私は先見の勇者。初探索のダンジョンの特徴も、初見の怪物の弱点も、全部お見通し。小娘でも輝金級冒険者を名乗れる異能には、実は秘密がある。「ねえ、隠し部屋はこの奥?」私のひとり言に耳の奥で声が答えた。(うん。ゲームなら壁を30回叩いて体当たりで宝物庫に着くね)「了解したわ、ヒカル!」
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水溜まりに飛び込むとそこは闇だった。
しばらく泳いでいると、闇から黒、黒から青みがかった黒へ、絵の具に水を垂らしたように一瞬、それなのに巧妙な変化を遂げた。
青みというより黒に近い水は、ゴウゴウと音を立てて恐ろしく高い波となり体を呑み込む。この波に呑まれれば間違いなく死んでしまうだろう。
少しくらいなら大丈夫かと思い、波に呑まれる前に自ら海底付近まで潜ると、とてつもなく長い大きな何者かと出くわしたが顔も見えない。
「やあやあ、お散歩かい?」
その声でようやく顔の位置が把握できたので、そちら側を向くがイマイチはっきりとした場所が特定できなかった。顔の特定はできなかったが、声の主はリュウグウノツカイだ。出会ったのは初めてだったが、神秘的なオーラを放っていたのですぐにわかった。
いかつい見た目のわりに気のつくやつで、目のやり場に困っていると顔をにゅっとオレのすぐ側まで近づけてくれた。
「ここだよ。お散歩かい?」
「まあね。どうせもうすぐ潜れなくなるから」
「なるほどなぁ。立派な尾ヒレなのにもったいないね」
「なぁに、あんたほどじゃない。あんたのなんか、尾なのかヒレなのかさっぱりわからないんだから」
オレはからからと笑った。
「そうかい?尾でもヒレでもあるからまあそれが正解なんじゃないのかな。触ってみるかい?」
「いいや、いいよ」
本当は触ってみたいな気持ちがあったが、どうにも神聖な生き物に見えてためらわれた。オレが触ったらそこから腐れて汚してしまうような気さえした。
リュウグウノツカイに別れを告げると、オレはさらに奥へと進んだ。
トンネルのようなところをくぐり抜けると、ぼやっとした光が見えた。ぼやっとしているわりに、どこまでも照らしてくれる不思議な輝きだった。深海に眠る繊細な砂一粒一粒まで照らされはっきりとこの目に見ることができる。吸い込まれそうなぼんやりとした光に近づくと、光の後ろにチョウチンアンコウが見えた。
「珍しいものが釣れたな」
「釣られてないやい」
「光を目指して来たのだろう?」
「目指して来たといえば来たけれど」
チョウチンアンコウはゆったりと頭のチョウチンを揺らした。ぼやっとした光も一緒に揺れるので少し酔いそうになるが、体の大きさ自体は親しみのある大きさだったので少し安心した。
「何かいい獲物は取れたかな?」
「別に獲物を捕まえに来たわけじゃないんだ。散歩みたいな感じかな」
「深海に散歩とは羨ましいね」
「そうでしょう」
オレは元気に尾を振って見せた。
「それにしてもその光はどうだろう。目がくらくらするよ」
「かっかっか。そのための光だからねぇ」
「何だ、そうなのか。散歩のとき迷子にならないためかと思った」
「それも一理あるな」
チョウチンアンコウはうんうんと頷いた。
チョウチンアンコウにヒレを振って挨拶をし、別れを告げた。
また闇に戻ってしまったのであてもなく進んで行くと、体にものすごい衝撃を受けた。何の衝撃かはわからないが、渦潮のようなものが巻き起こりオレは吹っ飛んでしまう。
「何だ、イカじゃないのか。道理で小さいと思った」
「あんたがでかすぎるんだよ。リュウグウノツカイはもっともっとでかかったけどな」
「聞き捨てならんことを!」
シーラカンスがきっと睨んで、いっぱいあったヒレを思い切りゆらゆらと揺らした。どうやらこれで渦潮のようなものを発生させたらしい。
「生きた化石をなめるでないぞ」
「生きてるってことは化石じゃないじゃん」
「まあ……そうじゃな」
少しがっかりしたようだったので、オレは自分なりに慰めてやることにした。そろそろ大人にならなくてはいけない時期だと思う。
