SF・ファンタジー

金魚アタック

836文字 約2分で読了
 ――ただの風邪ですね。  動物病院の医師が何気なくそう言ったのが、ちょっとおかしかった。金魚が風邪をひくなんて、一体何の冗談か。でも、「軽い風邪のようなもの」ということで、ひとまず安心した。 「行くぞ」  名残惜しそうに、ふよふよと医師の周りを漂う金魚に声をかけると、金魚は車の窓から遠慮がちに入って、静かに助手席に着地した。 「二、三日は水槽の中で安静にしないとな」  水中で「安静」が成り立つのかどうかは分からないが、医師から言われた通りにするしかない。  帰って玄関のドアを開けた瞬間、金魚達が一斉に泳いで来る。 「心配ない。風邪……みたいなものだとさ」  俺は風邪っぴきの金魚と医師から処方された粉薬を一袋、そっと水槽に入れた。金魚は元気に泳ぎ出す。  大気中に進出できるようになったとは言え、やっぱり金魚にとっては水中が快適なようだ。それに大昔、酸素は生物にとって猛毒だったと言うし、まだ金魚は順応できていないのかもしれない。 「みんな、ちょっかい出すなよ?」  心配そうに水槽の周りに集まる金魚達にそう言うと、みんな俺の周りに集まって来た。ビスケットを細かく砕き、大きな皿に移す。 「俺は寝る。ちゃんと電気消してくれよ? 昨日、つけっぱなしだったぞ?」  注意しないと、すぐに家中の電気をつけっぱなしにする。みんな「ON」は覚えたのに、なぜか「OFF」は忘れる。  無視を決め込む金魚達に「あんまり電気代がかさむと、そのビスケットを買うお金がなくなるからな?」と言うと、みんなは一瞬「ギョッ!」とした顔で俺を見て、またすぐにビスケットを食べ始めた。 「まったく。結構良い値段するんだぞ? そのビスケット……」  前に、安いビスケットを買ったところ、見事なまでに全員スルーしやがった。みんな舌は肥えているらしい。  ベッドに横になると、掛け布団の隙間に何匹か侵入して来た。「寝返りを打つと潰すから、絶対に入って来るな」と、何度言っても入って来る。  ――まぁ、風邪をひくよりはいいか。  「おやすみ」  そう呟いて、目を閉じた。 (了)
2026/09/15 ・ 👁️ 141回 ・ 💬 2件

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読者の感想・応援メッセージ

トガシテツヤ
>周雨さん
コメントありがとうございます。
こんな世界があってもいい……かも。
周雨
周りふよふよしたり布団に飛び込んでくる金魚想像すると可愛いですね〜(*´艸`*)
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