SF・ファンタジー
「異世界転生」
2,585文字
約6分で読了
俺はタカシ。
17歳の高校生だった。
「だった」ってのは、ある日、通学途中で交通事故に遭い、気付いたら奇妙な世界に転生して今は勇者となり旅をしているからだ。
パーティーは魔法使いのカレンに、女剣士のシズ、僧侶のユキというこの上ない美少女に囲まれたハーレム状態。
カレンは内気で気弱だしシズは強気でドジっ子、ユキは意地悪なお姉さんって感じでトホホながらも、この異世界ライフを俺は満喫している。
先日最強の剣と謳われるエクスカリバーを手に入れた俺たちはついに魔王直属四天王討伐に向かうこととなった。
「ここか。最初の四天王ベルフェゴールの城は」
さすが、と言うべきか。無機質な城の放つ重々しい空気は、一帯の重力が変わったのかと錯覚を覚えるほどだ。
だが、俺はこの世界では勇者。無気力で自堕落な高校生だった俺とは違うのだ。怯む訳にはいかない。
「勇者様、ちょっと異様な雰囲気ですね……」
ほうら、カレンがビビってる。杖を握る細い指は明らかに不必要に力んでいる。
「なに? カレン。怖気付いてんの? 私に任せときなって!」
シズが明るく振る舞う時はフラグだ。必ず何かやらかす。
「フフフ。カレン、せっかく強力な魔法覚えたんだからしっかりしないと。防御魔法は私に任せて攻撃に専念しなさい」
「ユキ、ベルフェゴールには万全で挑みたい。回復魔法の余力も残しててくれ」
「あら、勇者様? わたくしを誰だと思って?」
こうして俺たちはベルフェゴールの城に突入した。城内の魔物は存外大したことはなく、目立った損傷も損耗も無いまま、つまり難なく玉座に辿り着いた。
鎮座していたのは人型の魔族。長い黒髪に青白い肌。身長も魔族にしては小さい。見た目は普通の人間だ。しかしその印象がかえって嫌に不気味に思えた。
「お、お前がベルフェゴールだな!」
俺は不安を跳ね返すように叫んだ。数メートル先の魔族はニヤリと口を歪ませるだけで座ったまま何も答えない。俺の声だけが虚しく反響する。
「どうする? タカシ。私が突っ込もうか?」
「いや、待ってくれシズ。嫌な予感がする」
「勇者様。とりあえず牽制の魔法攻撃でも……。この距離なら1秒もかかりません」
「ああ、そうだな。ただ、あの魔法はまだ温存しててくれ」
「カレンと同時に反射防御展開しますわ。確かにこの威圧感は異様です」
「……頼む」
「作戦会議は済んだかー?」
その魔族はまるで子どもを相手取ったようにそう言い放った。その声には威圧の欠片も無く、ニヤリと歪な口のまま。
「さて、勇者よ。少し話そう。二人でだ」
二人で? どういうことだ? タイマンが望みなのか?
俺の逡巡を余所にベルフェゴールの翳した手が鈍く光る。何か来る!
「ユキ!」
防御魔法を! と言いかけた時には背後でドサリと音がしていた。ユキもカレンもシズも、力なく地に伏していた。
「まあ、こんなもんだ。とりあえず座れよ。立ったままでも構わんが」
まさか……死んで……?
「うぉおおおお!!!」
エクスカリバーに全魔力を込める。どんな攻撃魔法だろうと斬り裂くこの剣で切り伏せる!
━━はずだった。
俺は、倒れている?
いや、倒された?
力が入らない。どこにも。
立てない。指すら、動かない。
熱い。痛い。苦しい。
どうする。何か。手を。
あり得ない。こんなことは。
「なぁ、勇者。お前転生だろ?」
ベルフェゴールの声に思考が凍る。
コイツ、転生を知っている?
「まぁ聞けよ。与太話だ。なんせ俺も転生者だ」
何を言っている。コイツは。
「じゃあ、なぜ、魔王の手先なんかに……」
なんとか首を動かす。ベルフェゴールは変わらずの距離。俺は何歩進めた?
「おお、喋れるのか。でも黙ってていいぞ。それとアレの手先ってのは、まぁ、お前の勘違いだ。オレは魔王を一度倒してる」
コイツは、一体何を言ってるんだ……?
「何を言ってるんだって顔だな。まぁそりゃそうだろうな。さっきも言ったがオレも転生者だ。たぶんお前と同じ日本だが、もう随分昔の話だ。オレが死んだのは2022年だった」
「数年前じゃないか。そんなに変わらない……」
「あら、そうなの? まぁ、ただな。オレはもう何度も転生を繰り返してるんだよ。もう何回世界を救ったか覚えてないくらいに」
「……は?」
「ある時は人間、そして勇者。ある時は魔法使い。ある時は貴族だったり令嬢だったり軍人だったり。ある時はエルフ。ある時は弱小魔族。ある時は魔物。そしてまた人間。なんか動物の時もあった気がするなぁ。なんだっけな。……なぁ、勇者。お前、この世界で魔王倒した後はどうなると考えてる?」
「どうって……ここで暮らしていくんじゃ」
「ああ、元の世界に帰れるなんて妄想してないだけマシだよお前。まぁ実際のところどうなるかなんて分かりゃしねぇさ。実際オレ以外で転生繰り返してるヤツにまだ会ってねぇからな。お前にはちょっとだけ期待したんだが。その感じだと1回目だろ? ああ、失礼、ちょっと一服させてもらうぜ」
タバコ……!? 紙巻きの。懐かしい、不快感。
「あぁ、これな。囲ってる人間に作らせてるんだ。話戻すぞ。この世界に来てからオレはパーティーも組まずに一人で魔王のとこへ乗り込んだんだ。敵じゃねぇさ。魔法の理論体系も体術も軍事レベルも、この世界はあまりに幼稚過ぎて正直引いてる。オレはなぁ、辟易してたんだ。魔王倒して、一頻りチヤホヤされたらまた気を失う。そして次の世界、そしてまた次の世界、だ。だから今回動けなくなったここの魔王にとどめを刺す前に話を持ちかけた。オレを雇えってな。四天王のこのポジションは便利なんだ。なんせ一番にお前らみたいなのが挑んで来るからな。他のやつがやられると、四天王が務まる魔族を探すのもこれがまためんどくせぇ。ここの世界は雑魚しかいねぇからな。かと言ってオレと魔王だけじゃ魔王を先に殺されかねん。そうしたらオレがまた別世界に飛ばされる可能性が出てくる。な? 分かってくれたか?」
コイツ、何がしたいんだ。
「何がしたいんだって? オレが強制的に転生させられてるってことはそれを司る存在がいるってことだ。だからオレは転生者を殺し続ける。そうなりゃきっと、その存在は何かしらの手を打ってくる。なぁ、そう思うだろ? 例えばオレ以上に強くなるまで世界を救い続ける存在を生成するとか」
ああ……そうか。
「もう分かったな。あえてまたなって言っておくよ。転生、出来るといいな」
━━。
「じゃあ、またな」
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