はそういう人間だった。私はその「外し」を真似した。すると、祖父の顎がまた僅かに動いた。合格の合図だ。
土置きの日が来た。
焼刃土の配合は秘密だと祖父は言うが、手元は隠さない。砥粉、粘土、炭の粉、水。湿り気を含ませ、練る。祖父は刃先へ薄く、峰へ厚く、土を置いていく。刃文の線は乱れではなく、呼吸だ。私は息を止め、祖父の指先のリズムを目で吸い込んだ。
「この土、何のため?」
久しぶりに口を開いた私に、祖父は少しだけ笑った。
「火を分けるためや」
火を、分ける。
私は土の濡れた光を見た。炉の赤が乗ると、水のようにも油のようにも見える。
焼入れは、夜にやる。工房の外の音が少ない時間。祖父は刃を持ち上げ、炎に入れた。温度を測る計器はない。祖父は刃の影を見る。
私はふいごを引く。火は呼吸を上げ、刃は色を深める。祖父の目はその色を透かし、なぜか遠くの雨の音まで聴いているように見えた。
「来い」
祖父の声で、私は水槽の側に立つ。水は冷たい。祖父は刃を引き抜き、滑らせるように水へ。
ジュウ、と音がして、白い泡が立った。刃先が固まり、峰がまだ柔らかい。土が仕事をする。工房の暗がりに、一瞬、白い影が走った。江戸の刀匠の袖だ。私はまた息を呑んだ。
刃を上げる。水が滴る。祖父の肩が、ひとつ落ちる。少しだけ安堵の形。
焼き戻しで、祖父は急がない。炭火を遠くに置き、じんわりと刃を温める。刃の奥に、熱がほどけていく。祖父は刃と会話しているようだった。私はその会話の言葉を知らなかったが、意味は分かった。刃は、まだ生まれたばかりだ。
祖父は倒れた。
朝、工房の戸を開けたとき、ツナギの背中が床に寄りかかっていた。私は叫び、救急車を呼んだ。父は会社から飛んで戻り、冷たい手で祖父の手を包んだ。祖父は目を開け、私を見た。何か言おうとして、唇がわずかに動いた。
「樋、詰まっとる」
私は泣き笑いをした。祖父はそのまま眠りに落ちた。病院の白い天井は、工房の煤よりも重たかった。
医者は言った。命に別状はないけれど、しばらくは無理をできない。父は頷いた。私は頷かなかった。工房の炉は、冷えていく。
その夜、工房へ戻ると、雨は上がっていた。湿り気は残っている。私は灯りをつけ、炉の灰を掻き、炭を積んだ。ふいごの柄を握る。祖父の背中を思い出す。ぎい、ぎい。火が、ゆっくり起き上がる。
私は祖父の真似をした。玉鋼の目を読むふりをして、選別した。叩いた。折った。叩いた。音はすぐに乱れた。金槌の芯が外れる。金床が怒っている。私は息が上がり、額の汗が目に入る。
桶に肘が当たり、トドロが床にこぼれた。黒い泥が、薄く広がる。私は膝をつき、手のひらで泥に触れた。冷たい。けれど、どこか温かい。
そのとき、工房の空気が、わずかに動いた気がした。誰もいないのに、誰かが隣に座ったような、重さ。
私は顔を上げ、炉を見た。火が、こちらを見る。火は、こちらを見る。
──火は、昔から同じや。
祖父の声が、灰の底から立ち上がる。私は目を閉じ、ふいごを引いた。ぎい、ぎい、ぎい。呼吸が整う。音が戻る。金槌の芯が、やっと芯に当たる。私は少し泣き、少し笑った。
祖父が退院した日、工房の戸口に三人で立った。
父はため息をつきながら、戸を開けた。祖父は杖を突き、炉を見た。炉は灰を厚く被っている。祖父は短く笑った。
「樋、詰まっとる」
私は走って外へ出た。樋は詰まっていなかった。空は晴れ、山の影が工房の床まで伸びていた。
祖父は炉の前まで歩き、小さな声で言った。
「やるか」
