コメディ・日常
一人でパフェを食べる
1,924文字
約4分で読了
私は一人でパフェを食べられない。
一人で喫茶店に行き、ケーキセットを食べて読書をするのは好き。でもパフェを一人で食べるのは気恥ずかしい。
智美はパフェに付き合ってくれる。
勤務先の市役所の同僚で、友達が少ない私にとって、大事な存在だ。
今日来たのは、老舗の純喫茶。インスタでイチゴたっぷりのパフェが有名だと知ってやってきた。
グレーの髪を後ろに撫でつけた渋いおじさんの店主が、パフェを運んできてくれた。真っ赤なイチゴと真っ白なクリーム、なんてかわいいんだろう。
「いただきます」とスプーンですくい、イチゴとクリームを口の中に入れると、甘さで頭がいっぱいになる。
パフェはスプーンでどんどん底へと掘っていく、冒険的なスイーツだ。
食べ終わったパフェのグラスを見ると、達成感がある。
「千尋」と智美が私の名前を呼んだ。
「私ね、結婚して岩手に行くの」
智美が微笑んで言った。
「え!? お、おめでとう……でも、突然だね」
智美から恋人の話を聞いたことがない。
「これ、新幹線のチケット。結婚式に来てもらいたいの。それでね、スピーチをお願いできるかな?」
テーブルの上に新幹線のチケットが置かれる。私は即答できない。人前で話すことが苦手だし、お祝いの場に自分なんかが話していいのだろうか。
「はっきり言うね。私、ずっと悩んでたの。あなたが私を頼りにしすぎるから。結婚して職場から私がいなくなったら、やっていけるか不安だよ」
そうだ、私は少しでも仕事に自信がないと感じたら、智美に質問して確認してもらう癖がついていた。私はうつむいた。わかってるけど、改めて言われると傷つく。
「大人にならなきゃ……お互いに。結婚の決断がなかなかできなかった……知らない土地でこれから生きていくのは大変だから」
智美が店の外に目をやる。
ベビーカーを押して歩く女性を、彼女は目で追っていた。
その横顔を見つめて、彼女には自分のことを気にせず、安心して結婚してほしいと思った。
「まずはさ、一人でパフェ食べられるようになろ? 新しくできたお店、来週、行ってきなよ」
智美がLINEで、パフェのお店のインスタアカウントを送ってきた。駅近くに新しくオープンしたらしい。店の内装は落ち着いていて、投稿されたパフェの写真はどれも美味しそうだ。
「わかった。私もね、変わらなきゃって思ってたんだ。しっかり者の智美に頼ってばかりだから」
私は真正面から智美を見る。
ちゃんと叱ってくれるいい友達、遠くへ引っ越しちゃうなんて寂しいな。
「結婚式の話、もう少し早くにしてほしかったな」
私は呟く。
「ごめんね、私、すごく悩んでて。なかなか話せなくて」
「岩手かぁ……遠いもんね」
二人の間に沈黙が流れる。
寂しさが胸をよぎった。
「結婚式のスピーチ、がんばるね」
私が答えると、智美は満面の笑顔を見せた。
土曜日の昼過ぎ、私は新しくできたパフェ専門店に来た。本当はオープン時間に来るはずだったけど、なかなか家から出られなかった。ダラダラしていると日が暮れそうで、えいっとメイクをばっちりしてやってきた。
小さな箱のような煉瓦造りの店の入口は、胡蝶蘭が白く眩しい。店内は満員だったが、ちょうど一人が席を立って、すぐに座れた。
去っていったのは、グレーのジャケットを着た若い男性だった。パフェを一人で食べに来る男性か、珍しい。
あの人は私よりも、パフェを一人で食べることに勇気がいるんじゃないかな。まだまだ性差って世の中にあるもの。
さっきまで男性が座っていたカウンターの高い椅子に腰掛けると、緊張はほぐれた。一人だと悪目立ちすると思っていた。
みんなパフェとお喋りに夢中で、私なんか見てない。大丈夫。
私はいちごのパフェにした。
クリームは優しい甘さで、いちごが甘酸っぱい。冷たいバニラアイスが溶けて、底のグラノーラと混ざりあって、最後の一口まで美味しい。
私は周りを気にせず、パフェを一人で平らげた。
これで、智美にパフェを一人で食べられたよって報告できる。彼女にはもっと伝えたいことがある。緊張で泣きそうになっていた初出勤の日から今まで、助けてくれた友人へ。
私はパフェ店を出て、文具屋で新しいノートとペンを買い、喫茶店でスピーチの下書きを始めた。
職場のお昼休憩で、智美から結婚式の準備について聞かされた。華やかでおめでたいことも、色々と大変らしい。
「実はね、千尋に紹介したい人がいるの。婚約者の同僚で……会ってみない?」
私は目を丸くする。
友人から男の人を紹介されるのは初めてだ。
「う、うん。会ってみる」
一週間後、おしゃれなレストランで紹介されたのは、あのパフェを一人で食べていた男性だった。
「初めまして」
彼は少し照れたように笑う。
この人とパフェを食べに行くのも、きっと楽しいだろう。
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