「リュウグウノツカイも長くてかっこよかったけど、シーラカンスはシーラカンスで骨っぽいところがいいと思うよ。生きた化石って言われるだけあるよね。まあ、本当の化石ではないけれど」
シーラカンスの顔を見たが、眉を深く寄せ複雑な表情をしていた。誉めたつもりだったがあまり効果はなかったようだ。申し訳なく思って、さっさとその場を後にすることにした。
次にもし誰かと出会うのならば、チョウチンアンコウくらいの大きさの生き物が気持ち的に楽ではあるが、突然嫌な気配を感じて後ろを振り返る。
今日出会った中で一番嫌な形をしていた。地上にいるであろう蛇っぽい形。 リュウグウノツカイは大きすぎて何も思わなかったが、今目の前にいるやつは小ぶりなので逆に恐ろしくなって身震いした。
「おい、お前散歩か?」
「散歩だよ」
「食ってもいいか?」
「食ってもおいしくないよ」
フウセンウナギがいきなり体を膨らませた。丸く大きくなり、形はちょっとチョウチンアンコウに近くなった。
「大きくなっただろ?」
「そうだね、大きくなったね」
細長いよりは丸く大きくなった方が、心持ち恐怖感が遠のいた。少し気持ちが楽になった。
「大きくなると強そうだよ」
「マジか。もっと膨むことだってできるんだぜ」
フウセンウナギはもっと膨らんだ。膨らんでいるうちにオレはさっさと泳ぎ始めた。やつが膨らんでいるうちはいいが、たぶんそのうち縮んで細長くなる。そうなるとどうしても蛇の形に見えて嫌な気持ちになるだろう。
さっさとその場を離れるために、ヒレと尻尾を必死に動かした。
気がつくと水溜まりの外に出ていた。
リュウグウノツカイもチョウチンアンコウもシーラーカンスもフウセンウナギももういない。
水溜まりに映る自分の姿を見てため息をついた。がっかりしたわけではない。ついにヒレも尻尾もなくなり四肢のみとなったのだ。深海には行けないが、フウセンウナギに会うことはないのがせめてもの救いかもしれない。地上を自由に歩き回る権利を得た。
オレは全身ミドリになった。あとは、蛇に遭遇しないことを天に願うばかりだ。
(了)
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風変わりな夢を見た。
夢の中に数字がいっぱい散らばった服を着た少女が出てきた。
「おはようございます!」
「…おはようございます」
少女はとびっきりの笑顔で笑う。
「あのどこかでお会いしたことがありますか?」
直感的に俺は彼女を知っていると思ったが一体どこで会ったのかさっぱり思い出せない。こんなことを聞いては不躾だろうか。
すると少女は笑顔で言った。
「いつも会ってるじゃありませんか。私はあなたにいつも挨拶してますよ」
そう言われて一体いつ会っているのか全く思い出せないのだ。
「私たちの仕事はね、まだ夢の中にいる人を現実の世界に連れてくることなのです。大きな声でおはようって言って今日という1日を始めることなんです。だけどあなたときたらいつも私の声を止めてまた二度寝しちゃうんですもの。ダメですよちゃんと起きてください。あなたに素敵な1日を始めて欲しくって起こしてるんですから」
そう言われて彼女が何なのか分かった。
「君は俺の目覚まし時計か……」
「ええでも……私、もう声がダメになっちゃったかもしれない」
少女はそう言った。
キラリと涙が光ってその光が眩しくって目を開けた。
目覚まし時計の針が止まっている。
だから今朝は音がしなかったのだ。
時間はもう8時。
「やばい!」
遅刻する!俺は慌てて身支度をして家を飛び出した。
結局遅刻してしまい大目玉を食らったが、俺はぼんやりと 夢のことを考えていた。
もう随分と長い間あの時計を愛用していたのだ。
決して高価なものではない。
小学1年生の時に買ってもらってから社会人になった今にも使っていた。
壊れていたとしてももう寿命なのだろう。
そうは思ったが、夢のこともあって新しく買い換えるという気にはならない。
週末に目覚まし時計を修理に持って行った。
もし治らなくてもそれはそれで仕方がないのかもしれないが……
しばらくの間 目覚ましはスマホで代用する。
枕元にあの時計がないのはほんの少し寂しい。
