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9月の140字小説 まとめ
3,844文字
約8分で読了
9/1 『夏の哀愁』
くたびれ果てた夏を私は洗濯機で洗濯した。
秋風に干して、色あせた夏はほんの少し汚れが取れた。
あんなにも鮮やかにまぶしかった夏は、強すぎる日差しの中で すっかり色褪せ秋風の中心地良さそうに目を閉じていた。
そんな 哀愁ある姿に愛しさを感じた。
9/2 『涙の形の月』
雲から見える朧月は半月だったのだろうか。
涙の形に見える。
今宵は空も泣いているらしい。
晴れている中、雨が降るのは狐の嫁入りというが、朧月夜に晴れた空から降る雨は何というのだろう。
一体何のもののけが嫁入りしているのだろうか……
涙の月は、誰の涙だろう。
9/3 『煌めくトンボたち』
太陽に照らされてキラキラと輝くトンボたち。
それは特別な魔法がかかっているのだ。
秋という名の魔法が。
金色の稲穂の上に、さらに光り輝くトンボたち。
ふと妖精の魔法の粉、というのはこんな輝きなんじゃないかなと考えた。
9/4 『いわし雲と秋の風』
イワシの大群がやってきた。今日は釣り放題である。天の川の釣り堀で、秋の風に流されていわし雲の大群がやってきたのだ。
牛飼いなんてやめて漁師に転職しようかな。
そうしたら自分の船も持てるし、天の川を越えて織姫にも会いに行ける。
9/5 『コスモス咲く頃に』
「コスモスが咲く頃に、帰ってくる」
そう言ってあなたは出て行った。
今思えば、死亡フラグだったのかもしれない。
だけどね……
あれ以来、秋になってもコスモスが咲かない。
私はコスモスを描いて壁に飾った。
すると、
「ただいま」
あなたの声が聞こえた。
9/6 『月明かり寂しくて』
窓から注ぐ月明かりは色がない。
夜はモノクロームの世界だ。
静かに海の底に沈んでいく様に。
こんな夜にはただ一人。
泣いてもいいだろうか……
ただ月ばかりが空から、
私を見ていた。
9/7 『彼岸花と稲荷神社』
彼岸花が咲いたということは、あやつが帰ってくるのじゃろ。
盆にも帰ってきたばかりじゃが、律儀に顔を見せてくれるのは嬉しいの。
全く人というのは、あまりにも儚い命じゃ。
じゃが死後もやってきては話してゆく。
我が神で良かったの。
幾千年そなたを待ち続けられる。
9/8 『さようなら夏の日々』
さようなら、眩しい夏は終わりました。
唸るほどしんどかった、あの夏は終わりました。
僕たちの青春の、あの夏は終わりました。
もうすっかり秋の風に、
この身を置いて、
今はただ、眩しい日々を思い出すのです。
9/9 『歌う秋風』
秋風はその身の軽さに、歌を歌い出しました。
葉っぱの間を、ヒューロロロ♪
「デュエットしよう秋風さん」
コオロギが誘います。
響くコオロギたちの歌。
どんぐりのがパラパラと地面に落ちて、リス達は大喜び。
「もっと歌ってよ秋風さん」
食いしん坊のリス達は飛び跳ねました。
9/10 『優しい死神』
死は平等に誰にでも優しくやってきて、死者を抱きしめるのだ。
貧しいもの哀れなもの、安らかな死後の世界へと運んでいくのだ。
いいや、そんな穏やかな死神ばかりではない。
それでもきっと、祖父の元に訪れたのは優しい死神だったのだろう。
穏やかな死に顔をしていたのだから。
9/11 『遥かなる夢の彼方』
私は旅に出た。
不安の丘を越え、太陽が死んだ海を船で行く。行き場をなくした優しさが待っている遥かなる夢の彼方の大陸目指し。
途中で、疲れ果てた愛情と聞いてほしい我が儘と、それから口に出せなかった愛の言葉たちに会った。
もう少しだ、
夢の彼方へきっとたどり着く。
9/12 『稔り頭部を垂れて』
久々の里帰り。
稲穂は重く頭を垂れ秋風の中に豊かな実りの季節がやってきた。
スキップしながら帰る子供は、幼い5歳の私だ。神輿を担ぐ子は、11歳の私だ。
稲刈りをしている男性は、本当はそうなるべきだった私だ。
「ただいま」
玄関の扉を開ける。
「おかえり」
母の声。
9/13 『りんごの色の頬をして』
君は林檎色の頬をして、嬉しそうに飴を頬張る。
秋祭り、娘と二人歩いた道。親子連れが歩いていて、幼かった娘を思い出す。
今、私は孫の手を引いて歩いている。
お彼岸で帰ってきた娘と孫の3人で同じ道を歩く。
飴を買ったら孫娘はあの日の娘と同じ林檎色の頬の笑顔。
9/14 『銀色のすすき野にて』
友人と久々に会う約束をした。
銀色のすすき野にて君を待つ。
君はあの頃と変わらない姿で現れた。
もう50年も経つというのに。
人と妖とでは生きる長さが違う。僕も妖になりたかった。
そうしたら君と同じ時間を生きれるのに。
9/15 『最後の蝉とコオロギ』
今年最後の蝉がぽとりと地面に落ちた。
たくさんのコオロギたちの歌を聴きながら、夏のことを思い出す。
このコオロギたちよりずっと大勢の仲間たちともっと大きな声で歌っていたのに。
蝉は最後の歌を歌った。
