今から僕は、他人を見下す。
気分が悪いときは、自分よりも下の人間を見ると良い、と誰かが言っていた。多分、そいつは性格が悪い。
今、僕はその性格が悪い人間に成り下がろうとしている。なぜか。そう問うやつには中指を立てたい気分だ。理由を言っても適当な相槌しか打たないくせに、無駄に人の奥底を知ろうとする無責任な奴らは死んでしまえば良い。そうなりゃ、僕のこの鬱屈な気分は少し晴れる。
お察しの通り、僕は気分が悪い。とても、だ。理由を話す気にはならないが、凶悪殺人犯と小一時間談笑できるほど苛ついている、と言えば少しは察していただけるだろうか。
この気分を少しでも晴らそうと、僕は商店街へと歩みを進めた。もちろん、そこで何かを買うわけではない。目的地は商店街の外れにある狭い路地、だ。
昔、自分だけの秘密基地を作ろうと、この辺りを歩き回っていたことがある。そのときに偶然見つけたのが、汚いおっさんだ。おっさんは地面に敷いた薄い段ボールに寝転がり、萎れた煙草を吸いながらコーヒーを飲んでいた。あの時の香りを思い出すだけで、不思議と気分が高揚してくる。子供ながらに分かった。この人は自分より圧倒的に下の存在だと。そしてこの関係が崩れることは、今後起こり得ないだろう、と。
きっとあのおっさんは、僕を見るなり金をせびってくるだろう。それか、無理矢理にでも奪いにくるかもしれない。今の自分よりも下の存在なのだから、もしかしたら惨めったらしく媚を売ってくるかも。
どの想像をしても、不思議と心臓が激しく脈打ってくる。僕に必要な存在は暗がりから救い出してくれるヒーローではない。僕がまだ堕ちきっていないと教えてくれる、最底辺の人間だ。
商店街をするりと抜け、例の路地へ。
歩みを進めるにつれて、あの香りが漂ってくる。
疲れきった煙草の匂いが、
全く美味そうではない缶コーヒーの香りが、
そしてなにより――汚いおっさん自体から発せられる、鬱屈とした臭いが。
それらの香りは、僕の鼻口を侵してくる。酷い匂いだ。だが、今僕はそれを求めている。終わりきった人間の醸し出す終わりきった匂いを、たまらなく求めている。
曲がり角を曲がった先に、そいつはいた。
酷使された段ボール。
うざったい煙草の匂い。
安っぽい缶コーヒーの作られた香り。
そして――汚い、おっさん。
おっさんはこちらを見るなり、「ぁ?」と、底辺の染みついた声を発した。期待通りの姿に、自然と頬が釣り上がっていくのを感じる。
「誰だアンタ?」
おっさんは、僕のことを覚えていないようだった。当たり前だ。あのときから十年は過ぎている。おっさんも記憶の中のものより随分と老けていた。
「大丈夫、別にお前は知らなくて良いから」
指を前に突き出し、僕は告げた。おっさんはぽりぽりと頭を掻き、不思議そうに首を捻っている。
「なんでこんなとこに来たんだ? 迷子か?」
「ちげえよ。あんたに会いに来たんだ」
おっさんが目を見開いた。俺に会いにくるなんてどんな物好きだ? とでも言いたげな顔をしている。
「ほお……そりゃ、なんでまた?」
「見下しに来たんだ、アンタを」
言っていて、吹き出しそうになる。その言葉はあまりにも下卑ていた。だがまあ、こんな奴に何を言おうが罰は当たらないだろう。
「そうかい」
おっさんは驚くでもなく、怒りを露わにするでもなく、ただ手元の缶コーヒーをあおった。
「……は? それだけ?」
「それだけって?」
ゆったりと、おっさんは余裕そうにこちらを見つめた。こちらの全てを見透かしているような、ねちっこい目線。経験を積んできた、大人の眼光。
「もっと……もっと、あるだろ! 歳離れてるガキに見下されようとしてんだぞ!?」
「それがどうしたんだ。今更どれだけ馬鹿にされようが変わらんさ。もう慣れたよ」
その言葉に、少し安堵した。期待していた反応ではなかったが、やはりこいつは終わっている。目的自体は果たせる。
「……あんたさ、恥ずかしくないのか? 大人のくせして、こんなとこで一人でゴロゴロして! どうせ仕事もしてないんだろ? ずっとさ! 正直、見てるだけで反吐が出るね!」
なら見なけりゃ良いだろう、そう囁いてくる心中は無視して、ポケットからスマホを取り出す。
そして、カメラのシャッターを切る。
「あんたのこと、晒してやるよ! 見た奴らの反応が楽しみだね! 友達と一緒に笑い飛ばしてやる!」
友達なんか、いないのに。
「ネットにも載せてやる! あんたが俺から金奪おうとしてきたってな! 叩かれるぜ、あんた! 『高校生から金奪うなんてクズだな。死ねば良いのに』そんなコメントが幾つも来る! それが来るたびに見せに行ってやるよ、アンタがどんだけ社会に必要とされてないか思い知らせてやる」
一番みんなに必要とされてないのは、僕の方だ。
「そんで……そんで、アンタに殴られたって、警察に通報してやるよ! この傷をアンタのせいってことにしてやる!」
そんなことして何になるのだ。僕を殴った奴らにはなんのお咎めもないじゃないか。
「どうだ! 覚悟しろよ! 今言ったこと、全部やってやるからな!」
それをして、何になるというのだろう。
気分は晴れるだろうか?
晴れないだろう。人を不幸にして幸せになんかなれない。
これからの生活は変わるだろうか?
変わるわけがないだろう。原因はこの人じゃない。クラスの奴らと……僕自身だ。
こんなことをして、何になるのだろうか?