私はうなずいた。父は何も言わなかった。
炉に火が入る。火は、小さな音で喜ぶ。祖父は椅子に座り、私の手の位置を、顎で示した。私は玉鋼を火へ入れ、ふいごの柄を引く。ぎい、ぎい。
叩くのは、私だ。祖父の金槌が、私の手の中に重なる。私は耳を開く。音が、一本の線になって刃の中へ入っていく。火花が踊るたび、ツナギの袖の下に、藍の着物が見える。私は見た。見えた。
刃は生まれようとしている。私の力でではない。火と鉄と、祖父と、江戸から続く誰かの力で。
焼入れの水は、祖父の合図で私が持った。刃が水に入る瞬間、工房の壁が白く光る。空気がひゅ、と細く鳴く。私は息を吐き、刃を上げた。
焼き戻しの火を、私は遠くに置いた。祖父が頷く。炭火が、刃に言葉を戻していく。私はそれを聞く。言葉は分からない。だが、意味は分かる。刃はここにいたいと言っている。
研ぎは、別の職人の手に渡した。工房の隅で、私は桶のトドロを見た。黒い泥の表面に、窓の空が歪んで映っている。
祖父は銘切りの準備をした。茎に、刻む。刃が私の前に置かれる。私は躊躇する。祖父は、黙っている。
私は刻む。母方の家の字と、祖父の名と、今日の日付。最後に、ほんの小さな点をひとつ。祖父が、音もなくうなずいた。
「なんの点?」
父が珍しく訊いた。私は笑った。
「隣の、印」
祖父は笑い、父は苦笑した。
完成した刀身は、光を受けて刃文を浮かべた。波が、呼吸している。飾りだと言われれば、飾りだ。美しいと言われれば、美しい。
だが、私には分かっている。これは、人を斬るための刃ではない。
火の声を記録した、一本の記憶だ。
祭の日、里の人が工房をのぞきに来た。古い友人らしい老人が祖父に声をかける。
「もうやらんのかと思っとったわ」
祖父は首を横に振った。
「もう、わしはやらん。ここは終いだ」
私は驚いて祖父を見た。祖父は少し笑い、私を顎で示した。
「ここは、終いにして、同じ場所を始める」
老人は目を丸くし、私の顔を見た。父は腕を組んで、それでも口元は少し緩んでいた。
祖父は工房の隅を指さした。そこには、私が板材で組み上げた新しい作業台がある。電動工具の小さな音が、祭囃子に負けず鳴っている。伝統を壊すためではない。繋ぐために、変える。祖父はそれを知っている。
「教えてくれる?」
私は冗談半分に言った。祖父は首を横に振った。
「見て、盗め」
私は笑った。
秋の雨がまた来た。樋は詰まっていない。
工房の中、炉は静かに息をしている。私はふいごを引く。ぎい、ぎい。音が、私の中の何かを整える。
桶のトドロに灯りが映る。黒い泥は、今日も少し光っている。私は柄杓ですくい、光にかざした。粒子がふるえている。
隣には、祖父がいる。江戸の刀匠もいる。父も、いる。
刃は飾り棚に収まり、人の目にさらされる。それでいい。飾りは虚飾じゃない。
飾るとは、忘れないということだ。
ふいごの柄を引く。火が返事をする。
私は火の声を聴く。火は昔から同じだ。けれど、私に返ってくる声は、昨日とは少し違う。
少しだけ若い。少しだけ、未来の色をしている。
了
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目を開くと世界がモノクロになっていた。
きっとこれは夢だ。私はそう思った。
外に出ると空は白い、地面は灰色で、人の顔も灰色でどこまでも色味がない。
話し声も色がない。
誰の言葉も響かない。
そこで、ふと思った。
そもそも私の日常生活に色なんてあっただろうか?
