コメディ・日常
傘を貸して
1,668文字
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突然降り出した雨は土砂降りで、とても止みそうにない。私はコンビニに駆け込んだ。
コンビニのビニール傘コーナーを探す。レジでお金を払って外に出ようと思ったけれどこの雨の中歩いて行くのはちょっと気が重い。しばらく雑誌コーナーにいたけれど雨が止む気配は全くないので仕方なく傘をさして駅に向かって歩き出す。
早くしないと出勤時間に遅れてしまう。
今日は夜勤だけど、引き継ぎ業務もあるからあまりグズグズはしてられない。ズボンの裾がかなり濡れてしまった。どうしてパンプスなんて履いてきたんだろう。……とはいえ長靴で出勤するわけにもいかないのだけど。
駅についてハンカチでズボンを軽く拭く。
改札を通り抜けようとした時、近所の女の子が困った顔をして立っているのが見えた。
「みゆきちゃん?」
近所の中学生の女の子だ。
こっちに気がついて軽く挨拶する。
「こんにちは」
「どうしたの学校の帰り?今日は部活だったの?」
「いえ、塾の帰りです。急に降り出してきちゃって」
「よかったらこの傘使う?」
「え、いいんですか。ありがとうございます。でも、それだと佐藤さんが困るんじゃ……」
「いいよ、これコンビニで買ったビニール傘だし。それに仕事場に着く頃には止んでると思うからね」
私はそう言うと彼女はおずおずと傘を受け取った。
「ありがとうございます」
ペコリと90度にお辞儀して彼女は雨の中を足早に走って行った。
そんな後ろ姿を見て、ふと昔のことを思い出した。
やっぱり中学生ぐらいの時だった、クラスにちょっと意地悪な田中君という男の子がいて私は苦手だった。
だけれどある時大雨で、今の彼女のように駅で足止めを食らっていた。そんな時、たまたま駅にやってきたその男の子がぶっきらぼうに傘を差し出して、
「やるよ」
と一言言って傘を私に押し付けて改札口の中に入って行った。
突然のことで私は何も言えなかった。
後日傘を返してお礼を言ったけど。
……今にして思えば、ぶっきらぼうだったけれどそれはきっと思春期にありがちなコミュニケーションの苦手さからだったのだろうなと思う。
私も当時は彼が苦手だったから、お礼を言うのも小さな声でやっとだった。今だったらもっと違ったのになと思う。
その一件から彼のことはあんまり苦手じゃなくなったけど、自分の方からコミュニケーションを取りに行くのは恥ずかしくってとてもできなかったっけ。
彼女を見送ってなんだか懐かしいような、ほろ苦いようなそんな気持ちが胸に広がっていった。
……どうしてるかな、田中君。
やはり子供時代の同級生というのは成長して学校が別々になったらもう会うことなんて滅多にない。
同窓会なんてものは全くないし、もちろん私の方から企画するような性格でもない。結局中学生の頃の同級生たちとはコミュニケーションは取らず今まで会うこともなかった。
みんなどうしてるんだろう。
懐かしい気持ちに浸っているうちに電車がやってきて私は仕事場に向かった。
夜勤明けの翌日。
眠くてぼーっとしながら家に帰ってきて昼食をとる。
今日の空は昨日の雨のおかげで澄み渡っていてどこまでも蒼い。
ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴る。
「はーい、どちら様?」
私は扉を開けた。
「昨日はありがとうございました!」
みゆきちゃんとその父親だろうか、男の人が立っている。
すみません昨日みゆきが傘を借りたみたいで、これはほんのお礼です
男の人は菓子折りの入った紙袋を差し出す。
「ビニール傘ですからそんなお気を使わずに……」
顔をあげた男の人と目が合う。
「あれ?もしかして田中君?」
相手も同じようにきっとびっくりしたに違いない。
目をまたたいてこっちを見ている。
「もしかして、佐藤さん?」
「え、中学ぶり?みゆきちゃんのお父さんが田中君?」
みゆきちゃんはきょとんとしている。
「佐藤さん、お父さんの知り合いだったの?」
「中学生の時の同級生だったんだよ」
田中君は説明する。
何十年ぶりかの再会。
まさかこんな近くに住んでいたとは。
あの頃の記憶がよみがえり懐かしさが溢れ出す。
そして2人で目を合わせ、笑いあったのだ。
青天の空の下、笑い声が響き合った。
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