ホラー・怪談

愛と魔女と禁忌と

1,053文字 約3分で読了
これでやっとあの人に会える。 この身を魔に染めてまで、会いたかったあの人に。 血肉となる豚肉。 骨となる牛の乳。 魂の糧となる虫の死骸。 他にも干した果実や生魚などを贄とする。 それらを全て鍋へ。 火をかける。 全てがドロドロに混ざるまで何時間でも。 異臭を放つ「それ」を床へと優しく移動する。 最後に自分の血で印を描き、何度も呪言を唱え続ける。 あの世に届くように、喉が枯れても。 この部屋に反響するほどの声で。 ああ、早く会いたいな……。 外が騒がしい。 またあいつらか。 気にせず、呪言を唱え続ける。 鍵をかけたはずのドアを開けられ、何人かが入ってきた。 魔女狩り共め。 また私の儀式の邪魔をするつもりか。 必死の抵抗虚しく、私は奴らの根城に連れて行かれた。 ……まあよい、儀式は十分進んだ。 多少、呪言を省いてもきっとあの人は蘇る。 ―― 「お父様ですね?」 「はい、また娘が申し訳ございません。」 「……異臭に騒音。入院前と併せてこれで四度目の通報です。」 「……」 「警察としてあまり踏み込んだことは言えませんが……。 娘さんの退院はまだ早かったのではないでしょうか?」 「返す言葉もございません……。大変ご迷惑をおかけしました」 娘を自動車に乗せる。 暴れ出すと困るので、医師から処方されている睡眠導入剤を飲んでもらい後部座席へ。 まだ薬が効かないのか、うわ言を呟いている。 やれ、奴らは私の術を恐れて火刑にできない臆病者など。 復活の儀式がどうだの。 正直、私は娘が度々起こすトラブルで全てが面倒になっていた。 「お父さんにも儀式をしたから……。安心してね……。あの人とお母さんとまた四人で……」 ようやく寝てくれた。 どんなに変わっても、愛情深いところは同じだ。 四人でご飯を食べたり、旅行したりたくさんの思い出は私の中にもある。 今でも花畑を背に、四人で撮った写真がスマホに残っている。 みんな笑顔だ。 だからこそ知っている。 義息子、娘の夫がどれだけ誠実で信頼に足る人物だったかも。 きっと、私の中の喪失感は娘のそれとは比べ物にならないだろう。 ずっと変わらない、愛おしい娘だ。 しかし……。 医療費の捻出、度重なる通報の対応とご近所への謝罪。 もう限界……いやどんなに御託を並べても言い訳だ。 私が全てから、逃げ出したくなっただけだ。 ああ、母さん教えてくれ。 私はどうすれば良かったんだ? 私は今から「間違い」を犯す。 恐らく娘の願いは叶わない。 「幸せなあの世」とやらで、三人だけで暮らしてくれ。 きっと私は娘の言う「地獄」行きだから。 そんなことを思いながら、私は包丁を手に取ってしまった。
2026/10/09 ・ 👁️ 25回 ・ 💬 0件

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