昨日のことを思い出そうとしても、やはり何も思い出せないのだ。毎日が灰色で、白から黒へのグラデーション。
それが私の日常だった。
色のない世界でそれを 普通と思い込んでいただけかもしれない。だから色が消えたところで、今までと何も変わらないのだ。
夢だと思った今の状態は、もしかしたら変わらない現実なのかもしれない。
白い日もあれば黒い日もあるかもしれないけれど、私の世界には色がなかったのかもしれない。
鮮やかな日常をまぶたの中に思い描こうとする。
だが何も思い出せないのだ。
色が消えたところで、私は何も困らない。
世界はどこまでも色がなく、そのことに私は困らないのだ。
心の中がざらついて、何の感情も浮かんでこない。
色のない夢……いいや色のない現実。
夢の中で赤信号を渡る。
色がないのに赤信号だとわかる。
夢の中で青信号で止まる。
色がなくても青だとわかる。
……なんだ、色なんて必要ないじゃないか。
そう思うと私は泣きたくなった。
空を見上げれば灰色の雲が出ている。
ポツリポツリと雨が降る。
地面の灰色のブロックの上に、黒いシミを作っていくのだ。
それはオセロのように黒く黒く染め上げていく。
やがてあたりが黒1色に包まれた。
何もない闇の中を、私を歩いて行く。
……なんだ、光なんていらないじゃないか。
私はポロリと泣いた。
その時に初めて私は悲しいと思ったのだ。
色なんていらない、見えなくても気にならない、そんな世界に。
きっと夢の中でも現実でも、私は色なんて必要としていなかったのかもしれない。
色のない日常。昨日と変わらない今日。
それは延々と過ぎてゆく。
嬉しいとも悲しいとも思わない日々が、毎日蓄積してゆく。
そのことに疑問も感じなかった。
私は初めから色のない世界で生きていたのだ。
そのことに気がつかず、何の感情も湧かなかったのだ。
私の世界はとっくに死に絶えていたのかもしれない。
私自身は生きているのに……
そのことに気がついて初めて悲しいと思った。
一粒の涙が地面に落ちて白く輝いていた。
その白の中には、実際は いくつもの色彩が含まれていたのだ。
闇よりも暗い黒から白へと塗り替えられてゆく。
それはオセロの様に……
……そして世界は色彩を取り戻したのだ。
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8.1 夕霧/ひまわり/君の笑顔
夕立の後、珍しく夕霧が出ていた。
霞んだ ひまわりの花に君の笑顔が浮かぶ。
僕は夢を見ているのだろうか。
夕立の後に夕霧なんて出るはずがないのに。
目をこすってもう一度前を見ると、薄紅色に染まった入道雲が輝いていた。
きっと僕は真夏の陽炎の夢を見たんだ。
8.2 花火の残骸/濡れたアスファルト/最後の夏
夏の最後の思い出に君と行った花火大会の翌日、僕はボランティアの清掃に行った。花火の残骸を片付けアスファルトに水をまく。
また来年来ようねって約束をして。
綺麗になった道路を見て昨日の思い出に浸る。
来年もまた君と見に行けます様に!
8.3 風鈴/冷たい麦茶/届かない声
日陰になった 縁側で冷たい麦茶を一口。
風鈴の音がちりんと響いた。
お盆は死者たちが帰ってくるという。
ともに過ごした君はもういない
君に伝えたい言葉を僕は何故言わなかったのか。
お盆になったら君もきっと帰って来る。
君の仏前でその言葉を伝えよう。
8.4 線路沿いの猫/夕焼け/約束の場所
僕の飼い猫が行方不明になってしまった。
あちらこちら探して回る。
沿線沿いを歩いて行ったよ、という話を聞いて僕は歩いて行った。夕焼けの町、遠い昔君と約束した場所で猫はいた。
やっぱり君の生まれ変わりなんじゃないか……
僕は猫を抱きかかえた。
8.5 打ち上げ花火/浴衣の帯/遠ざかる背中
君と打ち上げ花火を見たのは去年。
綺麗な浴衣の帯がお別れの時に揺れていたのを思い出す。
まるで琉金のしっぽみたいだ。
君がいなくなった隣の席は寂しく、一人で見に行った花火大会。
金魚すくいで琉金を連れて帰った夜。
……もう一度君に会いたいよ
8.6 朝の蝉/溶けたアイス/君の指
「行ってきます」
君は毎朝ラジオ体操に出かける。
帰ってきたら私はアイスを渡す。
「頑張ったね」
「うん!」
アイスのついた指を舐める君。
今年も蝉のなく朝。
「行ってきます」
君は高校生になって子供達にラジオ体操を教えている。
私はアイスを用意した。
8.7 盆踊り/提灯の灯り/亡くなった祖母
祖母は盆踊りが好きだった。
祭りの提灯の灯りの下で 私は盆踊りを踊る。ふと 隣を見ると祖母が踊っていた。
あぁ、もうお盆だから帰ってきたんだ。
祖母の踊りはとても風情があり浴衣の柄がいつも涼しげだ。
こうやって一緒に踊れるのは今日1日だけなのだ。
8.8 熱帯夜/エアコンの音/隣の寝息
眠れぬ熱帯夜にエアコンの音に混じって、隣から寝息がする。
そんなバカなと思って横を見るが誰もいない。
私は目を閉じて眠ろうとするがやはり隣から寝息がする。
私は電気をつけた。
隣には夫が横になっている。
確認してみたが、やはり息はしていなかった。
8.9 ひまわりの種/自転車の後ろ/あの夏
君の自転車の後ろに乗って疾走したあの夏。
大きな ひまわりが山のように咲いていてじっとこっちを見ているようだった。
「あれは食用のひまわりだよ」
と君が教えてくれた。
ひまわりの種を食べながらビールを飲むとそのことを思い出す。
8.10 雷雨/停電/君と二人
突然の雷雨で停電してしまい真っ暗な中君と二人だけ。
どうしよう、ドキドキする!
