恋愛

あだざくら

856文字 約2分で読了
作者:珈琲時間
 高校三年生最後の競技会。  私とゴールの百メートルの隙間に、周囲の期待も青春もぎっしりと詰まっていた。  どうにもあの心地良くもあった緊張を、桜の匂いは連れてくる。  もう十年にもなろうというのに。  肉離れなんかとっくに完治している。  なのにどうしてまた立ち止まってしまうのか。  その気になればきっと全力で駆けることだって出来るのに。  それでもこの時期だけは、まだ痛い。  応援して、慰めてくれた両親を、先生を、仲間を、もう裏切りたくはなくて。  涙も後悔もずいぶんと上手に飼い慣らせたと思う。  勉強に打ち込み、仕事にのめり込み、今の私がいる。  だからこの痛みも私にとっては誇りなんだと、ここ数年はそんな風に言い聞かせている。  それなりに恋もしてきた。  愛し愛され、また愛し愛し愛され。  きっと都合よく、彼らを癒しにしてきた罰なんだとも思う。  そして、この道の先にあの人が待っている。  だから踏み出さなきゃいけない。  ━━なのに。  私を追い越していく三人の親子。  ああ。私にもあんな未来があったのかもしれない。  二つの結び目が愛おしくも羨ましい。  舞い散る暖かな祝福を、私は拒絶してきたのかもしれない。  誤魔化して、茶化して、頑張ることを言い訳にしてきたのだろう。  今日会ったら何を言おう。  特別な日でもないけど、特別な日にするにはうってつけじゃないかな。  例えば二人、違う未来へ進もうだとか。  私にそんなこと言う権利があるのか。  ここまで待たせた彼に対して。  ━━「今は仕事が第一」  半年前だったな。  卑怯な言葉だったな。  彼の情熱が、仕方がなかったといえ、報われず。  あの瞳を支える覚悟が私にはなかった。  それがどんな傷跡になるのか、たぶん知っているから。  私はまだこの後悔と正しく向き合えずにいる。  また彼の優しさと、繰り返す毎日に、そっと埋めては悪戯に掘り起こす。  だからせめて今日は。  そう、あなたに謝りたい。  そう思うことでやっと歩き出せた。  ゆらゆらと漂う光が、どうか彼を温めてくれてますように。  ごめんね。ごめんなさい。  でも願ってしまうの。  あなたと同じ光の中に、私もいられたらいいのに。
2026/09/22 ・ 👁️ 79回 ・ 💬 0件

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