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凍った月の涙
1,689文字
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窓辺に光る月の涙
これは君が残していったもの
小さなかけらと思い出と
君といた時間が
どれほど僕にとって大切だったか
今頃になって思い知る
月の女神ディアナの涙
淡く輝くあの日の思い出
君の笑い声が
聞こえたような気がした
僕と君が出会ったのは高校生の時、お互い美術部だった。
君はよく笑う子で、それから女子には多いかもしれないけれど占い好きで天然石や花言葉や誕生石の言葉なんかが好きだった。
僕はそんなものには全く興味がなかったので彼女が話しているのを、ただぼんやりといつも聞いていた。
まあ確かに天然石は綺麗なんだけれどそれにまつわる話なんて全く興味がなかった。だがそれでもキャッキャと楽しそうに女の子たちが話しているのを聞いていてその様子には、ただ楽しそうでいいなとは思っていた。
付き合うことになったのは彼女からの告白の方だったと思う。
僕は断る理由もなかったし、正直初めはただなんとなく付き合い始めた感じだった。
だが明るく朗らかな彼女の声を聞くのは楽しかったし話題もいつも色々なことを話してくれて楽しかった。
初デートは博物館。
ちょうどその時の展示が授業の歴史の内容と噛み合っていたからなんとなく選んだ。
2人で色々見て回り展示場の外の入り口近くアミューズメントストアに売っていた小さな天然石のネックレスを記念に彼女に買った。彼女の喜び様たらなかったな。
「知ってる?ムーンストーンは月の女神ディアナの涙が凍ってできたものなんだって!」
ありがたいことにそれは数千円程度で高校生のバイト代で買えるものだった。
確かに透明な涙色の小さな天然石のネックレス。
僕はちょっと照れていた。
それから彼女はデートのたびにその小さな石のネックレスをつけてきた。
彼女の胸元でキラキラと輝いて見えた。
高校時代の3年間彼女と付き合っていたが結局お互い別々の大学に行くことになって自然消滅してしまった。
再会したのは10年後。
それは本当に偶然だった。
……いや、必然だったのかもしれない。
仕事の取引先で彼女と再会し再び付き合うことになった。
彼女は高校時代と全く変わらず弾んだ明るい声で話す。
それが心地よく、こちらの気持ちまで楽に幸福な気持ちになれた。彼女のことを再び好きになるまで、あまり時間はかからなかった。
結婚を申し込もう。そう決めたのは再び出会ってからたった3ヶ月しか経っていなかった。だがそれは3年間という青春時代を一緒に過ごした僕たちには十分な時間だと思う。
当時の僕は正直言うとあまりお金を持っていなかった。
独身でお金に頓着がなくて割とパパッと使ってしまっていたせいもある。
だから彼女へのエンゲージリングを買うのに宝石店でちょっと戸惑っていた。何とも情けない話だけれど。
そうだ誕生石というのも悪くないかもしれない。
店員さんの話を聞きながらそう思った。学生時代彼女にプレゼントした石と同じ、『ムーンストーン』の指輪が売っていたのだ。
ムーンストーンというのは6月の誕生石らしい。
彼女の誕生日と同じ。
そしてこれから彼女にプロポーズするならやはりそれらしい日がいいと思う……つまり僕は彼女の誕生日にプロポーズしようと考えていた。
指輪を買い当日まで大切に持っていた。
そしていざ渡そうとしたその日はどういうわけだかトラブル続き、残業で深夜になってしまう。
仕事が終わり先に上がろうとした彼女を呼び止めて屋上まで来てもらい指輪を差し出した。
「僕と結婚してください!」
だめだ、顔が上げられない。
「……今夜は月が綺麗ですね」
彼女の声が聞こえた。
顔を上げれば月明かりの下、女神のように微笑む彼女。
いや実際に僕の女神だったんだ。
情けない話、プロポーズの時の彼女の言葉の意味がわかったのはずっとずっと後になってからだ。
文学の話なんて僕はまるっきり詳しくない。
夏目漱石の『I love you』の翻訳なんてまるで知らなかった。
その後の人生も彼女は月明かりのように僕を照らしてくれた。
今はもういなくなって彼女の残した指輪が光るのみ。
ドレッサーの横のアクセサリーを彼女が亡くなってからも片付けられずにいた。
窓から差し込む月明かりに
ただ月の涙の石だけが輝いていた。
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