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裏切り者の英雄
2,350文字
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この瞬間だ。15年。
あなたを、国を、すべてを裏切ってでも、成したかった。
身を汚さずとも、身を汚されずとも、隠しても隠しても、溢れ出る憎悪で真っ黒に染まった身体で剣を突き立てる。
あの人の国を、私の手で壊させたこの悪魔を。
驚いた周りの兵達が、遅れて彼女を射る。
月夜。
賑やかな宴。
似つかわしくない、朱色。
――
私の家系は騎士ながら男児に恵まれず、父は仕方なく長女の私に剣術を仕込むことにした。
10になる頃、父に教えられた剣術を磨いていたとき
勉学から逃げ出した姫と、目が合った。
すぐにお付きの者がとんできて、私に姫を見なかったか?と尋ねてきた。
噂に聞いていたため、このお転婆が何をしたかすぐに察した。
(匿って!)
後ろの茂みに素早く隠れ、ギリギリ私に聞こえる声で呼び掛ける
「……後ろの茂みにおります。」
「ちょっと!」
驚いた声で完全に居場所がバレて、子猫のように運ばれる。
とても王族とは思えない姿に、私は苦笑した。
明くる日、姫は懲りずにまた来た。
「……昨日はよくもやってくれたわね!」
無視して鍛錬に臨む私に、キーキーとうるさく文句を垂れる。
「普通、あーいう時は明後日の方向指して助けるもんでしょう!」
「……どこの世界の普通ですか?」
「これ!城下町で流行ってる恋愛小説!」
「そんなの読んでるからバカになるんですよ。」
「な、なんてこと言うの!あなた読んだことあるの!?」
「ありません。そういった類の書物は、読むと父にバカになると教えられておりますゆえ。」
剣を振っているのにも関わらずズカズカと近づき
姫は持っている本を押し付けてきた
「なら、読みなさい。姫としての命令よ。」
「……私が仕えているのは、あなたの父君でございます。」
「いいから!」
姫はその後、また従者に見つかり連れ戻された。
私は鍛錬を終え、父からの指導を終え、眠気まなこをこすり仕方なく押し付けられた本を読む。
私の顔は次第に赤面していった。
「……目に毒だ、こんなもの。」
しばらくあと、また姫が訪ねてきた。
ニヤニヤした顔で私に語る。
「どう?面白かったでしょう?」
「燃やしました。」
「特に星の女王が……え?」
「あんなもの、高貴な方が読むものではありません。」
またキーキーと騒ぐので、すぐ従者に見つかり運ばれて行った。
「……高貴は誤りだったかもしれん。」
その日から、仕返しのごとく姫は訪ねてきた。
やれ、街で流行りのお菓子だの服だの。
鍛錬に集中させてくれ……!
仕方なく、聞き半分に木剣を振るう。
ある日耐えかねて、なぜ突っぱねても私にちょっかいかけるのかと聞いた。
「……だって今も、これからもつまんないことばっかりだから。」
「……」
少し前に聞いた。
彼女はあの帝国に嫁ぐことが決まっている。
そして見たことがある。どこか陰を落としたその顔を。
毎日、鏡で見る私と同じ。
「別にいいじゃないですか。私も姫も今後を考えなくていい。
一心に道を進むのみ。何も悪いことなんてない。」
「……ウソつき。」
「ウソじゃありま」
「私と同じ顔してる。」
木剣を振るう手が止まった。
――
父から聞いた話に耳を疑った。
帝国に就く。
この国を裏切る。
街に火を放つ。
仕えてきた王を斬る。
そして……
姫を含めた王族を捕らえ、見せしめとして処刑する。
王国の行動が、帝国の鼻についたなど。
家を守るためなど、御託を並べる父の話は途中から入ってこなかった。
――
決行日、私は父の命令通り動いた。
街も城内も混乱を極めた。
……背いたことは3つ。
混乱の中で、父の背を斬った。
そして本来その父が行うはずの、王殺しを私が行い首謀者として堂々と名乗りを上げた。
絶望する姫の目の前で。
そしてわざと姫を含めた王族を数人だけ逃がした。
目が合った姫の顔を見て、私は自分の気持ちを初めて自覚した。
――
姫達は無事友好国へ亡命できたそうだ。
その事実に、帝国はご立腹だった。
一国を落とした事実より、一つのミスを重視され
私の扱いは騎士のそれとは程遠かった。
殺されなかっただけマシだったかもしれない。
帝国についてからの数年は思い出したくもない。
それでも戦いで幾度となく、敵を斬った。
蝙蝠女と呼ばれ、嫌がらせに刃こぼれした剣で、戦場に駆り出された。
鈍器として割り切り、敵の鎧ごとかち割り続けて生き残った。
残虐にも、武器を持たぬ民衆も何度も斬った。
ようやく下っ端だが、帝国で騎士として認められた。
そして――共に剣を磨いたかつての友を、帝国に仇なす不埒者として斬った。
得た金は生活費以外、危険と知りつつ、情報屋に渡し姫の安否を何度も確認した。
周りから悪鬼と呼ばれるまで、斬って斬って斬り続け、遂に人間扱いされなくなって、ようやく帝王の腹心と呼ぶに相応しい所まで上り詰めた。
その日は、長年の戦争がついに終わり帝国全体が浮ついていた。
コイツが死んでも代わりはいる。
しかし、私は火種だ。
帝国への憎悪は、今や世界に広がっている。
この混乱を見逃すはずがない。
あなたが幸せに暮らす世を作る。
その15年だ、地獄まで付き合ってもらおう偽りの主君よ!
――
その日、彼女の亡命先の国ではザワついていた。
「姫、裏切り者の彼女がその、かの帝王を討ったとの報が入りました。」
「……遺体は?」
「帝国式典中に事を起こしたらしく……」
「そう、もういいわ。」
「姫?」
「報告ありがとう。明日詳しく聞くからもう下がって。」
「し、しかし」
「いいから!」
普段可憐かつ毅然とした姫の荒げた声に驚き、従者は余所余所しく部屋を後にした。
……静かに泣き崩れた。
あの日初めて出会った時、一目惚れした彼女を想って。
――
裏切り者の英雄は、事切れる直前に空を見上げ想った。
奇しくも、後に彼女の訃報を聞いた姫と同じことを。
「どうか許して。まだ、愛おしく想う私を。」
――ああ、会いたいな。
ウソついて借りたままのあの本、返さなきゃ。
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