コメディ・日常
煌めくトンボたち
1,019文字
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田んぼの横には彼岸花が咲いていた。
秋風に心地よく揺れる稲穂は金の実りをたたえていた。
その上を煌めく羽根のトンボたちが飛んで行く。
今年の9月の祝日はとても長い。土日を挟んで5日もあるのだ。
ちょうどお彼岸だ。だから、ほんの少し離れた娘と孫がお彼岸に遊びに行ってくる。
孫は虫取り網を持ってトンボを追いかけていた。
「じいちゃん見てみて!いっぱい捕まえた」
虫かごの中にはトンボがいっぱい。
「ほぉー、すごいじゃないか!」
私はにっこりと笑った。
「いいけど後で逃がしておいてね。かごの中じゃ、かわいそうだし家に持って帰れないからね」
娘は呆れたようにそう言った。
孫は虫取りが好きでよく網を持って捕まえてくるらしい。
そういえば私も子供の頃は虫取り網を持って走り回っていたっけ。
かごいっぱいに捕まえた虫を見てご機嫌だった子供の頃を思い出す。
『童子や童子、それを逃がしてもらえんかの』
ふと、子供の頃に言われたその言葉が耳の中でよみがえった。
あれは私が小学生の3年ぐらいの頃だった。
やはり晴れ渡った空の下、トンボのかごをご機嫌で持って歩いていた時にその声を聞いた。
私は声の主を探して辺りをキョロキョロと見回した。
声の主は神社の高いクスノキの上に腰かけていた。
和服姿の風変わりな少年だった。
少年は木の上からひょいと飛んで私の足元に着地した。
天狗だ!
それを見て私はそう思った。
きっと 天狗に違いない。あんな高いところから飛び降りて平気なんて。この辺りの森には天狗が住んでいるという伝承があるのだ。
私は慌てて虫かごを開いた。
トンボたちは一匹ずつ、その美しく輝く羽をはためかせ空へと帰って行く。
ちょうど今はお彼岸じゃ。死んだ者たちがの、ああやってトンボの姿になって帰ってきておるのじゃ』
と、その少年は言った。
少年が指を差し出すと、1匹のトンボがそこに止まったのだ。
『久しいの』
少年は愛しいものを見るかのような目でそのトンボを見つめた。
きっとそのトンボは、死んだものの魂がトンボの姿になって彼のところにやってきたのだと思った。
トンボたちが飛んで行くのを私は彼と見送った。
その少年と会ったのはその一度きりなので、本当のところ彼が 天狗だったのか そうじゃなかったのかは分からない。
孫は虫かごを開いた。
「バイバイまたね!」
虫かごから飛んで行くトンボたちを見ながら孫はそう言った。
青い空に煌めく羽根。
やはりトンボは誰かの魂なのかもしれない。
……大切な相手のもとへ飛んで行ったのだろうか。
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