SF・ファンタジー

ピアノ

498文字 約1分で読了
作者:aoiaoi
 私は、ピアノ。  村はずれの小さな家の、小さな部屋に住んでる。  私の主人は、私を深く愛してくれた。  その指を駆使して——私の声を通して、数え切れない愛を叫んだ。  やがて彼は、その才能を開花させ、世界のあらゆる場所で聴衆を感動させた。  世界中の人が、彼を天才と呼んだ。  けれど、どれだけ名高いピアニストになっても、ここへ帰ってくると彼は必ず私を愛してくれた。  その情熱的な心と指で、一晩中。  その彼は、もういない。  入院していた病院で、昨日息を引き取った。  だから、この家に来る人も、もういない。  ねえ、あなた。  今夜は、私に叫ばせて。  あなたが私に注いでくれた、全ての想いを——身体から溢れ出すままに。  一晩中。ありったけの力で。  どうかこの想いが、空をゆくあなたに追いつきますように。 「あれ……この家、焼けちゃってる」 「人気《ひとけ》のない村はずれですからね。気づいたらこうなってました」 「数日前の真夜中に、素晴らしいピアノの音色がしたのは……ここじゃなかったのかな」  「まさか。ずっと誰も寄り付かなかった家ですよ?  でも——火元は、室内のピアノだったそうです。  なぜ火がついたのかは、いくら調べてもわからないようですけどね」              〈了〉
2026/10/23 ・ 👁️ 47回 ・ 💬 0件

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