初めて買ってもらった時計だったのだから。
1週間ほどして時計屋から電話があり、さらにその1週間後、修理された時計は帰ってきた。
時計の針をセットする。
明日の朝焼けは彼女が知らせてくれるのだろう。
布団の中でかすかにコチコチと動く時計の音がする。
そのリズムは俺を夢の中に誘ってくれる。
心地良い、いつもの音だ。
……暁の光と共に彼女の音がする。
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魔王は信を重んじ義に篤い者である。神に棄てられた民をまとめ、王道楽土を敷かんと志した。約定は守れ、破る者と同じ天は戴けぬ。道理には従え、背く者と境は隣合えぬ。潔癖な理想は、しかし、神に赦された種族には糾弾であった。今ある四海を認めぬがゆえに、世界の敵たる者。ゆえに、魔王討つべし。
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王国の賢者達は額を寄せて相談していた。代々の勇者は男なのに、こたび託宣を受けたのは女という。勇者と認めるか否か。紛糾する議論に若手の俊英が手を挙げた。「見極めてきましょう」ひと月後、帰還した彼が言うには「あの御仁のためなら一命を賭す所存」上奏にはかく記された、侠気に男女の別なし。
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聖女たる者、神への祈りは日課です。
聖句を唱えていると、快活な声で呼ばれました。「一緒に祈っていい?」私が頷くと、勇者様は隣で聖句を口にされます。祈りが済んだ後、何を神に願われたか尋ねてみました。「きっと君と同じ。仲間の無事よ」ああ! 罪深い私は、貴女への恋慕を懺悔する毎日ですのに!
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女でも剣に生きる者に社交は不要だ。
なのに勇者一行なだけで、着飾ったウチをお嬢様達が褒めそやす。「見違えて綺麗だよ」「動きにくいからやだ」勇者の言葉に眉をしかめたら、手を差し出された。「一曲どうかな」誘われて踊るとすぐにリードされる。いやなんでドレス姿のキミが男性パート巧いのさ。
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目が覚めたら、私はおんぶで運ばれていた。すっと伸びた背に締まった体つきから、誰だかすぐわかる。「勇者様、下ろして」じたばたすると苦笑いで返された。「魔女の力を使い切ったんだ、しばらく歩けないよ」たしなめられて言い返せない。なによ、たくましいとこ見せてさ。君も同い年の女の子なのに。
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僕のジントニックは美味い。
ジンは深緑色のボトルの物が良くて、トニックウォーターは甘さが控えめの物が良いがこちらは好みに依る。
氷を重ねたグラスにジンを入れ、1カットのライムを絞った後、ライム自体は入れずに氷ごとよく回す。トニックウォーターをゆっくり注ぎ入れ再びライムをスプーンなどで押し込む。
彼女はこれをたこ焼きに合わせるのが好きだ。
たこ焼きならなんでも良いというわけではなく、商店街にある『タコ野郎』の醤油味が最適だと言う。
『タコ野郎』のメニューの中でも醤油味はたこ焼きに醤油をかけているのではなく、生地に出汁と醤油が含まれていてたっぷりの魚粉と鰹節にまぶして食べる。勿論、好みはあるが、美味い。
彼女は、
「うんうん」と満喫を見せた後に
「また太るわ」と言う。
彼女は20代まではイケイケの魔術師、いわゆる職業魔女だったが、子宮辺りを患ってからは事実上引退している。そういうものらしい。
たまに学院で講師をするくらいで、日中は配信の恋愛ドラマやらを貪っている。
僕の方では半年前から都市伝説を作ることにひっそりと熱を上げている。
冷笑文化上等。
SNS、ひいては生成AIの跋扈するこの時代に新たな都市伝説は誕生し得るか、だ。
題するは「コウモリ男」。
