コメディ・日常

便り

537文字 約2分で読了
作者:開津文太
 天橋立に来た。  なんとなく、松と白砂の繋がるあの光景を見たくなったから。  小さい頃、家族と一度来たらしい。その時の事を、私は覚えていない。二度目のはずなのに、初めて来た感覚だ。  今、目の前に広がる美しい光景を、当時の私はどう思っていたのだろう。  写真を見ても、思い出せなかった。  親に聞こうか。しかし、何年も会っていない。最近は、連絡も取っていない。 「便りがないのは良い便り」とも言うけれど、あまりにも長く便りがないのは、それはそれで不安になる。  展望台を降りようとすると、看板が見えた。短歌が書かれている。  大江山 いく野の道の 遠ければ  まだふみもみず 天の橋立  スマホで検索してみる。百人一首の中の一つで、小式部内侍が歌った作品らしい。  大江山を越え、生野を通る丹後への道は遠すぎて、まだ天橋立の地を踏んだこともありませんし、母からの手紙も見てはいません。  と、現代語訳が出ていた。  親元を離れてから、一度も帰省していない。小式部内侍の短歌と違い、天橋立には来た。二度も。連絡して、帰省するのも悪くない。  画面を切り替え、LINEを開く。  母にメッセージを送る。  今度のお盆に、帰ろうと思う。お墓参りもしようと思っている。  母から返事が来た。  『気をつけて帰っておいで』  帰りは行きよりも、足取りが軽く感じた。
2026/10/14 ・ 👁️ 26回 ・ 💬 0件

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