ホラー・怪談

水底

564文字 約2分で読了
私は気付けば、深い水底にいた。 光は全くなく、しかし周囲の様子はなぜか分かる。 ここがどこかは知らない。 私は自分が何者で、どうして生きているのかも分からない。 けれど、水は知っている。 草原を、木々を、大地を駆ける生物を知っている。 そして光を知っている。 私はどうしてここにいるんだ? お腹が空く。 周辺にいた恐らくエビのような生物を食べる。 美味しくなかった。 珍しく魚らしきものが泳いでいたので食べた。 エビらしきものより格段に美味しかった。 ある日、大きなクジラのようなものが私を襲ってきた。 辛くも逃げることができたが、次は分からない。 途端に、恐怖が湧いた。 死ぬことへの恐怖ではない。 喰い殺される恐怖ではない。 なぜか強く求めてしまう、あの青空の美しさ。 太陽の光。 それを味わずに死ぬことが何より怖かった。 私は必死に上へ、上へと泳いだ。 全身に謎の痛みを感じる。 このまま泳げば、死ぬことを直感した。 でも私にはあの水底で何も分からぬまま死ぬことの方が、何よりも恐ろしかった。 ああ、いつ辿り着ける? 嫌だ。 嫌だ、嫌だ、嫌だ! あの光はどこまで泳げば味わえる!? ―― 何でもない砂浜に打ち上げられた、新種の生物の死骸。 その日のニュースはその生物で持ちきりだった。 細長い躰。 翼のような特殊な二つの背びれ。 耳と脳が異常に大きく、何より―― ――眼は完全に退化していた。
2026/10/13 ・ 👁️ 35回 ・ 💬 0件

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