これって恋?
ううん、きっと違う。
だって君は女の子で私も女の子なんだもん。
違うよね?
いや違う!
やっぱり私は君に恋をしたみたい。
8.11 祭りの帰り道/金魚すくい/失くした指輪
祭りの帰り道彼女と出会った。
久々に会った彼女は手に指輪をしていなかった。
「失くしたのよ」
と言っていたが本当だろうか。
本当は別れたんじゃないだろうか……
彼女はどこか危うくて、
まるで金魚すくいの金魚の様にすぐに死んでしまいそうだ。
8.12 入道雲/屋上のタール/青春の終わり
青い空と入道雲。
屋上に上がれば君がいて、いつも授業をサボっていた。
青春というのは決して綺麗なものばかりではない。むしろドロドロに溶けたタールのような煮え切らない想いが心に渦巻く。
懐かしいと思い出す。
それでも青春は美しかったのだ。
8.13 西瓜割り/目隠し/君の笑い声
「西瓜割りしようよ!」
突然そういう声が聞こえて目隠しをされた。
君の笑い声が聞こえる。
ぐしゃり!
西瓜のように僕の頭が割れる。
目隠しがずれて隙間から君の笑い声と笑顔が覗いた。
8.14 夏の夜/欠けた月/再会
いつかの再会を誓って僕たちは別れの挨拶をした。
ある夏祭りの夜。
屋台で偶然君と再会する。
一緒に境内で欠けた月を見ながら、昔話をする。
「また会える?」
いいよ明日の晩に
明日はきっと満月だから……
8.15 終業式/制服の匂い/最後のチャイム
終業式が終わり最後のチャイムが鳴る。
「これから夏休みかぁ」
「どこか行く予定ある?」
「いや特には」
「俺も特に予定はない」
「それなら夏の間どこか行かない?」
「それデートのお誘い?」
「違うし!」
彼女の制服から微かに柔軟剤の甘い匂い。
8.16 夜のプール/水面の月/秘密
夜の学校のプールに二人でこっそりと泳ぎに行く。きっとこんなことがバレたら先生や親に怒られちゃう。
水面に月が映って真っ暗で、とってもドキドキする。
それなのにこんなにも楽しい!
君と二人で秘密を共有する。
いけないことをしている気分!