……自分が、浮浪者よりも下の存在だということが証明される。証明、されてしまう。
嫌だ。だが、事実だ。僕は今、この地球上で一番下の人間だ。それは紛れもない事実で、多分、今後一生変わることはない。
「辛かったね」
少し前まで見下していた人間に、ずっと、ずっと欲しかった言葉を言われてしまった。改善案を提示するでも、適当に相槌を打つでもない。ただ、同意してくれる。寄り添ってくれる。こんな、最底辺のクズな野郎に。
「君に何があったのかは知らないが、私は君の気持ちがわかると思う。何があったか、教えてくれないか?」
「なんで、俺みたいな底辺野郎に優しくするんだよ。俺、アンタに酷いこと……」
「私みたいになってほしくないからなぁ。それに、私はもう戻れないが……君ならまだ、這い上がれるだろ?」
喉の塊を呑み込んだ。多分、今僕は酷い顔をしている。涙と鼻水で、汚れきっている。でも、だらしなく笑っている。
「さて……。話そうじゃないか、同じ底辺同士」
この人は、僕を同じレベルで扱ってくれている。最底辺の僕を、あなたと同じ程度だと言ってくれている。全くそんなことないと言うのに。
近くに寄ると、煙草の匂いがした。それと、安っぽい缶コーヒーの香り。そして、人生の年輪を刻んでいる、かっこいい大人の香りが。
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9月1日
『鬼百合の里山』
山はすっかり鬼百合の季節だ。
鬼を打ち払ったという賢者は鬼たちと共に亡くなったという。
後には山に鬼百合の花が咲くばかり……
亡くなった賢者の化身なのかそれとも鬼の亡霊 なのか……
地元の人間は恐れて誰も鬼百合を触ろうとしない。
花は黙って 誰に見られる事もなく毎年咲いては枯れてゆく。
9月1日の花言葉 オニユリ「賢者」
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9月2日
『マリーゴールドと思い出』
華やかな黄色いマリーゴールドの花が咲いた。
健康的で君の笑顔みたいだ。
君はいつも明るくて、そばにいるだけで僕は元気になった。
可愛い娘。
マリーゴールドの花でおままごとしていた事を昨日みたいに思い出す。
君は卒業して今年から社会人。
がらんとした部屋からマリーゴールドの庭が見える。
9月2日の花言葉 黄色いマリーゴールド「健康」
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9月3日
『コスモスの咲く公園』
爽やかな秋の風が吹いていた。
美しいコスモス畑が広がっていて、世界はこんなにも美しかったのかと思った。
我が子と二人手をつないで少し遠くの公園まで歩く。砂場と滑り台があるだけの小さな公園。
だがそこに 広がるコスモス畑に私も息子も目が釘付けになっていた。
9月3日の花言葉 コスモス「美しさ」
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9月4日
『偽イソップ物語』
頑張ったけどぶどうが取れなかった狐。
「あのぶどうは酸っぱいに違いない!」
と狐は言った。
「そんなことないよ、美味しいよ」
リスはぶどうのつるを噛み切って狐のところに落としてあげた。
そして2人で仲良くぶどうを分け合って食べたとさ。
9月4日の花言葉 ブドウ「思いやり」
✿✿✿
9月5日
『オミナエシの咲く季節』
親切な君に感謝を伝えたい。
だけどどうすれば伝わるんだろう。
お礼のプレゼント?それとも旅行にでも連れて行ってあげるとか?
いいや、ここはシンプルに!
「ありがとう!」
君に向かってそう言った。
9月5日の花言葉 オミナエシ「親切」
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9月6日
『白髪千里となりて』
貴方を待つうちに長い歳月が経ちました。
私の髪もひげもパンパスグラスの様に真っ白になりました。
人と妖怪では寿命の長さが違います。
もう一度貴方に会いたくて、転生してくるのをずっと待っているのです。
ですがもう会えないかもしれません。
何度でも輪廻転生してくる貴方を待っているのです。
9月6日の花言葉 パンパスグラス「歳月」
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9月7日
『オレンジ畑』
オレンジ畑には山のようにオレンジの実がなっている。
美味しくなあれ、美味しくなっていっぱい食べてもらえるように純粋に祈りを込めて。
だが嵐がやってきた。
たくさんのオレンジの実が風で地面に落ちてしまった。
オレンジたちは 工場へ。
美味しい純粋なジュースになったのさ。
9月7日の花言葉 オレンジ「純粋」
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9月8日
『どうやら無自覚』
全く彼女はホウセンカ みたいだ!
ちょっと触るとものすごく怒る。
「私に触れないで!」
そう言ってこっちを睨みつけてくる。
いや気軽に肩を叩いた僕が悪かったけど。
セクハラで訴えるなんてあんまりじゃないか!
自分の娘ぐらい年が離れた女性にセクハラなんてするわけないだろ!
9月8日の花言葉 ホウセンカ「私に触れないで」
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9月9日
秋のお散歩
幼い君の手を引いて歩いた散歩道。
秋風の中シオンの花が咲いていた。
「君を忘れない」
幼い愛しい日々も、成長してたくましくなっていく君も。
ずっとずっと私の心の中。
9月9日の花言葉 シオン「君を忘れない」
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9月10日
『最近の男は怖がりもしない!と口先女は愚痴りましたとさ』
華麗で豪華なダリアの花束を持って僕は君の元へと向かった。
ここで待っていれば君が来るはずだ!
足音が近づく。
ほらやってきた!
「私キレイ?」
そう言って君はマスクを外す。
「大きな笑った口元がとても素敵です!僕とお付き合いしてください!」
硬直する君。
君は一目散にマッハで逃げ出した。
9月10日の花言葉 ダリア「華麗」
✿✿✿
9月11日
『火傷の後には』
痛いよ!
僕がそう言うとおばあちゃんがアロエを持ってきて傷口に貼ってくれた。
少しひんやりして苦痛が和らぐ。
その時、おばあちゃんってすごいなと思った。
何でも知っている。
ベランダにはアロエ。
大人になってからも、たまにおばあちゃんを思い出し怪我をしたら傷口に貼る。
アロエの魔法だ。
9月11日の花言葉 アロエ「苦痛」
✿✿✿
9月12日
『葛湯の思い出』
風邪を引いた僕に母は葛湯を入れてくれる。
葛湯を飲めば体がほんの少し楽になったような気がする。
母は僕を女手一つで育ててくれている。
本当に芯が強い人だなと思う。
「飲んだらしっかり休んでね」
「はーい」
母が去って行く足音を聞きながら布団にもう一度入る。
9月12日の花言葉 クズ「芯の強さ」
✿✿✿
9月13日
『恋の期待』
僕の胸は期待に膨らんでいた。
なぜかと言うと、好きなあの子から校舎の裏に来てと言われたからだ。
僕のラブレターの返事だろうか?
「あのさ毎日、下駄箱に手紙を入れるのやめてくれる?気持ち悪いし 怖い」
「……」
君が立ち去った後、花壇に目を落とすとゼフィランサスの花が揺れていた。
9月13日の花言葉 ゼフィランサス「期待」
✿✿✿
9月14日
『愛と歳月』
秋の風にシュウメイギクが揺れる。
あの人のことを思い出す。
何年も歳月が過ぎて、だんだんあの人が死んだことを悲しいと思わなくなった。
忘却が愛を思い出に変えてゆく。
いつの日か私も死ぬだろう。
その時にあの人のことを私はどう思っているだろうか。
9月14日の花言葉 シュウメイギク「薄れゆく愛」
✿✿✿
9月15日
『弔いの日』
私のお葬式にはね、真っ赤なドレスがいいわ。
ダリアの花みたいな華麗なドレス。
それを着て弔いの皆様を眺めるの。
白い百合で覆い尽くされて、青い空にさようなら。寂しい曲なんて流さないで!
