コメディ・日常
年越しウォーズ2020
848文字
約2分で読了
「たぬきだろ」
「きつねに決まってるわ」
「またやってるのかお前らは」
テレビのチャンネルは紅白にセット完了。熱湯の煮えたぎる鍋には蕎麦を投入済み。茹で上がるのは時間の問題だ。
のんびりこたつの中で蕎麦を啜りながらテレビを見る為には、そろそろ決着をつけさせないと時間がなくなってしまう。
「あのさ、もう間を取って鴨南蛮にしたらいいんじゃね? な?」
「鴨はすっこんでろ。燻製にするぞ」
「焼き鳥にしてやろうか?」
「無駄に息ピッタリなとこ見せやがって……!」
こちらに罵声を浴びせたあと、狸と狐は再び睨み合いに戻ってしまった。紅白開始までは、残り三〇分だ。
「いいか狐野郎。お前油揚げが好物って散々言われてきただろ。なのに年越し蕎麦できつね蕎麦を食べんとはどういう了見だ」
「お前こそなんだアホ狸? 狐が油揚げを好むなんて夢見てんじゃねぇぞ。大晦日に食べる蕎麦は揚げ玉をしっかり載せたたぬき蕎麦、他の選択肢なんてあり得てたまるか」
きつね蕎麦が食べたい狸とたぬき蕎麦が食べたい狐。話し合いは平行線のまま、紅白開始のカウントだけが進んでいく。残り時間はあと一〇分になってしまった。
「お前らほんともういい加減にしろよ……鴨南蛮の何がいけないんだよっ!」
鴨南蛮もめげずに推してみるが、これに対する反応も全く変化していない。
残り五分となったところで段々馬鹿らしくなり、仲裁を諦めることにした。鴨南蛮を手にこたつへ陣取り、更に買ってきた海老天を添える。ガサガサという音に反応して狸と狐がこちらを向いた。その瞬間、海老天を捉えた4つの瞳が大きさを増した。
「お、おい鴨野郎……お前が持ってるそいつはもしや……」
「まさかお前……一人で海老天を食うつもりじゃあるまいな…………?」
ギラギラと光る目玉達は、ジリジリと少しずつ海老天への距離を詰めてくる。先程言い争いをしていたときよりも更に目が血走っている。
「おっおおお落ち着けや、な? お前らにも一口ずつくらいはやるから……」
二〇二〇年の最後は、海老天(尻尾)のみが載った鴨南蛮で終わりを迎えた。
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