その他

凡庸フレーム

523文字 約2分で読了
作者:しとえ
 窓辺に一つの額縁が飾ってあった。 この額縁の向こうには心が求めるものが現れるという。  海の音が聞こえる。 額縁の向こうは青い海で、ウミネコたちが鳴いていた。 白い波に白い砂浜。 夏の強い日差しを運んでくれた。  夜の虫の声が聞こえる。 額縁の向こうは綺麗な満月で銀のすすきが輝いていた。夜の静けさを運んでくれて、ざわついた心を鎮めてくれる。  鳥たちの歌う声が聞こえた。 額縁の向こうは夜明けの空で、喜びの朝を鳥たちは祝福していた。不安な気持ちは夜の空に溶け、白い月が輝いている。  街のざわめきが聞こえる。 人々は足早に通りを過ぎてゆく。みんな忙しくて止まっている暇などない。そんな中私は1人足を止め、缶コーヒーを一杯飲み干した。  かすかに花の香りがする。 厳しかった冬が終わり、梅の花がほころび始めていた。 紅色の梅は白い雪の中に小さく、だが鮮やかに咲き初めていたのだ。それは春の訪れを告げていた。  どこにも行けない私は病室のベッドの上。 空っぽの額縁は、私をいろんな世界へと運んでくれる。 心に思い浮かぶ風景が確かに、その空っぽのフレームの中に収まっているのだ。  青い海、金色の満月、夜明けの空、忙しい灰色の都市、梅の花咲く春の始まり。 心をフレームの中に入れて今日もまたそっと飾る。
2026/09/26 ・ 👁️ 73回 ・ 💬 0件

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