コメディ・日常
秋の夜長を楽しむ
1,365文字
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日本の秋は、夜が長くて過ごしやすい。
『秋の夜長』という言葉がある通り、暑さが和らぎ、暗闇の時間が少しずつ長くなるこの季節は、人間だけでなく海外の怪物たちにとっても実に快適な時期なのである。
しかも近年の日本では、ハロウィンの仮装文化がすっかり定着した。パレードの群衆の中には、日本にたどり着いた『本物』たちが混ざって騒いでいることもある。
「おや、そちらも本物だね」
「ええ、わかりますか。そちらこそ、なかなかの老舗とお見受けします」
パレードの喧騒の中、不自然な歩き方をしていたゾンビの私に声をかけてきたのは、これまた本物のドラキュラだった。異国の地で同類に出会えた嬉しさから、私たちはすぐに意気投合した。
「せっかくの夜長だ。どこかで一杯やっていかないか」
「いいですね。ちょうどあそこに『仮装のお客様、二割引き』という居酒屋がありますよ」
私たちは仮装した若者たちに混じって居酒屋の暖簾をくぐり、奥のテーブル席に腰を下ろした。人間の店員は私たちの姿を手の込んだコスプレだと信じ込み、愛想よく注文を取りに来る。
「俺はレッドアイにしよう。トマトジュースとビールのカクテルだ」
ドラキュラは店員に向かって真剣な顔で付け加えた。
「それと、唐揚げとポテトにはニンニクが使われていないか、厨房に確認してくれないか。ガーリックパウダーが少しでもかかっていると、体調を崩してしまうんだ」
「承知いたしました。コスプレだけでなく設定にもこだわっているんですね」
店員はいたく感心した様子だった。
「私は、アルコール度数が低いサワーを、氷多めでお願いします」
店員が去ったあと、ドラキュラは不思議そうに眉をひそめた。
「ずいぶん控えめじゃないか。酒は苦手なのかい」
「ええ。あまりアルコールが強すぎると、傷口が消毒されてしまってヒリヒリするんですよ」
私は腐りかけの頬をさすりながら、メニュー表を眺めてため息をついた。
「それにしても、最近の日本の居酒屋は生肉のメニューが減ってしまって嘆かわしい限りです。昔はユッケだのレバ刺しだの、好物をいくらでも食べられたのですが」
「まあ、今夜はローストビーフあたりで手を打とうじゃないか」
赤いカクテルと薄いサワーで乾杯し、それからは他愛のない世間話に花が咲いた。日本の秋がいかに快適か、どの街のパレードが一番紛れ込みやすいか。
心地よい酔いと楽しい会話に夢中になっているうちに、気づけば周囲の客はすっかりまばらになっていた。
ふと壁の時計を見上げたドラキュラが、もともと青白い顔をさらに蒼白にして立ち上がった。
「おい、まずいぞ。もうこんな時間だ」
「楽しくて、つい予定より撤収が遅れてしまいました」
私たちは慌てて伝票をつかみ、帰り支度を始めた。仮装割引が適用された会計を済ませ、急いで店の外へと飛び出す。
「それじゃあ、俺は空港へ急ぐことにするよ。また来年の十月に会おう」
「ええ、また来年。お互いに道中気をつけましょう」
短い挨拶を交わし、私たちは夜の闇へと消えた。
私たちがハロウィンの時期にだけ日本へ集まるのには理由がある。
十月は、日本の言葉で『神無月』という。日本中の八百万の神々が、出雲という場所へ会議に出かけて不在になるため、この一ヶ月間だけは日本各地の神聖な力が弱まり、私たちのような西洋の怪物でも居心地よく過ごせるようになるのだ。
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