ホラー・怪談
2in1
1,046文字
約3分で読了
「今時珍しいよな。こんな見事な畳のワンルームなんて。六畳だっけ? 八畳?」
彼の友人は定期的に意味も目的もなくこうやってからかってくる。男の人ってなんでこんなにマウント取りたがるんだろう。
「ほっとけよ。オレの性には合ってるんだから」
ほんとだよ。
ほっとけよ。
ようやく彼の友人が去って、置いていった肉まんを温め直して、二人ではんぶんこしていただく。
私はこれが幸せ。
彼はほんとに手のかかる人で、靴下は脱ぎっぱなしだし、ワンルームなのに玄関の照明は点けたら点けっぱなし。あ、トイレも。
仕方がないから後を追うように私が消してあげる。
料理が好きなくせに調理器具は使った端からシンクに投げ込んですぐに埋まってしまう。
仕方がないから調理の隙を見て私が洗ってあげる。
買い物に出かける時もすぐに目移りするから目的の物をいつも買いそびれる。
仕方がないから私が戻って買いに行ってあげる。
私はこれが幸せ。
私がいないと彼は生きていけないと思うと嬉しくて涙が込み上げてくる。
週に何度か、夜になると彼は泣きじゃくる癖がある。
「もう40も近いのに、オレなんか生きてたって仕方ないんだ」
分かってるくせに。
何度も何度も似たようなことで子どもみたいに泣く。
「分かってるでしょ? だからもう決めたっていいじゃない」
「無責任なこと言うな! 何も分かってないくせに!」
「たぶん私がこの世で一番理解してるよ。たぶんじゃないね。間違いなく、だね。だから……ね、泣かないで」
そうやって宥めているうちにすやすやと寝息を立て始める。男の人っていくつになってもこう。でもたまらなく愛おしい。
朝になって鏡の前で私たちは見つめ合う。
「おはよう。昨日もいっぱい泣いたね。今日もお仕事に行くの?」
「行くよ。だってそれが唯一の存在意義だし」
「大袈裟だってば。分かってるんでしょ。何も変わらないよ。何も変わらないの。空から急にお金や女の子は降ってこないの」
「でも、だって、……やっぱりオレには勇気がないんだ。それに君だって、僕がいなくなればいなくなるんだよ。この身体が死ぬっていうことは君の存在もなくなるんだ。君がどこまで僕を理解してると言っても、君が僕の別人格だという事実は事実のままなんだから」
「いいの。私はそれでも幸せだから。あなたがもう苦しまなくていいのなら私は幸せ。怖くてたまらないのも知っているよ。でも私はあなたを想うと怖くなんかないの」
鏡の前で私たちは最期まで見つめ合う。
彼は私がいないと何も出来なくてかわいい。
仕方がないから人生の幕は私が下ろしてあげる。
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