お別れするのはとっても悲しいのだから……
9月15日の花言葉 赤いダリア「華麗」
✿✿✿
9月16日
『神装束』
君の織り上げた茜色の着物は、茜さす空の下とても似合っているなと思った。
茜の花は目立たない。
とても小さな花だけどこんなにも美しい織物を作り上げてくれるのだ。
まるで小さな茜の花のように目立たない君だけど、その胸の内が茜色のおりもののように 鮮やかであることを私は知っている。
9月16日の花言葉 アカネ「私を思って」
✿✿✿
9月17日
『大切な君への願い事』
「今夜は流星群だってさ」
二人でベランダに出るが空が曇っていて見れそうにない。
「残念だね」
「うん残念だ」
君と僕は部屋へと戻る。
星は出ていないけどベランダにはミセパヤの星形の花が咲いている。
大切な君と星を見ながらどさくさに紛れプロポーズしようなんてとてもじゃないが言えない。
9月17日の花言葉 ミセパヤg「大切なあなた」
✿✿✿
9月18日
『花の色』
アザミの花の色のトートバッグを買った。
これは私のお守りだ。
これに本を入れて出かける。
お気に入りの本を持っていたらとても安心するから。爽やかな風が頬を抜けて、アザミの花が咲いていた春を思い出す。
春と秋は少し似ている。
どちらも花咲く美しい季節だ。
9月18日の花言葉 アザミ「安心」
✿✿✿
9月19日
『サルビアの記憶』
夏になれば思い出す。
小学校にサルビアの花が植わっていたことを。いつも校長先生が花を植えていたから、あの花も校長先生が植えたのだろう。
真っ赤なサルビアの花と先生の笑顔を思い出す。
先生お元気かな……
私はそっとプランターにサルビアの花を植えた。
9月19日の花言葉 サルビア「尊敬」
✿✿✿
9月20日
『彼岸の岸辺』
あなたに会いたくて一途に思い続けております。彼岸花の咲、あの世とこの世のほとりで。
いつかあなたをこちらにお迎えしようと、だけどそれはあなたが死んでしまうということです。
それはあまりに悲しくて、私はいつもここから あなたを見ております。
9月20日の花言葉 彼岸花「あなたに一途」
✿✿✿
9月21日
『花冠』
「ママ、見て見て!」
サンビタリアの花で作った花輪を持って娘が駆け寄ってきた。
私は娘を見つめる。
「上手にできたね」
花壇の花はすっかり なくなってしまったけれど 娘の笑顔は花よりもずっと美しく見えた。
9月21日の花言葉 サンビタリア「わたしを見つめて」
✿✿✿
9月22日
『千日紅の花の恋』
僕はずっと君に変わらぬ恋をしていた。
それこそ子供の頃、千日紅の花でおままごとをしていた頃から。
だけど君とは違う高校になって離れ離れになってしまう。その前に勇気を持って告白するんだ。千日紅を片手に君が通るのを待っている。
……神様どうか僕に勇気をください!
9月22日の花言葉 センニチコウ「変わらぬ恋」
✿✿✿
9月23日
『秋の庭』
そろそろ 秋だというのに露に濡れてダリアの花は優雅に咲いていた。
初夏からずっと庭を彩ってくれている。
疲れた日常を華やかにしてくれるのだ。
一つ花瓶に入れてテーブルに飾る。
この花のように周りを明るくする人間になりたい。
9月23日の花言葉 ダリア「優雅」
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9月24日
『おじいちゃんからの贈り物』
ぶどうの収穫機がやってきた。
今年も孫娘たちは喜んでくれるだろうか。
こんなにも思いやりを込めて育てたのだ、きっと喜んでくれるだろう。
今年は特に美味しくできたと思う。
一つ一つ丁寧に箱に詰めて配達に出す。
孫娘たちの笑顔を思い浮かべながら。
9月24日の花言葉 ブドウ「思いやり」
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9月25日
『恋心と勇気』
久々に同窓会であった幼馴染はずいぶんと素敵な女性になっていた。
帰り道、一緒に公園を散歩する。
子供の頃から幼馴染と公園でよくペチュニアの花でままごとをして遊んでいたっけ。
「あなたと一緒なら心がやわらぐのよ」
「LINE 交換しよう」
スマホ には君の連絡先。
だけど連絡できずに僕はいた。
9月25日の花言葉
ペチュニア「あなたと一緒なら心がやわらぐ」
✿✿✿
9月26日
『離れゆく愛』
蓮の池のそばを歩いて行く。
いつもの散歩道、去年はあなたとここを歩いた。
蓮の花が綺麗だねと話したっけ……
お盆になるから、あなたは帰ってきてくれるだろうか。
まだあなたが死んでしまった実感がない。
あなたの愛をいつか忘れてしまうのが怖い。
9月26日の花言葉 蓮「離れゆく愛」
✿✿✿
9月27日
『お花も一緒にご飯を食べたいと思ったの。』
「ひらめいた!」
突然息子はそう言った。
庭のトレニアの花をバケツに入れて家の中に持って帰ろうとする。
一体何事かと思って息子に尋ねると、
「このお花 一つしかないからお家に連れて帰ってあげようと思う」
なんて言い出す。
私は少し考え、
「お日様が当たらないとダメなんだよ」
と言った。
9月27日の花言葉 トレニア「ひらめき」
✿✿✿
9月28日
『墓参りの花』
お墓参りの切り花に庭のシオンを摘んできた。
じいちゃんがこの話 好きだったな。
ばあちゃんは花を見ると少し寂しそうな顔をした。
「あの人、天国で待っててくれるかね」
手を合わせながらばあちゃんはそう言った。
「あんまり早く言ったらじいちゃん怒るかもよ」
長生きしてよばあちゃん。
9月28日の花言葉 シオン「君を忘れない」
✿✿✿
9月29日
『林檎の木の下で』
春に林檎の花の下で君に出会った。
夏に君と林檎の木の下で笑い合った。
秋になると たわわに林檎の実がなった。
かごいっぱいに林檎を収穫して、君に差し出す。
君は笑顔で受け取って、翌日パイを焼いて持ってきてくれた。
ああ、やっぱりそんな君のことが好きだ。
9月29日の花言葉 林檎「選ばれた恋」
✿✿✿
9月30日
『公園にて待つ』
公園で貴方を待っている。
期待に胸を膨らませながら。
ほら貴方がやってきた!
貴方は手に花束を持って。
それは私にかしら?
