ホラー・怪談
誤配
1,049文字
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エアコンがブーンと静かな音を立てている。
時々漏れてくる、お隣さんの笑い声。
目を閉じてソファに横になったそのとき、ピンポーンとチャイムが鳴る。
……全く、いいところだったのに!
私はろくにインターホンを確認もせずに、ドアを開けた。
「佐川様ですか」
「いいえ、違いますが……」
「……ご住所は合っていますか?」
私は老眼で見えにくくなった目を細めながら、小さい文字を凝視する。
……確かに、うちの住所だ。
「ええ、うちで間違いありません」
「どなたか一緒に住まれていますか?」
「はい。妻がいます」
「では、奥さん宛では」
「いいえ、違います。
うちは三上ですし、妻の旧姓は佐川ではありません。皆川です」
「そうですか、失礼いたしました」
男は帽子を取ると、額の汗を腕で拭い、去って行った。
……全く、何だったんだ。
後日。
また、配達が来た。今度は女だ。
「古川様ですか?」
「いいえ、違います」
そしてまた後日。
「吉田様でしょうか?」
……今度は何なんだ!
誤配かと思い住所を確認したが、いずれもうちで間違いはなかった。
誰かのイタズラか? それにしては手が込んでいる。
私は恨まれるようなことをした覚えがないし、妻も誰かに恨まれるような性格ではない。
今度は妻が出た。
「いいえ、違います」
「……また配達か」
「ええ、長江さんですかって」
「またか……」
ここのアパートに越してきてもう四年が経つ。
なのに、一体どういうことだ。
ここ一ヶ月で、何度も知らない人物宛に荷物が届く。
ここのアパートは確かに人の入れ替わりが激しい。
仮に前住民だとして、そんなに長く住所変更をしないものだろうか。それも複数人が、か?
……何だか気味が悪い。
妻が部屋に戻っていく。
私はその時、玄関が開いたままなのに気付き、鍵を閉めようとした。
ドアが固いのか、うまく閉まらない。
私は一度ドアを開けて、それから閉めようとしてーー階段に座り込んでいる爺さんと目が合った。
煙草をふかしながら、瞬きもせずにこちらを見ている。
白髪の、まばらな長い髪の毛。
歯も、いくつか残っているだけだった。
それでいて、目の据わった黒くて大きな瞳が強く印象に残った。
ただじっとこちらを見ている。
それだけなのに、私はそれを見て固まってしまう。
ふと我に返り、慌ててドアを閉めた。
「あなた、どうしたの」
部屋の奥から、妻が顔を出す。
私はただ、黙って首を横に振った。
その夜。
また、チャイムが鳴った。
私は今度こそインターホンの画面で確認をすると、昼間の爺さんが立っていた。
「三上さんですね。配達です」
爺さんは、ニヤリと口元を歪めた。
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