8.17 灼けた砂浜/波の音/君の手
焼けた砂浜を君の手を引きながら歩いて行く。
波の音が聞こえるから、ここは 砂漠でないはずだ。
いつまでもいつまでも終わらぬ先を越えて行く。
波の音がするからもうすぐ海に着くはずだ……
それなのにどこまで行っても砂しかない。
どこまで行っても砂、砂、砂……
8.18 夕立/傘のない二人/濡れた肩
突然の夕立に私たちは2人走った。
グラウンドを走り抜けて校舎に入った時には2人ともびっしょり。
それでも君は私の濡れた肩を気にして教室にあった 自分のタオルを貸してくれた。
そういうところが好きだったんだ。
けれど私は思いを伝えられず、卒業したっけ。
8.19 風の強い日/帽子が飛んで/追いかける君
風の強い日だった。
帽子が飛んで追いかける君。
ほんの一瞬の出来事だった。
飛び散る鮮血。
今も思い出しては、頭の中が真っ白になる。
繰り返し繰り返し、あの日の記憶がよみがえる。
君はもういないのに……
8.20 朝露/蜘蛛の糸/儚いもの
昨日は流星群の夜で星がいっぱい降ってきたから、朝起きたら蜘蛛の糸に星たちがたくさん引っかかっていた。
それは朝露みたいにキラキラと光って、とても儚い1つの銀河系になっていた。
蜘蛛の巣の銀河で星たちは夢を見る。
夢の中で生命が生まれ文明が生まれるのだ。
8.21 夏の終わり/風鈴の音色/別れ
風鈴の音色に導かれ夏の終わりがやってきた。
夏の終わりは悲しそうに別れを告げる。
風鈴の音色がチリンチリンと音を立て、夏の終わりは去ってゆくのを悲しんだ。
夏の終わりは風鈴の音色に少し似ている。
8.22 台風一過/青空/心の隙間
台風一家がやってきて、大雨を降らした後に台風一過とさって行く。
後にはいつもより青い青空とほんの少しの心の隙間ができて、そこに虹がかかるのだ。
いつもより青い空と心は、虹を迎え入れてキラキラと輝いた。
雨上がりの水たまりにそんな空と心が反射していた。
8.23 線香花火/火花の最後/短い命
線香花火が終わったら一緒に出かけようと約束していた。
線香花火の命は短い。
花火の最後はジジッ……と音を立てて消えてゆく。
最後の花火が消えた時、君もまた暗闇に消えてしまった。
彼女が幽霊であることに気がついたのはその時だった。
8.24 学校のプール/閉鎖の看板/思い出
今年は 酷暑であるため学校のプールが閉鎖になってしまって看板が出ていた。
僕が子供の頃は夏休みのプールが楽しい思い出だったけど、息子はプールに入れない。
だから休日市民プールに連れて行く。
学校のプールの代わりに楽しい思い出になればいいな。
8.25 夜風/白いカーテン/君の影
夜風が吹いて白いカーテンが揺れている。
ふと君の影がそこに写っている様な気がした。君と他愛のない話を毎日していた。
君の気配があるのが当然でいなくなるなんて全く考えなかった。
だから白いカーテンが揺れているのを見ると、君がそこにいるような気がする。
8.26 流星群/願い事/叶わない恋
今夜は流星群だ!
願い事をたくさんしよう!
ちっとも叶わない恋の願い事を!
すると姉貴が呆れたような顔して出てきた。
「あんたね!何人もの女の子と付き合えるわけないでしょ!そんなんだから何一つ叶わないのよ!」
「いいじゃん皆と付き合いたいんだし!」
8.27 古い写真/色褪せた君/あの日の光
私は古い写真をそっと撫でた、色あせた写真に写る君の姿は あの頃と変わらずセピア色に染まった写真はそれでも君の頬はバラ色だと感じることができた。
あの日の光の中、若いままの写真の君。
私はすっかり年老いてしまったよ。
8.28 空蝉/秋の気配/寂しさ
木の幹には空蝉がくっついていた。
蝉たちはこれでもかというほど元気な声で鳴いていたが、どうも最近は少し声が控えめになったような気がする。
まだまだ強い日差しの中に秋の気配がやってきた。寂しさを携えて。
蝉たちの恋の季節はそろそろ終わりのようだ。
8.29 残暑/汗ばむ手/最後のキス
残暑が私のところにやってきた。
「もうすぐお別れですね」
と言って私の汗ばむ手に最後のキスをした。
焼けつくような暑さから解放されるのは嬉しいけれど 残暑の寂しそうな顔を見たら、私も寂しい気持ちになった。
夏の終わりはいつだって物悲しい。
8.30 夕陽/長い影/君と歩いた道
夕陽が、長い影を落とす。
君と歩いた道を歩きながら僕は目を細めた。
小さかった君は今では立派な大人になった。
寂しくないといえば嘘になる。
駅に着くと、君と子供達の姿。
「おかえり」
年に一度でもこうやって会えるのが嬉しい。
8.31 夏の残照/枯れた花/さよなら
向日葵はすっかり枯れて幽霊の様な姿をしていた。夏の残照が照らし出す。
まるでこの世に『さよなら』を言っている様ではないか!
