コメディ・日常

ヴァイラスの憂鬱

1,024文字 約3分で読了
作者:しとえ
久々に実家に帰ったら、裏の勝手口にバラの鉢植えが置いてあった。 何で一鉢だけここに置いてあるのだろう? 母はバラが好きで庭にはいっぱい鉢植えが置いてある。 「あー、おかえり」 勝手口から母が顔を覗かせる。 「ただいま」 私はそう言うと家の中に入って行った。 「仕事は?」 「んー、あんまり変わりないかな」 「そう。何か飲む?」 「とりあえず麦茶。まだまだ外暑いね9月だけど」 「今日は天気もいいからね」 母はそう言って麦茶のコップを渡してくれた。 「そういえばさ!一鉢だけバラがそこに置いてあったけど……」 「あー、あれね。買って帰ってきたらどうもヴァイラスだったみたい」 「ヴァイラス?」 ヴァイラスって何だっけ…… 私は麦茶を飲みながら考えた。 「他に感染したらいけないから、しばらく薬をあげて様子を見てるの」 あぁ、そうだウイルス性の病気のことだった。 「ってか、植物もウイルスに感染するんだ」 母は私の方を見て少し微笑んだ。 「当たり前でしょ、結構デリケートよバラは。虫もつくし病気にもなるし肥料もたくさんあげなきゃダメだし」 「へぇ、そんなに手間がかかるんだ」 「綺麗な花とか美味しい実をつける果物とかすごく手間がかかるよ」 これまで 私は、あまりそんなことは考えたことがなかった。 私は窓から庭の方を眺めた。 秋咲きのバラが一面に咲いていて、とても美しい光景が広がっている。 「それで、植物の病気って治るの?」 「そうねぇ。なかなか時間がかかるからしばらくの間は他のバラと一緒にできないね。ちゃんと治って欲しいけど」 母は微笑みながら少しだけため息をついた。 「元気になるといいね!」 そういえば勝手口のバラの花はつぼみがついていなかった。 春にしか咲かないタイプなのか、あるいは病気のせいなのか…… 母の、植物の世話をしている時の眼差しはとても優しい。  そんな母を思い出し、昔の記憶が蘇った。 私が風邪のウイルスに感染して寝込んでいた時の記憶だ。 お薬に食欲がないからおかゆや消化に良いものを作ってくれたり、人間だってウイルスに感染したらなかなか治らない。 バラの病気はきっと風邪なんかよりはずっと直すのが大変なんだろうなと思ったけれど、植物も人間も同じようなものかもしれない。 母が愛情を込めて世話をすれば、きっと良くなるはずだ。 ヴァイラスの憂鬱に打ち勝ってお日様の中綺麗な花を咲かせてくれるだろう。  どんな色のバラが咲くのだろうか。 私は元気になったバラの花を想像しながら、 ほんの少し微笑んだ。 秋の昼下がりである。
2026/09/19 ・ 👁️ 103回 ・ 💬 0件

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