貴方は花束を地面に置きそっと手を合わせた。そして私は自分が死んでいたと思い出した。
貴方がいなくなった後、ただ静かに公園のゼラフィン サスの花が揺れていた。
9月30日の花言葉 ゼフィランサス「期待」
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好きだったアーティストがあの世に行ってしまった。
最早好きという言葉で表すことさえ恥ずかしいと思えるほどに、そのアーティストに狂わされていた。彼の作る音、描くストーリー、心を乱す歌詞。どれを取っても彼にしか出せない。私を狂わす、おかしくて優しくてイかれた音。
そんな素晴らしく、美しく、最高で、やばくて、極上で、最強の音楽を奏でる彼が、死んだ。
私のヒーローが、
スターが、
勇者が、
死んでしまった。
訃報を聞いた時、私は、単純に、悲しいと思った。それしか思わなかったことが面白いとも思った。あれほどまでに好いていたアーティストが死んだ時の感想が、「悲しい」だけで終わるとは。陳腐なものだと、嘲笑ったものだ。
死因は自殺――らしい。ぼかされていたので正解かは定かではないが、みんながラブラブなネットではそういうことになっている。
私は毎日、彼の生きた痕跡こんせき――遺した音を辿る。そうすることで、彼が遺した意志を知ろうとする。何を嫌ってこの音を作り、何に疲れてこの歌詞を書き、何に狂ってこの物語を描いたのか。それを知ろうとする。知りたがる。無論、彼が何を思ったかなど、部外者である私が知れるわけがない。私の妄想如きで彼を推し量りなどしたくはなかったが、そうでもしなければ、彼のいない日々には耐えられそうにない。
この行為には、彼のミュージックビデオを用いるのが良い。音だけでは表し切れない感情を、映像が補ってくれるからだ。映像は、いわば助演。音楽という主演と共演することで、素晴らしい世界を形作るのだ。
ミュージックビデオのコメント欄を見るのも良い。生前、コメント欄では、同志が自身の解釈を自分勝手に綴づっていた。私が考えもしなかったような訴えが、視聴者の広場に幾つも共有されていた。同じ趣向を持った人間たちが各々に自身の考えを発信し、議論を飛び交わせ、時には殺害予告まで行われる――そんな、狂信者しかいない其処が、私は大好きだった。
昔は、だが。
今は違う。コメント欄は、彼の死を惜しむものばかりになっていた。狂信者たちの素晴らしい解釈や思いは、その自己中な情報に押し流されていた。
大好きだった曲の解釈。それが「どうして先に行っちゃったの?」そんな、身勝手な、クソみたいな言葉で掻き消される。嫌だ。たまらなく、たまらなく嫌だ。ここはそういう言葉を書く場所じゃない。
薄っぺらい曲の感想を、
曲の自分勝手な解釈を、
自分の好きな箇所を、
自分の嫌いな箇所を、
吐き出して、綴って、紡いで、書き殴る。そういう場所だ。そういう場所であるべきだ。
そうするのが、死んでしまった彼への、最大限の感謝じゃないのか? 素晴らしい音を遺し、狂わせてくれたことに対する仕打ちがこれか?
頭が沸いているとしか思えない。気色が悪い。
そう思いながらも、曲のコメント欄を見てしまう自分に、嫌気がさしてしまう。
私は、彼の歌声を、音を聴きに来たはずなのに。いつの間にか、そこに|赴《おもむ》いてしまう。ファンと呼ぶことさえ甚だしいミーハーどもの言葉に中指を立てる。それが、何故か日課となってしまっている。
ただ、コメント欄を開かなければ良いだけなのだ。ミュージックビデオを再生し、うざったい広告が流れ去るのを待ち、イントロを脳内に流し込み、歌声を飲み、歌詞を咀嚼そしゃくし、生きる糧にする。それだけで良いのに。どうしても、コメント欄を開くのがやめられない。
理由は、分かっていた。
私も、ミーハーどもと同じなのだ。多分。
死んでしまった彼に、「どうして死んでしまったの?」と。
もうこの世にはいない彼に、「また会いたいよ」と。
大好きな彼に、「大好きだったよ」と。
私がそう伝えたいミーハーだからだ。心中では嫌っておきながら、頭では同意してしまっている。
彼の曲を、ただ自身を慰める行為に利用してしまっている。
そんな自分に嫌気が差す。嫌気という軽い言葉で済ましていることに殺意を覚える。
変わりたい。こんな自分を変えてしまいたい。変われないのなら、いっそ終わってしまいたい。
ああ、変えてくれ、マイヒーロー。
あなたの狂った想いで私を殺してくれ。それが私には丁度いい。いや、それが良い。それが良いんだ。
でも、あなたはもうこの世にはいない。
私は多分、あなたなしでは変われない。
あなたはもういないのだから、変わらなくても良いだろうと、あぐらをかいてしまう。
そんな私を、どうか……どうか、赦してほしい。嫌っている奴らに成り下がっている私を、矛盾し続けている私を、どうか、嫌わないでほしい。
ずっと、あなたのファンのふりをするから。
ミーハーな奴らに、中指を立て続けるから。
だから――だから、私を抱きしめてくれ。
私にずっと狂わせて。私の大好きなヒーロー。
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今、私の目の前にいる人物について、なんと説明すればいいのだろうか。
たまたま相席になった人? 見た目怪しそうな人?
つばの広いクリーム色の帽子のすぐ下からは、短い黒髪が覗いている。注文をしている時に聞こえた声で判断すれば、性別は女性で合っているだろう。二つの瞳は大きめのサングラスに完全に覆われてしまっていて、何を考えているかは読み取れない。
というか、人の少ない時間帯であるとはいえ、帽子ぐらいは脱いだ方が良いのではないだろうか。サングラスと帽子のどちらか一つでも無くなれば、醸し出されている不審者の様な空気は緩和されるのではないのだろうか。
じっと見つめるわけにもいかず、紅茶を啜りながらチラ見を頻繁に繰り返す。こちらの視線には完全に気付かれているだろうが、この好奇心を殺すことはできそうにない。見られることに慣れているのか、目の前のサングラス女は一定のリズムでケーキの刺さったフォークを口へ運んでいる。
「あっ」
「ん?」
トイレに行こうとしたのだろう。彼女が立ち上がった時、不思議なことが起きた。サングラスの下から、何かがポロリと落ちたのだ。床へと着地しそのまま私の足下へ転がってきたそれを、向こうが屈むより先に拾い上げる。
「ザクロ……?」
私の手の中にあるのは、店の照明を赤い光へと変換している小さな粒。落下物の正体はザクロだった。一つの疑問の答えは、そのまま新しい疑問として私の前に立ちはだかった。これがコンタクトレンズであるならば、何も問題は無いのだ。カラータイプのものだって、日常的にお洒落アイテムとして使用している人は珍しくない。しかしこれは――――――ザクロだ。何をどう考えてみても、瞳を覆っているサングラスの下からザクロの粒が落ちてくる理由が思いつけない。目の前に視線を戻してみると、ザクロの落とし主はこちらを黙って見つめていた。
これは、訊いてみた方がいいのだろうか。
ザクロ……落としましたよね?
このザクロは貴女のものですか?
