SF・ファンタジー
ししょーのチョコは難が有り
1,435文字
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──ある日、家が爆発した。
「ゴホッゴホッ。ししょー? 今度は何をやらかしたんです??」
事の発端であろう師匠の部屋へ入ると、見事に天井も壁も吹っ飛んでいる。
「ししょー? 無事です??」
声をかけると瓦礫の中から手をヒラヒラさせているのが見えた。とりあえず、無事のようで何よりだ。
瓦礫から師匠を引っ張り出すと、顔もトレンドマークの白衣も煤にまみれている。
「トゥイ、助かったよ。ありがとう」
師匠は真っ黒な顔でニカッと笑った。
「こんな朝っぱらから一体、何をしてたんですか……」
呆れ混じりに問いかけると、師匠も困ったように頭を掻いている。
「んー、チョコを作ってたら爆発しちゃったんだよね」
「チョコ?」
予想していなかった返答に首を傾げる。
あ、そうか。今日はバレンタインか。それにしても今まで浮ついた話が無かった師匠の元へ、ついに春が訪れていたことに驚きだ。
師匠の春を応援するのは弟子としての役目。爆発するチョコを相手に渡す訳にはいかない。
ここはしっかりサポートをしなければ。
「一体チョコに何を入れたんです?」
「んー。マンドラゴラの根っことか、フェニックスの涙とか??」
「まてまてまてまて」
思いがけない言葉に耳を疑う。
チョコにマンドラゴラ? フェニックス?
「……ししょー? 一体何を作りたいんでしたっけ??」
聞き間違いだ。この錬金オタクがチョコなんて作るわけがない。僕の願望による幻聴かと、自分に呆れる。
「だからチョコレートだってば」
師匠は何もおかしくないかのように、さらりと話した。
そんな師匠の様子に、僕たちの間に沈黙が走る。
「あんたとことんバカだろ!? 頭の中錬金術の事しかねーのかよ!!」
「酷いなー、これでも真剣なんだよ」
頭の整理が終わり、弾けたように師匠へ言葉を投げかける。彼女はまるで心外だとでも言うかのように口を尖らせていた。
ダメだ。この人に料理をさせてはいけない。
「分かりました、分かりましたよ。一緒に作りましょう」
「いいの!」
師匠は目を輝かせながら僕を見た。
「ししょーだけに任せたら、一体何を創り出すのか分かったもんじゃないので」
「もうー、大袈裟だなー」
大袈裟じゃないんです。そんな言葉がのど先まで出かかって、グッと飲み込んだ。
無事な部屋に移動して、チョコ作りを再開したのはいいが……。
「だー! 火炎草を入れないでください!! また爆発させる気ですか!? そっちもなんで賢者の石を入れようとしているんですか!? エリクサーでも作る気ですかあんたは!!?」
師匠の奇行を止めるのが、こんなにも大変だとは。
「いいですか、ししょー。チョコは錬金術ではありません」
「入れたらいいのできると思うんだけどなぁ」
「できません」
天才錬金術師と言われている師匠が、チョコ1つもまともに作れないなんて。
ついにチョコが1つ完成した時には、もう既に夕日が家の中を照らしていた。
「あー、疲れた。チョコ作りにこんなにも苦労するとは」
椅子にくたりともたれかかる。師匠は完成したチョコを嬉しそうに眺めていた。
まさか今日1日をチョコ作りで潰すことになるとは。でもまぁ、師匠が喜んでくれているようで良かった。
「ねー、トゥイ」
子どものようにはしゃいでいた師匠を眺めてたところ、彼女に名前を呼ばれる。
「なんですー?」
「今日はありがとう。ハッピーバレンタイン」
「え?」
今まで師匠の手にあったチョコが、僕の元に収まっていた。
「え? 僕に?」
「うん! トゥイに!」
師匠は満面な笑みを浮かべてそう言った。
彼女のチョコはどこか、薬草の味がする。
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