ミステリー・サスペンス

安すぎる対価

958文字 約2分で読了
作者:ごみがき
「おい!何ボーッとしてんだ! このデータの入力ミス、全部お前のせいだぞ! 終わらないまま帰ろうとするんじゃねえぞ!」 フロアに響き渡る怒号、充満する安っぽい栄養ドリンクの匂い。 嫌な汗が背中を伝い、画面と睨み合った疲労から、視界の端がぼやけ始めていた。 「申し訳ありません!ただちに修正します!」 深く頭を下げると、弾むような手つきでキーボードを叩き始める。 「おい、ヤマダ!気の緩んだ顔してんじゃねえぞ! もっとシャキシャキしろ、ぶん殴られてえのか!」 「申し訳ありません! ご指導、ありがとうございます!」 隣の席のヤマダも、怒鳴られながら瞳を輝かせている。 「もうすぐ18時だが…、これからがお前らのゴールデンタイムだ!もっと生産性を上げろ!」 「はい! 喜んで!」 慣れた様子で、全員が歓喜の声を揃える。 「終わらない、終わらない!」 大量の書類を抱えた新入りが、弾む足取りでコピー機へと走っていく。 「声が小せえ! 気合が入ってないからミスをするんだ!」 「なんだこの報告書は! 最初からやり直せ!」 「言われたことしかできないのか? 指示待ち人間になるな! 自分の頭で考えろ!」 「勝手な判断で動くなと言っただろ! 誰の許可を得て進めてんだ! 報連相もできねえのか!」 「おい、お前ら、世間では明日は日曜日とか抜かしてるが、ウチには関係ねえからな!」 理不尽の連続。タナカさんは今日もキレッキレだ。素晴らしい。 終電ぎりぎりまで生産を堪能した俺は、重い足を引きずるようにセキュリティゲートへ向かう。 「本日もお疲れ様でした。 1,000円となります。」 今日1日、怒号を浴び、生産し、発生するのはたかが1,000円。何と安いことか。 服も脱がずにベッドへ倒れこむと、柔らかめのマットレスと心地よい疲労感が身体を包み込んだ。 かつて仕事を失い、「こんなのんびりした毎日も悪くないかもな」なんて誤魔化そうとした日もある。 しかし、ただ時間が過ぎるのを待ち、自己肯定感をじわじわと削られていく。 あの感覚の日々には二度と戻りたくない。 俺は今、心から満足している。 理不尽に怒鳴られ、追い詰められながらも、何かを生産し、誰かに必要とされている確かな充実感。 俺の居場所は、ここしかない。 俺は明日も生を実感しに行く。 誰も働かなくなった世界で。 国から支給された金を握り締め。 あのテーマパークへ。
2026/10/02 ・ 👁️ 131回 ・ 💬 2件

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読者の感想・応援メッセージ

ごみがき
福子さん、コメントありがとうございます!
近い将来ベーシックインカムになって数年は、このような商業施設が需要ありそうな気がしてます!
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