質問したい内容を脳内で確認していたら、一瞬のうちに隣へと移動してきた女に右腕を捕まれた。
「あの、ですね」
「え? なんですか?」
私へ向けて発せられた声は、何かを決意した様な響きを帯びていた。
「そのザクロ、返してもらってもいいですか?」
「えっと……嫌です」
「お願いします」
「そう言われましても……」
なんとなく、このまま返してしまうのは違う気がしてしまい、私は拒否の意を伝えた。まさか拒否されるとは思っていなかったのであろう彼女が、何かを考えるように少しだけ顔を天井へと傾けた時、サングラスの奥がほんの少しだけ見えた。
「えっ! あな、た……その眼……」
悲鳴を上げそうになった私の口を真っ白い手が塞いだ。空いている方の手でサングラスを掴み、少しだけ下に下げる。
「もしかして、見えちゃいました?」
口を塞がれているのも忘れ、再び思い切り声を出しそうになった。見てしまった……見えてしまった。
サングラスの奥、目の前の女の目には、目玉の代わりにザクロが詰まっていた。
店を出た後、サングラス女改めザクロ女に手を引かれて人気の少ない路地へと連れ込まれた。大きな声を出さないことを約束したことで漸く呼吸を解放されたが、気を抜くとまたすぐにでも叫び出したくなってしまう。そんな私の葛藤などには一切構うことなく、ザクロ女は周囲に他の人間がいないか用心深く確認している。気が済むまで確認を終えた後、ずいっと私との距離を詰めてきた。
「な、ななな何ですかっ」
「あーえっと、先程の非礼をお詫びしておこうかなと」
「は?」
「とっさの判断でしてしまったこととはいえ、貴女の呼吸を妨げ生命維持活動に支障をきたしてしまったので。すみません」
「はあ……あ、いえ、私も大きな声で叫んでしまってすいませんでした……」
相手の頭にぶつからないように気をつけながら、お互いペコペコと頭を下げ合う。薄暗い路地裏には到底似つかわしくない光景だ。お辞儀合戦を終了させるべく頭を上げたままにしたら、ザクロ女もこちらに倣い頭を下げるのをやめた。
「それでは失礼します」
「は? え、いやいやいや! ちょっと待って!」
この状況で何故サラッと帰ろうとできるのか。口留めなんてしなくとも、私には周りに言いふらす度胸などないように見えたのだろうか。
「まだ何か御用でも?」
「こんなところまで無理やり連行しておいて、何の説明も無しっていうのはどうかと思うんですが」
「説明ですかー……してもいいんですが、ご理解いただけないと思いますよ。それでも聞きたいですか?」
「それでも! 聞くのと聞かないのじゃ全然違うじゃないですか!」
しつこく食い下がると、ザクロ女はまず帽子を脱いだ。次いでサングラスを外し、帽子の中に入れて私の顔を見つめてきた。
完全に剥き出しになった彼女の目は、ザクロの粒がぎっしりと詰まっていた。昆虫図鑑などに載っている、トンボの目みたいだった。表通りよりは圧倒的に少ない太陽光を反射して、ぎらぎらと赤く輝いて見える。
先程よりもはるかに強烈なインパクトに思わず言葉を失っていると、更に意味不明な光景が私の頭を悩ませた。ザクロ女が右手を目の下に受け皿の様な形で配置したまではまだいい。その後、残った左手で自分の後頭部を叩いたのが一つ目の問題だ。二つ目の問題は……
「そ、そそそそれ……大丈夫なんですか? 痛かったりしないんですかっ?」
叩いた衝撃で、彼女の両目からザクロがぽろぽろとこぼれ落ちたこと。手の平に着地した粒から視線を上げ、落下地点を恐る恐る確認してみる。粒が抜けてしまった箇所はぽっかりと空洞になってしまっていて、なんだか余計に不気味さが増していた。
「痛みはないですよ。これ丁度落ちてきたやつですし。それで、このザクロなんですけど」
一度言葉を切ると、手の平に載ったザクロの一粒を摘まみ上げ、私の眼前へと近付けてきた。目を背けるのもなんだか怖い為、仕方なくザクロを見つめることにした。
「これ、私の目玉です」
「…………は?」
「私の目、ザクロいっぱい詰まってますよね? これ全部、一つ一つが私の目玉なんですよ」
「私のことからかってます?」
担がれているのでは、というのが正直な感想だった。ハッキリ言って、信用しようと思うことすらできない。私のそんな反応も慣れているのか、彼女は溜息を一つ吐くだけだ。
「ほら。だから言ったじゃないですか。真実ですよ、私の話は全て。まだ疑われるなら、これ以上お話しする理由が私にはありません」
女の目の中のザクロに視線を向けてみる。先程まではただのザクロだと思っていたが、無数の目玉に見つめられているというのが正しい現状なのだろう。形容し難い複雑な気分だ。しかし、やはり気になる。
「疑ってすいませんでした。続きお願いします」
「ザクロって、真っ赤な球状の皮の中に血みたいな沢山の粒がぎっしり詰まっているじゃないですか。あの皮が私の皮膚で、詰まっている粒が目玉なんですよ。物心ついた時には既にこうでしたし、普通の人が二つの目玉に景色を映しているように、私はこの沢山のザクロの粒を通して景色を見ている。ただそれだけの違いです。」
何故そんなことになっているのかなんて、訊かれたって分からない。そう彼女は締めくくった。
「因みに、ご両親の目はどうなってるんですか……? 実は片方がそもそも人間じゃなくてザクロだったりとか?」
「どっちも人間ですよ。ザクロと人間の間に何か新しい生き物が生まれる余地はいくら何でもないですよ……現実とフィクションの区別ちゃんとついてますか?」
「つ、ついてますよそれくらい!」
改めてザクロ女の顔をよく見てみることにした。なんだか……見れば見るほど美味しそうなザクロに思えてしまう。ザクロが好物であるが故なのか。手の平に載っている粒に至っては、顔から離れた位置にあるし、完全にただのザクロではないか。
「あ、あのー……その、ですね……その手の中のなんですけど」
ザクロ女が、私の指が指す先を追って顔を下に向ける。また一粒、ザクロがポトリと落ちた。
「これがどうかしましたか?」
「それ……食べてみちゃ駄目ですか?」
「…………食べたいんですか……?」
「えっと、ちょっと興味が……あるなーと」
考えるように数秒動きを止めた彼女は、そっとザクロの載った手の平を私に差し出してきた。
「どうぞ。味の保証とかはしませんので、何が起きても自己責任でお願いします」
何が起きても自己責任。確かにその通りだ。産地が特殊なだけに、人体に有害かもしれない。それでも私は、やっぱり食べてみたい。
「いただきます!」
覚悟を決めて、口にザクロを放り込む。下で実を押し潰すと、果汁が口に広がっていく。
「どうですか?」
「えっと、ものっすごく美味しいですっ! もっと食べたい……!」
目の前の顔は、瞼を上下に動かして瞬きをしている。驚いているようだ。
「そ、そうですか……それは良かったです」
「あの。もっと食べちゃ駄目、ですか……?」
断られる可能性を考えつつ、それでも頭を下げて懇願してみた。ザクロ好きとして、この味をもっと味わいたい。
「こんな所じゃあれですから、続きは私の家でいいですか?」
頭を上げると、空になった手の平が再度こちらへ向けられていた。私はその手を、しっかりと握りしめた。
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監視カメラに向かってピースをする。
どうせ僕の姿は写つりっこないし。カメラに落書きをしたりその辺にあったマネキンに落書きをしたり。どうせ誰も僕のことなんか見えないんだから。
僕は幽霊だ。
誰も僕の存在を知らない。
だからどんなことをしたって好き放題にしたって誰も気にしないんだ……と思っていたのに逮捕されちゃった。
誰も僕を見ないけど、僕はちゃんとまだ生きている人間だったらしい。
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道端で歯車を拾った。これは一体何の歯車だろう。
歯車が1つかけてしまったらその機械は動かなくなってしまうはずなのに。私は何の歯車なのかを調べてみた。だが一向にわからない。諦めて 私は歯車を放り出した。
それから数百年が経って気がついたんだ。あれはこの世界の歯車だ。世界のとっくに壊れていて、だから争いがたえないのだと。
そして世界はある日 崩壊した。
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こっそりベッドを抜け出して仮面舞踏会に行くの。
パパにもママにも内緒よ!
