SF・ファンタジー

夢見た曲の再構築

1,343文字 約3分で読了
作者:lue
私は作曲家 目下 スランプ中である かつては ヒットメーカーとして持て囃された事もある これまで いくつもの流行りの曲を作っては いくつもの曲を使い捨てにされてきた 私には 長い間 人の心に残るような そんな曲を作るのは無理なのだろうか? そう思うと その事実が頭から離れず 新しい曲を書く事が出来ない 多少のスランプなら これまで幾度も経験したが 今回ばかりは重症のようだ 今日も曲を書こうと努力はしてみるものの やはり駄目だった どうしても 新しい曲が書けない 所詮 私には才能がなかったという事だろうか…? 「えぇい! クソ!」 もうやめだ 今日は寝てしまえ …… ふて腐れて眠りに就くと その日 私は夢を見た 誰かがピアノを弾いていた それは私かもしれないし 他の誰かかもしれない そんな誰かが ピアノを弾いている夢 夢にまで音楽が出てくるとは 本当に重症である これは明晰夢と呼ぶんだろうか? 私はこれが夢である事を認識しながら 誰かが弾くピアノに耳を傾ける事にした (これは…) 演奏されるメロディーは どこか不思議で懐かしく そして何よりも甘美な音色だった 今まで聴いた事もないような 夢の中で夢見心地になるような そんな曲を その誰かが演奏していた …… 朝になり 私は目を覚ます 脳裏にはあの曲が焼き付いたままだった 居ても立ってもいられず すぐに五線譜にペンを走らせ あの曲を書き記して演奏してみる 「……」 私が今まで書いてきた 使い捨てにされた曲の数々は 使い捨てになるべくして 使い捨てになったのではなかろうか? そう思える そんな曲 「この曲を… この曲を発表すれば」 きっと この曲ならば 人々の心にずっと残るだろう スランプなんて 容易く払拭できるに違いない だが… だが そこで私はふと悩む 果たして この曲を自分の曲として 世の中に発表してもよいものだろうか? これは 夢の中で『誰か』が演奏していた曲だ 私が実力で書いたものではない だが しかし あくまで 私自身が見た夢だ それはきっと 私の脳が構築して生まれたに違いない …… この曲は 天使が授けてくれた祝福の曲なのだろうか? それとも 悪魔が囁いた悪い悪戯の曲なのだろうか? これまで 本当に沢山の曲を書いてきた それならば それならば 一度くらい… こんな風に授かった曲を自分のものとして発表しても それは 罪にはならないのではないだろうか…? そう 一度くらいなら… …… 私は悩みに悩んだ挙句 この曲を世には出さない事にした 私はプロの作曲家 使い捨てにされようと 自分の曲は自分の手で書きたい そしていつか 使い捨てにされないような人の心に残る曲を 本当の意味で 自身の力で作り上げたい きっと その時に見える景色は絶景に違いない そんなチャンスを 夢の中で『誰か』が弾いていた曲で 自らの実力以外で成し遂げてしまうのは あまりにも もったいないだろう? 結局 この 夢の中で聴いた曲をしまい込み 私はスランプと戦いながらも 新たな曲を生み出すため 今日もまた 必死で五線譜と格闘する日々を送るのだった …… なぁ ところで 世の中に発表しなかったとしても 愛しのあの娘に この曲をこっそり弾いて聴かせるのは それは罪じゃないよな? この曲を「愛し君に捧げる」とか言って 演奏すれば 彼女はもう私の虜だろう 天使も悪魔も それくらいなら きっと許してくれるに違いない 私が作った曲じゃない事は秘密にしておけばいい ああ それがいい ふふっ 次に会う日が今から楽しみだ
2026/10/12 ・ 👁️ 54回 ・ 💬 0件

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