SF・ファンタジー

ししょーのチョコは難が有り

1,435文字 約3分で読了
作者:篠崎栞
──ある日、家が爆発した。 「ゴホッゴホッ。ししょー? 今度は何をやらかしたんです??」 事の発端であろう師匠の部屋へ入ると、見事に天井も壁も吹っ飛んでいる。 「ししょー? 無事です??」 声をかけると瓦礫の中から手をヒラヒラさせているのが見えた。とりあえず、無事のようで何よりだ。 瓦礫から師匠を引っ張り出すと、顔もトレンドマークの白衣も煤にまみれている。 「トゥイ、助かったよ。ありがとう」 師匠は真っ黒な顔でニカッと笑った。 「こんな朝っぱらから一体、何をしてたんですか……」 呆れ混じりに問いかけると、師匠も困ったように頭を掻いている。 「んー、チョコを作ってたら爆発しちゃったんだよね」 「チョコ?」 予想していなかった返答に首を傾げる。 あ、そうか。今日はバレンタインか。それにしても今まで浮ついた話が無かった師匠の元へ、ついに春が訪れていたことに驚きだ。 師匠の春を応援するのは弟子としての役目。爆発するチョコを相手に渡す訳にはいかない。 ここはしっかりサポートをしなければ。 「一体チョコに何を入れたんです?」 「んー。マンドラゴラの根っことか、フェニックスの涙とか??」 「まてまてまてまて」 思いがけない言葉に耳を疑う。 チョコにマンドラゴラ? フェニックス? 「……ししょー? 一体何を作りたいんでしたっけ??」 聞き間違いだ。この錬金オタクがチョコなんて作るわけがない。僕の願望による幻聴かと、自分に呆れる。   「だからチョコレートだってば」 師匠は何もおかしくないかのように、さらりと話した。 そんな師匠の様子に、僕たちの間に沈黙が走る。 「あんたとことんバカだろ!? 頭の中錬金術の事しかねーのかよ!!」 「酷いなー、これでも真剣なんだよ」 頭の整理が終わり、弾けたように師匠へ言葉を投げかける。彼女はまるで心外だとでも言うかのように口を尖らせていた。 ダメだ。この人に料理をさせてはいけない。 「分かりました、分かりましたよ。一緒に作りましょう」 「いいの!」 師匠は目を輝かせながら僕を見た。 「ししょーだけに任せたら、一体何を創り出すのか分かったもんじゃないので」 「もうー、大袈裟だなー」 大袈裟じゃないんです。そんな言葉がのど先まで出かかって、グッと飲み込んだ。 無事な部屋に移動して、チョコ作りを再開したのはいいが……。 「だー! 火炎草を入れないでください!! また爆発させる気ですか!? そっちもなんで賢者の石を入れようとしているんですか!? エリクサーでも作る気ですかあんたは!!?」 師匠の奇行を止めるのが、こんなにも大変だとは。 「いいですか、ししょー。チョコは錬金術ではありません」 「入れたらいいのできると思うんだけどなぁ」 「できません」 天才錬金術師と言われている師匠が、チョコ1つもまともに作れないなんて。 ついにチョコが1つ完成した時には、もう既に夕日が家の中を照らしていた。 「あー、疲れた。チョコ作りにこんなにも苦労するとは」 椅子にくたりともたれかかる。師匠は完成したチョコを嬉しそうに眺めていた。 まさか今日1日をチョコ作りで潰すことになるとは。でもまぁ、師匠が喜んでくれているようで良かった。 「ねー、トゥイ」 子どものようにはしゃいでいた師匠を眺めてたところ、彼女に名前を呼ばれる。 「なんですー?」 「今日はありがとう。ハッピーバレンタイン」 「え?」 今まで師匠の手にあったチョコが、僕の元に収まっていた。 「え? 僕に?」 「うん! トゥイに!」 師匠は満面な笑みを浮かべてそう言った。 彼女のチョコはどこか、薬草の味がする。 
2026/10/09 ・ 👁️ 28回 ・ 💬 0件

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