やがて静かになり、コオロギたちの歌ばかりが響き渡ったのだ。
9/16 『残炎は夕日に溶けて』
夏の名残が、夕日の中に溶けていた。
暑さも、思い出も、みんなみんな夕日の中。
激しい 眩しさで人々の上から照らしていた太陽は、思い起こすようにその光を街に照らし出した。
だが静かな闇があたりを包み、夏は終焉を迎えたのだと悟った。
9/17 『宵闇が訪れた時』
宵闇は街を行く。
泣いているあの子の窓から入って涙をそっと拭って、また街明かりの下を飛んで行く。
黒猫に挨拶をして、月にキスをして、寂しい歌を歌いながら。
夜明けを告げる鳥が歌い出すその時まで……
宵闇はそっと誰かの家の窓から入って、悲しみを拭ってゆくのだ。
9/18 『秋風の便り』
「こんにちは!秋風さんからお便りです」
友達の秋風さんからお便りが届いた。
私は嬉しくなって便箋を開いた。
春風さんへ
お元気でしょうか。色づき始めた木々の間を走り抜けリスに挨拶する毎日。葡萄も梨もたわわに実っております。
大好きな春風さんへ銀杏の葉を送ります。
秋風
9/19 『夢明かりの晩に』
蜜蝋の中に 一昨日見た悲しい夢を 一つ 溶かし込んで明かりをつけた。
悲しい夢は綺麗な光になってゆらゆらと輝いた。星の明かりが輝く寂しい晩に、蝋燭の光はまるで星が一つ増えたみたいだった。
悲しい夢は綺麗な光になって一晩中輝き続けた。
#140字小説
9/20 『恋するとは残酷なこと』
こんなにも恋しているのに、あなたが恋するのは私ではない。
こんなにも愛しているのに、あなたが愛するのは私ではない。
だからあなたを殺して、その心臓だけでもいいから頂戴。
こうしてまた一つ、恋という名のエゴのもと命が消えたのだ。
9/21 『9月の瓶詰め』
夏が終わり涼しい9月がやってきた。
こんな日には9月の瓶詰めを作るに限る。
咲き始めたコスモスの花、田んぼの上のトンボのきらめき、涼しい風にたなびくいわし雲。
瓶の中に入れて、そっと棚にしまう。寒さの冬や、雪解けの春、暑すぎる夏にちょっとだけ中身を出して楽しもう。
9/22 『雨音は涼しさを運んで』
雨音が聞こえる。
夏の終わりの夕立と、9月の初めの台風と、少しずつ雨は涼しさを運んできてくれる。
雨上がりの空はいつもより透き通って、夕日に染まった 入道雲が名残惜しそうにこっちを見ていた。
もうすっかり夏は終わりを迎えたようだ。
9/23 『憂いある月の下で』
月がだんだんとかけていく。
みんなのため息を吸い込んで、月はだんだんと砕けて小さくなって消えていく。
その優しい光を不安な人々に与えながら。
優しい 小さな光は 人々の胸の中で小さな希望へと変わっていくのだ。
そして訪れる新月。
9/24 『月を見上げた兎』
かぐや姫を見守るため、兎は月からやってきた。姫はすっかり美しく成長し、兎は胸をなでおろした。
姫が月に帰った後も兎は地上に残った。
姫が愛した地上を兎もまた愛していたのだ。
だがこうして月を見上げて、兎は姫のことを思い出す。
今宵、満月。
姫はいかがお過ごしか……
9/25 『都会の夜』
大人になったら都会の夜を楽しむんだ。
夜の街でお酒を飲んで、夜更かしして、おしゃれをして……
なんて 子供の頃に憧れたけど、大人になってそんなにいいものじゃないということはわかった。
お酒を飲んで、夜更かししたいわけじゃない。だけどそうしなくちゃ大人って大変だ。
9/26 『コスモス色の恋心』
学校の帰り道、花占いをするの。
コスモスの花がたくさん咲いていて、1つ摘んで。私のことが好きかしら?
好き、大好き、愛してる!
9/27 『冷たい夜の底で』
静かなやすらぎがやってきた。
冷たい夜の底で。
君は一人泣いていて、私は手を差し伸べたいと思った。だが一体私に何ができよう……
君の頬を伝う涙をそっと拭ってあげたいが、それも叶うことがないのなら、私は消えて夜露になりたいと思った。
9/28 『両手いっぱいの秋』
「ママ見て見て!どんぐり」
息子は両手いっぱいにどんぐりを拾ってきて満面の笑顔で私に見せた。
「すごいね!」
私がそう言うと嬉しそうに笑った。
その時から毎日、どんぐりがポケットにいっぱい。
まだまだ当分続きそうである。
9/29 『春からの手紙』
入道雲のお兄さんは秋風に手紙を渡した。
秋風ちゃんへ
そろそろ台風シーズンもさよならして、本格的な秋になったと思います。お仕事とても忙しいと思いますが頑張ってください。
秋風ちゃんが心地よく吹いてくれるからみんな秋が大好きなんです。私も大好きだよ。
春風
9/30 『収穫祭の祭り囃子』
街角で 祭り囃子が聞こえた。
あゝ、そうかもう収穫祭の季節だ。この辺りでも秋祭りなのか。そう思って 祭り囃子がどこから聞こえてくるか探したが、音ばかりが耳の中に響きどこで 祭りが行われているのかわからない。
もしかすればこれは遠い昔の風の記憶なのかもしれない。
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