どんな災厄がありいかにして対策するか、そして本質となる教訓は。などは、未だ決まっていない。
今の段階ではただ目撃情報をショート動画にて垂れ流している最中である。わざわざ複数のアカウントを作って。
夜な夜なそんなことをしていると
「何してるの?」
と彼女が背後から覆い被さり訊いてくる。
「友達の動画の手伝い」
と僕は答えた。就寝前の彼女は眩暈がするほど良い香りをまとっている。
「暗い部屋でスマホを見すぎるとコウモリジジイが出てくるわよ」
「コウモリジジイ?」
「知らないの? 都市伝説の」
ちょっと、待て。
待て待て待て。
「コウモリ男だろ?」
僕は振り返り、彼女の瞳を覗き込む。
「それはパクリの方でしょ」
「パクリだと? ジジイの方がパクリじゃないか」
僕の反論を受けた彼女はいかにも不機嫌そうにスマホを延びたネイルでカタカタと連打した後チャットAIの画面を見せてくる。
AIはコウモリ男が後発だと、ハツラツとご機嫌に肯定している。
あり得なかった。
「コウモリ男」を始めるに当たり、当然調べ尽くしたのだ。調べに調べ世界各国の類似体まで調べ尽くした。
はずだった。
つんと頭が痛くなり、僕はキッチンに走り、ジンのショットを口に送り、ライムを齧る。
アルコールが食道を燃やしライムの酸で分泌した唾液が熱を冷たいものへ宥めるように変える。
鼻腔は強烈なボタニカルの侵攻を受け、押し返すように鼻から息を吐き、僕はようやく思考に傾注する。
「思考や認知を操作する魔法は存在するのか」
と少し距離のできた専門家である彼女に問う。暗がりの暖簾がかかったように上手く表情が捉えられない。
「存在自体はするけど厳罰付きの禁術で、そもそも閲覧すら認められていないのよ」
なるほど。
「どうしたの?」
「分からないんだ。混乱している。そういう類の魔法にかかっているのかもしれない。一体何の目的があって……」
「結果が意図に沿うとは限らないわ。入力と出力によって得られる結果の連なりが成果物であることは否定されないけれど、そこからの逸脱を試みない限り芸術性は存在しないと私は考えてる」
「芸術……性?」
「芸術よ。リニアからの逸脱は恋愛と同じなの」
「君は、逸脱を試みたのか?」
「勿論仕事よ。仕事だから許されることもある。使命を前に倫理がどれほどの価値を保てるのかしら。現代魔術はね、形式に奈落しつつあるの。すでに形骸化していると言ってもいいわ。その簡略の為す愚かさは、例えば数学の根底は1+1=2であると言い切るのと等しいほどよ」
「暴論だ」
「そうね。暴論であるという批判は一部、許容されるべきだわ。でもこれは後世の為であり、あらゆる学問は入門を必要とするわけだから。余地を排除するにしても議論は必要よ」
そう宣言し歩み寄る彼女は何故か清々しく見えた。ジントニックを飲み干すいつもの時と同じように。
そして、
「さて、問題は」
と腕を組み、左手を顎に沿わせ、おもむろに仕切り直す。
「どう平和的に収束させるかに尽きるわね」
「終息は……僕か?」
「あなたの真実はジントニックだけ。私は現役バリバリの研究者で、あなたのいつも言う醤油味のたこ焼きは存在しないわ」
「都市伝説は……?」
僕の声はすっかり小さくなり鳩尾の辺りからずっと震えている。彼女はそんな僕の首筋に手を回し、僕の視界は燦爛と潤う瞳に占められてしまう。
「ごめんなさい。ちょっと何を言っているか分からない。でも好きよ。あなたのことは。これからも仲良く暮らしていきましょう。喉が渇いたからジントニック、作って欲しいな」
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女勇者は魔王を生け捕った帰りに、立ち寄った清めの泉でやらかした! たちまちに女神が現れて告げる。「あなたが落としたのは、ショタの魔王ですか? イケオジの魔王ですか?」「いいえ、私が墜としたのは、三日三晩ベッドで愛を教え込んだ可愛い女の子です」「魔王ちゃん、悔し泣きしているんだけど?」
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