ところで仮面って何をかぶればいいのかしら?
クレヨンで書いたお面をかぶって星空からやってきたペガサスの馬車に乗って、着いたところは天の川。
王子様たちとダンスをするの。
「あらあら、絵を持ったまま寝ちゃったのね」
おやすみなさい、ママはそっと毛布をかけた。
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9/1 『夏の哀愁』
くたびれ果てた夏を私は洗濯機で洗濯した。
秋風に干して、色あせた夏はほんの少し汚れが取れた。
あんなにも鮮やかにまぶしかった夏は、強すぎる日差しの中で すっかり色褪せ秋風の中心地良さそうに目を閉じていた。
そんな 哀愁ある姿に愛しさを感じた。
9/2 『涙の形の月』
雲から見える朧月は半月だったのだろうか。
涙の形に見える。
今宵は空も泣いているらしい。
晴れている中、雨が降るのは狐の嫁入りというが、朧月夜に晴れた空から降る雨は何というのだろう。
一体何のもののけが嫁入りしているのだろうか……
涙の月は、誰の涙だろう。
9/3 『煌めくトンボたち』
太陽に照らされてキラキラと輝くトンボたち。
それは特別な魔法がかかっているのだ。
秋という名の魔法が。
金色の稲穂の上に、さらに光り輝くトンボたち。
ふと妖精の魔法の粉、というのはこんな輝きなんじゃないかなと考えた。
9/4 『いわし雲と秋の風』
イワシの大群がやってきた。今日は釣り放題である。天の川の釣り堀で、秋の風に流されていわし雲の大群がやってきたのだ。
牛飼いなんてやめて漁師に転職しようかな。
そうしたら自分の船も持てるし、天の川を越えて織姫にも会いに行ける。
9/5 『コスモス咲く頃に』
「コスモスが咲く頃に、帰ってくる」
そう言ってあなたは出て行った。
今思えば、死亡フラグだったのかもしれない。
だけどね……
あれ以来、秋になってもコスモスが咲かない。
私はコスモスを描いて壁に飾った。
すると、
「ただいま」
あなたの声が聞こえた。
9/6 『月明かり寂しくて』
窓から注ぐ月明かりは色がない。
夜はモノクロームの世界だ。
静かに海の底に沈んでいく様に。
こんな夜にはただ一人。
泣いてもいいだろうか……
ただ月ばかりが空から、
私を見ていた。
9/7 『彼岸花と稲荷神社』
彼岸花が咲いたということは、あやつが帰ってくるのじゃろ。
盆にも帰ってきたばかりじゃが、律儀に顔を見せてくれるのは嬉しいの。
全く人というのは、あまりにも儚い命じゃ。
じゃが死後もやってきては話してゆく。
我が神で良かったの。
幾千年そなたを待ち続けられる。
9/8 『さようなら夏の日々』
さようなら、眩しい夏は終わりました。
唸るほどしんどかった、あの夏は終わりました。
僕たちの青春の、あの夏は終わりました。
もうすっかり秋の風に、
この身を置いて、
今はただ、眩しい日々を思い出すのです。
9/9 『歌う秋風』
秋風はその身の軽さに、歌を歌い出しました。
葉っぱの間を、ヒューロロロ♪
「デュエットしよう秋風さん」
コオロギが誘います。
響くコオロギたちの歌。
どんぐりのがパラパラと地面に落ちて、リス達は大喜び。
「もっと歌ってよ秋風さん」
食いしん坊のリス達は飛び跳ねました。
9/10 『優しい死神』
死は平等に誰にでも優しくやってきて、死者を抱きしめるのだ。
貧しいもの哀れなもの、安らかな死後の世界へと運んでいくのだ。
いいや、そんな穏やかな死神ばかりではない。
それでもきっと、祖父の元に訪れたのは優しい死神だったのだろう。
穏やかな死に顔をしていたのだから。
9/11 『遥かなる夢の彼方』
私は旅に出た。
不安の丘を越え、太陽が死んだ海を船で行く。行き場をなくした優しさが待っている遥かなる夢の彼方の大陸目指し。
途中で、疲れ果てた愛情と聞いてほしい我が儘と、それから口に出せなかった愛の言葉たちに会った。
もう少しだ、
夢の彼方へきっとたどり着く。
9/12 『稔り頭部を垂れて』
久々の里帰り。
稲穂は重く頭を垂れ秋風の中に豊かな実りの季節がやってきた。
スキップしながら帰る子供は、幼い5歳の私だ。神輿を担ぐ子は、11歳の私だ。
稲刈りをしている男性は、本当はそうなるべきだった私だ。
「ただいま」
玄関の扉を開ける。
「おかえり」
母の声。
9/13 『りんごの色の頬をして』
君は林檎色の頬をして、嬉しそうに飴を頬張る。
秋祭り、娘と二人歩いた道。親子連れが歩いていて、幼かった娘を思い出す。
今、私は孫の手を引いて歩いている。
お彼岸で帰ってきた娘と孫の3人で同じ道を歩く。
飴を買ったら孫娘はあの日の娘と同じ林檎色の頬の笑顔。
9/14 『銀色のすすき野にて』
友人と久々に会う約束をした。
銀色のすすき野にて君を待つ。
君はあの頃と変わらない姿で現れた。
もう50年も経つというのに。
人と妖とでは生きる長さが違う。僕も妖になりたかった。
そうしたら君と同じ時間を生きれるのに。
9/15 『最後の蝉とコオロギ』
今年最後の蝉がぽとりと地面に落ちた。
たくさんのコオロギたちの歌を聴きながら、夏のことを思い出す。
このコオロギたちよりずっと大勢の仲間たちともっと大きな声で歌っていたのに。
蝉は最後の歌を歌った。
やがて静かになり、コオロギたちの歌ばかりが響き渡ったのだ。
9/16 『残炎は夕日に溶けて』
夏の名残が、夕日の中に溶けていた。
暑さも、思い出も、みんなみんな夕日の中。
激しい 眩しさで人々の上から照らしていた太陽は、思い起こすようにその光を街に照らし出した。
だが静かな闇があたりを包み、夏は終焉を迎えたのだと悟った。
9/17 『宵闇が訪れた時』
宵闇は街を行く。
泣いているあの子の窓から入って涙をそっと拭って、また街明かりの下を飛んで行く。
黒猫に挨拶をして、月にキスをして、寂しい歌を歌いながら。
夜明けを告げる鳥が歌い出すその時まで……
宵闇はそっと誰かの家の窓から入って、悲しみを拭ってゆくのだ。
9/18 『秋風の便り』
「こんにちは!秋風さんからお便りです」
