恋愛

10年後の写真

1,389文字 約3分で読了
作者:ReiN.
 「次はあのジェットコースターに乗ろうよ!」  あの子に手を引かれながら私は小走りに歩く。  ここは有名なテーマパーク。 「何気に初めての二人きりだよね」  すたすた歩きながら、あの子が口にする。   「ちょ、手の力強いよ」  そんな風に言いつつ私は手を離さない。  手を離したくなかった。 「うん、初めてだね。ちゃんと眠れた?」 「もちろん」  片側の口角だけが上がる。あの子の笑い方の癖だ。 「このジェットコースター乗ったらお昼ごはん食べようよ」 「いいよ、近くに食べる場所あるかな」  私は園内のマップを確認する。 「あ、近くにあるね」  マップを覗くために、あの子が顔を寄せる。私は横目でその横顔を見た。 「あるね。じゃあ乗ったら行こうか」  マップから目を離し、私たちはジェットコースターの列に並ぶ。  周りには制服姿のグループや、カップル、親子連れがいる。    私もあの子も饒舌なタイプではない。私はあの子の顔をじっと見る。  あの子もぼーっとしている。何にも考えていない顔。   「なに?」 「楽しみだね」 「うん」 「あ、列が進んでるね」  列が進むのに合わせて、私はあの子の肩に両手を掛けて押す。  今、私の手のひらは、すごく熱いだろう。 「楽しみー」  あの子は気にしていない。  多分、ジェットコースターに頭が持っていかれている。  私たちが乗る番になり、ニコニコしたスタッフさんが目の前にいる。  スタッフさんは私たちが席に座ったのを確認すると、レバーを下げてアナウンスを始める。  「はい!このアトラクションは、当パーク名物のジェットコースターです!大変怖いと好評です!では、皆さん良い空の旅へ!」  「空の旅へ、だって。私たち放り投げられるのかな?」  何を言っているのかと思い、横の席を見たら、真っ青なあの子の顔。 「そんなわけないよ。ほらレバーあるし」 「だよね」 「見て、下の人が手を振ってる!」  そう言いながら、あの子は下に向かって手を振る。   「え、う、うん」  私も合わせて、下に向かって手を振る。 「上がってる!上がってる!!」  あの子が私の手を握ってきた。 「あ、上がってるねぇ……」  相槌しか打てない。  ジェットコースターは怖い。でも、手汗の方が気になった。  頂上まで来た。  「むりむりむりむり――!」    一瞬、前方からレールが消える。何もない。あ、落ちる。  握られていた手に爪が食い込んだ。  次の瞬間、体が前へ持っていかれる。 「あ゛あああああ!」  隣から聞いたことのない声がした。  私も何か叫んだ気がするけれど、風の音でよくわからなかった。  手は、まだ離れていなかった。  ジェットコースターに乗った私たちは、ニコニコしたスタッフさんに出迎えられた。  あっさり終わった。 「おかえりなさーい。出口はあちらでーす。記念のお写真もあるので気になる方はお買い上げくださいー」 「写真だって!」  またあの子に手を引かれる。   「あ、私たち写ってる!」  あの子が写真を指差した。その拍子に手が離れる。手が空気に触れる。  写真の中で、私たちは二人とも絶叫していた。握った手は、顔の横まで上がっている。  「私、記念に買う!」  「私も買おうかな」  私たちはそれぞれ写真を買った。 「ねぇ、あの写真さ。10年後見たらまた見え方変わってるかな」  あの子が微笑みながら言う。   「どういうこと?」 「そのままの意味。例えば……関係が変わってたり……とか」    私の意識は、もう手のひらよりあの子の顔に向いていた。  多分、そうなったら手汗も気にならなくなるだろう。
2026/10/26 ・ 👁️ 2回 ・ 💬 0件

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