コメディ・日常
眠っていた手紙 たち
1,156文字
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Day 1:忘れられた手紙 / 最後のメッセージ
父が亡くなったという知らせを聞いた。
父と母が離婚したのはもう30年も前。
父のことはよく覚えていない、私はまだ幼稚園くらいで全く記憶にないといえば嘘になるがうっすらと顔を覚えている程度である。
養育費は払ってくれていたが会いに来てくれたことは一度もない。父と母の離婚の理由は知らない。
浮気などというわけではなさそうだが……
喪主は兄だった。
兄とは十代後半ぐらいになってからたまに会うようになった。
父の方に引き取られて私は母の方。離れ離れて育ったため最初はちょっと戸惑ったものだ。
お葬式の父は笑っている。
私の記憶の中の父親はどんな顔をしていたのかもうよく思い出せない。
私にとって父はほぼ知らない他人と言ってもいいだろう。
父にとって私はどうだったのだろう。
焼香しながら何とも言えない切ない気持ちになった。
当然葬式の親戚はほぼわからない。
兄にこっそりと一体誰なのか聞いてみた。
見知らぬ叔父叔母、父のいとこ、あるいはもっと遠縁の親戚。
会話を聞きながらひどく居心地が悪い気持ちになった。
……どうして私はここにいるのだろう。
初めて見る甥っ子と兄の妻。
こちらに気を使ってくれているのだろう、なんだか申し訳ない気持ちになる。
葬式が終わり兄の家に1泊することになった。
私はビジネスホテルに泊まると言ったがどうしてもと言われ断りきれなかったのだ。渡したいものもあると言っていた。
おそらく父の遺品になるようなものなのだろう。
受け取るのがどうにも気が重い。
とはいえ遺産相続の話も兄としなくてはならない。そちらはもっと気が重いのだが。
食後に兄が手紙の束を両手に持って現れた。
一つは母の字で父に当てた手紙だった。
封筒の中を一つ一つ開いてゆく。
「これ、お母さんが?」
「うん、父さんに当ててね」
中には私の写真と何があったかが簡単に記されていた。
手紙も写真も汚れていて所々水が染みたような跡がある。
「よく書斎で見ていたよ。家族の前では隠して見てないふりをしていたけどね」
兄が少し苦笑いのような笑みを浮かべて、そう言った。
「……そうなんだ」
私は何だかちょっと複雑な気持ちになった。
私のことを思って心配しておいてくれたのかもしれない。だけど父から電話がかかってきたことはなかったし、便りの一つもなかった。
兄がもう一つの手紙の束を渡す。
それは封が切られていない父から母に当てた手紙だった。
「父さん、これ出せなかったんだよ」
そう言ってまた苦笑いする兄。
父が母と別れた理由は知らない。
おそらく兄の話からすると相当不器用な性格だったらしい。
渡せなかった手紙の束。
伝えられなかった想い。
それを象徴するかのような封の切られていない手紙。
私はそっとハサミで封筒を開く。
……中には伝えられなかった父の愛が、たっぷりと詰まっていた。
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