友達の秋風さんからお便りが届いた。
私は嬉しくなって便箋を開いた。
春風さんへ
お元気でしょうか。色づき始めた木々の間を走り抜けリスに挨拶する毎日。葡萄も梨もたわわに実っております。
大好きな春風さんへ銀杏の葉を送ります。
秋風
9/19 『夢明かりの晩に』
蜜蝋の中に 一昨日見た悲しい夢を 一つ 溶かし込んで明かりをつけた。
悲しい夢は綺麗な光になってゆらゆらと輝いた。星の明かりが輝く寂しい晩に、蝋燭の光はまるで星が一つ増えたみたいだった。
悲しい夢は綺麗な光になって一晩中輝き続けた。
#140字小説
9/20 『恋するとは残酷なこと』
こんなにも恋しているのに、あなたが恋するのは私ではない。
こんなにも愛しているのに、あなたが愛するのは私ではない。
だからあなたを殺して、その心臓だけでもいいから頂戴。
こうしてまた一つ、恋という名のエゴのもと命が消えたのだ。
9/21 『9月の瓶詰め』
夏が終わり涼しい9月がやってきた。
こんな日には9月の瓶詰めを作るに限る。
咲き始めたコスモスの花、田んぼの上のトンボのきらめき、涼しい風にたなびくいわし雲。
瓶の中に入れて、そっと棚にしまう。寒さの冬や、雪解けの春、暑すぎる夏にちょっとだけ中身を出して楽しもう。
9/22 『雨音は涼しさを運んで』
雨音が聞こえる。
夏の終わりの夕立と、9月の初めの台風と、少しずつ雨は涼しさを運んできてくれる。
雨上がりの空はいつもより透き通って、夕日に染まった 入道雲が名残惜しそうにこっちを見ていた。
もうすっかり夏は終わりを迎えたようだ。
9/23 『憂いある月の下で』
月がだんだんとかけていく。
みんなのため息を吸い込んで、月はだんだんと砕けて小さくなって消えていく。
その優しい光を不安な人々に与えながら。
優しい 小さな光は 人々の胸の中で小さな希望へと変わっていくのだ。
そして訪れる新月。
9/24 『月を見上げた兎』
かぐや姫を見守るため、兎は月からやってきた。姫はすっかり美しく成長し、兎は胸をなでおろした。
姫が月に帰った後も兎は地上に残った。
姫が愛した地上を兎もまた愛していたのだ。
だがこうして月を見上げて、兎は姫のことを思い出す。
今宵、満月。
姫はいかがお過ごしか……
9/25 『都会の夜』
大人になったら都会の夜を楽しむんだ。
夜の街でお酒を飲んで、夜更かしして、おしゃれをして……
なんて 子供の頃に憧れたけど、大人になってそんなにいいものじゃないということはわかった。
お酒を飲んで、夜更かししたいわけじゃない。だけどそうしなくちゃ大人って大変だ。
9/26 『コスモス色の恋心』
学校の帰り道、花占いをするの。
コスモスの花がたくさん咲いていて、1つ摘んで。私のことが好きかしら?
好き、大好き、愛してる!
9/27 『冷たい夜の底で』
静かなやすらぎがやってきた。
冷たい夜の底で。
君は一人泣いていて、私は手を差し伸べたいと思った。だが一体私に何ができよう……
君の頬を伝う涙をそっと拭ってあげたいが、それも叶うことがないのなら、私は消えて夜露になりたいと思った。
9/28 『両手いっぱいの秋』
「ママ見て見て!どんぐり」
息子は両手いっぱいにどんぐりを拾ってきて満面の笑顔で私に見せた。
「すごいね!」
私がそう言うと嬉しそうに笑った。
その時から毎日、どんぐりがポケットにいっぱい。
まだまだ当分続きそうである。
9/29 『春からの手紙』
入道雲のお兄さんは秋風に手紙を渡した。
秋風ちゃんへ
そろそろ台風シーズンもさよならして、本格的な秋になったと思います。お仕事とても忙しいと思いますが頑張ってください。
秋風ちゃんが心地よく吹いてくれるからみんな秋が大好きなんです。私も大好きだよ。
春風
9/30 『収穫祭の祭り囃子』
街角で 祭り囃子が聞こえた。
あゝ、そうかもう収穫祭の季節だ。この辺りでも秋祭りなのか。そう思って 祭り囃子がどこから聞こえてくるか探したが、音ばかりが耳の中に響きどこで 祭りが行われているのかわからない。
もしかすればこれは遠い昔の風の記憶なのかもしれない。
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窓辺に一つの額縁が飾ってあった。
この額縁の向こうには心が求めるものが現れるという。
海の音が聞こえる。
額縁の向こうは青い海で、ウミネコたちが鳴いていた。
白い波に白い砂浜。
夏の強い日差しを運んでくれた。
夜の虫の声が聞こえる。
額縁の向こうは綺麗な満月で銀のすすきが輝いていた。夜の静けさを運んでくれて、ざわついた心を鎮めてくれる。
鳥たちの歌う声が聞こえた。
額縁の向こうは夜明けの空で、喜びの朝を鳥たちは祝福していた。不安な気持ちは夜の空に溶け、白い月が輝いている。
街のざわめきが聞こえる。
人々は足早に通りを過ぎてゆく。みんな忙しくて止まっている暇などない。そんな中私は1人足を止め、缶コーヒーを一杯飲み干した。
かすかに花の香りがする。
厳しかった冬が終わり、梅の花がほころび始めていた。
紅色の梅は白い雪の中に小さく、だが鮮やかに咲き初めていたのだ。それは春の訪れを告げていた。
どこにも行けない私は病室のベッドの上。
空っぽの額縁は、私をいろんな世界へと運んでくれる。
心に思い浮かぶ風景が確かに、その空っぽのフレームの中に収まっているのだ。
青い海、金色の満月、夜明けの空、忙しい灰色の都市、梅の花咲く春の始まり。
心をフレームの中に入れて今日もまたそっと飾る。
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私はこのきらめきを一生忘れない
「ねえママこのコンサート一緒に行って!こんな機会もう一生ないよ」
そう言って娘は私にスマホの画面を見せる。
憧れのアーティストのコンサート。
それは県内の電車で1時間ぐらいのところで開催される。
「いいわよ……来週の日曜日ね」
「やったーママ大好き!」
中学生と言ってもまだまだ子供だ。
