その他

身勝手な奴らに中指を。大好きなあなたに狂愛を。

1,927文字 約4分で読了
作者:甘駄悠喜
 好きだったアーティストがあの世に行ってしまった。  最早好きという言葉で表すことさえ恥ずかしいと思えるほどに、そのアーティストに狂わされていた。彼の作る音、描くストーリー、心を乱す歌詞。どれを取っても彼にしか出せない。私を狂わす、おかしくて優しくてイかれた音。  そんな素晴らしく、美しく、最高で、やばくて、極上で、最強の音楽を奏でる彼が、死んだ。  私のヒーローが、  スターが、  勇者が、  死んでしまった。  訃報を聞いた時、私は、単純に、悲しいと思った。それしか思わなかったことが面白いとも思った。あれほどまでに好いていたアーティストが死んだ時の感想が、「悲しい」だけで終わるとは。陳腐なものだと、嘲笑ったものだ。  死因は自殺――らしい。ぼかされていたので正解かは定かではないが、みんながラブラブなネットではそういうことになっている。    私は毎日、彼の生きた痕跡こんせき――遺した音を辿る。そうすることで、彼が遺した意志を知ろうとする。何を嫌ってこの音を作り、何に疲れてこの歌詞を書き、何に狂ってこの物語を描いたのか。それを知ろうとする。知りたがる。無論、彼が何を思ったかなど、部外者である私が知れるわけがない。私の妄想如きで彼を推し量りなどしたくはなかったが、そうでもしなければ、彼のいない日々には耐えられそうにない。  この行為には、彼のミュージックビデオを用いるのが良い。音だけでは表し切れない感情を、映像が補ってくれるからだ。映像は、いわば助演。音楽という主演と共演することで、素晴らしい世界を形作るのだ。  ミュージックビデオのコメント欄を見るのも良い。生前、コメント欄では、同志が自身の解釈を自分勝手に綴づっていた。私が考えもしなかったような訴えが、視聴者の広場に幾つも共有されていた。同じ趣向を持った人間たちが各々に自身の考えを発信し、議論を飛び交わせ、時には殺害予告まで行われる――そんな、狂信者しかいない其処が、私は大好きだった。  昔は、だが。  今は違う。コメント欄は、彼の死を惜しむものばかりになっていた。狂信者たちの素晴らしい解釈や思いは、その自己中な情報に押し流されていた。  大好きだった曲の解釈。それが「どうして先に行っちゃったの?」そんな、身勝手な、クソみたいな言葉で掻き消される。嫌だ。たまらなく、たまらなく嫌だ。ここはそういう言葉を書く場所じゃない。  薄っぺらい曲の感想を、  曲の自分勝手な解釈を、  自分の好きな箇所を、  自分の嫌いな箇所を、  吐き出して、綴って、紡いで、書き殴る。そういう場所だ。そういう場所であるべきだ。  そうするのが、死んでしまった彼への、最大限の感謝じゃないのか? 素晴らしい音を遺し、狂わせてくれたことに対する仕打ちがこれか?  頭が沸いているとしか思えない。気色が悪い。    そう思いながらも、曲のコメント欄を見てしまう自分に、嫌気がさしてしまう。  私は、彼の歌声を、音を聴きに来たはずなのに。いつの間にか、そこに|赴《おもむ》いてしまう。ファンと呼ぶことさえ甚だしいミーハーどもの言葉に中指を立てる。それが、何故か日課となってしまっている。  ただ、コメント欄を開かなければ良いだけなのだ。ミュージックビデオを再生し、うざったい広告が流れ去るのを待ち、イントロを脳内に流し込み、歌声を飲み、歌詞を咀嚼そしゃくし、生きる糧にする。それだけで良いのに。どうしても、コメント欄を開くのがやめられない。  理由は、分かっていた。  私も、ミーハーどもと同じなのだ。多分。  死んでしまった彼に、「どうして死んでしまったの?」と。  もうこの世にはいない彼に、「また会いたいよ」と。  大好きな彼に、「大好きだったよ」と。  私がそう伝えたいミーハーだからだ。心中では嫌っておきながら、頭では同意してしまっている。  彼の曲を、ただ自身を慰める行為に利用してしまっている。  そんな自分に嫌気が差す。嫌気という軽い言葉で済ましていることに殺意を覚える。  変わりたい。こんな自分を変えてしまいたい。変われないのなら、いっそ終わってしまいたい。  ああ、変えてくれ、マイヒーロー。  あなたの狂った想いで私を殺してくれ。それが私には丁度いい。いや、それが良い。それが良いんだ。  でも、あなたはもうこの世にはいない。  私は多分、あなたなしでは変われない。  あなたはもういないのだから、変わらなくても良いだろうと、あぐらをかいてしまう。  そんな私を、どうか……どうか、赦してほしい。嫌っている奴らに成り下がっている私を、矛盾し続けている私を、どうか、嫌わないでほしい。  ずっと、あなたのファンのふりをするから。  ミーハーな奴らに、中指を立て続けるから。  だから――だから、私を抱きしめてくれ。  私にずっと狂わせて。私の大好きなヒーロー。  
2026/10/07 ・ 👁️ 57回 ・ 💬 0件

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