コメディ・日常
ハロウィン2020
1,287文字
約3分で読了
「カボチャに水と~調味料を放り込んで~おいしい煮物の出来上がり!」
頭をすっぽりと覆う風フェイススタイルのカボチャの被り物。目や口の形にくり貫かれた穴からは、おいしそうな匂いが漂ってくる。頭を大きく振る度に煮汁が隙間からピシャっと飛んでくることに目をつぶれば、エンターテイメント性が高い仕上がりになっている。
「あ、大家さん! それはボックスじゃなくて千鳥足です! その動きはドジョウ掬い……! 一旦休憩にしましょう!」
「そうですか? 若い頃はこういうの得意だったんですけど……やっぱり歳には勝てませんね」
「それと、『調味料を放り込んで』のところ、もう少し具体的に言った方が伝わりやすいんじゃないですか?」
「んー、でもそれだと語呂というか響きがちょっとしっくりこない気がするんですよね。あ、梅川さんお一つどうぞ」
わたしの隣に腰かけた大家さんは、左手で被り物の上部を指さしながら右手で蓋をパコッと外した。被り物の中には、大量のかぼちゃの煮物がセットされている。オレンジと緑で構成されたユートピアが、先程よりも強く伝わる匂いが、私の胃袋をこれでもかと刺激してくる。
いつの間にか紙皿と割り箸を手に持ち、こちらに差し出してくれている大家さん。首から下はオレンジの全身タイツですっぽりと覆われ、素顔はカボチャに隠されてしまっている。頭に煮物がセットされていることを知ってしまっているせいか、どうにもパンチが足りないように感じてしまう。
「なにかなー……全身タイツが駄目なのかな? あ、いただきます」
思考をフル回転させながら煮物を頂く。カボチャの甘さと出汁の味が広がり、皿の中のカボチャの様にわたしの思考もドロドロに溶けていきそうだ。
「あー最高です。ホント好きです。大家さんのこの煮物が沢山食べられるなんて幸せなイベントですよねハロウィン」
「そんなに褒めても他に出せるものないですよ。もう一ついかがです?」
「やった!」
カボチャを飲み込みながら、改めて大家さんの衣装を観察してみる。大手のテーマパークにいるキャラクターの様に、首から下の全身タイツをドラキュラさながらのマント姿に変えてみるのはどうだろうか? それならフラフラしたステップもそんなに変に見えないかもしれない。
「大家さん。衣装ちょっと変えません? 多分その方が子供達の食いつきも良い気がします」
大家さんは、カボチャの頭を少しだけ斜めに傾けた。煮汁が一滴、地面にポタリと垂れた。
「良いですね。梅川さんの若い発想はおばあちゃんの私では出てこないものが多いですから、まだまだ色々教えて下さいね」
顔は相変わらず見えないけれど、声聞こえてくるはとても楽しそうだ。わたしも将来はこんなおばあちゃんになりたいものだ。
「さて、それじゃあ再開しましょうか!」
「よろしくお願いしますね、梅川さん。カボチャに水と~―――……」
「子供会主催ハロウィンイベント……優勝勝ち取りましょう大家さん! あ、それだとドジョウ掬いです」
煮汁を飛ばしながらドジョウ掬いを披露するカボチャの怪人は、圧倒的な得票数で見事に優勝を飾り、町内のローカル都市伝説として語り継がれていくのであった。
\ 次の作品を探す /

読者の感想・応援メッセージ