飛び跳ねてはしゃぐ娘の姿を見てその幼さに微笑ましくなった。
……そういえば私が音華と会ったのは、ちょうどこのぐらいの年齢の時だった。
中学になれば小学校よりも校区が広くなり今まで出会った事がなかった子とクラスメイトになる。
中学1年生の1学期それぞれ初めての自己紹介。
彼女はとても明るい性格で初めての自己紹介の時からとても弾んで楽しそうに自分が好きなもののことを話していた。
音楽が好きな事、ダンスも好きだということ。
確かそんな話をしていたと思う。
彼女の弾んだ声を聞きながら なんとなく私は仲良くなれるような気がした。
私が話したのは確か音楽に興味があること、好きなミュージシャンについて。
放課後、話しかけてきたのは彼女の方からだったと思う。
「ねぇ、彩音ちゃんって呼んでいい?」
まっすぐに目を覗き込んで、それもキラキラした目で彼女はそう言った。
「う、うん」
私は彼女のペースに巻き込まれてしまった。
途中まで、帰り道は一緒だったから2人で話しながら帰った。
それはその日を境に、毎日の日課となった。
中学になって初めての日曜日彼女と遊ぶ約束をした。
私の家で 一緒に好きなミュージシャンの話をしたり、一緒に音楽をやりたいという話をした。
私の方はあくまで希望、夢を語っただけのつもりだったが…彼女は大真面目に本当に計画を立てて実行しようとしていた。
週明けにクラブの同好会を作りたいと先生に相談していたのだ。
「一緒にやろうよアイドル部!」
「う、うん」
アイドル部とはイベントなんかで歌ったり踊ったりしてアイドルの真似事をするクラブだ。
彼女の熱量に押し切られさらには先生も巻き込んで翌週には愛好会を結成!
メンバーは始め私と彼女だけだった、2人のユニット。
それで二人でダンスとか歌とかの練習をした。
私は文化祭ででも2人でちょっとだけ発表するだけのつもりだったが……彼女はそうじゃなかった。1ヶ月後、地元のイベントに申し込んで2人で出ることになったのだ。
それはちょっとした話題になった。
地元の広報誌に掲載され中学生アイドル誕生!と書かれた。
あっという間に中学で有名人。
同好会には自分も入りたいという子達が殺到。
私たち2人だったメンバーはあっという間に30人にも増え同好会からクラブになり顧問の先生もついた。
「ねえ、次はせっかくだから私たちの曲を考えようよ!」
「う…うん」
私は彼女の勢いに押されるまま2人で作詞作曲することになった。
2人ともそんなことは初めてのことだ。
なんとか見よう見まねで曲と歌詞を作る。
初めての2人のデビュー曲…と言ってもいいだろう。
イベントの申し込みは2学期になってから向こうからやってくるようになった。
衣装も始めは それっぽいのにちょっとだけ飾りをつけていただけだけど、自分たちでお揃いのものを用意して舞台に立つことになる。
センターは私と彼女。
だけど明らかに目立っていて、みんなが注目するのはやはり彼女なのだ。
私はちょっと気が引けていた。
その頃になると裁縫や舞台美術なんかが得意な子も入部していて裏方をやりたがる子も結構多かった。
2学期の文化祭は大盛り上がり。
私としては 文化祭にちょっと出るだけのつもりだったのにとんでもないパフォーマンスになっていた。
2学期が終わり3学期になってもイベントの申し込みや私たちの舞台は続いた。
私たちはすっかり人気者……というより彼女がすっかり人気者になったわけだけ相変わらず2人で毎日手をつないで帰った。
それがとても嬉しかったけれど1学期の時よりも彼女と距離ができてしまったような気がした。
私たちは2年になった。
アイドル部に入部したいという子が今年もたくさんやってきた。
みんなみんな音華に憧れている。
……まあ中には私に憧れてる子もいたことはいたっけ。
だけど憧れの音華の隣にいる私のことよく思わない子もたくさんいた。
なんとなく彼女と仲良くすることに罪悪感のようなものが芽生えていた。
私は彼女のことが大好きだったのに……
活動の幅はさらに広がっていた。
あっちこっちのフェスティバルに行ったり、インタビューに答えたり。
メンバーは私と彼女の ユニットとそれ以外の私も彼女もいるグループ 別の子だけのグループなどクラブ内でもその種類がどんどん増えていった。
秋が来てまた文化祭になりそして冬が来て1年が過ぎた。
中学3年生になった1学期、私は彼女に言った。
「私アイドル部やめるから。もう受験だし……」
「うんそうだね……」
彼女が明らかにショックで悲しんでいるのは分かっている。
その日私は退部届を出した。
彼女と手を繋いで帰ることもなくなった。
彼女は文化祭までやりきってからのクラブの引退だった。
彼女という華をなくしたクラブはすっかり活気がなくなってしまった。
やがて3学期になり高校受験が終わり卒業式の前夜、
彼女から電話がかかってきた。
明日の卒業式の後 一緒に歌おう?
「……どうしたの急に」
「私は彩音ちゃんのことが好きだよ。一緒にアイドル部やれてすごく楽しかった。だからちゃんと最後にみんなの前で歌ってお別れしようよ。文化祭の衣装、彩音ちゃんの分も用意してあったんだ。最後にみんなの前で歌おう?」
突然の申し出に私はどうしていいかわからなかった。
だけど私だって、このままおしまいにするのは悲しい。
「いいよ」
私がそう言うと電話越しに彼女の声はパッと明るくなる。
「本当?すぐにそっちに行くから!」
2人で一緒に歌う曲を決めて、振り付けは2年生の文化祭にした時のだけど……
卒業式の謝恩会。
私はこのきらめきを一生忘れない。
卒業して私たちは別々の高校へ、彼女はその後音楽の道に進み今やすっかり日本を代表するアーティストだ。
私はと言うと普通に高校を卒業して大学を卒業して就職して、やがて結婚して今は中学生の娘がいる。
娘とコンサートに行く日がやってきた。
ステージには音華の名前と姿。
キラキラと輝いて今も人々を魅了し続ける。
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