コメディ・日常

私は今日もあなたの言葉で生きている

1,548文字 約4分で読了
どうして、いつも私はこうなんだ。 コンビニに向かう 私の背中や頭や肩に激しい土砂降りが突き刺さる 「ざまあみろ」 「お前だからこうなんだよ」 雨音がそんな風に言っているように聞こえた。 学校もバイト先でもいつも暗くて浮いてる私 意識してるわけじゃないけどさ そんな風に見えてるらしい。 私は普通に生きてるだけなのに。 どこで何を間違えた、なんて考えるだけ無駄なんだ。 考えたって覆らない。だれも私の言葉に耳を貸さない。 私は異端児で要らない子だから。 何も考えたくなくて、 入ってみたコンビニだけど 別に欲しいものなんて何も無いんだよね。 欲しいものは時間…かな。なんて 嫌なこと言っちゃうし ほらね、きっとこういうところがダメなんだ。 とりあえず、死なずに今日も生きてくれた自分に ご褒美ってことでデザートでも買ってあげますか。 何気なく手に取ったモンブランタルトを 見つめながら 「……お前は甘くていいね、甘みも深みも持っててさ」 完全に無意識だった。私から解き放たれた言葉は いったいどこに向かって世界に溶けたんだろう。 そんなとき有線から流れてきた ラジオのたった25秒ほどの言葉が 少しだけ、私のこころの中に入り込んできた。 「今日のひとこと。うまくいかなかった日 帰り道にそっと甘いものを買ったなら、 それはボクからの小さなお祝いです。 苦い時間を過ごしたあなたが頑張ってくれて 最後に甘いものをひとつ選んでくれた。 今日はそれだけで、十分。 どうぞ、あたたかくしてお帰りください これを聴いてくれてるあなたになにか いいことがありますように」 「…………。」 黙って聴いてしまっている。こんな私が。 なんかちょっといつもとはちがう そんな風が入ってくる予感だけを残して。 なんだろう。ちょっとだけ嬉しかった。 ほんの少しだけ、まだこの世界にいてもいいのかな そんな風に思えたからだ。認めてもらえたような気がして ほんの少しだけ涙ぐんで微笑んでしまった。 だめだ。かなり疲れてんな、私。 今日はもう、早く帰って休もう。 支払いをすべく、私はレジに向かった。 「428円になります」 「はい」 あ…400円しか入っていなかった。これはまずい。 28円足りない…。さっきのラジオのことなんて 頭の中に滞在する余裕がないくらいに 焦りと不安が上書きしていく。 「あ、あの……こっちだけで―」 私が言いかけたタイミングで後ろから 「あ、足りない分はぼくが出しますんで」 若い男性の声だった。 びくっとして私が振り向くと 爽やかで清楚な優しそうな男の子 やば。かっこいい…。じゃなかった。 「……あ、ありがとうございます。すみません」 私は何度も頭を下げた。 申し訳なくて、そそくさと退散しようとしたら 商品を受け取るのを忘れてしまった。 またやってしまった。こんな短い間に。 いろんなことがありすぎたのだ。 こういうとき、時間よ戻れって本気で思う。 こんな見たくもない私を世界に刷り込ませてしまうなら いっそ何も買わずにコンビニなんて寄らなきゃよかった。 すると足早に足音だけ聞こえてきた。 私はまたびくっとなって振り返る。 「待って……。篠原さんだよね?同じクラスの。はい。商品、忘れてるよ」 どうして私の名前…。いや、そんなことよりも わざわざ届けてくれた…?こんな私のために? 再び私は何度も頭を下げて消えゆくような声で お礼を何度も囁いた。 「綺麗な眼と髪だったから、そうかなあと思ってさ」 この日の私の胸の高鳴りが今日1番うるさかった。 そこから家に帰るまでの道は なんだか少し、くすぐったかった。 雨の音に混じって、さっきの声が蘇る。 「今日はそれだけで、十分」 あの人は私のことなんて知らない。 それでも、あの言葉は確かに私に届いた。 こんな私でも、ちょっと変われる気がした。 まだ私、頑張れるかも。 本当にありがとう。 私は今日もあなたの言葉で生きている
2026/09/28 ・ 👁️ 74回 ・ 💬 0件

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