立ったまま死にたえ夏の終わりを体現している。
いいやきっと来年、新しい種から新しい向日葵たちと出会えるのだ。
その日を夢見る。
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6月22日
『呪いの人形1』
私は呪いのお人形。
それだというのにこの家の娘と来たら…
「やったー可愛い」
私の姿を見て 目をキラキラさせる。
えぇい!こうなった何としてでも呪いの人形のプライド見せてやる!
「すごい!ヘアアレンジしちゃお!」
娘は私の伸びた髪を見てルンルンで三つ編みに…
思ってたんと違う
『呪いの人形2』
私は呪いのお人形。
よし!それならば髪を1mぐらい伸ばして…
「え!?わーすごいー!!!!」
どうだ驚いたか!
「ヘアカットしちゃおう」
嫌!やめて、せっかく頑張って伸ばしたのに…
『呪いの人形3』
私は呪いのお人形。
どうやっても怖がらないなら実際に動いているところを見れば…
「え!!動けるの!?」
「う、うん」
「ええぇ!!!!喋れるの??」
「…うん」
「やだもっと早く教えてよ!!!!」
なんだかますます喜んで怖がる気配すらない。
…もうどうすりゃいいの。
6月23日
『呪いの人形4』
私は呪いのお人形。
夜中にガタガタ 窓の方から音がする。
侵入者だ。この家に泥棒なんていい度胸だな!返り討ちにしてくれる!!
私は髪を伸ばして泥棒をひっ捕まえて ブンブンと振り回す。
悲鳴を上げて逃げてく泥棒。
ザマーミロ!
…しかし室内がめちゃくちゃになっているのどうしよう。
『呪いの人形5』
私は呪いのお人形。
私の持ち主の娘が上京してしまったらしい。
部屋はガランとしている。
ふん、別に寂しくなんか…
寂しくなんか…寂しく…やっぱり寂しいよ〜〜!
というわけで、私は電車に乗って娘の引っ越し先に行った。
『呪いの人形6』
私は呪いのお人形。
娘に彼氏ができたらしい。今度部屋に連れてきて紹介すると言っている。
…は?ふざけんな!
そんなヤツ絶対に認められるわけないだろ!
という事で彼氏とやらを怖がらそうと思ったが…全く怖がる素振りがない。
聞けばに猫又を飼っているらしい。
おのれ猫又め〜!!!!
7月11日
『呪いの人形 7』
私は呪いのお人形。
そろそろ 持ち主が家に帰ってくる。
ギィーッと扉がきしむ。
ちょっと待って、その手に持っている人形は何だ!
はぁ!?フランス人形聞いてない。
持ち主頬ずりなんかするんじゃない!
「仲良くしてね」
ってこんなやつと仲良くできるか!
『呪いの人形8』
私は呪いのお人形。
「じゃーんこれ買っちゃった!」
ビラビラの小さいドレスを持ってごきげんな持ち主。
「よし、お着替えしちゃお」
そういうと私の帯を解き出す。
「ちょっと待って!!それ私用なの?やめて!そんな恥ずかしい格好できない」
あ~れ〜!!!!
『呪いの人形9』
私は呪いのお人形。
ドレスにうんざりしていると例の金髪の人形がいきなり抱きついてきた。
「きゃ〜お揃いですわ」
「フランス人形と一緒だなんて」
私がそう言って拗ねると
「私はスーパードルフィーですわ」
「何それドルフィンてイルカ? スーパーで売ってるの」
「違います!」
何故か怒られる。
『呪いの人形10』
私は呪いのお人形。
今持ち主に絶賛お説教中である。
「どうしてちっちゃい女の子泣かしちゃったの!ダメじゃない」
私は悪くないもん!
ここに突然現れたフランス人形。
「そうですわ!私がいじめられていたのを助けてくださっていましたの」
余計な事言うなよ!…恥ずかしいじゃないの。
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