ホラー・怪談

誤配

1,049文字 約3分で読了
作者:綴
エアコンがブーンと静かな音を立てている。 時々漏れてくる、お隣さんの笑い声。 目を閉じてソファに横になったそのとき、ピンポーンとチャイムが鳴る。 ……全く、いいところだったのに! 私はろくにインターホンを確認もせずに、ドアを開けた。 「佐川様ですか」 「いいえ、違いますが……」 「……ご住所は合っていますか?」 私は老眼で見えにくくなった目を細めながら、小さい文字を凝視する。 ……確かに、うちの住所だ。 「ええ、うちで間違いありません」 「どなたか一緒に住まれていますか?」 「はい。妻がいます」 「では、奥さん宛では」 「いいえ、違います。 うちは三上ですし、妻の旧姓は佐川ではありません。皆川です」 「そうですか、失礼いたしました」 男は帽子を取ると、額の汗を腕で拭い、去って行った。 ……全く、何だったんだ。 後日。 また、配達が来た。今度は女だ。 「古川様ですか?」 「いいえ、違います」 そしてまた後日。 「吉田様でしょうか?」 ……今度は何なんだ! 誤配かと思い住所を確認したが、いずれもうちで間違いはなかった。 誰かのイタズラか? それにしては手が込んでいる。 私は恨まれるようなことをした覚えがないし、妻も誰かに恨まれるような性格ではない。 今度は妻が出た。 「いいえ、違います」 「……また配達か」 「ええ、長江さんですかって」 「またか……」 ここのアパートに越してきてもう四年が経つ。 なのに、一体どういうことだ。 ここ一ヶ月で、何度も知らない人物宛に荷物が届く。 ここのアパートは確かに人の入れ替わりが激しい。 仮に前住民だとして、そんなに長く住所変更をしないものだろうか。それも複数人が、か? ……何だか気味が悪い。 妻が部屋に戻っていく。 私はその時、玄関が開いたままなのに気付き、鍵を閉めようとした。 ドアが固いのか、うまく閉まらない。 私は一度ドアを開けて、それから閉めようとしてーー階段に座り込んでいる爺さんと目が合った。 煙草をふかしながら、瞬きもせずにこちらを見ている。 白髪の、まばらな長い髪の毛。 歯も、いくつか残っているだけだった。 それでいて、目の据わった黒くて大きな瞳が強く印象に残った。 ただじっとこちらを見ている。 それだけなのに、私はそれを見て固まってしまう。 ふと我に返り、慌ててドアを閉めた。 「あなた、どうしたの」 部屋の奥から、妻が顔を出す。 私はただ、黙って首を横に振った。 その夜。 また、チャイムが鳴った。 私は今度こそインターホンの画面で確認をすると、昼間の爺さんが立っていた。 「三上さんですね。配達です」 爺さんは、ニヤリと口元を歪めた。
2026/10/03 ・ 👁️ 30回 ・ 💬 0件

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