SF・ファンタジー
思念と転生(1)
1,034文字
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建武3年(1336年)5月25日、摂津国(兵庫県)湊川にて足利軍と新田楠木軍が激突した。
寡兵の楠木軍は6時間の戦闘の間に16度もの突撃を敢行、ついに73名になったところで民家に入った。
足利軍は民家を取り囲んで討ち入ろうとしたが、馬上の尊氏は右手の軍配を横に振って制止した。
「皆のもの静まれ! 中からの声が聞こえぬか!?」
シーンと静まった。
民家の中では、兜を置き、鎧を取った楠木勢の面々が2名ずつ向かい合って脇差を抜き、今まさに互いに差し違えようとしているところだった。
「正季(まさすえ)! 今までようこの儂(わし)についてきてくれた! 何か言い遺すことはないか!?」
正成(まさしげ)の声が響く。かつて千早城に立てこもって鎌倉の大軍との長期戦を持ちこたえ、倒幕に貢献した大戦略家の最期が迫ろうとしている。
「兄者! では七度(たび)生まれ変わって朝敵を討ち果たし、国に報いたいと存じまする!」
弟の正季が答え、「うむ! よくぞ言った!」との声とともに兄弟は互いの心臓に刃を差し合った。
部下たちも続き、全員が倒れたところで民家の戸が開いた。
まず尊氏が入り、弟の直義(ただよし)、そして足利方の幹部たち。皆は合掌してその死を弔った。
「殿、しかし何とも奇妙な事を申されましたな。七度生まれ変わって朝敵を討つとは」
フッフッフッと失笑が漏れた。「馬鹿げた話よ」と吐き捨てる者もいた。
後に“七生報国”と呼ばれることになるが、当時の武士たちにそこまでの思い入れも教養もない。
なにせ幹部の高師直(こうのもろなお)などは「天皇なぞ木彫りの像を据えればよい」と言うほどだ。
「転生なんぞありえぬと申すか?」
ふと尊氏が閉じた目をあけて呟いた。
皆は「え?」という顔をして尊氏の方を向いた。
「世の中には意外と転生した者は多いものよ。のう直義」
「はい」
「え、ではこの中の誰かも転生した者でおわしますか?」
「おうよ」
尊氏は振り向いて体の正面を向けた。
かつて尊氏(高氏)と直義は、下野(しもつけ)国の屋敷の蔵から、祖父の置文を見つけたことがあった。
平安時代の前九年の役(えき)と後三年の役で活躍した源氏のレジェンド、源義家は「我7代の後に生まれ変わって天下を取る」と予言し、祖父家時がちょうど7代目に当たったのだが、北条氏の力がいまだ強くその予言はとても達せられずにいた。
恥じ入った家時は「我3代の後に生まれ変わって必ずや天下を取る」と置文を残して自害した。
「まさかその3代目がと、殿…?」
「他ならぬこの儂も転生者よ」
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