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10年後の写真
1,389文字
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「次はあのジェットコースターに乗ろうよ!」
あの子に手を引かれながら私は小走りに歩く。
ここは有名なテーマパーク。
「何気に初めての二人きりだよね」
すたすた歩きながら、あの子が口にする。
「ちょ、手の力強いよ」
そんな風に言いつつ私は手を離さない。
手を離したくなかった。
「うん、初めてだね。ちゃんと眠れた?」
「もちろん」
片側の口角だけが上がる。あの子の笑い方の癖だ。
「このジェットコースター乗ったらお昼ごはん食べようよ」
「いいよ、近くに食べる場所あるかな」
私は園内のマップを確認する。
「あ、近くにあるね」
マップを覗くために、あの子が顔を寄せる。私は横目でその横顔を見た。
「あるね。じゃあ乗ったら行こうか」
マップから目を離し、私たちはジェットコースターの列に並ぶ。
周りには制服姿のグループや、カップル、親子連れがいる。
私もあの子も饒舌なタイプではない。私はあの子の顔をじっと見る。
あの子もぼーっとしている。何にも考えていない顔。
「なに?」
「楽しみだね」
「うん」
「あ、列が進んでるね」
列が進むのに合わせて、私はあの子の肩に両手を掛けて押す。
今、私の手のひらは、すごく熱いだろう。
「楽しみー」
あの子は気にしていない。
多分、ジェットコースターに頭が持っていかれている。
私たちが乗る番になり、ニコニコしたスタッフさんが目の前にいる。
スタッフさんは私たちが席に座ったのを確認すると、レバーを下げてアナウンスを始める。
「はい!このアトラクションは、当パーク名物のジェットコースターです!大変怖いと好評です!では、皆さん良い空の旅へ!」
「空の旅へ、だって。私たち放り投げられるのかな?」
何を言っているのかと思い、横の席を見たら、真っ青なあの子の顔。
「そんなわけないよ。ほらレバーあるし」
「だよね」
「見て、下の人が手を振ってる!」
そう言いながら、あの子は下に向かって手を振る。
「え、う、うん」
私も合わせて、下に向かって手を振る。
「上がってる!上がってる!!」
あの子が私の手を握ってきた。
「あ、上がってるねぇ……」
相槌しか打てない。
ジェットコースターは怖い。でも、手汗の方が気になった。
頂上まで来た。
「むりむりむりむり――!」
一瞬、前方からレールが消える。何もない。あ、落ちる。
握られていた手に爪が食い込んだ。
次の瞬間、体が前へ持っていかれる。
「あ゛あああああ!」
隣から聞いたことのない声がした。
私も何か叫んだ気がするけれど、風の音でよくわからなかった。
手は、まだ離れていなかった。
ジェットコースターに乗った私たちは、ニコニコしたスタッフさんに出迎えられた。
あっさり終わった。
「おかえりなさーい。出口はあちらでーす。記念のお写真もあるので気になる方はお買い上げくださいー」
「写真だって!」
またあの子に手を引かれる。
「あ、私たち写ってる!」
あの子が写真を指差した。その拍子に手が離れる。手が空気に触れる。
写真の中で、私たちは二人とも絶叫していた。握った手は、顔の横まで上がっている。
「私、記念に買う!」
「私も買おうかな」
私たちはそれぞれ写真を買った。
「ねぇ、あの写真さ。10年後見たらまた見え方変わってるかな」
あの子が微笑みながら言う。
「どういうこと?」
「そのままの意味。例えば……関係が変わってたり……とか」
私の意識は、もう手のひらよりあの子の顔に向いていた。
多分、そうなったら手汗も気にならなくなるだろう。
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