SF・ファンタジー
河原の勇者
1,169文字
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気がつくと、俺は見知らぬ河原に立っていた。あたり一面にゴロゴロと転がっている無数の石。空はどんよりと重い灰色に覆われ、太陽の姿は見当たらない。
ついに来たのか、この時が。
俺は心の中で拳を握りしめた。直前の記憶はある。交差点、信号無視のトラック、甲高いクラクション。間違いない。俺は命を落とし、異世界への転移を果たしたのだ。
まずは現状の把握だ。
「ステータス、オープン」
声に出して唱えてみた。しかし、眼の前に半透明のウィンドウが現れる気配はない。
「メニュー画面? ウィンドウ? ステータス表示!」
何度叫んでも、視界に浮かぶのは寒々しい河原の風景だけだった。その後も思いつく限りの操作を試したが、全て徒労に終わった。
脳内に直接語りかけてくる女神の声もなければ、固有スキル付与の通知もない。足元の小石をつまみ上げ、魔力を込めてみようとしたが、何の変化も起きなかった。
「ふむ……、システム補助も魔法もなし、か」
思わず苦笑が漏れた。「特殊能力チート」や「いきなり万能無双」のタイプではなかったようだ。
だが、落胆はしなかった。むしろ胸の奥から湧き上がってくるのは、確かな手応えと高揚感だった。
いきなり無双するテンプレも悪くないが、こういう泥臭く地味なスタートだって一定の需要がある。システム補助がないということは、それだけ俺自身の智謀と機転が試されるということだ。攻略のしがいがあるというものだろう。
河原を歩いていくと、頭に角を生やした巨大な人型のモンスター、いわゆる「オーガ」のような連中がいた。作業をしている人間たちを見張り、時には嘲笑うように作業の妨害をしているようだ。
「あいつらがこの世界の『魔王軍』か。住民を虐げて強制労働をさせているんだな」
この世界は魔王の勢力に支配され、人々は苦しみにあえいでいる。そして俺は、彼らを救済するために呼ばれた「勇者」というわけか。
さっそく、俺は作業している人々に紛れ込み、情報を集めることにした。
このあたり一帯を支配しているという魔王は、川を渡った向こう岸にいるらしい。
身体は異常に大きく、真っ赤で恐ろしい顔をしているという。それだけ聞くと、脳筋のパワーファイターのようだが、不思議な鏡を使った特殊な精神攻撃を得意とも言われている。
向こう岸へ行くには船が必要だ。船に乗るには料金がかかり、料金を支払えない場合は、装備を身ぐるみ剥がされてしまうらしい。
最初のミッションは「見張りのオーガを倒して、金と装備を手に入れろ」といったところだろうか。
単純な力比べでオーガに勝つのは容易ではない。しかし、あいつらの知能はそれほど高くないはずだ。そこに勝機があるだろう。
「待っていてくれ、この世界の住人たち。俺が必ずこの不条理な支配を終わらせてみせる」
賽の河原と呼ばれるその場所で、石を積む作業をしながら、俺は決意を固めた。
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