恋愛

橙ジュエリー水平線

823文字 約2分で読了
橙色の水しぶきが舞う。 私の恋人を彩るように。 この歳で無邪気に、はしゃげるあなたが嫌味でなく羨ましい。 「ねー、アカリちゃんも遊ぼうよ!」 少し遠くで遊ぶあなたの声が、彼方の夕焼けと混じって私に届く。 そのワンピース、せっかくプレゼントしたのに……。 「海水で服ダメにしても、知らないよー!」 私も大きな声で返してみた。 「あっ!」って今更気付いたあなたのリアクションが、ここからでも見える。 照れてしまった顔で。 今度は少し困った顔で。 でもやっぱり、私と一緒に遊びたいのか、屈託のない笑顔で。 表情をころころと変えていく。 まるで照らされた宝石が光り方を変えていくように。 そして、海に溶けていく。 耳に残る、波の音。 幼少期の美しい風景への思い出。 まばらに浜辺に残る人々。 楽しい時間の終わりを告げる夕暮れ。 あなたへの愛おしさ。 誰にでもいつしか訪れるであろう死別。 全て溶けていく。 哀しみとも感動とも区別できない、名前のない感情が溢れ出る。 怖くなった。 急いでバシャバシャと海水を除け、あなたのところに向かう。 あなたは最初、私が来たことに嬉しそうな顔を浮かべた。 でも、すぐに私の青ざめた顔に気付いたのか心配してくれた。 「大丈夫?」 「……」 「悲しい?怖い?」 「……うん」 あなたは、そっと抱きしめてくれた。 「大丈夫、ここにいるよ」 「……死んじゃわない?」 「あなたより先にはねー」 「お、同じタイミングがいい」 「よしよし、分かった、分かった」 「……馬鹿にせんといて」 「あ、アカリちゃんの方言久しぶりに聞いた!」 茶化されたおかげで、少し落ち着いた。 改めてあなたと向き合い手を握る。 あなたの綺麗な瞳も、夕日に透ける長い髪も、安心感を与える心音もいつか灰になる。 それがたまらなく怖い。 与えられ、巡り会えた幸せを波に攫われるのが。 ならいっそ、このまま一緒に海に溶け合いたい。 抱き合うのに邪魔な皮膚でも、骨でも、脳でも、心臓でもなく「あなたと私」で溶け合いたい。 あなたと一緒に。 この橙色の海に。
2026/10/17 ・ 👁️ 28回 ・ 💬 0件

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